パーツを組み立てる
多くのユーザーがそうしているように、ここまで《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》に示唆されたメカニズムを便宜上「からくり」と呼んできたが、より本質的なのはおそらく「組み立てる」の方だろう。もとより「組み立てる」はルール上重要なキーワード処理であるだけでなく、その曖昧さによって多様に解釈されてきた。私の見立てでは、約10年にわたってメルヴィンたちが生み出してきた無数のからくりのアイデアも、この語の理解の仕方によって3通りに分類することができる。
1つ目の解釈は、パーツを組み立てるというものだ。MTG Salvationに2007年に投稿されたBootsyというユーザーのアイデアがこの解釈の典型的な例だろう。
この解釈の特徴は、からくりという語が持つ複雑で不可解な機械というイメージを、単純なパーツ同士の組み合わせで表現していることだ。結果として個々のカードはきわめて簡潔になり、真の完成はプレイヤーの創造性に任される。こうしたデザインの偉大な先例はスリヴァーで、《Funky Rigger》がそれをもとにしていることは言うまでもない。
大多数のユーザーはからくりをアーティファクト・トークンだと予想しているが、アーティファクト・カードを使ったアイデアも存在する。MTG CardsmithのAngry_Potatoesというユーザーは、《進化の飛躍/Evolutionary Leap》に近いテキストを用いてライブラリーの中のアーティファクト・カードに装具工がアクセスできるようにした。
このデザインには問題もあるものの(装具工が流れてくると信じてマナ・コストのないからくりをピックする気分はどんなものだろうか?)、からくりをカードとして処理することによってテキスト量に余裕を持たせることができるという大きなメリットがある。もしもからくりがリミテッドのアーキタイプになるのなら、セットにはコモンからレアまで十数枚の装具工がいるはずであり、判読性やプレイアビリティを考慮すると分割表記にすることは賢い選択だといえる。
※1……http://www.mtgsalvation.com/forums/creativity/custom-card-creation/349307-contraptions-and-riggers#c17
※2……https://mtgcardsmith.com/view/apprentice-contraptionist?list=user
※3……https://mtgcardsmith.com/view/whatevermobile?list=user
集合体を組み立てる
「組み立てる」の2つ目の解釈は、集合体を組み立てるというものだ。これはいくつかの単純なアーティファクトを材料に複雑なアーティファクトを組み上げる過程をデザイン的に表現したもので、この場合のからくりは単体で強力なものとして理解されていることが多い。
2010年にdb8r_boiというユーザーによってMTG Salvationに投稿されたこれらのアイデアでは、装具工とからくりの間にモジュールという新たなアーティファクト・タイプを差し込むことで多様な組み合わせのからくりを生み出すことを可能にしている。モジュールのテキストは正常に機能するのか若干怪しいが、《発生器の召使い/Generator Servant》のような能力だと考えれば多少の修正で済むだろう。
集合体を組み立てるという解釈では、からくりの素材がデザインの焦点になる。db8r_boiのようにアーティファクトを素材としてからくりに作り変えるアイデアの他、墓地のアーティファクト・カードを素材にするもの、アーティファクト上のカウンターを素材とするものなどあらゆる可能性が試されてきた。中でも私が興味深いと思ったのは(正確な表現ではないかもしれないが)コストと効果を素材として、それらを組み立てるというアイデアだ。
奇抜なテキストが目を引くManiteというユーザーのこれらのアイデアは、プレイヤーをゲーム内でマジックのデザイナーにするものだといえるだろう。入力・部品(Input Part)と名づけられたアーティファクトには能力の起動コスト、もしくは誘発条件だけが書いてあり、装具工の力で出力・部品(Output Part)と組み合わされることによって1つの能力として機能し始める。おそらくこのメカニズムを実装するためには総合ルールへの大幅な加筆が必要になると思われるが、非常に直感的であるため混乱を生むことは少ないはずだ。
db8r_boiとManiteのアイデアの欠点は、これらが典型的なA/Bメカニズムだということだ(考えようによってはA/B/C)。そのうえ単体ではほとんど仕事をしないカードがシナジーの両翼を担っているため、恐ろしいほどにリミテッドでのプレイに不向きだといえる。この問題の根本的な解決策は、端的にこれらのカードが他のアーキタイプでも使用可能になるように追加の能力を与えることだろう。いっそのことアーティファクト・クリーチャーにしてしまうのも有効な方法だ。
完全に余談だが、やがて発売されるカラデシュのデザインでもこうした問題は少なからず重要になると思われる。いわゆる置物系アーティファクトがアーキタイプのキーカードになる場合、アーキタイプに依存しすぎると単体であまりにも弱く、有用すぎる能力をつけるとリミテッドのバランスを崩し、かといって中庸な能力では全く使われないというジレンマを抱えることになる。R&Dは2回のミラディン・ブロックでよく似た事態に直面してきたが、カラデシュ・ブロックではどのように対処するのかデザイン的な観点での興味が尽きない。
