小噺:伝説のスフィンクス
Tumblrアカウントの@inventors-fair※1は、記録に残っている限りでは2018年1月14日からカードデザインのコンテストを継続的に開催している。このアカウントは当初@yeens-humanと@krazybombによって運営されていたが、あるときから@abelzumiと@follower-of-lilianaが加わり※2、さらに@wapulatusと@thatboonguyが加わり※3、現在は創立メンバー以外の4者で運営されているようだ※4

私が@inventors-fairを知ったのはつい先日のことで、それゆえ彼らの活動すべてを知っているわけではないが、コンテストの詳細は概ね以下のようなものだ。運営者は課題を(おそらく米国時間の)日曜に発表し、読者はTumblrのフォームを通じてアイデアを提出する。募集は木曜に締め切られ、金曜には優勝者(往々にして2人以上が選ばれる)の発表が、土曜にはそれ以外の投稿の紹介が行われる。そして、驚くべきことに、それらすべてに講評が添えられる。

かつての「カードをデザインするのは君だ!」しかり、コンテストは常に成功するとは限らない。コンテストの募集期間内にそれを見つけた幸運なユーザーが、わずかな時間で最良のデザインを提出できることはまれで、万人が納得する結果が得られることは少ない。

とはいえ、1年以上もこうしたコンテストを続けることは、1年以上もブログを放置している私のようなユーザーに更新機会を与えるだけの力はあった。そういうわけで、私が参加したコンテストの内容はこうだ。

・スフィンクスの部族デッキを使うプレイヤーの関心を集める、スフィンクスの統率者に必要な要素を含んだ伝説のスフィンクスをデザインする。
・エターナルフォーマットにおいて使用可能で、主に統率者戦で使われる独立したカードとしてそれをデザインする。
※5


さて、伝説のスフィンクスはスフィンクスの何を助けてくれるのだろうか? 私はミニゲームを含むカードが大好きなので、《窮地の主/Master of Predicaments》のようなスフィンクスをサポートすることを考えたが、能力の形式があまりに多岐にわたっていることから早々に諦めることにした。彼らの能力の共通点はせいぜい誘発型能力であることで、それらを補助する《ストリオン共鳴体/Strionic Resonator》を内臓した伝説のスフィンクスを作ったとしても、2マナのアーティファクトより弱い統率者は優れた選択肢ではなかっただろう。

なにより、ミニゲームを内蔵したスフィンクスは決してスフィンクス全体の多数派ではないのだ。反対に、私はミニゲームをするスフィンクスが好きなので、もはや作るべきものは明白だった。すなわち、ミニゲームによってスフィンクスを助ける伝説のスフィンクスだ。

スフィンクスの大使/Sphinx Ambassador  (5)(青)(青)
クリーチャー ― スフィンクス M10, 神話レア
飛行
スフィンクスの大使がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、そのプレイヤーのライブラリーからカードを1枚探す。その後、そのプレイヤーはカード名を1つ選ぶ。あなたがそのカード名を持たないクリーチャー・カードを探していたなら、あなたはそれをあなたのコントロール下で戦場に出してもよい。その後、そのプレイヤーは自分のライブラリーを切り直す。
5/5


タイプ行にスフィンクスと書かれたカードを検索していたとき、私は基本セット2010の《スフィンクスの大使/Sphinx Ambassador》を部族デッキ向けに作り変えることを思いついた。対戦相手のライブラリーからクリーチャー・カードを出す代わりに、自分のライブラリーからスフィンクスを出すように変更する。その際、対戦相手にカード名を宣言させるのはあまりにも不親切なので、カードが持つ何らかの指標を宣言させるように変更する。ごく単純には、カードはマナ・コストに比例して強力になるため、点数で見たマナ・コストを使うことが適切に思われた。

@inventors-fairが統率者向けのカードを求めていることは好都合だ。対戦相手は出されたくないスフィンクスの点数で見たマナ・コストを宣言することができるが、たった1人では抑止力になりようもない。しかし、宣言するプレイヤーが3倍になればカードの強さはかなり調整されるうえ、それぞれが別な数を選ばなければならないことがミニゲームの要素にもなる。

カードの輪郭は見えてきたが、このアイデアには問題があった。3人の対戦相手が幸運にも別々のマナ・コストを宣言した場合、それ以降の宣言はどうなってしまうのだろう? 常に利益を追求するマジックのプレイヤーが、ひとたび成功した宣言を変えることなどあるだろうか?

宣言を繰り返させないために複雑なテキストを使うことも考えたが、幸いにもずっと簡単で効果的な方法があった。マナ・コストを宣言するプレイヤーに自分自身を4人目として加え、複数のプレイヤーが宣言したマナ・コストのスフィンクスを追加で出せるようにするのだ。対戦相手は宣言を繰り返すこともできるが、誰かが同様に宣言するとボーナスを与えてしまうため、敵に予想されにくく味方が選ばないマナ・コストを選ぶ必要がある。

ときに、1人のプレイヤーは長々と書かれたルールよりも優れた安全弁でありうる。私のカードの方向性はこの時点で決まった。

さて、カードにさせたいことが決まったなら、次にするべきことはルールの範囲内でそれが動くように文章を考えることだ。マジックの文章にはテンプレートがあり、使われたことのある処理は同じ書き方で書かれなければならない。

プレイヤーに数字を選ばせ、それを同時に宣言させる部分は《脅迫するオーガ/Menacing Ogre》を参考にした。むしろ困ったのは選ばれなかったマナ・コストをどう言い表すかということで、直接引用できるテキストが存在しないぶん、似た文章を探してなんとか表現する必要があった※6

