Diarynoteサービス終了に寄せて
2022年3月31日 Magic: The Gathering
はじめに
マジックのユーザーがDiarynoteというサービスに集っていて、そこで独自文化を形成しているということは、どの界隈の人に話しても驚かれる。私は数年前にマジックに復帰してからこのサービスを知ったが、ネットの片隅で同じ趣味を持ったユーザーが毎日活発にブログを更新しているさまは、まさに秘密の楽園のように思えた。
そういうわけで私も日記を開設し、そして2年半も放置することになった。本来ならばもう少し頻繁に更新するつもりが、1年に1度の更新すらままならないとは、自分の怠惰さに驚き恐れ入るばかりだ。
そのような明らかに熱心でないユーザーでも、このサービスの終了に際しては何か書き残しておきたい気持ちになった。そこで、Diarynoteでの最後の投稿として、構想に終わって書かれなかった記事について書くことにした。そんなものを読みたい人がいるとは到底思えないが、存在しないカードばかり話題にしてきたブログにおける、存在しない記事の記事、それ以上にこのブログの最後にふさわしいものはない。
長くなるので、重要なことは先に述べておくことにしよう。Diarynoteの運営者の皆様、そしてこのブログを読んでくださった皆様、ここに感謝申し上げます。
拡張アート
このブログのURLに「https://casualmtg.diarynote.jp」とあるように、当初このブログはマジックのカジュアルな楽しみ方をテーマにしたブログだった。そして、その主要なテーマのひとつになる予定であり、1度たりとも記事にならかったものが、拡張アートだ。
2015年ごろ、私は拡張アートにはまっており、その主要な情報源のひとつとしてDiarynoteがあった。日記を開設すれば拡張アート作成者の情報を追うことが容易になるというのも、このブログを作った理由のひとつだ。
結局のところ、今に至るまで私の作品はどこにも発表していないが、何かの機会があれば公開してみたい。
小噺
2019年、このブログの長文の記事に対して、短く雑多なテーマを取り扱うために小噺という区分を設けた。ここでは新しいセットのカードデザインの話、ルール文章のテンプレート変更の話、Tumblrに投稿したカードの話など、長文にするほどでもない小さなテーマを扱う予定だった。それが続かなかった理由は? どうしても長く書く癖が抜けなかったからだ。
アートとアーティスト
あまり意識されないことだが、現在のマジックはその歴史において類を見ないほど多様なスタイルのアートを取り扱っている。その変遷についてまとめた記事も、構想に終わった計画のひとつだ。
はるか昔、黎明期のマジックでは、写実的なファンタジーイラストには括れないスタイルのアーティストが多数起用されていた。その後、ある時点からマジックはハイ・ファンタジーの世界観に合致するアーティストを積極的に選ぶようになり、《鳥の乙女/Bird Maiden》や《永劫の輪廻/Enduring Renewal》、《日中の光/Light of Day》のようなアートが印刷されることは少なくなった。
次の変化はデジタル化で、物理的な絵の具ではなく、コンピュータを使って描かれたアートが段階的に増えていった。今となっては考えられないことだが、当初はデジタルツールを使って描かれたアートに拒否反応を示すユーザーも少なからずおり、Matt Cavottaが自身の記事※においてデジタルアートは従来のアートに比べて何ら卑しいものではないと説明したこともあった。
その10年以上のち、もはや写実的なデジタルアートが主役となった現代のマジックにおいて、興味深い変化が起こった。私の考えでは、その発端はドミナリアで登場した英雄譚にある。英雄譚は時系列的な物語を表す新しい種類のカードであり、そのため写真のように瞬間を切り取る写実的なアートとは全く異なるスタイルが必要になった。ステンドグラス、タペストリー、絵巻物、彫刻など様々な形式のアートが使われたドミナリアの英雄譚において、懐かしのMark Tedinが起用され(《アンティキティー戦争/The Antiquities War》)、優れたインク画のスキルを持つRavenna Tranが発掘された(《最古再誕/The Eldest Reborn》)。
さらに、現代のマジックのアートを語るうえで欠かせないのは、ショーケース・カードやSecret Lairの存在だ。それらは既存のカードを別の見た目にしたというだけでなく、これまで採用してこなかった新しいアートのスタイルをマジックに取り込み続けている。
日本人アーティストの活躍も忘れてはならない。灯争大戦における日本オリジナルアートの衝撃から数年、神河:輝ける世界では多数の日本人アーティストが起用された。中でもえすてぃお氏の起用は嬉しい驚きでもあった(《耐え抜くもの、母聖樹/Boseiju, Who Endures》)。私が氏を知ったのはDiarynoteで発表していた素晴らしい拡張アートがきっかけで、その数年後に複数のマジックのアートを担当するという快挙を目の当たりにすることになった。氏の並外れた才能とDiarynoteの物語として、ここに記録しておきたいと思う。
※……https://magic.wizards.com/en/articles/archive/feature/rt3000-future-magic-art-2006-01-18(RT3000, The Future of Magic Art)
ラヴニカの裏ギルド
このブログで書いたことの多くは私が考えたマジックのカードのアイデアにまつわるもので、書かれなかったものも相当ある。「ラヴニカの裏ギルド」は、2019年のカードセットであるラヴニカのギルドをもとに構想したものだ。
ラヴニカのギルドのような2色の組み合わせ5つからなるカードセットでは、往々にしてリミテッドの自由度が犠牲になる。たとえば、白いカードを中心に2色でデッキをまとめようとすると、ラヴニカのギルドでは赤白か緑白のギルドに選択肢が限られる。これはラヴニカやストリクスヘイヴンといったセットにつきものの問題で、その解決策を考えるのが「ラヴニカの裏ギルド」の主題だ。
内容は概ね以下の通りだ——2色のギルド5つからなるセットで、ギルド外の色の組み合わせをサポートするためには、ギルドのメカニズムと相互作用する、ギルド外の色のカードがあればよい。その際、単に2色のギルドを補助する3色目のカードにならないように、ギルドの戦略と矛盾するようにデザインする。
たとえば、赤白のボロス軍のメカニズムをデザインしたとする。GRNには黒赤と白黒の組み合わせは存在しないため、対応するギルド外の色は黒となる。ボロス軍のメカニズムと何種類かの黒のカードはシナジーを生むようにデザインされているため、黒赤と白黒の戦略が可能となる。ただし、それらの戦略はボロス軍の戦略とは相反するため、赤白の多色のカードと組み合わせることにはメリットが少ない。
この発想に基づいてセットをデザインすると、ギルドのメカニズム1つと、それと相互作用する2つの矛盾した戦略が5組必要だということになり、悩ましくも楽しい論理パズルが生まれる。実のところ、このメカニズムと戦略のデザイン自体は終了しており、記事を書く作業のみを残して放置されている。