※4……http://www.mtgsalvation.com/forums/creativity/custom-card-creation/631366-riggers-and-contraptions#c1
※5……http://www.mtgsalvation.com/forums/creativity/custom-card-creation/699649-lets-assemble-some-contraptions-input-and-output#c1
複雑さを上げる
ユーザーによる「組み立てる」の解釈の3つ目は、戦場にあるアーティファクトの複雑さを上げるという解釈だ。これはメカニズム的に怪物化やLvアップに近く、アーティファクトが戦場で加工を施されたことをカウンターなどを用いて間接的に表現する。
私のようにブログでデザインについて考察しているDaveというユーザーの手になるこのアイデアは、(やや強力すぎるきらいがあるものの)先述のリミテッドにおける問題をうまく回避しつつ《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》とのシナジーを失わないようによく計算されたデザインになっている。
このテキストでは、からくりは組み立てられていない状態で戦場に登場し、クリーチャーによる2回の労働を経て完成する。組み立てること自体は装具工でなくとも可能だが、《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》が隣にいれば驚異的なスピードで周囲のアーティファクトを組み立てることができるだろう。
Daveが意識していたかどうかはわからないが、このカードはローウィン・ブロックの《棘噛みの杖/Thornbite Staff》をはじめとした部族装備品のサイクルに似ている。単体でも有用であると同時に特定の部族との組み合わせで劇的な効果を発揮するようなデザインにすることで、アーキタイプのキーカードが完全な専用カードになるのを防ぐことができる。
ところで、怪物化や高名など、パーマネントを(マーカー以上の意味を持たない)特定の状態にするキーワードは近年のマジックのデザインにしばしば登場するようになってきた。アーティファクトの複雑さを上げるという解釈のデザインはそれをからくりに応用したものだが、個人的にはやや歯切れが悪く感じられる。少なくとも怪物化は、怪物的という状態にすると同時に+1/+1カウンターを置くことで実際にクリーチャーを「怪物化」する。しかし、「からくり」は本当に特定の状態として表現可能だろうか?
これには異論もあるかもしれないが、からくりが組み立てられたことを表すのなら実際にゲームの中でも組み立ててみせればいいのであって、ルール用語でそれを表すのはナンセンスだと私は思う。仮にあるアーティファクトがルール上組み立てられた状態になっていたとしても、ユーザーが組み立てられたと感じないのだとしたら本末転倒だろう。
※6……https://flavoracle.tumblr.com/post/116362186937/do-you-guys-have-some-kind-of-internal-prize-at
デザインの楽しみ、楽しみのデザイン
初回のポストの末尾に記した通り、この文章の目的はからくりがどんなメカニズムなのかを予想することだった。カラデシュのプレビューが始まる前に、過去のメルヴィンたちのアイデアに加えて私の妄想をここに書き留めておこうと思う。
意外に思われるかもしれないが、このデザインは先述のManiteのアイデアに触発されたものだ。当初案ではこれは《Apprentice Contraptionist》とほぼ同じライブラリーからからくりを出すゴブリンで、からくり側はスリヴァーと《水銀の精霊/Quicksilver Elemental》を足したような能力を持っていた。
スリヴァーはお互いの能力を共有するだけだが、このアイデアでは能力を共有したうえでコストを自在に組み合わせることができる。このカード単体ではカード・アドバンテージを失う効率の悪いルーターにすぎないが、後続のからくりの起動コスト次第では非常に強力なドローエンジンにもなりうるというわけだ。
コストを組み合わせるというアイデアはたいへん魅力的だったが、同時にそれには問題もあった。からくりをアーティファクトの部族としてデザインすると、部族外のアーティファクトとのつながりが断たれて発展性のないメカニズムになってしまうのだ。
私はミラディン・ブロックのころにマーク・ゴットリーブが書いた、「Welcome to the Machine」というコラム※7をよく覚えている。これはアーティファクトによる何通りもの無限コンボが搭載されたジョニー垂涎のデッキ集なのだが、いくつかのデッキでフィフス・ドーンの基地サイクルが部分的に採用されていることを子供心に不思議に思ったものだ。無限コンボが目的ならば、初めから(デザイナーがそう仕向けた)基地サイクルを4種類搭載すればよい。にもかかわらず、なぜプレイヤーは執拗に他のカードと組み合わせたがるのだろうか?
