脆弱性——リスクのある投資先
この追放領域の機能は、前回のポストで述べた暫定性の延長線上にある。多くの場合、こうした能力はまず何らかのリソースを賭け金として追放させ、一定期間を経て利子をつけて返す。デザイン上の大きな違いは、追放領域のカードの使用に対する制限となるのが時間の短さではなくてパーマネントと追放領域の脆弱性であるという点だろう。《飛翔艦ウェザーライト/Skyship Weatherlight》の場合、多くのリソースを得るためには多くのカードを追放する必要があるが、何らかの理由で戦場を離れると追放したカードは二度と戻らない。プレイヤーが損益分岐点について頭を悩ませるという意味で、この種のカードは投資によく似ている。
さて、追放領域の脆弱性を利用したデザインは少々難しい。なぜなら、対戦相手のライブラリーを賭け金として追放した場合にはデメリットとして機能せず、自分のライブラリーを賭け金として追放した場合にはデメリットにはなるものの昇華者とのシナジーを形成しないからだ。
結局のところ、このデザインでは両方のプレイヤーのライブラリーを追放することで脆弱性のデザインと昇華者とのシナジーの両立を図った。その副作用として、昇華者との相互作用が難しいと思われたはずの能力が一転して昇華者の効果を増大させるものに変化したことはたいへん興味深い。
参照性——記録や引用元
暫定性の項でも述べた通り、カードデザインで追放領域を扱うことの利点は、追放したカードと追放されたカードの間の結びつきを明瞭にできるということだ。すなわちそれは追放領域の情報を容易に参照可能だということであり、しばしば《魂の鋳造所/Soul Foundry》のような高い可変性のあるデザインに用いられる。
《映し身人形/Duplicant》は、それがアーティファクトであることを除けばきわめてBFZのエルドラージ的なカードだ。昇華者とのシナジーを期待するにはあまりにも重すぎるものの、メカニズム的にもフレイバー的にもほぼエルドラージ版《ネクラタル/Nekrataal》と言って問題ないだろう。このことからもわかるように、参照性を用いたデザインでは刻印をはじめとした過去の豊富なデザイン的遺産との対話が必要不可欠となる。エルドラージがそれらの単なる焼き直しにならないよう、デザイナーは参照性を用いたメカニズムの新たな切り口を探さなければならない。
これはマナ・コストの合計を参照し、それが奇数か偶数かによってサイズが変化する《氷の中の存在/Thing in the Ice》だ。おそらく対戦相手はパワーが0以下になるまでライブラリーを追放するため、多くの場合小さい《浮遊障壁/Hover Barrier》として戦場に出ることになるが、昇華者を用いて追放したカードの合計を奇数にすることで、失われた規格外のパワーを取り戻すことができる。
《虚空の選別者/Void Winnower》についてのマローのコメント※によると、初期のエルドラージのデザインでは奇数がテーマになっていたらしい。しかし、その生き残りである《虚空の選別者/Void Winnower》はメルヴィンたちを大いに熱狂させはしたものの、似たようなメカニズムのエルドラージのあまりの少なさからBFZのカードリストの中では若干浮いた存在でもあった。複雑さを考えると大量のバリエーションを作ることができる能力ではないが、サイクルを形成するカードがほんの数枚でもあれば、エルドラージのサブテーマとして奇数を印象づけられたかもしれない。
※……http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0015764/(戦乱のゼンディカード その2/Battle for Zendikards, Part 2)
補遺——分類不能なもの
ここまで、マジックの長い歴史に点在する無色と追放領域の間のデザインスペースを探ってきたが、当然ながらすべてを網羅できたわけではない。分類というのは本質的に恣意的な作業であり、明確に分けようとすればするほど多くを取りこぼすのは必然だ。そこでこのポストの締めくくりでは、それら分類しきれなかったものの中から際立って特徴的なカードを挙げ、それらをもとにした欠色カードを示して終わりたい。それでは、いつか昇華者の話をする機会があることを願って。
飛翔艦ウェザーライト/Skyship Weatherlight (4)
伝説のアーティファクト PLS, レア
