統率者(2016年版)のデザイン(翻訳)
2016年11月5日 Magic: The Gathering
統率者(2016年版)のデザイン
2016年10月24日
イーサン・フライシャー
この混乱は、R&Dの奈落(訳注:開発部の面々がいる場所)の真ん中で、もし僕が統率者のデザイン・チームを任されたなら4色の伝説のクリーチャーを作るだろうと大声で宣言したことにすべて端を発している。誰かが僕の頭にステープラーを投げ、「正気じゃない!」と言った。
「いやあ、きっと朝飯前さ」僕は陽気に答えた。
結局のところ、ステープラーを投げた人は正しく、僕が間違っていた。統率者(2016年版)は、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストでの5年半にわたる僕のキャリアの中で最も困難なデザインだということが明らかになった。
なんてドラマチックなんだ。で、どうしたの?
僕たちは、いずれも熱狂的な統率者プレイヤーである、聡明で、魅力的で、チャーミングなデザイナーからなるチームを編成した。これら素晴らしき人々の詳細については、マーク・ローズウォーターの今日の記事※1を読むことをお勧めする。
※1……http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0017891/(よろしく共闘/Howdy Partner)
最初の数回のミーティングで、僕は本当に4色の統率者デッキを作ることに束縛されたり、固執したりしているわけではないこと、そしてこの問題をグループで話し合い、あらゆる選択肢を見つける必要があることを伝え、みんなを安心させた。僕たちは考えうる限りのあらゆる選択肢や視点について話し合った。それでも、僕は直感的に2016年は4色デッキをデザインすべき年だと感じており、説得のためにプレゼンすることになった。
僕は統率者の製品ラインがどのようであったのかについて述べ(僕たちは楔3色のデッキ、弧3色のデッキ、単色のデッキ、対抗色のデッキを作ってきた)、それがこれからどのようになると想像しているかを伝えた(これからは[編集済み]、[編集済み]、そしておそらく[編集済み]すら作ることだろう)。僕は、4色の伝説のクリーチャーはファンから最も頻繁にリクエストされるもののひとつであり、統率者はそうしたカードを印刷するのに最適の場所であると話した。僕たちは、4色デッキこそが進むべき道であると決定した。
僕は有力だと思われる4色デッキのテーマのリストを何年か温めていたので、いくつかのデッキを構築するうえで幸先のよいスタートが切れたと感じていた。これらのテーマはメカニズム的に発想されたもので、僕たちが過去にマジックでしてきたことに基づいている。たとえば、グリクシスとゴルガリには大量のゾンビたちがいた。青黒赤緑はゾンビ部族デッキにすることができる!
また、賛美はアラーラ・ブロックではバントであり、基本セット2013では白黒だった。緑白青黒の賛美デッキが作れる!
これは有力な方向性に思えたので、僕たちはこれに沿ってデッキを作り、その統率者の作成に取りかかった。僕はチームが「ネフィリム・スタイル」のカードを作りたいのだということを理解していたので、これらは普通の多色のカードになった。これらは今日までのマジックにおける唯一の4色カードである、ギルドパクトのネフィリムにちなんで名づけられた。これは4色の統率者を作るための最も直線的な方法だった。
統率者のルールの奇抜なところのひとつは、カードを唱えるためのコスト、あるいはテキストボックス内に書かれているマナ・シンボルを「固有色」として数えるというものだ。そのため君が《墓後家蜘蛛、イシュカナ/Ishkanah, Grafwidow》を統率者として使うなら、デッキには緑と黒のカードを入れることができる。あるいは《死に微笑むもの、アリーシャ/Alesha, Who Smiles at Death》を統率者として使うなら、デッキには赤、白、黒のカードを入れることができる。《メムナーク/Memnarch》は無色のアーティファクト・クリーチャーだが、青の起動型能力があるため彼の固有色は青だ。
僕たちはこの流れに沿ってかなりの数の「ワイルド・カード」統率者をデザインした。混成マナの伝説のクリーチャーに全く異なる混成マナの起動型能力をつけたもの。単色の伝説のクリーチャーに別の3つの色の起動型能力をつけたもの。伝説のアーティファクト・クリーチャーに4色の起動型能力をつけたものなど。安心してほしい、それらの中でよい結果を出したものはひとつとしてなかった。最も簡単にデザインできるカードとは最も確かなコンセプトを持つカードであって、逆もまたしかり。マジックのカードではメカニズムとクリエイティブ的な側面を十分に融合させることが重要なため、僕たちは「ワイルド・カード」統率者の道に進むことを断念した。
ケン・ネーグルはきわめて過激なことを示唆してくれた。もしも4色デッキを率いてチームを組むことができる2色の統率者が2体いたとしたら? アリ・メドウィンはすぐさま熱狂的にこのアイデアを支持した。僕は最初は懐疑的だったが、試してみる価値はあると思った。要約すると、これは素晴らしかった!(本当に、共闘メカニズムについてのマークの記事を読んでほしい)
君はできそうもないと言うだろう
デヴァイン(デザインとデベロップが重なる期間のこと)が始まるとき、リード・デベロッパーのベン・ヘイズはあるアイデアを持っていた。僕たちがデザインしたメカニズム的テーマのひとつ(シミック+アブザン=緑白青黒+1/+1カウンター)をサポートする統率者が、他の統率者に比べていっそう本質的なレベルでベンに訴えかけたのだ。オルゾフが白と黒の部分集合のアイデンティティを持っているように、仮に緑白青黒が(ふたつのパーツの全体というよりは)独立したアイデンティティを持っているとしたらどうだろうか?