つまるところ、プレイヤーは自力でコンボを探すことに楽しみを見出すのであって、答えのわかっているパズルであるデザイナーズ・コンボは魅力に欠けるのだ。私は基地サイクルのデザインをたいへん美しいと思うが、むしろこれらのカードにとって重要なのは、デザイナーが美しくしつらえたカードが必ずしもプレイヤーに好まれるわけではないという皮肉な事実を明らかにしたことだろう。
すでにおわかりのように、基地サイクルの問題は同時にからくりの問題でもある。からくり同士の組み合わせを柔軟にすることと、素材化できるアーティファクトの範囲を広げることを天秤にかけた結果、私は後者を取ることにした。それにより起動コストを組み合わせる能力は失われてしまったが、未知のアーティファクトとの組み合わせの可能性がその楽しみを埋め合わせてくれると考えている。
※7……http://magic.wizards.com/en/articles/archive/feature/welcome-machine-2004-05-27(Welcome to the Machine)
フラクタル的デザイン
からくりをトークンとしてデザインする場合、問題となるのはそれが次第に複雑になっていく過程をどのように表現するかということだ。トークンに様々な能力を記述できれば簡単なのだが、キーワード処理の定義は簡潔に行わなければならず、トークンが持てる複雑さは限られている。
この問題の最も現実的な解決方法は、Bootsyによる《Funky Rigger》のようにトークンではなく装具工の側に能力を与えることだろう。バニラ・アーティファクトであるからくりが様々な装具工によって強化されるという関係性にすることで、1種類のトークンに複数の能力を持たせつつも簡潔なテキストを維持することができる。
一方で、全く異なる考え方も存在する。それは、複雑さをカードテキストの中に記述するのではなく、トークン同士の関係性の中で自然発生させるというものだ。突飛な発想に思われるかもしれないが、単純でありながら繰り返すごとに全く異なった結果が生じるような特殊なキーワード処理があれば《Funky Rigger》とは別な観点からこの問題を解決できることになる。
このような、1つの単純な規則(「からくりを組み立てる」)から多様な要素を引き出すという発想は、幾何学で言うフラクタル図形に近いものがあるかもしれない。私は専門家ではないのであくまでイメージの問題だが、ある単純なルールに基づいてコッホ雪片が正三角形から六芒星、無限の周長を持つ図形へと変化していく様子はこのアイデアの性質によく似ている。
こうした考えはもはや思考実験に近く、からくりの予想という当初の目的から外れてしまっているのも事実だが、そこに目をつぶれば新たなデザイン空間を開く有意義な試みになることは間違いない。
このアイデアではからくりはクリーチャーであり(《ドライアドの東屋/Dryad Arbor》のように土地タイプとクリーチャー・タイプを持つクリーチャーも存在しているため、可能性はゼロではない)、戦場のからくりの数に応じて0/4、1/3、2/2、3/1と姿を変える。5体目のからくりが戦場に出るとそれらはすべて死亡してしまうものの、装具工が持つ能力によって小さい《黄鉄の呪文爆弾/Pyrite Spellbomb》に変化する。
クリーチャーほど簡単ではないが、クリーチャーでないアーティファクトによっても数に応じて機能が変化するからくりをデザインすることができる。その場合に肝心なのは数字を変えただけで機能が変化するような効果を見つけることで、ルーター効果はその代表例だといえる。このアイデアの場合、からくり1つでは手札が減る一方だが、3つ以上になるとカード・アドバンテージを得られるようになる。
おそらく問題があるとすればこの能力がカラー・パイに合っていないことだろう。前回のポストで私はからくりがカラデシュに入るのならば黒赤か赤緑か黒赤緑のアーキタイプになると予想したが、《蒸気打ちの発明家》はどちらかといえば青赤のデザインに見える。
幸いなことにこのからくりのフォーマットはたいへん優れており、「引く」と「捨てる」以外にも対になる効果を探すことで、すぐにでもカラー・パイに適したデザインを手に入れることができるだろう。
答えは作られる
いつの間にかエターナルマスターズのプレビューウィークも終わってしまったが、おそらく来週からは続く異界月、およびコンスピラシーの情報が少しずつ解禁されていくことだろう。そして、さらにその後ろにはカラデシュが控えている。