合体カードの歴史
《夜のスピリット/Spirit of the Night》から《メカ巨神のコア/Mechtitan Core》まで、カードを合体させるというアイデアはいつの時代もプレイヤーを興奮させる。私自身も合体カードが大好きなので、メカニズム的な側面からそれを取り上げることができれば楽しいはずだ。
この記事の難しさは、日英問わず類似の記事が存在するため、それらに目を通さなければならないことだろう。また、《ウェストヴェイルの修道院/Westvale Abbey》は合体カードといえるのかなど、定義の問題も存在する。
サイバーパンク
神河:輝ける世界の発表以後では嘘にしか思えないかもしれないが、サイバーパンクをマジックのメカニズム上で表現するというチャレンジについて考えていた時期がある。中核となるメカニズムは完成し、カードも何枚かデザインしたが、幸いか神河:輝ける世界とはずいぶん異なる世界観となった。印刷された新しい神河はサイボーグと神が入り乱れるアーティファクトとエンチャントのセットだが、私はコンピュータ上の電脳空間をマジックで表現したのだった。
ところで、ギブスンの『ニューロマンサー』しかり、士郎正宗の『攻殻機動隊』しかり、サイバーパンクには日本がつきものだ。ならばその舞台に最もふさわしいマジックの次元は……
どうあがいても嘘にしか思えないので、このアイデアはお蔵入りかもしれない。
マジックで別のゲームを遊ぶ
ちょうどこのブログを始めた頃から、私はボードゲームを遊ぶようになった。現代のボードゲームは伝統的なゲームとはまるで違っており、多人数で遊ぶ、繰り返し遊ぶ、楽しく遊ぶといった命題のためにさまざまな技術を発達させている。
他方で、採用するカードによって全く異なるゲーム展開を見せるマジックは、優れたプログラム言語でありうる。マジックのルールを骨格として、そこに既存のカードを付け加えることで、別なゲームのアルゴリズムを実行することすらできるかもしれない。モミール・ベーシックはそのよい例だ。
この2つのアイデアを連結させるとどんなことが可能になるだろうか? ゲーム開始時から戦場に《石の賢者、ダミーア/Damia, Sage of Stone》と《狂気の種父/Sire of Insanity》を置き、《首謀者の収得/Mastermind’s Acquisition》と《水蓮の花びら/Lotus Petal》でデッキを作る。これでボードゲームの世界で言うところのデッキ構築型ゲームの完成だ。はたして楽しいゲームが作れるかどうかはさておき、こうした構想は常に頭の中にある。
エルドラージとウギンとサルカン
戦乱のゼンディカーで、エルドラージはレトコン(retcon)された、という意見がある。レトコンとは後付け設定のことで、狭義には後続作品が先行作品との連続性を保つため、意図的に先行作品の設定を壊すことを意味する。
エルドラージと面晶体は最初のゼンディカー・ブロックの主要な謎であり、面晶体はエルドラージとその文明が作ったものだとほのめかされていた。しかしながら、戦乱のゼンディカー・ブロックにおいてはそれはミスリードであったとされ、面晶体はナヒリがこの次元にエルドラージを封印するために作った構造物であると結論づけられた。
この「正史」がいつの時点から計画されていたかは定かでないが、《夢石の面晶体/Dreamstone Hedron》をはじめとして全ての背景が無矛盾に説明されたとは言い難い。したがって、戦乱のゼンディカー以降の世界設定に違和感を覚えるユーザーは、ゼンディカーのストーリーにレトコンが行われたと考えている。
しかしながら、私は少し違うことを考えている。WotCによるエルドラージの設定の改変以前に、改変された歴史があったではないか。そう、ウギンとサルカンの物語だ。
どこまでも飛躍した解釈であることを承知のうえで、私の考えはこうだ——かつて、エルドラージはゼンディカーに面晶体を築き、何らかの理由で姿を消した。ウギンはボーラスの謀略によりタルキールで死んだが、サルカンが時を超えてウギンの命を救った。それ以降、歴史は並行世界のものにすり替えられ、かつてエルドラージが築いた面晶体はナヒリの手によるものになり、エルドラージの拘束具になった。
この解釈こそ矛盾だらけなのは間違いないが、時を超えて蘇ったはずのウギンが戦乱のゼンディカーであまりに非協力的なことを含め、いくつかのストーリー上の疑問を解消することができるような気がしている。
それにしても、戦乱のゼンディカーへの苦言だけでいくつも記事を書いておきながら、まだ書き足りないことがあるのだから驚きだ。
あとがき
これらの構想が、いつかまとまった文章の形で公開されるかどうかはわからない。どこでどういった形式で公開するべきかもわからないが、裏を返せば、それだけDiarynoteが貴重な場所だったということだ。
いつかどこか、短文も長文も公開でき、同好の士の熱気にあふれた、ほどよく閉鎖的な場所で再び出会うことができたなら、これほど嬉しいことはない。
マジックのユーザーがDiarynoteというサービスに集っていて、そこで独自文化を形成しているということは、どの界隈の人に話しても驚かれる。私は数年前にマジックに復帰してからこのサービスを知ったが、ネットの片隅で同じ趣味を持ったユーザーが毎日活発にブログを更新しているさまは、まさに秘密の楽園のように思えた。
そういうわけで私も日記を開設し、そして2年半も放置することになった。本来ならばもう少し頻繁に更新するつもりが、1年に1度の更新すらままならないとは、自分の怠惰さに驚き恐れ入るばかりだ。
そのような明らかに熱心でないユーザーでも、このサービスの終了に際しては何か書き残しておきたい気持ちになった。そこで、Diarynoteでの最後の投稿として、構想に終わって書かれなかった記事について書くことにした。そんなものを読みたい人がいるとは到底思えないが、存在しないカードばかり話題にしてきたブログにおける、存在しない記事の記事、それ以上にこのブログの最後にふさわしいものはない。
長くなるので、重要なことは先に述べておくことにしよう。Diarynoteの運営者の皆様、そしてこのブログを読んでくださった皆様、ここに感謝申し上げます。
拡張アート
このブログのURLに「https://casualmtg.diarynote.jp」とあるように、当初このブログはマジックのカジュアルな楽しみ方をテーマにしたブログだった。そして、その主要なテーマのひとつになる予定であり、1度たりとも記事にならかったものが、拡張アートだ。
2015年ごろ、私は拡張アートにはまっており、その主要な情報源のひとつとしてDiarynoteがあった。日記を開設すれば拡張アート作成者の情報を追うことが容易になるというのも、このブログを作った理由のひとつだ。
結局のところ、今に至るまで私の作品はどこにも発表していないが、何かの機会があれば公開してみたい。
小噺