僕たちがどうやって金色のカードをデザインしているかについてのちょっとした横道
伝統的な多色、または「金色の」カードはいくつかのカテゴリーに分類される。ご覧の通りだ。ここでは単純でわかりやすいので2色のカードを例に用いている。マーク・ローズウォーターはこれらのカテゴリーについて、彼の記事「Midas Touch」※2で詳しく掘り下げている。
※2……http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/midas-touch-2005-11-14(Midas Touch)
「チャイニーズ・メニュー」※3デザイン
これらのカードは、色Aにふさわしい効果と色Bにふさわしい効果を手に取って乱暴にひとつのカードに貼り合わせて作られる。具体例は《予言の稲妻/Prophetic Bolt》で、これは赤の《電撃破/Lightning Blast》の効果と青の《衝動/Impulse》の効果を合体させたカードだ。
※3……中華料理店でいくつかの料理を組み合わせて注文するように、複数の選択肢から選びとられた組み合わせを意味する言葉。
「ベン図」デザイン
これらはどちらかの色のカードとしても印刷可能なものだ。最近、僕たちはこのタイプのデザインを混成マナのカードのために取っておこうと試みている。具体例は《ボロスの速太刀/Boros Swiftblade》だ。白のクリーチャーも赤のクリーチャーも、どちらも二段攻撃を持つことができる。
「点呼」デザイン
これらのカードは、テキストボックスの中で特に彼らの色(もしくは関連する基本土地タイプ)に呼びかける。具体例は《トルシミール・ウルフブラッド/Tolsimir Wolfblood》で、君の他の白のクリーチャーを+1/+1し、君の他の緑のクリーチャーを+1/+1する。
「ピカピカで新しい」デザイン
これらのカードはマジックの歴史にかつてなかった効果を持つ。具体例は《草ハイドラ/Phytohydra》だ。
「共通の趣味」デザイン
これらのカードは、数色にまたがる能力の派閥のメンバーだ。それによって僕たちは同じテーマの能力を持つ単色もしくは多色のカードを作ることができる。これのよい例は活用能力だろう。これらは黒のカードにも、緑のカードにも、緑黒のカードにもなる。ゴルガリの派閥のアイデンティティは、これら3つの色の組み合わせのいずれにも当てはめることができる。死体から力を引き出すというコンセプトはゴルガリのテーマになっている部分だ。重要なのは、これが緑と黒が力を合わせるの唯一の方法というわけではなく、ゴルガリが行動する方法だということだ。
ベンが示唆したのは「ラヴニカのギルド」スタイルのアイデンティティを4色の各グループに与えてみるということだった。彼は+1/+1カウンターがテーマの緑白青黒のデッキによって僕たちがすでにこの考えにたどり着いていると信じていた。欠けている色である赤は、刹那的快楽とリソースの浪費を中心とした色だ。緑白青黒のデッキはゆっくりと時間をかけて強力になっていく。このことは赤の哲学と対照的で、統率者のプレイを楽しいものにする。 彼はデザイン・チームに、同様な「ギルドのアイデンティティ」を4色のグループそれぞれについて考えるように言った。
これは大いなる挑戦になったが、デザイン・チームはこの課題に熱心に取り組んだ。終わったときにはスケジュールが狂い、予算もオーバーしてしまったが、僕たちは統率者2016の冒険的なデザインをいっそう魅力的にし、仕上げ始める時間を2週間削った。これが僕たちの成果だ。
白青黒赤「細工」※4
白は文明を体現する発展を信奉している。青はテクノロジーを魅惑的なものだと感じている。黒は自然と人工物を道徳的に区別しない。赤は作ったり壊したりすることが好きだ。では緑は? 緑はこれらすべてが嫌いなのだ!