飛翔艦ウェザーライトが戦場に出たとき、あなたのライブラリーから好きな数のアーティファクト・カードとクリーチャー・カードの組み合わせを探し、それらを追放する。その後あなたのライブラリーを切り直す。
(4),(T):飛翔艦ウェザーライトによって追放されたカードの中から、カードを1枚無作為に選ぶ。そのカードをオーナーの手札に加える。
瓶詰めの回廊/Bottled Cloister (4)
アーティファクト RAV, レア
各対戦相手のアップキープの開始時に、あなたの手札のカードをすべて裏向きで追放する。
あなたのアップキープの開始時に、瓶詰めの回廊によって追放された、あなたがオーナーであるすべてのカードをあなたの手札に戻し、その後カードを1枚引く。
この追放領域の機能は、前回のポストで述べた暫定性の延長線上にある。多くの場合、こうした能力はまず何らかのリソースを賭け金として追放させ、一定期間を経て利子をつけて返す。デザイン上の大きな違いは、追放領域のカードの使用に対する制限となるのが時間の短さではなくてパーマネントと追放領域の脆弱性であるという点だろう。《飛翔艦ウェザーライト/Skyship Weatherlight》の場合、多くのリソースを得るためには多くのカードを追放する必要があるが、何らかの理由で戦場を離れると追放したカードは二度と戻らない。プレイヤーが損益分岐点について頭を悩ませるという意味で、この種のカードは投資によく似ている。
さて、追放領域の脆弱性を利用したデザインは少々難しい。なぜなら、対戦相手のライブラリーを賭け金として追放した場合にはデメリットとして機能せず、自分のライブラリーを賭け金として追放した場合にはデメリットにはなるものの昇華者とのシナジーを形成しないからだ。
[カード名] (2)(黒)
クリーチャー ― エルドラージ・ドローン
欠色
[カード名]が戦場に出たとき、対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは自分のライブラリーの一番上のカードを追放する。あなたはあなたのライブラリーから無色のカードを1枚探してもよい。そうしたなら、それを追放し、その後あなたのライブラリーを切り直す。
[カード名]によって追放された対戦相手がオーナーであるカードが追放領域を離れたとき、あなたは[カード名]によって追放されたあなたがオーナーであるカードをあなたの手札に加えてもよい。
3/1
結局のところ、このデザインでは両方のプレイヤーのライブラリーを追放することで脆弱性のデザインと昇華者とのシナジーの両立を図った。その副作用として、昇華者との相互作用が難しいと思われたはずの能力が一転して昇華者の効果を増大させるものに変化したことはたいへん興味深い。
参照性——記録や引用元
魂の鋳造所/Soul Foundry (4)
アーティファクト MRD, レア
刻印 ― 魂の鋳造所が戦場に出たとき、あなたの手札のクリーチャー・カード1枚を追放してもよい。
(X),(T):その追放されたカードのコピーであるトークンを1体戦場に出す。Xはそのカードの点数で見たマナ・コストである。
映し身人形/Duplicant (6)
アーティファクト・クリーチャー ― 多相の戦士 MRD, レア
刻印 ― 映し身人形が戦場に出たとき、トークンでないクリーチャー1体を対象とする。あなたはそれを追放してもよい。
映し身人形によって追放されているカードがクリーチャー・カードであるかぎり、映し身人形はそれによって最後に追放されたクリーチャー・カードのパワー、タフネス、クリーチャー・タイプを持つ。それは多相の戦士でもある。
2/4
最後の河童の甲羅/Shell of the Last Kappa (3)
伝説のアーティファクト CHK, レア
(3),(T):あなたを対象とするインスタント呪文1つかソーサリー呪文1つを対象とし、それを追放する。(その呪文は効果が無い。)
(3),(T),最後の河童の甲羅を生け贄に捧げる:あなたは、最後の河童の甲羅によって追放されたカード1枚を、そのマナ・コストを支払うことなく唱えてもよい。
暫定性の項でも述べた通り、カードデザインで追放領域を扱うことの利点は、追放したカードと追放されたカードの間の結びつきを明瞭にできるということだ。すなわちそれは追放領域の情報を容易に参照可能だということであり、しばしば《魂の鋳造所/Soul Foundry》のような高い可変性のあるデザインに用いられる。