2019年、このブログの長文の記事に対して、短く雑多なテーマを取り扱うために小噺という区分を設けた。ここでは新しいセットのカードデザインの話、ルール文章のテンプレート変更の話、Tumblrに投稿したカードの話など、長文にするほどでもない小さなテーマを扱う予定だった。それが続かなかった理由は? どうしても長く書く癖が抜けなかったからだ。
アートとアーティスト
あまり意識されないことだが、現在のマジックはその歴史において類を見ないほど多様なスタイルのアートを取り扱っている。その変遷についてまとめた記事も、構想に終わった計画のひとつだ。
はるか昔、黎明期のマジックでは、写実的なファンタジーイラストには括れないスタイルのアーティストが多数起用されていた。その後、ある時点からマジックはハイ・ファンタジーの世界観に合致するアーティストを積極的に選ぶようになり、《鳥の乙女/Bird Maiden》や《永劫の輪廻/Enduring Renewal》、《日中の光/Light of Day》のようなアートが印刷されることは少なくなった。
次の変化はデジタル化で、物理的な絵の具ではなく、コンピュータを使って描かれたアートが段階的に増えていった。今となっては考えられないことだが、当初はデジタルツールを使って描かれたアートに拒否反応を示すユーザーも少なからずおり、Matt Cavottaが自身の記事※においてデジタルアートは従来のアートに比べて何ら卑しいものではないと説明したこともあった。
その10年以上のち、もはや写実的なデジタルアートが主役となった現代のマジックにおいて、興味深い変化が起こった。私の考えでは、その発端はドミナリアで登場した英雄譚にある。英雄譚は時系列的な物語を表す新しい種類のカードであり、そのため写真のように瞬間を切り取る写実的なアートとは全く異なるスタイルが必要になった。ステンドグラス、タペストリー、絵巻物、彫刻など様々な形式のアートが使われたドミナリアの英雄譚において、懐かしのMark Tedinが起用され(《アンティキティー戦争/The Antiquities War》)、優れたインク画のスキルを持つRavenna Tranが発掘された(《最古再誕/The Eldest Reborn》)。
さらに、現代のマジックのアートを語るうえで欠かせないのは、ショーケース・カードやSecret Lairの存在だ。それらは既存のカードを別の見た目にしたというだけでなく、これまで採用してこなかった新しいアートのスタイルをマジックに取り込み続けている。
日本人アーティストの活躍も忘れてはならない。灯争大戦における日本オリジナルアートの衝撃から数年、神河:輝ける世界では多数の日本人アーティストが起用された。中でもえすてぃお氏の起用は嬉しい驚きでもあった(《耐え抜くもの、母聖樹/Boseiju, Who Endures》)。私が氏を知ったのはDiarynoteで発表していた素晴らしい拡張アートがきっかけで、その数年後に複数のマジックのアートを担当するという快挙を目の当たりにすることになった。氏の並外れた才能とDiarynoteの物語として、ここに記録しておきたいと思う。
※……https://magic.wizards.com/en/articles/archive/feature/rt3000-future-magic-art-2006-01-18(RT3000, The Future of Magic Art)
ラヴニカの裏ギルド
このブログで書いたことの多くは私が考えたマジックのカードのアイデアにまつわるもので、書かれなかったものも相当ある。「ラヴニカの裏ギルド」は、2019年のカードセットであるラヴニカのギルドをもとに構想したものだ。
ラヴニカのギルドのような2色の組み合わせ5つからなるカードセットでは、往々にしてリミテッドの自由度が犠牲になる。たとえば、白いカードを中心に2色でデッキをまとめようとすると、ラヴニカのギルドでは赤白か緑白のギルドに選択肢が限られる。これはラヴニカやストリクスヘイヴンといったセットにつきものの問題で、その解決策を考えるのが「ラヴニカの裏ギルド」の主題だ。
内容は概ね以下の通りだ——2色のギルド5つからなるセットで、ギルド外の色の組み合わせをサポートするためには、ギルドのメカニズムと相互作用する、ギルド外の色のカードがあればよい。その際、単に2色のギルドを補助する3色目のカードにならないように、ギルドの戦略と矛盾するようにデザインする。
たとえば、赤白のボロス軍のメカニズムをデザインしたとする。GRNには黒赤と白黒の組み合わせは存在しないため、対応するギルド外の色は黒となる。ボロス軍のメカニズムと何種類かの黒のカードはシナジーを生むようにデザインされているため、黒赤と白黒の戦略が可能となる。ただし、それらの戦略はボロス軍の戦略とは相反するため、赤白の多色のカードと組み合わせることにはメリットが少ない。
この発想に基づいてセットをデザインすると、ギルドのメカニズム1つと、それと相互作用する2つの矛盾した戦略が5組必要だということになり、悩ましくも楽しい論理パズルが生まれる。実のところ、このメカニズムと戦略のデザイン自体は終了しており、記事を書く作業のみを残して放置されている。
合体カードの歴史
《夜のスピリット/Spirit of the Night》から《メカ巨神のコア/Mechtitan Core》まで、カードを合体させるというアイデアはいつの時代もプレイヤーを興奮させる。私自身も合体カードが大好きなので、メカニズム的な側面からそれを取り上げることができれば楽しいはずだ。
この記事の難しさは、日英問わず類似の記事が存在するため、それらに目を通さなければならないことだろう。また、《ウェストヴェイルの修道院/Westvale Abbey》は合体カードといえるのかなど、定義の問題も存在する。
サイバーパンク
神河:輝ける世界の発表以後では嘘にしか思えないかもしれないが、サイバーパンクをマジックのメカニズム上で表現するというチャレンジについて考えていた時期がある。中核となるメカニズムは完成し、カードも何枚かデザインしたが、幸いか神河:輝ける世界とはずいぶん異なる世界観となった。印刷された新しい神河はサイボーグと神が入り乱れるアーティファクトとエンチャントのセットだが、私はコンピュータ上の電脳空間をマジックで表現したのだった。
ところで、ギブスンの『ニューロマンサー』しかり、士郎正宗の『攻殻機動隊』しかり、サイバーパンクには日本がつきものだ。ならばその舞台に最もふさわしいマジックの次元は……
どうあがいても嘘にしか思えないので、このアイデアはお蔵入りかもしれない。
マジックで別のゲームを遊ぶ
ちょうどこのブログを始めた頃から、私はボードゲームを遊ぶようになった。現代のボードゲームは伝統的なゲームとはまるで違っており、多人数で遊ぶ、繰り返し遊ぶ、楽しく遊ぶといった命題のためにさまざまな技術を発達させている。
他方で、採用するカードによって全く異なるゲーム展開を見せるマジックは、優れたプログラム言語でありうる。マジックのルールを骨格として、そこに既存のカードを付け加えることで、別なゲームのアルゴリズムを実行することすらできるかもしれない。モミール・ベーシックはそのよい例だ。