このデッキは有色と無色のアーティファクトに加えて、4色から選ばれた何種類もの「アーティファクト関連」のカードを活用する。これは、複雑な機械を組み上げて延々とアドバンテージを稼ぎたいプレイヤーに向けられたものだ。
※4……原文では「Artifice」で、文字通り「工匠(Artificer)」の語源でありながら、策略や狡猾さを表す言葉。
青黒赤緑「混沌」
青は実証的な実験の結果を明らかにしたいと思っている。黒は敵を困惑させるのが好きだ。赤はその本質に不可欠な要素として混沌を信奉している。緑は宇宙がおのずから展開するままに任せようとしている。秩序と組織の色である白は、毎ターン混沌を抑えようとする——が、混沌を抑えることはできない!
このデッキは変化を内包しており、デッキの一番上の見えないカードをプレイする、コインを投げる、あるいはその他の方法でゲームにランダム性を導入する。このデッキはすべての動きを慎重に計算するよりも、「何が起こるか見てみる」のを好むプレイヤーに向けられている。
黒赤緑白「攻勢」
黒は若い芽が成長して脅威となる前に握りつぶすことをよしとする。赤はあくまで快感のために戦うことを愛好する。緑は弱肉強食が自然全体を強くすると理解している。白は人々や信条を守るために戦うことをいとわない。しかしながら、青は速度を緩め、正しい解決策を見つけるために状況を検討しようとする。
アグロデッキは政治に興味がなく、端的にテーブルの上の全員を可能な限り素早く殺そうとする。このデッキは無駄な時間が嫌いで、単なる統率者というよりはリミテッドに似たプレイスタイルを好むプレイヤーにとって理想的なものだ。
赤緑白青「利他」
赤は友達が好きだ。緑は共生の力を理解している。白は何よりもコミュニティを信じている。青は知識を尊重し、それが自由に共有されるべきだと思っている。黒は利己主義を善だと見なしており、利他主義は弱さを助長するだけだと確信している。
このデッキのパイロットは、テーブルの全員が楽しい時間を過ごし、全員のデッキが何をするのか見たいと思っている。それがマナやカードやトークンをあちこちに贈って他のプレイヤーを助ける理由だ。もちろん贈り物をいぶかしむプレイヤーもいるので、このデッキにはパイロットへの攻撃を困難にするためのカードも含まれている。
緑白青黒「成長」
緑は巨大な樫も小さな種から成長すると認識している。白は文明社会の偉大なる建設者だ。青は知性を拡大させたいと思っている。黒は自らの力を強大にしたいと思っている。衝動的に行動する赤は、未来のことなど気にせず、今、今、今、何ができるかだけを考えている!
このデッキは大量のカウンター(特に+1/+1カウンター)テーマを扱っている。この中のクリーチャーは十分な時間さえ与えればどれも強大な脅威に成長する。このデッキは64/64のハイドラなんてものにスリルを感じるプレイヤー向けだ。
面白いね、でもプレビュー・カードは?
素晴らしい。僕の頭の中で人々が話す声が聞こえる!
「あなたの終了ステップの開始時に、増殖を行う。」テキストのこの文は「長期的な成長」をとてもうまく具体化したものだ! 君のデッキの4色のカードには、アトラクサと組み合わせることができる、むかつくほど強力なカウンターがこれでもかと入っている。
先述のカテゴリーを用いると、アトラクサの半分は「チャイニーズ・メニュー」で、もう半分は「共通の趣味」だ。彼女には各色から得た4つのキーワードがあり、増殖能力は彼女が緑白青黒「成長」の派閥に属していることを表している。
クリエイティブ的には、アトラクサは新ファイレクシアの4人の法務官によって生み出された天使だ。赤の法務官であるウラブラスクは他の法務官と協力しないので、彼はその過程には関わっていない。アトラクサは完璧な使節となるべくして生み出された。
他のプレビュー・カードは?
おいおい、欲張りすぎやしないかい?
何でもいい! 神話レアじゃなくてもいいから!
よおーしわかった。
想像に難くないように、この製品のマナベースは手ごわい。僕は人々が4色のカードをきちんと唱えられるようにする何かしらの新しい道具を作りたかったので、基本土地サイクリングを持つ6枚の新カードを作った。僕はそれらの多くを、比較的重いカードに限られた用途の能力をつけたものにしたいと考えた。アーティファクトやエンチャントを追放することは特定のゲームで決定打になる反面、それ以外のゲームでは完全に役に立たない効果のお手本で、基本土地サイクリングを持つカードとして申し分ない候補となった。コンフラックスに収録されたオリジナルの基本土地サイクリングには色マナが必要だったが、僕はどんな色のマナでも構わないようにした。マナを整えるために先にマナが整っていないといけないなんておかしいだろう?
