メルヴィン的、手掛かりとテンポとアドバンテージ(後編)
メルヴィン的、手掛かりとテンポとアドバンテージ(後編)
カード・アドバンテージを失いテンポを得る

《不屈の追跡者/Tireless Tracker》は手掛かりによってテンポを失いながらカード・アドバンテージを得るカードだった。では、その反対はどうなるだろうか? 《石の宣告/Declaration in Stone》は、そうした問いに答えるカードだ。

《剣を鍬に/Swords to Plowshares》の亜種は数あれど、デザイン的な意味で成功を収めたものは少ない。大抵の場合それらは強すぎるか、あるいは弱すぎるかのどちらかで、デザインとデベロップがパワー・レベルを適切に設定できることはあまりない。私はこれを、白という色が持ちうるデメリットの種類の貧困さの問題だと思っている。すなわち、除去されたクリーチャーのコントローラーにライフを与えたり、タップ状態の土地を与えたりすることはほとんどデメリットにならないが、かといって《正義の凝視/Gaze of Justice》では使い物にならないのだ。

したがって、R&Dが手掛かりというメカニズムを使って対戦相手に手札を与える白いカードをデザインしたことは賞賛されるべきだろう。面白いことに、このトークンはライフや土地と違って戦況に影響を与える有効牌に変わる反面、マッチアップ次第では単に死期を早めるテンポロスにしかならない。結果的に《石の宣告/Declaration in Stone》は純粋にテンポだけを取る短期決戦向きの追放除去としてデザインされ、クリーチャーを殲滅することを目的としたデッキではなく、ゲームプランの速いデッキで多用される除去呪文になった。

テンポとカード・アドバンテージの関係だけを見れば、このカードはバウンス呪文に非常に近い。そのため、このカードの直系の祖先は《剣を鍬に/Swords to Plowshares》や《流刑への道/Path to Exile》ではなく《破門/Excommunicate》や《失脚/Oust》だといえるかもしれない。《石の宣告/Declaration in Stone》は《失脚/Oust》のマナ・コストを重く、カード・アドバンテージまで失うようにしたバージョンだが、対戦相手が除去された脅威を取り戻すまでの時間は本家よりもずっと長くなった。

困難は不可能ではない

先述したように、テンポはカラー・パイに依存していないため、テンポを利用したデザインはあらゆる色で可能なはずだ。そして、《石の宣告/Declaration in Stone》のように本来はその色が苦手なことをテンポの形で表現することも同様にできると思われる。

注意しなければならないのは、テンポとデザインが結びつくこと自体は何ら目新しいものではないということだ。たとえば待機はマナ効率を超えた時間のアドバンテージ(ディスアドバンテージ)に着目したメカニズムであるし、マジック・オリジンの《一日のやり直し/Day’s Undoing》はテンポをうまく利用してヴィンテージ制限カードを再び印刷可能にしたデザインだといえる。

また、誤解のないよう繰り返すと、私はカラー・パイの境界をむやみに曖昧にすることには反対の立場だ。そもそもカラー・パイはマジックに色が存在することの意義そのものであるし、メタゲームを健全に循環させるための最も基本的な手段でもある。

そのため、私はマジックに手札を増やすことが得意な色とそうでない色が存在することは問題だと思わない(現状、青と黒がその分野において抜きん出ている)。問題なのは、1枚の手札を与えることが適切でないという理由で、それが苦手な色からリソースを増やす行為自体が消滅してしまうことだ。

私が《不屈の追跡者/Tireless Tracker》や《石の宣告/Declaration in Stone》をデザイン的な達成だと述べるのは、カードを引くことにまつわるこうした問題を、R&Dがある程度解決できたように思うからだ。たとえ1枚の手札がカラー・パイによって制限されているとしても、テンポをデザインに応用して各色に小数点以下の手札を与えることはおそらく間違いではない。手掛かりは、テンポを適切に設定することによって、これらの色に全体除去やトークン以外の方法でカード・アドバンテージを与えるための試みだといえる。

赤くて長い時間

私はカードをデザインすることが趣味のユーザーなので、手掛かりの系譜にある新たなデザインを考えずにはいられない。とはいえ、スタンダード環境をプレイして緑や白のカードには食傷気味のプレイヤーも多いと思われるため、カード・アドバンテージを得ることが苦手な他の色のカードをデザインすることにしよう。すなわち、それは赤だ。

[カード名]  (2)(赤)
クリーチャー ― 人間・シャーマン
威迫
[カード名]かあなたがコントロールする他のトークンでないクリーチャーが1体死亡するたび、赤の「混沌」という名前のエンチャント・トークンを2つ戦場に出す。それらは「(3),このエンチャントを生け贄に捧げる:あなたのライブラリーを切り直し、その後、一番上のカードを公開する。それがパーマネント・カードであるなら、あなたはそのカードを戦場に出してもよい。」を持つ。
3/2