この2つのアイデアを連結させるとどんなことが可能になるだろうか? ゲーム開始時から戦場に《石の賢者、ダミーア/Damia, Sage of Stone》と《狂気の種父/Sire of Insanity》を置き、《首謀者の収得/Mastermind’s Acquisition》と《水蓮の花びら/Lotus Petal》でデッキを作る。これでボードゲームの世界で言うところのデッキ構築型ゲームの完成だ。はたして楽しいゲームが作れるかどうかはさておき、こうした構想は常に頭の中にある。
エルドラージとウギンとサルカン
戦乱のゼンディカーで、エルドラージはレトコン(retcon)された、という意見がある。レトコンとは後付け設定のことで、狭義には後続作品が先行作品との連続性を保つため、意図的に先行作品の設定を壊すことを意味する。
エルドラージと面晶体は最初のゼンディカー・ブロックの主要な謎であり、面晶体はエルドラージとその文明が作ったものだとほのめかされていた。しかしながら、戦乱のゼンディカー・ブロックにおいてはそれはミスリードであったとされ、面晶体はナヒリがこの次元にエルドラージを封印するために作った構造物であると結論づけられた。
この「正史」がいつの時点から計画されていたかは定かでないが、《夢石の面晶体/Dreamstone Hedron》をはじめとして全ての背景が無矛盾に説明されたとは言い難い。したがって、戦乱のゼンディカー以降の世界設定に違和感を覚えるユーザーは、ゼンディカーのストーリーにレトコンが行われたと考えている。
夢石の面晶体/Dreamstone Hedron (6)
アーティファクト ROE, アンコモン
(T):(◇)(◇)(◇)を加える。
(3),(T),夢石の面晶体を生け贄に捧げる:カードを3枚引く。
「エルドラージの精神のみが、面晶体を開きその力を自らの物にするための歪んだ道筋をたどることができる。」
しかしながら、私は少し違うことを考えている。WotCによるエルドラージの設定の改変以前に、改変された歴史があったではないか。そう、ウギンとサルカンの物語だ。
どこまでも飛躍した解釈であることを承知のうえで、私の考えはこうだ——かつて、エルドラージはゼンディカーに面晶体を築き、何らかの理由で姿を消した。ウギンはボーラスの謀略によりタルキールで死んだが、サルカンが時を超えてウギンの命を救った。それ以降、歴史は並行世界のものにすり替えられ、かつてエルドラージが築いた面晶体はナヒリの手によるものになり、エルドラージの拘束具になった。
この解釈こそ矛盾だらけなのは間違いないが、時を超えて蘇ったはずのウギンが戦乱のゼンディカーであまりに非協力的なことを含め、いくつかのストーリー上の疑問を解消することができるような気がしている。
それにしても、戦乱のゼンディカーへの苦言だけでいくつも記事を書いておきながら、まだ書き足りないことがあるのだから驚きだ。
あとがき
これらの構想が、いつかまとまった文章の形で公開されるかどうかはわからない。どこでどういった形式で公開するべきかもわからないが、裏を返せば、それだけDiarynoteが貴重な場所だったということだ。
いつかどこか、短文も長文も公開でき、同好の士の熱気にあふれた、ほどよく閉鎖的な場所で再び出会うことができたなら、これほど嬉しいことはない。
小噺:伝説のスフィンクス
2019年10月22日 Magic: The Gathering
Tumblrアカウントの@inventors-fair※1は、記録に残っている限りでは2018年1月14日からカードデザインのコンテストを継続的に開催している。このアカウントは当初@yeens-humanと@krazybombによって運営されていたが、あるときから@abelzumiと@follower-of-lilianaが加わり※2、さらに@wapulatusと@thatboonguyが加わり※3、現在は創立メンバー以外の4者で運営されているようだ※4。
私が@inventors-fairを知ったのはつい先日のことで、それゆえ彼らの活動すべてを知っているわけではないが、コンテストの詳細は概ね以下のようなものだ。運営者は課題を(おそらく米国時間の)日曜に発表し、読者はTumblrのフォームを通じてアイデアを提出する。募集は木曜に締め切られ、金曜には優勝者(往々にして2人以上が選ばれる)の発表が、土曜にはそれ以外の投稿の紹介が行われる。そして、驚くべきことに、それらすべてに講評が添えられる。
かつての「カードをデザインするのは君だ!」しかり、コンテストは常に成功するとは限らない。コンテストの募集期間内にそれを見つけた幸運なユーザーが、わずかな時間で最良のデザインを提出できることはまれで、万人が納得する結果が得られることは少ない。
とはいえ、1年以上もこうしたコンテストを続けることは、1年以上もブログを放置している私のようなユーザーに更新機会を与えるだけの力はあった。そういうわけで、私が参加したコンテストの内容はこうだ。
さて、伝説のスフィンクスはスフィンクスの何を助けてくれるのだろうか? 私はミニゲームを含むカードが大好きなので、《窮地の主/Master of Predicaments》のようなスフィンクスをサポートすることを考えたが、能力の形式があまりに多岐にわたっていることから早々に諦めることにした。彼らの能力の共通点はせいぜい誘発型能力であることで、それらを補助する《ストリオン共鳴体/Strionic Resonator》を内臓した伝説のスフィンクスを作ったとしても、2マナのアーティファクトより弱い統率者は優れた選択肢ではなかっただろう。
なにより、ミニゲームを内蔵したスフィンクスは決してスフィンクス全体の多数派ではないのだ。反対に、私はミニゲームをするスフィンクスが好きなので、もはや作るべきものは明白だった。すなわち、ミニゲームによってスフィンクスを助ける伝説のスフィンクスだ。
タイプ行にスフィンクスと書かれたカードを検索していたとき、私は基本セット2010の《スフィンクスの大使/Sphinx Ambassador》を部族デッキ向けに作り変えることを思いついた。対戦相手のライブラリーからクリーチャー・カードを出す代わりに、自分のライブラリーからスフィンクスを出すように変更する。その際、対戦相手にカード名を宣言させるのはあまりにも不親切なので、カードが持つ何らかの指標を宣言させるように変更する。ごく単純には、カードはマナ・コストに比例して強力になるため、点数で見たマナ・コストを使うことが適切に思われた。
@inventors-fairが統率者向けのカードを求めていることは好都合だ。対戦相手は出されたくないスフィンクスの点数で見たマナ・コストを宣言することができるが、たった1人では抑止力になりようもない。しかし、宣言するプレイヤーが3倍になればカードの強さはかなり調整されるうえ、それぞれが別な数を選ばなければならないことがミニゲームの要素にもなる。
カードの輪郭は見えてきたが、このアイデアには問題があった。3人の対戦相手が幸運にも別々のマナ・コストを宣言した場合、それ以降の宣言はどうなってしまうのだろう? 常に利益を追求するマジックのプレイヤーが、ひとたび成功した宣言を変えることなどあるだろうか?