横道にそれるが、このアートを見てほしい! イニストラードを覆う影以来、僕はSeb McKinnonの大ファンなんだ。
デッキリストが公開されたとき、君は僕たちがマナベースでいつもと違うことをしているのに気づくだろう。通常、統率者の構築済みデッキにレアの2色土地を入れることはない。こうしたカードは、より広いファンに向けられた主力のブースターやマスターズのような製品に収録されている。4色デッキが色マナへのアクセスという特殊な問題をもたらすのはわかっていたので、僕たちは近い将来ブースターパックに入れるつもりのないレアの2色土地を時間をかけて選んだ。僕たちはデッキがスムーズに動くように、それらのうち何枚かを統率者2016のデッキに入れることにした。
よし、帰る時間だ
僕は統率者(2016年版)で自分がした仕事に本当に誇りを持っている。デザイン・チームは素晴らしいテーマを見つけ、全力を傾け、デベロップ・チームはそれらのテーマがきちんと動くようにしてくれた。僕の考えでは、これらのデッキは今まで売り出したどの製品よりも自家製の統率者に近く感じられることだろう。全くもってこれらは奇妙だ! 僕は君がこれらのデッキで遊び、新しい統率者(あるいは統率者たち!)で新しいデッキを組み、すでにある君のデッキに入る素晴らしいカードを見つけてくれるのを願っている。
楽しんで!
ソース……http://magic.wizards.com/en/articles/archive/card-preview/designing-commander-2016-edition-2016-10-24(Designing Commander (2016 Edition))
翻訳後記
2016年の統率者のリード・デザイナーを務めたイーサン・フライシャーによる記事です。日本公式サイトに上がる様子がないので翻訳しました。
今回の統率者の出来には様々な意見があると思いますが、まず理解しておきたいのは4色のカードをデザインするのは非常に難しいということです(おそらくそれは5色のカードよりも難しいはずです)。この記事やマローの記事を読む限りでは、当初イーサンたちはメカニズム的な美しさをもってこの課題を解決しようとしていたようです。すなわち、4色であるということをマナ・コストや固有色の面でどのように工夫できるのかという発想で、ある意味では「賢い」方法だといえるでしょう。
しかし、それも途中で頓挫し、デベロップへの移行期間になるまでデザインが固まっていなかったというから驚きです(もしも今回の統率者が凡庸に見えるとしたら、直接的な原因は時間の不足なのかもしれません)。結局のところ彼らが選択したのは、各色の哲学の共通部分と差異を書き出して総当たり的に4色のアイデンティティを導き出すというたいへん「泥臭い」方法でした。
彼らが最初からこの方法を取らなかった理由もわかるような気がします。全部で5色しかないマジックにおいて、4色の共通部分はあまりに抽象度が高すぎ、仮にそれが見つかったとしても個性的なカードを作ることは難しいのです。たとえば各色の単体除去を持ち寄って、4色バージョンの《終止/Terminate》を作ったとしても、それを究極の除去呪文であると認めることは難しいでしょう。今回の統率者でいえば、黒赤緑白の《不撓のサスキア/Saskia the Unyielding》はこうした足し算によって逆に没個性的なカードになってしまった例かもしれません。
ただ、カードはもとよりそうして作られた4色のアイデンティティは(いかに泥臭いものであったとしても)努力の成果としてそれなりに評価できると私は考えています。5つの組み合わせそれぞれの論拠は筋が通っていますし、お互いに十分異なってもいます。時間をかけただけの力技的なデザインは、裏返せば時間をかけなければ生み出されないデザインでもあり、その限りで尊重すべきものでしょう。
すでにデッキリストが公開されていますが、青黒赤緑のデッキ(《大渦を操る者、イドリス/Yidris, Maelstrom Wielder》のデッキ)では面白いことが起きています。今回この色の組み合わせのアイデンティティが「混沌」だと位置づけられたことで、《変身/Polymorph》能力が赤に印刷されました(《分岐変容/Divergent Transformations》)。また、同じデッキに《光り葉のナース/Nath of the Gilt-Leaf》が再録されていますが、このカードはもはや《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》と《新緑の魔力/Verdant Force》の足し算ではありません。このデッキの中では、「混沌」を司る青黒赤緑の半分として、黒緑に新たなデザイン的役割が与えられているのです。
誤訳や誤字がありましたら指摘していただければ幸いです。
2016年10月24日
イーサン・フライシャー
この混乱は、R&Dの奈落(訳注:開発部の面々がいる場所)の真ん中で、もし僕が統率者のデザイン・チームを任されたなら4色の伝説のクリーチャーを作るだろうと大声で宣言したことにすべて端を発している。誰かが僕の頭にステープラーを投げ、「正気じゃない!」と言った。
「いやあ、きっと朝飯前さ」僕は陽気に答えた。
結局のところ、ステープラーを投げた人は正しく、僕が間違っていた。統率者(2016年版)は、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストでの5年半にわたる僕のキャリアの中で最も困難なデザインだということが明らかになった。
なんてドラマチックなんだ。で、どうしたの?
