さて、ロボローズウォーターの無秩序なテキストを見て私が思い出すのは、シュルレアリスムの詩人や画家が行ったという様々な実験です。複数の人間でひとつの文章を書く、夢を使って創作する、偶然性を利用するなどの方法はニューラルネットワークとはかけ離れていますが、そうしてできた奇妙な文章が人間にもたらすものはよく似ています。
端的に言えば、それは先入観や規範意識がないことに由来する自由な発想です。たとえばロボローズウォーターはいとも簡単にカラー・パイを無視しますが、そのようなことは常識的な人間には困難なことです。前回のポストの翻訳文にあったコウモリ・ウィザードというクリーチャー・タイプひとつとっても、これまでマジックに存在しうると考えた人はいないでしょう。
そしてこれは、全く反対に人間の先入観を可視化することにもつながります。コウモリ・ウィザードの発見は、同時に無意識下でコウモリ・ウィザードがいないと考えていた自分自身の発見でもあるのです。つまり、ロボローズウォーターは新たなデザインを生み出す機械であるだけでなく、人間がデザイン的問題だと思ってすらいなかった無数のメカニズムやフレイバーを掘り返す機械でもあるということです。
ですから前回のポストで述べたように、私はロボローズウォーターをよくできたデザイナーAIとして評価しているのではなく、このAIが「ほどよい頭の悪さ」を持っていることを評価しています。作者の方には申し訳ないですが、ロボローズウォーターが学習を進めて「人間のような」デザイナーになってしまったなら、おそらく私が面白いと思っているものは消えてしまうでしょう。
ロボローズウォーターがデザインしたカードにこのようなものがあります。
このカードは細かい点——スリヴァーの現在のテンプレートに沿っていませんし、一般的なスリス能力とも微妙に違います——を除けば完璧なデザインです。まるでこのAIは、スリヴァーがどういう能力を持つべきか、何がまだカード化されてないか、適切なマナレシオはどのくらいかなどについてきちんと理解していたかのようです。カラー・パイが赤でないことに関しても、黒に多い吸血能力の亜種だと考えれば、あるいはイニストラードの吸血鬼に関連していると思えば及第点を与えられるでしょう。
しかし、よくできたデザインであるということは、別な意味では誰かが作りそうなカードだということでもあります。ニューラルネットワークが私を含む有象無象のメルヴィンたちと同じ存在になってしまったなら、AI研究の成果としては大成功かもしれませんが、ロボローズウォーターは特異なデザイナーではなくなってしまいます。
もはや好みの問題にすぎないのかもしれませんが、私がカードデザインを行うAIに期待しているものは《Sulvital Sliver》とは少し違います。そこで、直近二ヶ月間の投稿を遡って私が感銘を受けたカードをいくつか挙げてみることにします。
テンプレート的な問題を差し置いても、このカードは現行のルールではうまく動きません(戦場でパワーとタフネスを持つことができるのはクリーチャーだけです)。ですが、《Vorteach》は「土地をクリーチャー化する」という何の変哲もない能力が、実は二つの能力からできていることを無言で示しています。
《動く土地/Animate Land》を例に出すまでもなく、この手のカードは種類別で言うところのカード・タイプ変更効果とパワー・タフネス変更効果を持っています。つまりパーマネントをクリーチャーにする効果と、そのパワーとタフネスを決定する効果のことですが、ルール上不正なパーマネントが生まれるのを防ぐため、パーマネントをクリーチャー化するカードには必ずこの二つが併記されています。
では《Vorteach》をデザインして不正なパーマネントを生み出そうとしたロボローズウォーターの行為は、いったい何を意味するのでしょうか? AIに意図と呼べるものがあるとは思えませんが、あえて人間流に言い表すならば「土地をクリーチャー化する」と「何もしない」の中間の行為を行ったのだといえます。おそらくこれをちょうどよく表す言葉は人間の言語には存在しないでしょう。なぜならこれはAIにしか成しえない発想だからです。
このカードもまた実質的に機能しない能力を持っています。しかしそれは墓地からクリーチャー呪文として唱えられた後に手札でクリーチャー・カードに戻ってしまうという点だけで、このBlackというキーワード能力自体は有効な能力です。
マジックの歴史上、呪文を「唱え始める」地点を変更するカードは何種類も存在します。フラッシュバックをはじめ、待機、続唱、さらには《氷河跨ぎのワーム/Panglacial Wurm》のような変わり種まで数えきれないほどのバリエーションが作られています。しかし、私の知る限り「唱え終わる」地点を変更するカードはなかったように思います。
ロボローズウォーターは《Aacotelb Mright》をデザインすることで私たちにその事実を教えてくれました。実際、呪文が解決された後に置かれる領域については総合ルールで個別にサポートされているため、マジックの黄金律のひとつ「カードはルールに勝つ」によって変更することができるはずです。フラッシュバックとバイバックが組み合わさったようなこのキーワード能力は強力すぎるため印刷には向きませんが、「唱え終わる」地点を変更するメカニズムの試金石としては十分でしょう。