宣言を繰り返させないために複雑なテキストを使うことも考えたが、幸いにもずっと簡単で効果的な方法があった。マナ・コストを宣言するプレイヤーに自分自身を4人目として加え、複数のプレイヤーが宣言したマナ・コストのスフィンクスを追加で出せるようにするのだ。対戦相手は宣言を繰り返すこともできるが、誰かが同様に宣言するとボーナスを与えてしまうため、敵に予想されにくく味方が選ばないマナ・コストを選ぶ必要がある。
ときに、1人のプレイヤーは長々と書かれたルールよりも優れた安全弁でありうる。私のカードの方向性はこの時点で決まった。
さて、カードにさせたいことが決まったなら、次にするべきことはルールの範囲内でそれが動くように文章を考えることだ。マジックの文章にはテンプレートがあり、使われたことのある処理は同じ書き方で書かれなければならない。
プレイヤーに数字を選ばせ、それを同時に宣言させる部分は《脅迫するオーガ/Menacing Ogre》を参考にした。むしろ困ったのは選ばれなかったマナ・コストをどう言い表すかということで、直接引用できるテキストが存在しないぶん、似た文章を探してなんとか表現する必要があった※6。
文字の状態ではわかりにくいが、このデザインは失敗だった。文章が長すぎ、テキストボックスに入り切らなかったのだ。それどころか、(すべてのスフィンクスは飛行を持っているので)飛行のための1行を空ける必要もある。私はあるときからカードを画像にすることにしているが、この工程は成功したかに見えるデザインを問答無用に切り捨ててくれるたいへん優秀な判別装置だ。
可能な限り文章を短くするために、まずマナ・コストを参照することをやめ、パワーを参照することにした。2回登場する「点数で見たマナ・コスト(converted mana cost)」を「パワー(power)」に変えるだけで、この文章はカードに収まるようになった。
加えて、スフィンクスをライブラリーから出すことをやめ、手札から出すことにした。こうして「あなたのライブラリーから……探し(Search your library for)」も「その後あなたのライブラリーを切り直す(then shuffle your library)」も不要になり、この伝説のスフィンクスに飛行を与えるための空間が生まれた。
こうして誘発型能力が完成した。文章を削りに削ったことで、むしろ多少の余裕ができたため、灯争大戦の《破滅の終焉/Finale of Devastation》よろしく墓地からもスフィンクスを出せるように細部を装飾した。このカードを白青黒3色のスフィンクスにしようと決めていた私にとって、はたしてこのカードが青以外の色に見えるのかは疑問だったが、この変更によって少なくとも黒らしくは見えるようになった。
伝説のクリーチャーをデザインするうえで常に苦労するのは、固有名詞を考えることだ。私は英語圏の人間ではないため、彼らにとって奇妙すぎず身近すぎず、かつスフィンクスらしく響く名前を考えることはとても難しい。
幸いにして、アラーラにはカードになっていないスフィンクスがたくさん存在する。私はその中から、《縞瑪瑙のゴブレット/Onyx Goblet》のフレイバー・テキストに登場するゴリアル(Gorael)というスフィンクスの名前を使うことにした。どうやらこのスフィンクスは人間とヴィダルケンを互いに争わせることでスフィンクスによるエスパーの支配を目論んでいるらしく、対戦相手に謎を突きつけてスフィンクスの軍団を作るカードとの相性は悪くないように思われた。
https://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/188513441172/an-idea-submitted-to-inventors-fair-is
ようやく完成したカードがこれだ。私はこのカードに飛行以外のキーワード能力を加えたいと考え、投稿の直前につけたのが増幅だった。今にして思えば蛇足だったかもしれず、講評者もそう感じたようだ※7。とはいえ、手札のスフィンクスを見せることで攻撃しやすくなる反面、対戦相手が正しい数字を選びやすくなるというジレンマは、カード全体としてはまとまっているように思え、私としては気に入っている。
何はともあれ、楽しんでもらえたことは嬉しい限りだ。
※1……https://inventors-fair.tumblr.com/
※2……https://inventors-fair.tumblr.com/post/171353895614/bit-of-a-ruckus-with-gremlins-in-the-system
※3……https://inventors-fair.tumblr.com/post/175796144804/congratulations-to-our-new-moderators
※4……https://inventors-fair.tumblr.com/post/186004362104/its-morph-ing-timeからは、中心的な管理者は@abelzumiで、@follower-of-lilianaは限定的に関与していることが推測できる。
※5……https://inventors-fair.tumblr.com/post/188023526789/hour-of-devastation-revealed-a-neat-card-unesh
※6……最終的に「選ばれた数に等しくないパワーを持つスフィンクス・クリーチャー・カード(Sphinx creature card with power that isn’t equal to the chosen numbers)」としたが、「選ばれた数に等しいパワーを持たないスフィンクス・クリーチャーカード(Sphinx creature card without power equal to the chosen numbers)」とした方が他のカードのテンプレートに近く、自然だったかもしれない。
※7……https://inventors-fair.tumblr.com/post/188151746719/the-running-up-riddlers-and-decent-cards
私が@inventors-fairを知ったのはつい先日のことで、それゆえ彼らの活動すべてを知っているわけではないが、コンテストの詳細は概ね以下のようなものだ。運営者は課題を(おそらく米国時間の)日曜に発表し、読者はTumblrのフォームを通じてアイデアを提出する。募集は木曜に締め切られ、金曜には優勝者(往々にして2人以上が選ばれる)の発表が、土曜にはそれ以外の投稿の紹介が行われる。そして、驚くべきことに、それらすべてに講評が添えられる。