僕たちは、いずれも熱狂的な統率者プレイヤーである、聡明で、魅力的で、チャーミングなデザイナーからなるチームを編成した。これら素晴らしき人々の詳細については、マーク・ローズウォーターの今日の記事※1を読むことをお勧めする。
※1……http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0017891/(よろしく共闘/Howdy Partner)
最初の数回のミーティングで、僕は本当に4色の統率者デッキを作ることに束縛されたり、固執したりしているわけではないこと、そしてこの問題をグループで話し合い、あらゆる選択肢を見つける必要があることを伝え、みんなを安心させた。僕たちは考えうる限りのあらゆる選択肢や視点について話し合った。それでも、僕は直感的に2016年は4色デッキをデザインすべき年だと感じており、説得のためにプレゼンすることになった。
僕は統率者の製品ラインがどのようであったのかについて述べ(僕たちは楔3色のデッキ、弧3色のデッキ、単色のデッキ、対抗色のデッキを作ってきた)、それがこれからどのようになると想像しているかを伝えた(これからは[編集済み]、[編集済み]、そしておそらく[編集済み]すら作ることだろう)。僕は、4色の伝説のクリーチャーはファンから最も頻繁にリクエストされるもののひとつであり、統率者はそうしたカードを印刷するのに最適の場所であると話した。僕たちは、4色デッキこそが進むべき道であると決定した。
僕は有力だと思われる4色デッキのテーマのリストを何年か温めていたので、いくつかのデッキを構築するうえで幸先のよいスタートが切れたと感じていた。これらのテーマはメカニズム的に発想されたもので、僕たちが過去にマジックでしてきたことに基づいている。たとえば、グリクシスとゴルガリには大量のゾンビたちがいた。青黒赤緑はゾンビ部族デッキにすることができる!
また、賛美はアラーラ・ブロックではバントであり、基本セット2013では白黒だった。緑白青黒の賛美デッキが作れる!
これは有力な方向性に思えたので、僕たちはこれに沿ってデッキを作り、その統率者の作成に取りかかった。僕はチームが「ネフィリム・スタイル」のカードを作りたいのだということを理解していたので、これらは普通の多色のカードになった。これらは今日までのマジックにおける唯一の4色カードである、ギルドパクトのネフィリムにちなんで名づけられた。これは4色の統率者を作るための最も直線的な方法だった。
統率者のルールの奇抜なところのひとつは、カードを唱えるためのコスト、あるいはテキストボックス内に書かれているマナ・シンボルを「固有色」として数えるというものだ。そのため君が《墓後家蜘蛛、イシュカナ/Ishkanah, Grafwidow》を統率者として使うなら、デッキには緑と黒のカードを入れることができる。あるいは《死に微笑むもの、アリーシャ/Alesha, Who Smiles at Death》を統率者として使うなら、デッキには赤、白、黒のカードを入れることができる。《メムナーク/Memnarch》は無色のアーティファクト・クリーチャーだが、青の起動型能力があるため彼の固有色は青だ。
僕たちはこの流れに沿ってかなりの数の「ワイルド・カード」統率者をデザインした。混成マナの伝説のクリーチャーに全く異なる混成マナの起動型能力をつけたもの。単色の伝説のクリーチャーに別の3つの色の起動型能力をつけたもの。伝説のアーティファクト・クリーチャーに4色の起動型能力をつけたものなど。安心してほしい、それらの中でよい結果を出したものはひとつとしてなかった。最も簡単にデザインできるカードとは最も確かなコンセプトを持つカードであって、逆もまたしかり。マジックのカードではメカニズムとクリエイティブ的な側面を十分に融合させることが重要なため、僕たちは「ワイルド・カード」統率者の道に進むことを断念した。
ケン・ネーグルはきわめて過激なことを示唆してくれた。もしも4色デッキを率いてチームを組むことができる2色の統率者が2体いたとしたら? アリ・メドウィンはすぐさま熱狂的にこのアイデアを支持した。僕は最初は懐疑的だったが、試してみる価値はあると思った。要約すると、これは素晴らしかった!(本当に、共闘メカニズムについてのマークの記事を読んでほしい)
君はできそうもないと言うだろう
デヴァイン(デザインとデベロップが重なる期間のこと)が始まるとき、リード・デベロッパーのベン・ヘイズはあるアイデアを持っていた。僕たちがデザインしたメカニズム的テーマのひとつ(シミック+アブザン=緑白青黒+1/+1カウンター)をサポートする統率者が、他の統率者に比べていっそう本質的なレベルでベンに訴えかけたのだ。オルゾフが白と黒の部分集合のアイデンティティを持っているように、仮に緑白青黒が(ふたつのパーツの全体というよりは)独立したアイデンティティを持っているとしたらどうだろうか?
