はじめに
以前のポスト※で、私はカードセットとしての戦乱のゼンディカーのエルドラージのデザインについて、メカニズム的美しさが欠けていると評した。私の考えでは、R&Dは嚥下のような場当たり的なメカニズムを作るのではなく、無色と追放領域というテーマの可能性をもっと掘り下げるべきだったと思う。もちろんマジックの歴史において無色と追放領域の間に強い結びつきがあったとは言えないが、詳しく見ていくとそこにわずかながらデザイン空間が広がっていることがわかる。
したがってここではそれをいくつかの機能ごとに分類し、それぞれの空間でどのようなデザインが可能なのか検証していくことにしよう。必然的なこととして、途中に私の妄想にすぎないアイデアが出てくるが、苦手な方は読み飛ばしていただいて構わない。図々しく感じられるかもしれないが、思いついたことは吐き出さないと気が済まない性分なため大目に見ていただければ幸いだ。
※……http://casualmtg.diarynote.jp/201602271838453600/およびhttp://casualmtg.diarynote.jp/201603010330169840/
不可逆性——戻ってくることのない場所
追放領域の最も基本的な役割は、言うまでもなく最も再利用困難な領域だということだろう。基本セット2010での変更によって追放領域はゲームの外部から分断され、その傾向はいっそう強まることになった(もう《狡猾な願い/Cunning Wish》で使用済みの《狡猾な願い/Cunning Wish》を持ってくることはできない!)。追放領域のこの機能は、単体除去をはじめ、特定の領域のカードを使用不可能にする、リソースが繰り返し使われるのを防ぐといった様々な用途に使われている。
BFZにおいては、追放領域の不可逆性は《完全無視/Complete Disregard》や《虚空の接触/Touch of the Void》といったカードによって多数実装されている。強いて言えば、無意味な追放能力である嚥下をセットから取り除く代わりに、《屑山の人形/Heap Doll》のような、盤面に影響を与えないが無意味なわけでもない追放能力を持つカードを増やす必要があるだろう。仮にそうした場合、BFZのエルドラージたちは単純な攻撃性に加えて新たに緩い妨害能力を持つことになる。
もっとも、OGW発売前のモダン環境を思い返せば、黒単エルドラージには昇華者のための《大祖始の遺産/Relic of Progenitus》や《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》が大量に採用されていたのであり、妨害と強力なクロックの組み合わせはエルドラージのサブテーマとして現実に即したものなのではないかと思う。
暫定性——一時的保管場所
改めて考えると不思議なことだが、カードを永久に使えなくするという基本の性質とは反対に、カードを一時的に消滅させる効果にも追放領域が頻繁に用いられる。もちろん、この手の行為を追放領域を使わずに実装したカードもあるにはある(《森の知恵/Sylvan Library》や《死の国からの救出/Rescue from the Underworld》など)が、それらと比較しても追放領域の利便性は抜きん出ている。
そもそもあるカードが追放領域以外に移動した場合、それを再び元の領域に戻すためには同じ領域の他のカードと混ざらないように管理せねばならず、ゲームプレイ上の困難が伴う。《Tawnos’s Coffin》のような暫定除去を使用する際にプレイヤーはよく追放されたカードを下に重ねて管理するが、これも基本的に公開情報であり、置き場所が不定で、出入りが少ないという追放領域の特性ゆえに可能なことだ。
ところで、戦乱のゼンディカー・ブロックを通じて白い欠色カードは唯一《変位エルドラージ/Eldrazi Displacer》のみだったが、このカードのデザインもまた(追放領域のカードは増えないものの)追放領域の暫定的利用にあたる。いわゆる《忘却の輪/Oblivion Ring》能力を含めた明滅効果は白にも無色にも頻出するカードであり、私にはなぜR&Dが《停滞の罠/Stasis Snare》を欠色を持つエルドラージ側のカードとしてデザインしなかったのか不思議でならない。
無色のカードによる追放領域の暫定的利用のもうひとつの例は、《エルキンの壷/Elkin Bottle》能力だ。この能力は追放されたカードに有効期限を設定し、一時的にリソースとして活用できるようにするもので、一定期間を過ぎると使用不能になる。《エルキンの壷/Elkin Bottle》のようにプレイヤーに恩恵をもたらすデザインになることもあれば、ごくまれに《姥の仮面/Uba Mask》のように行動を制限する目的でデザインされることもある。