かつての「カードをデザインするのは君だ!」しかり、コンテストは常に成功するとは限らない。コンテストの募集期間内にそれを見つけた幸運なユーザーが、わずかな時間で最良のデザインを提出できることはまれで、万人が納得する結果が得られることは少ない。
とはいえ、1年以上もこうしたコンテストを続けることは、1年以上もブログを放置している私のようなユーザーに更新機会を与えるだけの力はあった。そういうわけで、私が参加したコンテストの内容はこうだ。
・スフィンクスの部族デッキを使うプレイヤーの関心を集める、スフィンクスの統率者に必要な要素を含んだ伝説のスフィンクスをデザインする。
・エターナルフォーマットにおいて使用可能で、主に統率者戦で使われる独立したカードとしてそれをデザインする。
※5
さて、伝説のスフィンクスはスフィンクスの何を助けてくれるのだろうか? 私はミニゲームを含むカードが大好きなので、《窮地の主/Master of Predicaments》のようなスフィンクスをサポートすることを考えたが、能力の形式があまりに多岐にわたっていることから早々に諦めることにした。彼らの能力の共通点はせいぜい誘発型能力であることで、それらを補助する《ストリオン共鳴体/Strionic Resonator》を内臓した伝説のスフィンクスを作ったとしても、2マナのアーティファクトより弱い統率者は優れた選択肢ではなかっただろう。
なにより、ミニゲームを内蔵したスフィンクスは決してスフィンクス全体の多数派ではないのだ。反対に、私はミニゲームをするスフィンクスが好きなので、もはや作るべきものは明白だった。すなわち、ミニゲームによってスフィンクスを助ける伝説のスフィンクスだ。
スフィンクスの大使/Sphinx Ambassador (5)(青)(青)
クリーチャー ― スフィンクス M10, 神話レア
飛行
スフィンクスの大使がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、そのプレイヤーのライブラリーからカードを1枚探す。その後、そのプレイヤーはカード名を1つ選ぶ。あなたがそのカード名を持たないクリーチャー・カードを探していたなら、あなたはそれをあなたのコントロール下で戦場に出してもよい。その後、そのプレイヤーは自分のライブラリーを切り直す。
5/5
タイプ行にスフィンクスと書かれたカードを検索していたとき、私は基本セット2010の《スフィンクスの大使/Sphinx Ambassador》を部族デッキ向けに作り変えることを思いついた。対戦相手のライブラリーからクリーチャー・カードを出す代わりに、自分のライブラリーからスフィンクスを出すように変更する。その際、対戦相手にカード名を宣言させるのはあまりにも不親切なので、カードが持つ何らかの指標を宣言させるように変更する。ごく単純には、カードはマナ・コストに比例して強力になるため、点数で見たマナ・コストを使うことが適切に思われた。
@inventors-fairが統率者向けのカードを求めていることは好都合だ。対戦相手は出されたくないスフィンクスの点数で見たマナ・コストを宣言することができるが、たった1人では抑止力になりようもない。しかし、宣言するプレイヤーが3倍になればカードの強さはかなり調整されるうえ、それぞれが別な数を選ばなければならないことがミニゲームの要素にもなる。
カードの輪郭は見えてきたが、このアイデアには問題があった。3人の対戦相手が幸運にも別々のマナ・コストを宣言した場合、それ以降の宣言はどうなってしまうのだろう? 常に利益を追求するマジックのプレイヤーが、ひとたび成功した宣言を変えることなどあるだろうか?
宣言を繰り返させないために複雑なテキストを使うことも考えたが、幸いにもずっと簡単で効果的な方法があった。マナ・コストを宣言するプレイヤーに自分自身を4人目として加え、複数のプレイヤーが宣言したマナ・コストのスフィンクスを追加で出せるようにするのだ。対戦相手は宣言を繰り返すこともできるが、誰かが同様に宣言するとボーナスを与えてしまうため、敵に予想されにくく味方が選ばないマナ・コストを選ぶ必要がある。
ときに、1人のプレイヤーは長々と書かれたルールよりも優れた安全弁でありうる。私のカードの方向性はこの時点で決まった。
さて、カードにさせたいことが決まったなら、次にするべきことはルールの範囲内でそれが動くように文章を考えることだ。マジックの文章にはテンプレートがあり、使われたことのある処理は同じ書き方で書かれなければならない。
プレイヤーに数字を選ばせ、それを同時に宣言させる部分は《脅迫するオーガ/Menacing Ogre》を参考にした。むしろ困ったのは選ばれなかったマナ・コストをどう言い表すかということで、直接引用できるテキストが存在しないぶん、似た文章を探してなんとか表現する必要があった※6。
[カード名]がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、各プレイヤーは秘密裏に数字を1つ選ぶ。その後それらの数を公開する。あなたのライブラリーから選ばれた数に等しくない点数で見たマナ・コストを持つスフィンクス・クリーチャー・カード1枚と、2人以上のプレイヤーに選ばれた数に等しい点数で見たマナ・コストを持つスフィンクス・クリーチャー・カード1枚を探し、それらを戦場に出し、その後あなたのライブラリーを切り直す。
文字の状態ではわかりにくいが、このデザインは失敗だった。文章が長すぎ、テキストボックスに入り切らなかったのだ。それどころか、(すべてのスフィンクスは飛行を持っているので)飛行のための1行を空ける必要もある。私はあるときからカードを画像にすることにしているが、この工程は成功したかに見えるデザインを問答無用に切り捨ててくれるたいへん優秀な判別装置だ。
可能な限り文章を短くするために、まずマナ・コストを参照することをやめ、パワーを参照することにした。2回登場する「点数で見たマナ・コスト(converted mana cost)」を「パワー(power)」に変えるだけで、この文章はカードに収まるようになった。
加えて、スフィンクスをライブラリーから出すことをやめ、手札から出すことにした。こうして「あなたのライブラリーから……探し(Search your library for)」も「その後あなたのライブラリーを切り直す(then shuffle your library)」も不要になり、この伝説のスフィンクスに飛行を与えるための空間が生まれた。
[カード名]がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、各プレイヤーは秘密裏に数字を1つ選ぶ。その後それらの数を公開する。あなたはあなたの手札や墓地から、選ばれた数に等しくないパワーを持つスフィンクス・クリーチャー・カード最大1枚と、2人以上のプレイヤーに選ばれた数に等しいパワーを持つスフィンクス・クリーチャー・カード最大1枚を戦場に出してもよい。