僕たちがどうやって金色のカードをデザインしているかについてのちょっとした横道
伝統的な多色、または「金色の」カードはいくつかのカテゴリーに分類される。ご覧の通りだ。ここでは単純でわかりやすいので2色のカードを例に用いている。マーク・ローズウォーターはこれらのカテゴリーについて、彼の記事「Midas Touch」※2で詳しく掘り下げている。
※2……http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/midas-touch-2005-11-14(Midas Touch)
「チャイニーズ・メニュー」※3デザイン
これらのカードは、色Aにふさわしい効果と色Bにふさわしい効果を手に取って乱暴にひとつのカードに貼り合わせて作られる。具体例は《予言の稲妻/Prophetic Bolt》で、これは赤の《電撃破/Lightning Blast》の効果と青の《衝動/Impulse》の効果を合体させたカードだ。
※3……中華料理店でいくつかの料理を組み合わせて注文するように、複数の選択肢から選びとられた組み合わせを意味する言葉。
「ベン図」デザイン
これらはどちらかの色のカードとしても印刷可能なものだ。最近、僕たちはこのタイプのデザインを混成マナのカードのために取っておこうと試みている。具体例は《ボロスの速太刀/Boros Swiftblade》だ。白のクリーチャーも赤のクリーチャーも、どちらも二段攻撃を持つことができる。
「点呼」デザイン
これらのカードは、テキストボックスの中で特に彼らの色(もしくは関連する基本土地タイプ)に呼びかける。具体例は《トルシミール・ウルフブラッド/Tolsimir Wolfblood》で、君の他の白のクリーチャーを+1/+1し、君の他の緑のクリーチャーを+1/+1する。
「ピカピカで新しい」デザイン
これらのカードはマジックの歴史にかつてなかった効果を持つ。具体例は《草ハイドラ/Phytohydra》だ。
「共通の趣味」デザイン
これらのカードは、数色にまたがる能力の派閥のメンバーだ。それによって僕たちは同じテーマの能力を持つ単色もしくは多色のカードを作ることができる。これのよい例は活用能力だろう。これらは黒のカードにも、緑のカードにも、緑黒のカードにもなる。ゴルガリの派閥のアイデンティティは、これら3つの色の組み合わせのいずれにも当てはめることができる。死体から力を引き出すというコンセプトはゴルガリのテーマになっている部分だ。重要なのは、これが緑と黒が力を合わせるの唯一の方法というわけではなく、ゴルガリが行動する方法だということだ。
ベンが示唆したのは「ラヴニカのギルド」スタイルのアイデンティティを4色の各グループに与えてみるということだった。彼は+1/+1カウンターがテーマの緑白青黒のデッキによって僕たちがすでにこの考えにたどり着いていると信じていた。欠けている色である赤は、刹那的快楽とリソースの浪費を中心とした色だ。緑白青黒のデッキはゆっくりと時間をかけて強力になっていく。このことは赤の哲学と対照的で、統率者のプレイを楽しいものにする。 彼はデザイン・チームに、同様な「ギルドのアイデンティティ」を4色のグループそれぞれについて考えるように言った。
これは大いなる挑戦になったが、デザイン・チームはこの課題に熱心に取り組んだ。終わったときにはスケジュールが狂い、予算もオーバーしてしまったが、僕たちは統率者2016の冒険的なデザインをいっそう魅力的にし、仕上げ始める時間を2週間削った。これが僕たちの成果だ。
白青黒赤「細工」※4
白は文明を体現する発展を信奉している。青はテクノロジーを魅惑的なものだと感じている。黒は自然と人工物を道徳的に区別しない。赤は作ったり壊したりすることが好きだ。では緑は? 緑はこれらすべてが嫌いなのだ!
このデッキは有色と無色のアーティファクトに加えて、4色から選ばれた何種類もの「アーティファクト関連」のカードを活用する。これは、複雑な機械を組み上げて延々とアドバンテージを稼ぎたいプレイヤーに向けられたものだ。
※4……原文では「Artifice」で、文字通り「工匠(Artificer)」の語源でありながら、策略や狡猾さを表す言葉。
青黒赤緑「混沌」
青は実証的な実験の結果を明らかにしたいと思っている。黒は敵を困惑させるのが好きだ。赤はその本質に不可欠な要素として混沌を信奉している。緑は宇宙がおのずから展開するままに任せようとしている。秩序と組織の色である白は、毎ターン混沌を抑えようとする——が、混沌を抑えることはできない!