こうした追放領域を使って一時的にリソースを増やす能力は今日において赤のカラー・パイに割り当てられ、ほとんど毎ブロックで見かけるようになってきた。しかし幸いかBFZには存在していないため、この能力を嚥下の代わりの新たなカードの一群に加えることもできるだろう。ただしその場合、昇華者のために対戦相手のカードを追放するよう少々異なった処理にする必要がある。
あなたは対戦相手のライブラリーを追放し、それを好きな色の(もしくは無色の)マナでプレイすることができる。《メレティスのダクソス/Daxos of Meletis》のような記述にしなかったのは土地をプレイできるようにするためでもあるが、対戦相手のカードをあたかも無色のカードであるかのように変更してしまうという挙動が欠色呪文にふさわしいと考えたからでもある。
白には白、青には青のマナ・シンボルがあるように、OGWでは新たに無色のマナ・シンボルが生み出された。しかしその反面、BFZの無色要素は必然性を欠くものになってしまったように思われる。今になって考えると、このメカニズム上の不均一さを改善するためにR&DはBFZで無色のマナ・コストの別な側面を掘り下げる必要があったのかもしれない。もちろんかつての烈日のようなデザインは(収斂があるために)避けるべきだが、ここにはまだ未開拓のデザイン的資源が眠っていると私は確信している。
また、《エルキンの壷/Elkin Bottle》能力にはまだ印刷されていない利用価値がある。それは追放されたカードを手札に見立てて手札関連の能力を書き直すというもので、手札に戻す、手札に加えるといったありふれた能力を追放を用いてエルドラージ的にすることができる。
このテキストは全く青らしくないにもかかわらず、カード全体としては風変わりな《大クラゲ/Man-o’-War》そのものだ。ただし、追放を用いたテキストに改められたことで、このカードが戦場に残っていなければ除去されたクリーチャーを出し直すことができなくなった。
この能力はこのカードに一種の除去耐性を与えているが、全く反対にわざと戦場を離れさせることによって劇的な効果を得ることもできる。昇華者との相性は言うまでもなく、BFZのエルドラージのデザインにとって追放領域の暫定性はこれ以上ないデザイン的資源だといえる。
とはいえ、マローが言う新世界秩序を考慮すると《エルキンの壷/Elkin Bottle》能力は新規のプレイヤーにとって少々複雑すぎるかもしれない。特にターン終了時までの継続的効果なのか、パーマネントの常在型能力なのかといった些細な(しかし重要な)違いは、こうした効果を初めて見るプレイヤーを大いに戸惑わせる恐れがある。
しかし、そのようなマーケティング上の問題を考慮しないのであれば、この能力はエルドラージのデザインにとってきわめて有用な資源となるはずだ。暫定性のデザインは、往々にして強力になりすぎる追放能力を適切なパワー・レベルにまで引き下げたものであり、嚥下のような無意味な能力と《剣を鍬に/Swords to Plowshares》のような過剰な能力との間に無限のグラデーションを作ることを可能にする。デザイナーはこれによって昇華者のための追放能力を低いマナ域やレアリティに作ることができるようになり、結果としてリミテッド環境のデベロップは容易になるだろう。
(後編に続く)
以前のポスト※で、私はカードセットとしての戦乱のゼンディカーのエルドラージのデザインについて、メカニズム的美しさが欠けていると評した。私の考えでは、R&Dは嚥下のような場当たり的なメカニズムを作るのではなく、無色と追放領域というテーマの可能性をもっと掘り下げるべきだったと思う。もちろんマジックの歴史において無色と追放領域の間に強い結びつきがあったとは言えないが、詳しく見ていくとそこにわずかながらデザイン空間が広がっていることがわかる。
したがってここではそれをいくつかの機能ごとに分類し、それぞれの空間でどのようなデザインが可能なのか検証していくことにしよう。必然的なこととして、途中に私の妄想にすぎないアイデアが出てくるが、苦手な方は読み飛ばしていただいて構わない。図々しく感じられるかもしれないが、思いついたことは吐き出さないと気が済まない性分なため大目に見ていただければ幸いだ。
※……http://casualmtg.diarynote.jp/201602271838453600/およびhttp://casualmtg.diarynote.jp/201603010330169840/
不可逆性——戻ってくることのない場所
脆い彫像/Brittle Effigy (1)
アーティファクト M11, レア
(4),(T),脆い彫像を追放する:クリーチャー1体を対象とし、それを追放する。
大祖始の遺産/Relic of Progenitus (1)
アーティファクト ALA, コモン