こうして誘発型能力が完成した。文章を削りに削ったことで、むしろ多少の余裕ができたため、灯争大戦の《破滅の終焉/Finale of Devastation》よろしく墓地からもスフィンクスを出せるように細部を装飾した。このカードを白青黒3色のスフィンクスにしようと決めていた私にとって、はたしてこのカードが青以外の色に見えるのかは疑問だったが、この変更によって少なくとも黒らしくは見えるようになった。
伝説のクリーチャーをデザインするうえで常に苦労するのは、固有名詞を考えることだ。私は英語圏の人間ではないため、彼らにとって奇妙すぎず身近すぎず、かつスフィンクスらしく響く名前を考えることはとても難しい。
幸いにして、アラーラにはカードになっていないスフィンクスがたくさん存在する。私はその中から、《縞瑪瑙のゴブレット/Onyx Goblet》のフレイバー・テキストに登場するゴリアル(Gorael)というスフィンクスの名前を使うことにした。どうやらこのスフィンクスは人間とヴィダルケンを互いに争わせることでスフィンクスによるエスパーの支配を目論んでいるらしく、対戦相手に謎を突きつけてスフィンクスの軍団を作るカードとの相性は悪くないように思われた。
策士、ゴリアル/Gorael the Machinator (1)(白)(青)(黒)
伝説のアーティファクト・クリーチャー ― スフィンクス
増幅2、飛行
ゴリアルがプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、各プレイヤーは秘密裏に数字を1つ選ぶ。その後それらの数を公開する。あなたはあなたの手札や墓地から、選ばれた数に等しくないパワーを持つスフィンクス・クリーチャー・カード最大1枚と、2人以上のプレイヤーに選ばれた数に等しいパワーを持つスフィンクス・クリーチャー・カード最大1枚を戦場に出してもよい。
3/3
https://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/188513441172/an-idea-submitted-to-inventors-fair-is
ようやく完成したカードがこれだ。私はこのカードに飛行以外のキーワード能力を加えたいと考え、投稿の直前につけたのが増幅だった。今にして思えば蛇足だったかもしれず、講評者もそう感じたようだ※7。とはいえ、手札のスフィンクスを見せることで攻撃しやすくなる反面、対戦相手が正しい数字を選びやすくなるというジレンマは、カード全体としてはまとまっているように思え、私としては気に入っている。
Seriously, I think I laughed out loud reading this the first time.
※7
何はともあれ、楽しんでもらえたことは嬉しい限りだ。
※1……https://inventors-fair.tumblr.com/
※2……https://inventors-fair.tumblr.com/post/171353895614/bit-of-a-ruckus-with-gremlins-in-the-system
※3……https://inventors-fair.tumblr.com/post/175796144804/congratulations-to-our-new-moderators
※4……https://inventors-fair.tumblr.com/post/186004362104/its-morph-ing-timeからは、中心的な管理者は@abelzumiで、@follower-of-lilianaは限定的に関与していることが推測できる。
※5……https://inventors-fair.tumblr.com/post/188023526789/hour-of-devastation-revealed-a-neat-card-unesh
※6……最終的に「選ばれた数に等しくないパワーを持つスフィンクス・クリーチャー・カード(Sphinx creature card with power that isn’t equal to the chosen numbers)」としたが、「選ばれた数に等しいパワーを持たないスフィンクス・クリーチャーカード(Sphinx creature card without power equal to the chosen numbers)」とした方が他のカードのテンプレートに近く、自然だったかもしれない。
※7……https://inventors-fair.tumblr.com/post/188151746719/the-running-up-riddlers-and-decent-cards
メルヴィン的、フレイバーの25年(後編)
2018年6月26日 Magic: The Gathering
怪物化
再び《百手巨人/Hundred-Handed One》にご登場願おう。怪物化は「直接的フレイバー」の最も現代的な使い方の代表例だ。
特定の状態に継続的に変化するパーマネントをデザインしたければ、デザイナーは過去にマジックで使われたことのある数々の方法から最適なものを選ぶことができる。反転や変身はその最も過激な方法だが、より穏健な選択肢として、カウンターを使う方法もある。
たとえば《Homarid》は、アップキープごとに自身に潮汐カウンターを置き、そのカウンターの数に応じていくつかのステータスを行き来する。カウンターを置くことも、それを参照することも、どちらも卓上ゲームの情報処理としては平凡なもので、きわめて明瞭に運用することができる。
おそらく、同じような仕組みで怪物化をデザインすることも可能だったはずだ。能力を起動すると、(怪物カウンターが置かれていない場合)クリーチャーの上に怪物カウンターが置かれ、それが置かれている間はいくらかの修整を受ける。どうしても+1/+1カウンターが使いたいのなら※、怪物カウンターを+1/+1カウンター数個に置き換えてもよい。
しかしながら、R&Dはそれを選択しなかった。代わりに彼らは、クリーチャーに+1/+1カウンターを置くとともに、それを怪物的という特別な状態にすることにした。もちろん、この方法には無視できないメリットもある。しかし、その副産物として特性や位相ですらない新しい状態が生まれることになり、ルール文章の文法は大きく変わってしまった。
怪物的という状態は目に見えるものではなく、怪物化に伴って置かれる+1/+1カウンターがなければそれが怪物的かどうかはわからない。にもかかわらず、+1/+1カウンターが置かれていることと怪物的であることにルール上のつながりはなく、怪物化以外の方法で+1/+1カウンターが置かれた場合、そのクリーチャーが怪物的でないことを確認する方法は(記憶やメモ以外には)存在しない。