[カード名]がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、各プレイヤーは秘密裏に数字を1つ選ぶ。その後それらの数を公開する。あなたのライブラリーから選ばれた数に等しくない点数で見たマナ・コストを持つスフィンクス・クリーチャー・カード1枚と、2人以上のプレイヤーに選ばれた数に等しい点数で見たマナ・コストを持つスフィンクス・クリーチャー・カード1枚を探し、それらを戦場に出し、その後あなたのライブラリーを切り直す。


文字の状態ではわかりにくいが、このデザインは失敗だった。文章が長すぎ、テキストボックスに入り切らなかったのだ。それどころか、(すべてのスフィンクスは飛行を持っているので)飛行のための1行を空ける必要もある。私はあるときからカードを画像にすることにしているが、この工程は成功したかに見えるデザインを問答無用に切り捨ててくれるたいへん優秀な判別装置だ。

可能な限り文章を短くするために、まずマナ・コストを参照することをやめ、パワーを参照することにした。2回登場する「点数で見たマナ・コスト(converted mana cost)」を「パワー(power)」に変えるだけで、この文章はカードに収まるようになった。

加えて、スフィンクスをライブラリーから出すことをやめ、手札から出すことにした。こうして「あなたのライブラリーから……探し(Search your library for)」も「その後あなたのライブラリーを切り直す(then shuffle your library)」も不要になり、この伝説のスフィンクスに飛行を与えるための空間が生まれた。

[カード名]がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、各プレイヤーは秘密裏に数字を1つ選ぶ。その後それらの数を公開する。あなたはあなたの手札や墓地から、選ばれた数に等しくないパワーを持つスフィンクス・クリーチャー・カード最大1枚と、2人以上のプレイヤーに選ばれた数に等しいパワーを持つスフィンクス・クリーチャー・カード最大1枚を戦場に出してもよい。


こうして誘発型能力が完成した。文章を削りに削ったことで、むしろ多少の余裕ができたため、灯争大戦の《破滅の終焉/Finale of Devastation》よろしく墓地からもスフィンクスを出せるように細部を装飾した。このカードを白青黒3色のスフィンクスにしようと決めていた私にとって、はたしてこのカードが青以外の色に見えるのかは疑問だったが、この変更によって少なくとも黒らしくは見えるようになった。

伝説のクリーチャーをデザインするうえで常に苦労するのは、固有名詞を考えることだ。私は英語圏の人間ではないため、彼らにとって奇妙すぎず身近すぎず、かつスフィンクスらしく響く名前を考えることはとても難しい。

幸いにして、アラーラにはカードになっていないスフィンクスがたくさん存在する。私はその中から、《縞瑪瑙のゴブレット/Onyx Goblet》のフレイバー・テキストに登場するゴリアル(Gorael)というスフィンクスの名前を使うことにした。どうやらこのスフィンクスは人間とヴィダルケンを互いに争わせることでスフィンクスによるエスパーの支配を目論んでいるらしく、対戦相手に謎を突きつけてスフィンクスの軍団を作るカードとの相性は悪くないように思われた。

策士、ゴリアル/Gorael the Machinator  (1)(白)(青)(黒)
伝説のアーティファクト・クリーチャー ― スフィンクス
増幅2、飛行
ゴリアルがプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、各プレイヤーは秘密裏に数字を1つ選ぶ。その後それらの数を公開する。あなたはあなたの手札や墓地から、選ばれた数に等しくないパワーを持つスフィンクス・クリーチャー・カード最大1枚と、2人以上のプレイヤーに選ばれた数に等しいパワーを持つスフィンクス・クリーチャー・カード最大1枚を戦場に出してもよい。
3/3

https://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/188513441172/an-idea-submitted-to-inventors-fair-is

ようやく完成したカードがこれだ。私はこのカードに飛行以外のキーワード能力を加えたいと考え、投稿の直前につけたのが増幅だった。今にして思えば蛇足だったかもしれず、講評者もそう感じたようだ※7。とはいえ、手札のスフィンクスを見せることで攻撃しやすくなる反面、対戦相手が正しい数字を選びやすくなるというジレンマは、カード全体としてはまとまっているように思え、私としては気に入っている。

Seriously, I think I laughed out loud reading this the first time.
※7


何はともあれ、楽しんでもらえたことは嬉しい限りだ。

※1……https://inventors-fair.tumblr.com/
※2……https://inventors-fair.tumblr.com/post/171353895614/bit-of-a-ruckus-with-gremlins-in-the-system
※3……https://inventors-fair.tumblr.com/post/175796144804/congratulations-to-our-new-moderators
※4……https://inventors-fair.tumblr.com/post/186004362104/its-morph-ing-timeからは、中心的な管理者は@abelzumiで、@follower-of-lilianaは限定的に関与していることが推測できる。
※5……https://inventors-fair.tumblr.com/post/188023526789/hour-of-devastation-revealed-a-neat-card-unesh
※6……最終的に「選ばれた数に等しくないパワーを持つスフィンクス・クリーチャー・カード(Sphinx creature card with power that isn’t equal to the chosen numbers)」としたが、「選ばれた数に等しいパワーを持たないスフィンクス・クリーチャーカード(Sphinx creature card without power equal to the chosen numbers)」とした方が他のカードのテンプレートに近く、自然だったかもしれない。
※7……https://inventors-fair.tumblr.com/post/188151746719/the-running-up-riddlers-and-decent-cards

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