これは一見《Sulvital Sliver》のようなウェルメイドなカードに見えることでしょう。様々な理由でルール上起動することができない上の能力はさておき(もはや間違い探しのようです)、下の能力の独創性は素晴らしいものです。よくある毎ターン一度ずつのパンプアップ能力に似ていますが、テキストの最後のアンタップ能力によって、自身を対象に取った場合に限り緑マナの数だけ起動できる火吹き能力に姿を変えます。
カードデザインは(総合ルールやカラー・パイを変更できない一般のプレイヤーの場合は特に)既存のマジックのカードにある秩序の範囲内でいかにして今までにないことをするか、というジレンマを常に抱えています。そういう意味では、《Noxlo Greater》は非常によくやったといえるでしょう。タップ能力、パンプ能力、アンタップ能力というマジック黎明期からあるごく基本的な材料を使って、全く見覚えのないカードを作り上げたのですから。
このカードを見た後には、その革新的なデザインに驚くというよりはむしろ、なぜこれほど単純なデザインを今まで思いつかなかったのだろうかと不思議に思ってしまいます。結局のところ、その発想を妨げていたのは先入観であり、私たちはAIであるロボローズウォーターのデザインを目にすることで初めて自らアンタップするタップ能力というデザインスペースに気づくことができたのです。
ロボローズウォーターが今後どのようなカードをデザインするようになるのか、私には見当もつきません。しかし私には現状のAIの杜撰さが、人間が見過ごしていたデザイン的資源を再発見する手助けとなるように思えます。
将来、人間のようにカードをデザインするAIが生まれるとして、それもまた私のようにロボローズウォーターの破天荒なデザインに憧れるのかもしれません。あるいは、それすら気にならないほどの広大なデザイン空間を発見しているのでしょうか。
端的に言えば、それは先入観や規範意識がないことに由来する自由な発想です。たとえばロボローズウォーターはいとも簡単にカラー・パイを無視しますが、そのようなことは常識的な人間には困難なことです。前回のポストの翻訳文にあったコウモリ・ウィザードというクリーチャー・タイプひとつとっても、これまでマジックに存在しうると考えた人はいないでしょう。
そしてこれは、全く反対に人間の先入観を可視化することにもつながります。コウモリ・ウィザードの発見は、同時に無意識下でコウモリ・ウィザードがいないと考えていた自分自身の発見でもあるのです。つまり、ロボローズウォーターは新たなデザインを生み出す機械であるだけでなく、人間がデザイン的問題だと思ってすらいなかった無数のメカニズムやフレイバーを掘り返す機械でもあるということです。
ですから前回のポストで述べたように、私はロボローズウォーターをよくできたデザイナーAIとして評価しているのではなく、このAIが「ほどよい頭の悪さ」を持っていることを評価しています。作者の方には申し訳ないですが、ロボローズウォーターが学習を進めて「人間のような」デザイナーになってしまったなら、おそらく私が面白いと思っているものは消えてしまうでしょう。
ロボローズウォーターがデザインしたカードにこのようなものがあります。
Sulvital Sliver (2)(黒)
クリーチャー — スリヴァー
すべてのスリヴァーは「このクリーチャーが対戦相手にダメージを与えるたび、それの上に+1/+1カウンターを1個置く。」を持つ。
2/2
このカードは細かい点——スリヴァーの現在のテンプレートに沿っていませんし、一般的なスリス能力とも微妙に違います——を除けば完璧なデザインです。まるでこのAIは、スリヴァーがどういう能力を持つべきか、何がまだカード化されてないか、適切なマナレシオはどのくらいかなどについてきちんと理解していたかのようです。カラー・パイが赤でないことに関しても、黒に多い吸血能力の亜種だと考えれば、あるいはイニストラードの吸血鬼に関連していると思えば及第点を与えられるでしょう。
しかし、よくできたデザインであるということは、別な意味では誰かが作りそうなカードだということでもあります。ニューラルネットワークが私を含む有象無象のメルヴィンたちと同じ存在になってしまったなら、AI研究の成果としては大成功かもしれませんが、ロボローズウォーターは特異なデザイナーではなくなってしまいます。
もはや好みの問題にすぎないのかもしれませんが、私がカードデザインを行うAIに期待しているものは《Sulvital Sliver》とは少し違います。そこで、直近二ヶ月間の投稿を遡って私が感銘を受けたカードをいくつか挙げてみることにします。
Vorteach (1)(白)
ソーサリー
青の6/5の山・カードを1枚、+1/+1カウンターが1個置かれた状態であなたの墓地から戦場に出す。