このデッキは変化を内包しており、デッキの一番上の見えないカードをプレイする、コインを投げる、あるいはその他の方法でゲームにランダム性を導入する。このデッキはすべての動きを慎重に計算するよりも、「何が起こるか見てみる」のを好むプレイヤーに向けられている。
黒赤緑白「攻勢」
黒は若い芽が成長して脅威となる前に握りつぶすことをよしとする。赤はあくまで快感のために戦うことを愛好する。緑は弱肉強食が自然全体を強くすると理解している。白は人々や信条を守るために戦うことをいとわない。しかしながら、青は速度を緩め、正しい解決策を見つけるために状況を検討しようとする。
アグロデッキは政治に興味がなく、端的にテーブルの上の全員を可能な限り素早く殺そうとする。このデッキは無駄な時間が嫌いで、単なる統率者というよりはリミテッドに似たプレイスタイルを好むプレイヤーにとって理想的なものだ。
赤緑白青「利他」
赤は友達が好きだ。緑は共生の力を理解している。白は何よりもコミュニティを信じている。青は知識を尊重し、それが自由に共有されるべきだと思っている。黒は利己主義を善だと見なしており、利他主義は弱さを助長するだけだと確信している。
このデッキのパイロットは、テーブルの全員が楽しい時間を過ごし、全員のデッキが何をするのか見たいと思っている。それがマナやカードやトークンをあちこちに贈って他のプレイヤーを助ける理由だ。もちろん贈り物をいぶかしむプレイヤーもいるので、このデッキにはパイロットへの攻撃を困難にするためのカードも含まれている。
緑白青黒「成長」
緑は巨大な樫も小さな種から成長すると認識している。白は文明社会の偉大なる建設者だ。青は知性を拡大させたいと思っている。黒は自らの力を強大にしたいと思っている。衝動的に行動する赤は、未来のことなど気にせず、今、今、今、何ができるかだけを考えている!
このデッキは大量のカウンター(特に+1/+1カウンター)テーマを扱っている。この中のクリーチャーは十分な時間さえ与えればどれも強大な脅威に成長する。このデッキは64/64のハイドラなんてものにスリルを感じるプレイヤー向けだ。
面白いね、でもプレビュー・カードは?
素晴らしい。僕の頭の中で人々が話す声が聞こえる!
法務官の声、アトラクサ/Atraxa, Praetors’ Voice (緑)(白)(青)(黒)
伝説のクリーチャー ― 天使・ホラー C16, 神話レア
飛行、警戒、接死、絆魂
あなたの終了ステップの開始時に、増殖を行う。(あなたはカウンターの置かれているパーマネントやプレイヤーを望む数だけ選び、その後それぞれに、その上に置かれているカウンターのうち1種類を1個置く。)
4/4
「あなたの終了ステップの開始時に、増殖を行う。」テキストのこの文は「長期的な成長」をとてもうまく具体化したものだ! 君のデッキの4色のカードには、アトラクサと組み合わせることができる、むかつくほど強力なカウンターがこれでもかと入っている。
先述のカテゴリーを用いると、アトラクサの半分は「チャイニーズ・メニュー」で、もう半分は「共通の趣味」だ。彼女には各色から得た4つのキーワードがあり、増殖能力は彼女が緑白青黒「成長」の派閥に属していることを表している。
クリエイティブ的には、アトラクサは新ファイレクシアの4人の法務官によって生み出された天使だ。赤の法務官であるウラブラスクは他の法務官と協力しないので、彼はその過程には関わっていない。アトラクサは完璧な使節となるべくして生み出された。
他のプレビュー・カードは?
おいおい、欲張りすぎやしないかい?
何でもいい! 神話レアじゃなくてもいいから!
よおーしわかった。
森の再生/Sylvan Reclamation (3)(緑)(白)
インスタント C16, アンコモン
アーティファクトやエンチャント最大2つを対象とし、それらを追放する。
基本土地サイクリング(2)((2),このカードを捨てる:あなたのライブラリーから基本土地カードを1枚探す。それを公開し、あなたの手札に加える。その後あなたのライブラリーを切り直す。)
想像に難くないように、この製品のマナベースは手ごわい。僕は人々が4色のカードをきちんと唱えられるようにする何かしらの新しい道具を作りたかったので、基本土地サイクリングを持つ6枚の新カードを作った。僕はそれらの多くを、比較的重いカードに限られた用途の能力をつけたものにしたいと考えた。アーティファクトやエンチャントを追放することは特定のゲームで決定打になる反面、それ以外のゲームでは完全に役に立たない効果のお手本で、基本土地サイクリングを持つカードとして申し分ない候補となった。コンフラックスに収録されたオリジナルの基本土地サイクリングには色マナが必要だったが、僕はどんな色のマナでも構わないようにした。マナを整えるために先にマナが整っていないといけないなんておかしいだろう?