実を言えば、今回のポストでは《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》に書かれていながら全くといっていいほどデザインに取り込めなかった要素がある。「他の装具工クリーチャーは、+1/+0の修整を受けるとともに速攻を持つ。」という1文がそれであり、私も他のメルヴィンも、このテキストが示唆すること、つまり装具工はシステムクリーチャーではなく戦闘要員なのではないかという可能性にはほとんど目をつぶってきた。
もとを正せば《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》は事実上のジョークカードなのであって、架空のメカニズムのロードにすぎない。それゆえ、こうして架空のメカニズムであるからくりを予想し、明らかになっている諸条件をすべて満たしたと思っても、想定外のところで破綻してしまうのはある意味で必然的なことなのかもしれない。
思うに、からくりのメカニズムを考えるメルヴィンたちの姿は、どこか暗黒物質の正体をつかもうとする科学者に近いものがある。誰もそれを見たことはないが、存在を示す周辺情報だけがあり、それをもとに実在を信じて推論し、そして同時に疑ってもいる。
両者に違いがあるとすれば、暗黒物質の答えは揺るぎなく、今も人類の発見を待っているのに対し、からくりの答えは(少なくとも未来予知の時点では)存在せず、後から人為的に作り出されるということだろう。答えがあるということ自体がフィクションである《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》のメカニズムの答えを、マローがどれほどの本物らしさで「捏造」することができるのか、マジックのユーザーの1人として素直に期待しようと思う。
もちろん、カラデシュにからくりが登場するとは限らないのだが。
多くのユーザーがそうしているように、ここまで《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》に示唆されたメカニズムを便宜上「からくり」と呼んできたが、より本質的なのはおそらく「組み立てる」の方だろう。もとより「組み立てる」はルール上重要なキーワード処理であるだけでなく、その曖昧さによって多様に解釈されてきた。私の見立てでは、約10年にわたってメルヴィンたちが生み出してきた無数のからくりのアイデアも、この語の理解の仕方によって3通りに分類することができる。
1つ目の解釈は、パーツを組み立てるというものだ。MTG Salvationに2007年に投稿されたBootsyというユーザーのアイデアがこの解釈の典型的な例だろう。
Funky Rigger (2)(赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
(赤),(T):組み立てる。(アーティファクト・からくり・トークンを1つ戦場に出す。)
すべてのからくりは「このアーティファクトを生け贄に捧げる:クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。このアーティファクトはそれに1点のダメージを与える。」を持つ。
1/1
※1
この解釈の特徴は、からくりという語が持つ複雑で不可解な機械というイメージを、単純なパーツ同士の組み合わせで表現していることだ。結果として個々のカードはきわめて簡潔になり、真の完成はプレイヤーの創造性に任される。こうしたデザインの偉大な先例はスリヴァーで、《Funky Rigger》がそれをもとにしていることは言うまでもない。
Apprentice Contraptionist (1)(赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
(2)(赤),(T):組み立て1(あなたのライブラリーの一番上から、からくり・カードが公開されるまでカードを公開し、そのカードを戦場に出す。その後あなたのライブラリーを切り直す。)
1/1
※2
Whatevermobile
アーティファクト — からくり
(2),(T):あなたがコントロールする装具工を最大2体対象とし、それらをアンタップする。ターン終了時まで、それらは飛行を得る。
あなたがコントロールするアンタップ状態のクリーチャー3体をタップする:Whatevermobileをアンタップする。
※3
大多数のユーザーはからくりをアーティファクト・トークンだと予想しているが、アーティファクト・カードを使ったアイデアも存在する。MTG CardsmithのAngry_Potatoesというユーザーは、《進化の飛躍/Evolutionary Leap》に近いテキストを用いてライブラリーの中のアーティファクト・カードに装具工がアクセスできるようにした。