(T):プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは自分の墓地にあるカード1枚を追放する。
(1),大祖始の遺産を追放する:すべての墓地にあるすべてのカードを追放する。カードを1枚引く。
ブージーアムの輪/Bosium Strip (3)
アーティファクト WTH, レア
(3),(T):ターン終了時まで、あなたの墓地の一番上のカードがインスタント・カードかソーサリー・カードである場合、あなたはそのカードを唱えてもよい。このターン、これにより唱えられたカードが墓地に置かれる場合、代わりにそれを追放する。
追放領域の最も基本的な役割は、言うまでもなく最も再利用困難な領域だということだろう。基本セット2010での変更によって追放領域はゲームの外部から分断され、その傾向はいっそう強まることになった(もう《狡猾な願い/Cunning Wish》で使用済みの《狡猾な願い/Cunning Wish》を持ってくることはできない!)。追放領域のこの機能は、単体除去をはじめ、特定の領域のカードを使用不可能にする、リソースが繰り返し使われるのを防ぐといった様々な用途に使われている。
BFZにおいては、追放領域の不可逆性は《完全無視/Complete Disregard》や《虚空の接触/Touch of the Void》といったカードによって多数実装されている。強いて言えば、無意味な追放能力である嚥下をセットから取り除く代わりに、《屑山の人形/Heap Doll》のような、盤面に影響を与えないが無意味なわけでもない追放能力を持つカードを増やす必要があるだろう。仮にそうした場合、BFZのエルドラージたちは単純な攻撃性に加えて新たに緩い妨害能力を持つことになる。
もっとも、OGW発売前のモダン環境を思い返せば、黒単エルドラージには昇華者のための《大祖始の遺産/Relic of Progenitus》や《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》が大量に採用されていたのであり、妨害と強力なクロックの組み合わせはエルドラージのサブテーマとして現実に即したものなのではないかと思う。
暫定性——一時的保管場所
隠れ家/Safe Haven
土地 DRK, アンコモン1
(2),(T):あなたがコントロールするクリーチャー1体を対象とし、それを追放する。
あなたのアップキープの開始時に、あなたは隠れ家を生け贄に捧げてもよい。そうした場合、隠れ家によって追放された各カードを、オーナーのコントロール下で戦場に戻す。
Tawnos’s Coffin (4)
アーティファクト ATQ, アンコモン1
あなたは、あなたのアンタップ・ステップにTawnos’s Coffinをアンタップしないことを選んでもよい。
(3),(T):クリーチャー1体を対象とし、それとそれにつけられているすべてのオーラを追放する。そのクリーチャーの上に置かれているカウンターの種類と数を記録する。Tawnos’s Coffinが戦場を離れるかアンタップ状態になったとき、その前者の追放されたカードをオーナーのコントロール下で、タップ状態かつ記録された種類と数のカウンターが置かれた状態で戦場に戻す。そうした場合、その他の追放されたカードをオーナーのコントロール下でそのパーマネントにつけられた状態で戦場に戻す。
エルキンの壷/Elkin Bottle (3)
アーティファクト ICE, レア
(3),(T):あなたのライブラリーの一番上のカードを追放する。あなたの次のアップキープの開始時まで、あなたはこのカードをプレイしてもよい。
改めて考えると不思議なことだが、カードを永久に使えなくするという基本の性質とは反対に、カードを一時的に消滅させる効果にも追放領域が頻繁に用いられる。もちろん、この手の行為を追放領域を使わずに実装したカードもあるにはある(《森の知恵/Sylvan Library》や《死の国からの救出/Rescue from the Underworld》など)が、それらと比較しても追放領域の利便性は抜きん出ている。
そもそもあるカードが追放領域以外に移動した場合、それを再び元の領域に戻すためには同じ領域の他のカードと混ざらないように管理せねばならず、ゲームプレイ上の困難が伴う。《Tawnos’s Coffin》のような暫定除去を使用する際にプレイヤーはよく追放されたカードを下に重ねて管理するが、これも基本的に公開情報であり、置き場所が不定で、出入りが少ないという追放領域の特性ゆえに可能なことだ。
ところで、戦乱のゼンディカー・ブロックを通じて白い欠色カードは唯一《変位エルドラージ/Eldrazi Displacer》のみだったが、このカードのデザインもまた(追放領域のカードは増えないものの)追放領域の暫定的利用にあたる。いわゆる《忘却の輪/Oblivion Ring》能力を含めた明滅効果は白にも無色にも頻出するカードであり、私にはなぜR&Dが《停滞の罠/Stasis Snare》を欠色を持つエルドラージ側のカードとしてデザインしなかったのか不思議でならない。