横道にそれるが、このアートを見てほしい! イニストラードを覆う影以来、僕はSeb McKinnonの大ファンなんだ。
デッキリストが公開されたとき、君は僕たちがマナベースでいつもと違うことをしているのに気づくだろう。通常、統率者の構築済みデッキにレアの2色土地を入れることはない。こうしたカードは、より広いファンに向けられた主力のブースターやマスターズのような製品に収録されている。4色デッキが色マナへのアクセスという特殊な問題をもたらすのはわかっていたので、僕たちは近い将来ブースターパックに入れるつもりのないレアの2色土地を時間をかけて選んだ。僕たちはデッキがスムーズに動くように、それらのうち何枚かを統率者2016のデッキに入れることにした。
よし、帰る時間だ
僕は統率者(2016年版)で自分がした仕事に本当に誇りを持っている。デザイン・チームは素晴らしいテーマを見つけ、全力を傾け、デベロップ・チームはそれらのテーマがきちんと動くようにしてくれた。僕の考えでは、これらのデッキは今まで売り出したどの製品よりも自家製の統率者に近く感じられることだろう。全くもってこれらは奇妙だ! 僕は君がこれらのデッキで遊び、新しい統率者(あるいは統率者たち!)で新しいデッキを組み、すでにある君のデッキに入る素晴らしいカードを見つけてくれるのを願っている。
楽しんで!
ソース……http://magic.wizards.com/en/articles/archive/card-preview/designing-commander-2016-edition-2016-10-24(Designing Commander (2016 Edition))
翻訳後記
2016年の統率者のリード・デザイナーを務めたイーサン・フライシャーによる記事です。日本公式サイトに上がる様子がないので翻訳しました。
今回の統率者の出来には様々な意見があると思いますが、まず理解しておきたいのは4色のカードをデザインするのは非常に難しいということです(おそらくそれは5色のカードよりも難しいはずです)。この記事やマローの記事を読む限りでは、当初イーサンたちはメカニズム的な美しさをもってこの課題を解決しようとしていたようです。すなわち、4色であるということをマナ・コストや固有色の面でどのように工夫できるのかという発想で、ある意味では「賢い」方法だといえるでしょう。
しかし、それも途中で頓挫し、デベロップへの移行期間になるまでデザインが固まっていなかったというから驚きです(もしも今回の統率者が凡庸に見えるとしたら、直接的な原因は時間の不足なのかもしれません)。結局のところ彼らが選択したのは、各色の哲学の共通部分と差異を書き出して総当たり的に4色のアイデンティティを導き出すというたいへん「泥臭い」方法でした。
彼らが最初からこの方法を取らなかった理由もわかるような気がします。全部で5色しかないマジックにおいて、4色の共通部分はあまりに抽象度が高すぎ、仮にそれが見つかったとしても個性的なカードを作ることは難しいのです。たとえば各色の単体除去を持ち寄って、4色バージョンの《終止/Terminate》を作ったとしても、それを究極の除去呪文であると認めることは難しいでしょう。今回の統率者でいえば、黒赤緑白の《不撓のサスキア/Saskia the Unyielding》はこうした足し算によって逆に没個性的なカードになってしまった例かもしれません。
ただ、カードはもとよりそうして作られた4色のアイデンティティは(いかに泥臭いものであったとしても)努力の成果としてそれなりに評価できると私は考えています。5つの組み合わせそれぞれの論拠は筋が通っていますし、お互いに十分異なってもいます。時間をかけただけの力技的なデザインは、裏返せば時間をかけなければ生み出されないデザインでもあり、その限りで尊重すべきものでしょう。
すでにデッキリストが公開されていますが、青黒赤緑のデッキ(《大渦を操る者、イドリス/Yidris, Maelstrom Wielder》のデッキ)では面白いことが起きています。今回この色の組み合わせのアイデンティティが「混沌」だと位置づけられたことで、《変身/Polymorph》能力が赤に印刷されました(《分岐変容/Divergent Transformations》)。また、同じデッキに《光り葉のナース/Nath of the Gilt-Leaf》が再録されていますが、このカードはもはや《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》と《新緑の魔力/Verdant Force》の足し算ではありません。このデッキの中では、「混沌」を司る青黒赤緑の半分として、黒緑に新たなデザイン的役割が与えられているのです。
誤訳や誤字がありましたら指摘していただければ幸いです。
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