このデザインには問題もあるものの(装具工が流れてくると信じてマナ・コストのないからくりをピックする気分はどんなものだろうか?)、からくりをカードとして処理することによってテキスト量に余裕を持たせることができるという大きなメリットがある。もしもからくりがリミテッドのアーキタイプになるのなら、セットにはコモンからレアまで十数枚の装具工がいるはずであり、判読性やプレイアビリティを考慮すると分割表記にすることは賢い選択だといえる。
※1……http://www.mtgsalvation.com/forums/creativity/custom-card-creation/349307-contraptions-and-riggers#c17
※2……https://mtgcardsmith.com/view/apprentice-contraptionist?list=user
※3……https://mtgcardsmith.com/view/whatevermobile?list=user
集合体を組み立てる
「組み立てる」の2つ目の解釈は、集合体を組み立てるというものだ。これはいくつかの単純なアーティファクトを材料に複雑なアーティファクトを組み上げる過程をデザイン的に表現したもので、この場合のからくりは単体で強力なものとして理解されていることが多い。
Steamflogger Trainee (赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
(2)(赤),(T):からくりを組み立てる。(からくりを組み立てるために、このクリーチャーのコントローラーは2つのモジュール(Modules)を生け贄に捧げてもよい。そうしたなら、そのプレイヤーは無色のからくり・アーティファクト・トークンを1つ戦場に出す。)
1/1
※4
Galvanized Steel (1)
アーティファクト — モジュール(Modules)
Galvanized Steelがからくりを組み立てるために生け贄に捧げられたとき、そのからくりは破壊不能を得る。
※4
Assembly Line (2)
アーティファクト — モジュール(Modules)
Assembly Lineがからくりを組み立てるために生け贄に捧げられたとき、そのからくりは「あなたのアップキープの開始時に、無色の1/1の構築物・アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。」を得る。
※4
2010年にdb8r_boiというユーザーによってMTG Salvationに投稿されたこれらのアイデアでは、装具工とからくりの間にモジュールという新たなアーティファクト・タイプを差し込むことで多様な組み合わせのからくりを生み出すことを可能にしている。モジュールのテキストは正常に機能するのか若干怪しいが、《発生器の召使い/Generator Servant》のような能力だと考えれば多少の修正で済むだろう。
集合体を組み立てるという解釈では、からくりの素材がデザインの焦点になる。db8r_boiのようにアーティファクトを素材としてからくりに作り変えるアイデアの他、墓地のアーティファクト・カードを素材にするもの、アーティファクト上のカウンターを素材とするものなどあらゆる可能性が試されてきた。中でも私が興味深いと思ったのは(正確な表現ではないかもしれないが)コストと効果を素材として、それらを組み立てるというアイデアだ。
Steamflogger Lackey (赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
(T):からくりを組み立てる。(からくりを組み立てるには、入力・部品(Input Part)1つと出力・部品(Output Part)1つを連結(join)する。)
1/1
※5
Lever Switch (1)
アーティファクト — 入力・部品(Input Part)
(この部品は出力・部品(Output Part)1つとしか連結(join)できない。)
(T):…
※5
Trap Door (3)
アーティファクト — 出力・部品(Output Part)
(この部品は入力・部品(Input Part)1つとしか連結(join)できない。)
…飛行を持たないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。
※5