[カード名]  (1)(赤)
ソーサリー
トークンでないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それのコントローラーは、赤の「混沌」という名前のエンチャント・トークンを2つ戦場に出す。それらは「(3),このエンチャントを生け贄に捧げる:あなたのライブラリーを切り直し、その後、一番上のカードを公開する。それがパーマネント・カードであるなら、あなたはそのカードを戦場に出してもよい。」を持つ。


マローがかつてコラムで語ったように、ある効果がカラー・パイ的に適切か否かという問題には感情が大きく関わっている。あくまで私見だが、手掛かりのようにマナを支払って単にカードを引く行為は、おそらく現状ではユーザーに赤らしい効果として認識されないだろう。

したがって、赤らしさを保ちながら実質的に手掛かりと同じように機能する効果——できることなら、ルーター効果や《エルキンの壷/Elkin Bottle》効果のようにありふれていないもの——を探す必要がある。最終的に《場当たりな襲撃/Impromptu Raid》ほど危険ではないという理由で《混沌のねじれ/Chaos Warp》に近いデザインにしたが、このクリーチャー4枚と巨大クリーチャー36枚で構成されたデッキの誕生を防ぐため、誘発条件の段階でデッキの構造にある程度制約をかけた。

エンチャント・トークンを複数生み出すようにしたのは、この効果がメリットとしてもデメリットとしても中途半端に感じられたからだ。このマナ・コストとカード・アドバンテージの組み合わせが適切なのかどうかは不明だが、もしもデベロップという過程を経ることがあるならば、エンチャント・トークンが狙い通りのテンポを生むよう厳密に(そして容易に)調整されることだろう。

……http://mtg-jp.com/reading/translated/001731/(混交の話/The Bleed Story)

[カード名]  (1)(赤)(赤)
エンチャント
瞬速
[カード名]が戦場に出たとき、あなたのマナ・プールに(赤)(赤)(赤)を加える。
(X)(赤)(赤)(赤):クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。[カード名]はそれに3点のダメージを与える。占術3を行う。[カード名]の上に猛火カウンターを3個置く。Xは[カード名]の上の猛火カウンターの数に等しい。この能力は、毎ターン1回のみ起動できる。


赤いカードに存在しうるカード・アドバンテージ獲得方法の中でも、トーナメントシーンにあまり姿を現さないもののひとつが《ボガーダンの鎚/Hammer of Bogardan》や《陶片のフェニックス/Shard Phoenix》といった再利用可能なカードだろう。特に前者のような再利用できる火力呪文は、かつてR&Dが《罰する火/Punishing Fire》で痛い目を見たためか、今日において積極的な調整がなされることはほとんどない。

見ての通りこのテキストは《ボガーダンの鎚/Hammer of Bogardan》を強く意識したもので、能力を起動するごとにテンポが悪くなるよう設計されている。本家同様に理論上は無限に再利用できるダメージ源になるが、1枚で対戦相手を焼き切るためには土地を21枚まで伸ばさなければならない。

私がこのカードによって試みたのは、1枚のカードが演出する時間を最長にすることだ。一定間隔で繰り返される火力という意味でこのカードは《弧状の刃/Arc Blade》のような時間カウンターを用いたデザインに近いが、マナ効率が変化することでそれは単なる反復以上のものになる。ゲームプレイの場合とは異なって、デザインにおけるテンポは効率を求めることばかりを目的としていない。全く反対に、より長い時間、より悪いマナ効率を使ってドラマのあるカードをデザインすることも可能なのだ。

デザインの手掛かり

私がテンポという言葉を興味深いと思うのは、その概念の中にマジックの様々な要素が溶け合っていると感じるからだ。そこでは、マナ・コストは時間であり、タイミングはマナ・カーブであり、カード・アドバンテージはライフである。

デザイナーは、テンポとうまく関わることで、カードの中の限られたパラメータから不可視のデザイン的要素にアクセスすることを学ぶ。今日のマジックで重要なのはカード・アドバンテージとテンポ・アドバンテージだ——という格言に従い、プレイヤーのみならずデザイナーが扱う問題も変化していると思われる。

コメント

オレンジ君
2016年11月6日21:18

 オリジナルカードの(1)(赤)のソーーサリーについてです。現在のマジックにおいて赤がクリーチャーを破壊するスペルはないように思います。デッキに戻すのではなくあえて「破壊」なのは理由があるのでしょうか?

雑穀
2016年11月6日22:14

正確には思い出せませんが、すでにかなりテキストが長いのでなんとか文章量を削減したかったのと、3/2のクリーチャーの能力を死亡誘発にしてしまったので、それと揃えるためだったかと思います。

今思うと破壊ではなく追放にしたうえで、3/2のクリーチャーの能力を《猟場番/Gamekeeper》や《ミストムーン・グリフィン/Mistmoon Griffin》のような追放を含む能力にすればよかったかもしれません。あるいは両者が関連している必然性もないのかも。

貴重なご意見ありがとうございます。

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