テンプレート的な問題を差し置いても、このカードは現行のルールではうまく動きません(戦場でパワーとタフネスを持つことができるのはクリーチャーだけです)。ですが、《Vorteach》は「土地をクリーチャー化する」という何の変哲もない能力が、実は二つの能力からできていることを無言で示しています。
《動く土地/Animate Land》を例に出すまでもなく、この手のカードは種類別で言うところのカード・タイプ変更効果とパワー・タフネス変更効果を持っています。つまりパーマネントをクリーチャーにする効果と、そのパワーとタフネスを決定する効果のことですが、ルール上不正なパーマネントが生まれるのを防ぐため、パーマネントをクリーチャー化するカードには必ずこの二つが併記されています。
では《Vorteach》をデザインして不正なパーマネントを生み出そうとしたロボローズウォーターの行為は、いったい何を意味するのでしょうか? AIに意図と呼べるものがあるとは思えませんが、あえて人間流に言い表すならば「土地をクリーチャー化する」と「何もしない」の中間の行為を行ったのだといえます。おそらくこれをちょうどよく表す言葉は人間の言語には存在しないでしょう。なぜならこれはAIにしか成しえない発想だからです。
Aacotelb Mright (3)(黒)
クリーチャー — アンタップ
Black(2)(黒)(あなたはあなたの墓地にあるこのカードをあなたの手札に唱えてもよい。)
5/5
このカードもまた実質的に機能しない能力を持っています。しかしそれは墓地からクリーチャー呪文として唱えられた後に手札でクリーチャー・カードに戻ってしまうという点だけで、このBlackというキーワード能力自体は有効な能力です。
マジックの歴史上、呪文を「唱え始める」地点を変更するカードは何種類も存在します。フラッシュバックをはじめ、待機、続唱、さらには《氷河跨ぎのワーム/Panglacial Wurm》のような変わり種まで数えきれないほどのバリエーションが作られています。しかし、私の知る限り「唱え終わる」地点を変更するカードはなかったように思います。
ロボローズウォーターは《Aacotelb Mright》をデザインすることで私たちにその事実を教えてくれました。実際、呪文が解決された後に置かれる領域については総合ルールで個別にサポートされているため、マジックの黄金律のひとつ「カードはルールに勝つ」によって変更することができるはずです。フラッシュバックとバイバックが組み合わさったようなこのキーワード能力は強力すぎるため印刷には向きませんが、「唱え終わる」地点を変更するメカニズムの試金石としては十分でしょう。
Noxlo Greater (青)(青)
クリーチャー — 人間・兵士
(1)(青):Noxlo Greaterはターン終了時まで+4/+4の修整を受ける。この能力は、それらのコントローラーのアンタップ・ステップの間にのみ起動できる。
(緑),(T):クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+2/+0の修整を受ける。そのクリーチャーをアンタップする。
2/2
これは一見《Sulvital Sliver》のようなウェルメイドなカードに見えることでしょう。様々な理由でルール上起動することができない上の能力はさておき(もはや間違い探しのようです)、下の能力の独創性は素晴らしいものです。よくある毎ターン一度ずつのパンプアップ能力に似ていますが、テキストの最後のアンタップ能力によって、自身を対象に取った場合に限り緑マナの数だけ起動できる火吹き能力に姿を変えます。
カードデザインは(総合ルールやカラー・パイを変更できない一般のプレイヤーの場合は特に)既存のマジックのカードにある秩序の範囲内でいかにして今までにないことをするか、というジレンマを常に抱えています。そういう意味では、《Noxlo Greater》は非常によくやったといえるでしょう。タップ能力、パンプ能力、アンタップ能力というマジック黎明期からあるごく基本的な材料を使って、全く見覚えのないカードを作り上げたのですから。
このカードを見た後には、その革新的なデザインに驚くというよりはむしろ、なぜこれほど単純なデザインを今まで思いつかなかったのだろうかと不思議に思ってしまいます。結局のところ、その発想を妨げていたのは先入観であり、私たちはAIであるロボローズウォーターのデザインを目にすることで初めて自らアンタップするタップ能力というデザインスペースに気づくことができたのです。
ロボローズウォーターが今後どのようなカードをデザインするようになるのか、私には見当もつきません。しかし私には現状のAIの杜撰さが、人間が見過ごしていたデザイン的資源を再発見する手助けとなるように思えます。
将来、人間のようにカードをデザインするAIが生まれるとして、それもまた私のようにロボローズウォーターの破天荒なデザインに憧れるのかもしれません。あるいは、それすら気にならないほどの広大なデザイン空間を発見しているのでしょうか。
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