《映し身人形/Duplicant》は、それがアーティファクトであることを除けばきわめてBFZのエルドラージ的なカードだ。昇華者とのシナジーを期待するにはあまりにも重すぎるものの、メカニズム的にもフレイバー的にもほぼエルドラージ版《ネクラタル/Nekrataal》と言って問題ないだろう。このことからもわかるように、参照性を用いたデザインでは刻印をはじめとした過去の豊富なデザイン的遺産との対話が必要不可欠となる。エルドラージがそれらの単なる焼き直しにならないよう、デザイナーは参照性を用いたメカニズムの新たな切り口を探さなければならない。
[カード名] (3)(青)
クリーチャー ― エルドラージ・ドローン
欠色
飛行
[カード名]が戦場に出たとき、対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは自分のライブラリーの一番上のカードを追放してもよい。その対戦相手は、この手順を望む回数だけ繰り返してもよい。
Xが偶数であるかぎり、[カード名]は-X/-0の修整を受ける。Xは[カード名]によって追放されたカードの点数で見たマナ・コストの合計である。(0は偶数である。)
5/5
これはマナ・コストの合計を参照し、それが奇数か偶数かによってサイズが変化する《氷の中の存在/Thing in the Ice》だ。おそらく対戦相手はパワーが0以下になるまでライブラリーを追放するため、多くの場合小さい《浮遊障壁/Hover Barrier》として戦場に出ることになるが、昇華者を用いて追放したカードの合計を奇数にすることで、失われた規格外のパワーを取り戻すことができる。
《虚空の選別者/Void Winnower》についてのマローのコメント※によると、初期のエルドラージのデザインでは奇数がテーマになっていたらしい。しかし、その生き残りである《虚空の選別者/Void Winnower》はメルヴィンたちを大いに熱狂させはしたものの、似たようなメカニズムのエルドラージのあまりの少なさからBFZのカードリストの中では若干浮いた存在でもあった。複雑さを考えると大量のバリエーションを作ることができる能力ではないが、サイクルを形成するカードがほんの数枚でもあれば、エルドラージのサブテーマとして奇数を印象づけられたかもしれない。
※……http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0015764/(戦乱のゼンディカード その2/Battle for Zendikards, Part 2)
補遺——分類不能なもの
ここまで、マジックの長い歴史に点在する無色と追放領域の間のデザインスペースを探ってきたが、当然ながらすべてを網羅できたわけではない。分類というのは本質的に恣意的な作業であり、明確に分けようとすればするほど多くを取りこぼすのは必然だ。そこでこのポストの締めくくりでは、それら分類しきれなかったものの中から際立って特徴的なカードを挙げ、それらをもとにした欠色カードを示して終わりたい。それでは、いつか昇華者の話をする機会があることを願って。
崩れゆく聖域/Crumbling Sanctuary (5)
アーティファクト MMQ, レア
プレイヤー1人にダメージが与えられる場合、代わりにそのプレイヤーは自分のライブラリーのカードを一番上から同じ枚数だけ追放する。
[カード名] (1)(白)
クリーチャー ― エルドラージ・ドローン
欠色
[カード名]を生け贄に捧げる:このターン、プレイヤー1人にダメージが与えられる場合、代わりにそのプレイヤーは自分のライブラリーのカードを一番上から同じ枚数だけ追放する。
2/2
無限の日時計/Sundial of the Infinite (2)
アーティファクト M12, レア
(1),(T):ターンを終了する。この能力は、あなたのターンの間にのみ起動できる。(スタック上のすべての呪文と能力を追放する。あなたの手札の枚数の最大値になるまで手札を捨てる。ダメージは取り除かれ、「このターン」と「ターン終了時まで」の効果は終了する。)
[カード名] (2)(青)
クリーチャー ― エルドラージ・ドローン
欠色
瞬速
[カード名]が戦場に出たとき、あなたのターンであるなら、ターンを終了する。(スタック上のすべての呪文と能力を追放する。あなたの手札の枚数の最大値になるまで手札を捨てる。ダメージは取り除かれ、「このターン」と「ターン終了時まで」の効果は終了する。)
2/2
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