無色のカードによる追放領域の暫定的利用のもうひとつの例は、《エルキンの壷/Elkin Bottle》能力だ。この能力は追放されたカードに有効期限を設定し、一時的にリソースとして活用できるようにするもので、一定期間を過ぎると使用不能になる。《エルキンの壷/Elkin Bottle》のようにプレイヤーに恩恵をもたらすデザインになることもあれば、ごくまれに《姥の仮面/Uba Mask》のように行動を制限する目的でデザインされることもある。
こうした追放領域を使って一時的にリソースを増やす能力は今日において赤のカラー・パイに割り当てられ、ほとんど毎ブロックで見かけるようになってきた。しかし幸いかBFZには存在していないため、この能力を嚥下の代わりの新たなカードの一群に加えることもできるだろう。ただしその場合、昇華者のために対戦相手のカードを追放するよう少々異なった処理にする必要がある。
[カード名] (2)(赤)
ソーサリー
欠色
対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分のライブラリーの一番上から3枚のカードを追放する。次のあなたのターンの終了時まで、あなたは(X)を支払うことで、これにより追放されたカードをマナ・コストを支払うことなくプレイしてもよい。Xは、その追放されたカードの点数で見たマナ・コストに等しい。
あなたは対戦相手のライブラリーを追放し、それを好きな色の(もしくは無色の)マナでプレイすることができる。《メレティスのダクソス/Daxos of Meletis》のような記述にしなかったのは土地をプレイできるようにするためでもあるが、対戦相手のカードをあたかも無色のカードであるかのように変更してしまうという挙動が欠色呪文にふさわしいと考えたからでもある。
白には白、青には青のマナ・シンボルがあるように、OGWでは新たに無色のマナ・シンボルが生み出された。しかしその反面、BFZの無色要素は必然性を欠くものになってしまったように思われる。今になって考えると、このメカニズム上の不均一さを改善するためにR&DはBFZで無色のマナ・コストの別な側面を掘り下げる必要があったのかもしれない。もちろんかつての烈日のようなデザインは(収斂があるために)避けるべきだが、ここにはまだ未開拓のデザイン的資源が眠っていると私は確信している。
また、《エルキンの壷/Elkin Bottle》能力にはまだ印刷されていない利用価値がある。それは追放されたカードを手札に見立てて手札関連の能力を書き直すというもので、手札に戻す、手札に加えるといったありふれた能力を追放を用いてエルドラージ的にすることができる。
[カード名] (3)(青)
クリーチャー ― エルドラージ・ドローン
欠色
[カード名]が戦場に出たとき、他のクリーチャー1体を対象とし、それを追放する。
[カード名]によって追放されたカードのオーナーは、そのカードをプレイしてもよい。
2/2
このテキストは全く青らしくないにもかかわらず、カード全体としては風変わりな《大クラゲ/Man-o’-War》そのものだ。ただし、追放を用いたテキストに改められたことで、このカードが戦場に残っていなければ除去されたクリーチャーを出し直すことができなくなった。
この能力はこのカードに一種の除去耐性を与えているが、全く反対にわざと戦場を離れさせることによって劇的な効果を得ることもできる。昇華者との相性は言うまでもなく、BFZのエルドラージのデザインにとって追放領域の暫定性はこれ以上ないデザイン的資源だといえる。
とはいえ、マローが言う新世界秩序を考慮すると《エルキンの壷/Elkin Bottle》能力は新規のプレイヤーにとって少々複雑すぎるかもしれない。特にターン終了時までの継続的効果なのか、パーマネントの常在型能力なのかといった些細な(しかし重要な)違いは、こうした効果を初めて見るプレイヤーを大いに戸惑わせる恐れがある。
しかし、そのようなマーケティング上の問題を考慮しないのであれば、この能力はエルドラージのデザインにとってきわめて有用な資源となるはずだ。暫定性のデザインは、往々にして強力になりすぎる追放能力を適切なパワー・レベルにまで引き下げたものであり、嚥下のような無意味な能力と《剣を鍬に/Swords to Plowshares》のような過剰な能力との間に無限のグラデーションを作ることを可能にする。デザイナーはこれによって昇華者のための追放能力を低いマナ域やレアリティに作ることができるようになり、結果としてリミテッド環境のデベロップは容易になるだろう。
(後編に続く)
コメント