奇抜なテキストが目を引くManiteというユーザーのこれらのアイデアは、プレイヤーをゲーム内でマジックのデザイナーにするものだといえるだろう。入力・部品(Input Part)と名づけられたアーティファクトには能力の起動コスト、もしくは誘発条件だけが書いてあり、装具工の力で出力・部品(Output Part)と組み合わされることによって1つの能力として機能し始める。おそらくこのメカニズムを実装するためには総合ルールへの大幅な加筆が必要になると思われるが、非常に直感的であるため混乱を生むことは少ないはずだ。
db8r_boiとManiteのアイデアの欠点は、これらが典型的なA/Bメカニズムだということだ(考えようによってはA/B/C)。そのうえ単体ではほとんど仕事をしないカードがシナジーの両翼を担っているため、恐ろしいほどにリミテッドでのプレイに不向きだといえる。この問題の根本的な解決策は、端的にこれらのカードが他のアーキタイプでも使用可能になるように追加の能力を与えることだろう。いっそのことアーティファクト・クリーチャーにしてしまうのも有効な方法だ。
完全に余談だが、やがて発売されるカラデシュのデザインでもこうした問題は少なからず重要になると思われる。いわゆる置物系アーティファクトがアーキタイプのキーカードになる場合、アーキタイプに依存しすぎると単体であまりにも弱く、有用すぎる能力をつけるとリミテッドのバランスを崩し、かといって中庸な能力では全く使われないというジレンマを抱えることになる。R&Dは2回のミラディン・ブロックでよく似た事態に直面してきたが、カラデシュ・ブロックではどのように対処するのかデザイン的な観点での興味が尽きない。
※4……http://www.mtgsalvation.com/forums/creativity/custom-card-creation/631366-riggers-and-contraptions#c1
※5……http://www.mtgsalvation.com/forums/creativity/custom-card-creation/699649-lets-assemble-some-contraptions-input-and-output#c1
複雑さを上げる
ユーザーによる「組み立てる」の解釈の3つ目は、戦場にあるアーティファクトの複雑さを上げるという解釈だ。これはメカニズム的に怪物化やLvアップに近く、アーティファクトが戦場で加工を施されたことをカウンターなどを用いて間接的に表現する。
Lobber Arm (2)
アーティファクト — からくり
組み立て2(あなたがコントロールするクリーチャー1体をタップして、このからくりの上に組み立てカウンターを1個置いてもよい。あなたは組み立てカウンターを2個取り除いて、あなたがコントロールするアーティファクト1つを対象とし、それを組み立ててもよい。組み立てはソーサリーとしてのみ行う。)
組み立てられたアーティファクトは「(T):クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。このアーティファクトはそれに2点のダメージを与える。」を持つ。
※6
私のようにブログでデザインについて考察しているDaveというユーザーの手になるこのアイデアは、(やや強力すぎるきらいがあるものの)先述のリミテッドにおける問題をうまく回避しつつ《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》とのシナジーを失わないようによく計算されたデザインになっている。
このテキストでは、からくりは組み立てられていない状態で戦場に登場し、クリーチャーによる2回の労働を経て完成する。組み立てること自体は装具工でなくとも可能だが、《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》が隣にいれば驚異的なスピードで周囲のアーティファクトを組み立てることができるだろう。
Daveが意識していたかどうかはわからないが、このカードはローウィン・ブロックの《棘噛みの杖/Thornbite Staff》をはじめとした部族装備品のサイクルに似ている。単体でも有用であると同時に特定の部族との組み合わせで劇的な効果を発揮するようなデザインにすることで、アーキタイプのキーカードが完全な専用カードになるのを防ぐことができる。
ところで、怪物化や高名など、パーマネントを(マーカー以上の意味を持たない)特定の状態にするキーワードは近年のマジックのデザインにしばしば登場するようになってきた。アーティファクトの複雑さを上げるという解釈のデザインはそれをからくりに応用したものだが、個人的にはやや歯切れが悪く感じられる。少なくとも怪物化は、怪物的という状態にすると同時に+1/+1カウンターを置くことで実際にクリーチャーを「怪物化」する。しかし、「からくり」は本当に特定の状態として表現可能だろうか?
これには異論もあるかもしれないが、からくりが組み立てられたことを表すのなら実際にゲームの中でも組み立ててみせればいいのであって、ルール用語でそれを表すのはナンセンスだと私は思う。仮にあるアーティファクトがルール上組み立てられた状態になっていたとしても、ユーザーが組み立てられたと感じないのだとしたら本末転倒だろう。
※6……https://flavoracle.tumblr.com/post/116362186937/do-you-guys-have-some-kind-of-internal-prize-at
デザインの楽しみ、楽しみのデザイン
初回のポストの末尾に記した通り、この文章の目的はからくりがどんなメカニズムなのかを予想することだった。カラデシュのプレビューが始まる前に、過去のメルヴィンたちのアイデアに加えて私の妄想をここに書き留めておこうと思う。
ゴブリンの装具工 (1)(赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
(1),(T):からくりを組み立てる。(あなたはあなたがコントロールするアーティファクトを1つ選び、その上にからくりカウンターを1個置く。それは他のタイプに加えてからくりになるとともに、「このアーティファクトはあなたがコントロールする他のからくりが持つ、マナ能力でないすべての起動型能力を持つ。」を持つ。)
2/1
意外に思われるかもしれないが、このデザインは先述のManiteのアイデアに触発されたものだ。当初案ではこれは《Apprentice Contraptionist》とほぼ同じライブラリーからからくりを出すゴブリンで、からくり側はスリヴァーと《水銀の精霊/Quicksilver Elemental》を足したような能力を持っていた。
[カード名] (5)
アーティファクト — からくり
(2),カードを2枚捨てる:カードを1枚引く。
[カード名]はあなたがコントロールする他のからくりが持つすべての起動型能力を持つ。
あなたはからくりの能力の起動コストを支払うのではなく、(2)を支払うとともにカードを2枚捨ててもよい。
スリヴァーはお互いの能力を共有するだけだが、このアイデアでは能力を共有したうえでコストを自在に組み合わせることができる。このカード単体ではカード・アドバンテージを失う効率の悪いルーターにすぎないが、後続のからくりの起動コスト次第では非常に強力なドローエンジンにもなりうるというわけだ。
コストを組み合わせるというアイデアはたいへん魅力的だったが、同時にそれには問題もあった。からくりをアーティファクトの部族としてデザインすると、部族外のアーティファクトとのつながりが断たれて発展性のないメカニズムになってしまうのだ。
私はミラディン・ブロックのころにマーク・ゴットリーブが書いた、「Welcome to the Machine」というコラム※7をよく覚えている。これはアーティファクトによる何通りもの無限コンボが搭載されたジョニー垂涎のデッキ集なのだが、いくつかのデッキでフィフス・ドーンの基地サイクルが部分的に採用されていることを子供心に不思議に思ったものだ。無限コンボが目的ならば、初めから(デザイナーがそう仕向けた)基地サイクルを4種類搭載すればよい。にもかかわらず、なぜプレイヤーは執拗に他のカードと組み合わせたがるのだろうか?
つまるところ、プレイヤーは自力でコンボを探すことに楽しみを見出すのであって、答えのわかっているパズルであるデザイナーズ・コンボは魅力に欠けるのだ。私は基地サイクルのデザインをたいへん美しいと思うが、むしろこれらのカードにとって重要なのは、デザイナーが美しくしつらえたカードが必ずしもプレイヤーに好まれるわけではないという皮肉な事実を明らかにしたことだろう。
すでにおわかりのように、基地サイクルの問題は同時にからくりの問題でもある。からくり同士の組み合わせを柔軟にすることと、素材化できるアーティファクトの範囲を広げることを天秤にかけた結果、私は後者を取ることにした。それにより起動コストを組み合わせる能力は失われてしまったが、未知のアーティファクトとの組み合わせの可能性がその楽しみを埋め合わせてくれると考えている。
※7……http://magic.wizards.com/en/articles/archive/feature/welcome-machine-2004-05-27(Welcome to the Machine)
フラクタル的デザイン
からくりをトークンとしてデザインする場合、問題となるのはそれが次第に複雑になっていく過程をどのように表現するかということだ。トークンに様々な能力を記述できれば簡単なのだが、キーワード処理の定義は簡潔に行わなければならず、トークンが持てる複雑さは限られている。
この問題の最も現実的な解決方法は、Bootsyによる《Funky Rigger》のようにトークンではなく装具工の側に能力を与えることだろう。バニラ・アーティファクトであるからくりが様々な装具工によって強化されるという関係性にすることで、1種類のトークンに複数の能力を持たせつつも簡潔なテキストを維持することができる。
一方で、全く異なる考え方も存在する。それは、複雑さをカードテキストの中に記述するのではなく、トークン同士の関係性の中で自然発生させるというものだ。突飛な発想に思われるかもしれないが、単純でありながら繰り返すごとに全く異なった結果が生じるような特殊なキーワード処理があれば《Funky Rigger》とは別な観点からこの問題を解決できることになる。
このような、1つの単純な規則(「からくりを組み立てる」)から多様な要素を引き出すという発想は、幾何学で言うフラクタル図形に近いものがあるかもしれない。私は専門家ではないのであくまでイメージの問題だが、ある単純なルールに基づいてコッホ雪片が正三角形から六芒星、無限の周長を持つ図形へと変化していく様子はこのアイデアの性質によく似ている。
こうした考えはもはや思考実験に近く、からくりの予想という当初の目的から外れてしまっているのも事実だが、そこに目をつぶれば新たなデザイン空間を開く有意義な試みになることは間違いない。
火花職人 (3)(赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
火花職人が戦場に出たとき、からくりを組み立てる。(無色の0/4のからくり・アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。それは「このクリーチャーは、あなたがコントロールする他のからくり1体につき+1/-1の修整を受ける。」を持つ。)
からくりが1つ戦場からあなたの墓地に置かれるたび、クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。火花職人はそれに1点のダメージを与える。
1/4
このアイデアではからくりはクリーチャーであり(《ドライアドの東屋/Dryad Arbor》のように土地タイプとクリーチャー・タイプを持つクリーチャーも存在しているため、可能性はゼロではない)、戦場のからくりの数に応じて0/4、1/3、2/2、3/1と姿を変える。5体目のからくりが戦場に出るとそれらはすべて死亡してしまうものの、装具工が持つ能力によって小さい《黄鉄の呪文爆弾/Pyrite Spellbomb》に変化する。
蒸気打ちの発明家 (2)(赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
(2)(赤),蒸気打ちの発明家を生け贄に捧げる:からくりを組み立てる。(無色のからくり・アーティファクト・トークンを1つ戦場に出す。それは「あなたがコントロールするアンタップ状態のからくりをX個タップする:カードをX枚引き、その後カードを2枚捨てる。」を持つ。)
2/2
クリーチャーほど簡単ではないが、クリーチャーでないアーティファクトによっても数に応じて機能が変化するからくりをデザインすることができる。その場合に肝心なのは数字を変えただけで機能が変化するような効果を見つけることで、ルーター効果はその代表例だといえる。このアイデアの場合、からくり1つでは手札が減る一方だが、3つ以上になるとカード・アドバンテージを得られるようになる。
おそらく問題があるとすればこの能力がカラー・パイに合っていないことだろう。前回のポストで私はからくりがカラデシュに入るのならば黒赤か赤緑か黒赤緑のアーキタイプになると予想したが、《蒸気打ちの発明家》はどちらかといえば青赤のデザインに見える。
幸いなことにこのからくりのフォーマットはたいへん優れており、「引く」と「捨てる」以外にも対になる効果を探すことで、すぐにでもカラー・パイに適したデザインを手に入れることができるだろう。
からくりを組み立てる。(無色のからくり・アーティファクト・トークンを1つ戦場に出す。それは「あなたがコントロールするアンタップ状態のからくりをX個タップする:クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+2/+2の修整を受けるとともに-X/-Xの修整を受ける。」を持つ。)
答えは作られる
いつの間にかエターナルマスターズのプレビューウィークも終わってしまったが、おそらく来週からは続く異界月、およびコンスピラシーの情報が少しずつ解禁されていくことだろう。そして、さらにその後ろにはカラデシュが控えている。
実を言えば、今回のポストでは《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》に書かれていながら全くといっていいほどデザインに取り込めなかった要素がある。「他の装具工クリーチャーは、+1/+0の修整を受けるとともに速攻を持つ。」という1文がそれであり、私も他のメルヴィンも、このテキストが示唆すること、つまり装具工はシステムクリーチャーではなく戦闘要員なのではないかという可能性にはほとんど目をつぶってきた。
もとを正せば《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》は事実上のジョークカードなのであって、架空のメカニズムのロードにすぎない。それゆえ、こうして架空のメカニズムであるからくりを予想し、明らかになっている諸条件をすべて満たしたと思っても、想定外のところで破綻してしまうのはある意味で必然的なことなのかもしれない。
思うに、からくりのメカニズムを考えるメルヴィンたちの姿は、どこか暗黒物質の正体をつかもうとする科学者に近いものがある。誰もそれを見たことはないが、存在を示す周辺情報だけがあり、それをもとに実在を信じて推論し、そして同時に疑ってもいる。
両者に違いがあるとすれば、暗黒物質の答えは揺るぎなく、今も人類の発見を待っているのに対し、からくりの答えは(少なくとも未来予知の時点では)存在せず、後から人為的に作り出されるということだろう。答えがあるということ自体がフィクションである《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》のメカニズムの答えを、マローがどれほどの本物らしさで「捏造」することができるのか、マジックのユーザーの1人として素直に期待しようと思う。
もちろん、カラデシュにからくりが登場するとは限らないのだが。
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