とはいえ、クリーチャーが怪物的なまま+1/+1カウンターだけが取り除かれたり、怪物化を持つクリーチャーに外的な力が働いて+1/+1カウンターが置かれたりする機会はほとんどないのだから、そうした混乱を過度に心配する必要はないのかもしれない。怪物化はほとんどの場合、専用のカウンターを使う古くからのデザインと同じように働くのであって、きわめて特殊な状況を除いて、伝統的なマジックで起こりうることの内側にいる。
怪物化が変えてしまったのは、ゲームとしてのマジックではなく、マジックの説明の仕方なのだ。かつては、まずクリーチャーにカウンターを置き、カウンターが置かれていることとゲーム上の脅威であることを不可分の関係にした。今日では、まずクリーチャーを怪物的と呼ぶことにし、それとは本質的に関係のない方法でクリーチャーを脅威にする。私がここまでに示した用語を使うなら、近年になるほどR&Dは「間接的フレイバー」と「直接的フレイバー」を意図的に混在させるようになっている。
怪物化や高名のように、何かの状態、あるいは呼び名を目印に使うというルール文章はいったいどこから生まれたものなのだろうか? カウンターと状態の相互互換性を発見したという意味で、それはゼンディカーの《黒曜石の火心/Obsidian Fireheart》かもしれない。しかし私は、こうしたデザインの起源は《ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator》なのではないかと考えている。
※……マローによると、ニクスへの旅に入る予定だった+1/+1カウンター関連のメカニズムが、怪物化と貢納を結びつけることになっていたらしい。https://mtg-jp.com/reading/mm/0011020/(デザイン演説2014/State of Design 2014)
調査
調査は不思議なキーワード処理だ。調査という名前でありながら、その注釈文の大部分は手掛かりというアーティファクト・トークンの説明に使われており、前例のない入れ子状の構造を持っている。しかも、それでいてユーザーがほとんど何の疑いもなく直感的に操作できるというのだから驚きだ。
ゲームの中で実際に起こることだけを見れば、調査は間違いなく「間接的フレイバー」としてデザインされうるものだ。かつてR&Dが《恐怖/Terror》でそうしたように、このキーワード処理をアーティファクト・トークンとカードを引く能力の組み合わせのみによって設計し、調査や手掛かりといった言葉に頼らずに探偵小説のフレイバーを表現したとしても、機能上は何の問題もなかったに違いない。
しかしR&Dは、そうした旧来の「間接的フレイバー」にあえて「直接的フレイバー」としての名前を与えることで、このメカニズムの外見を「直接的フレイバー」そのものに変えてしまった。その結果、プレイヤーはルール文章の行間を読むことなしに、調査によって手がかりを見つけるという「直接的フレイバー」を理解するだけで、いとも簡単にこのメカニズムを制御できるようになった(おそらく、手がかりの専用のトークン・カードもそれを後押ししている)。
ルール文章の「間接的フレイバー」を理解するためには読解力が必要だが、それを「直接的フレイバー」で装飾することによって実際のゲームプレイを単純化することができる。システムの奥底の情報を表層の明快な記号によって覆うことでユーザビリティを獲得するというこの手法は、コンピュータでいうグラフィカルユーザインタフェースの発想に近いかもしれない。
コンピュータといえば、「直接的フレイバー」によって究極に圧縮された調査は、どことなく流行のデジタルカードゲームを連想させる。卓上ゲームよりも文章量の制限が厳しいデジタルカードゲームでは、時として読んだだけでは何をするのかほとんどわからないテキストが許容される。厳密な挙動はゲームの背後にあるコンピュータが制御するため、たとえカード自体にほとんど情報が書かれていなくても不正なプレイが起きることはありえない。
ある意味で、メカニズムを「直接的フレイバー」化することは、マジックをデジタルカードゲームに近づけることを意味するのかもしれない。カードに書かれた情報は多くなくとも、総合ルールや、リリースノートや、専用のトークン・カードが適切な運用を保証する。良し悪しはともかく、マジックのデザインがそのような傾向にあるのは間違いない。
昇殿
怪物化がクリーチャーを特別な状態にすることができるのなら、あらゆるものを同じようにすることができる。昇殿は、いわばプレイヤーを怪物的にするメカニズムだ。
怪物化と昇殿の共通点は、機能や実体を持たない不可逆的な記号を生み出すことだ。怪物的とは違って都市の承認にはトークン・カードのようなものが用意されているが、実際にはどちらも実体のあるオブジェクトではなく、クリーチャーやプレイヤーに概念上のタグをつけるだけの存在にすぎない。
ルール上の機能を持たない都市の承認は、(「間接的フレイバー」ではありえないのだから)「直接的フレイバー」を利用したメカニズムだ。というよりも、「直接的フレイバー」そのものだと表現した方が正確かもしれない。実際、都市の承認はストーリーよろしくプレイヤーがオラーズカの支配権を得たことを宣言するが、それ以上のことは何もしない。
誰しも子供のころに、同級生に何種類かの果物の名前を割り振って椅子を取り合うゲームをしたことがあるはずだ——怪物化や昇殿が行うことは、本質的にはそれに近い。ゲームをするためには名前が割り振られていなければならないが、どんな名前であっても機能に違いはない。マジックの場合、それが背景世界の事物を表していればなお素晴らしい。
はるか昔、《巨大戦車/Juggernaut》の時代には、「直接的フレイバー」はマジックのルール用語と自然言語の偶然の重なりの中にあった。それから25年、《ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator》を経て「直接的フレイバー」が意図的に作られるようになった現代では、ルール用語と自然言語の重なりどころか、ルール用語なのかどうかすら疑わしい単なる自然言語にまで「直接的フレイバー」は拡張されている。
歴史的
さあ、マジックの歴史における最も新しいフレイバーの利用方法がこれだ。歴史的は、フレイバーそのものでありながらゲーム上の機能を持つというメカニズムの、おそらく最初の例だ。
ブーンズの1枚として《稲妻/Lightning Bolt》がデザインされたとき、フレイバーはカードの情報を整理するための飾りにすぎなかった。熊や巨人を倒すことができて、天使やドラゴンを倒すことができない赤の除去とは何か? おそらくそれは炎でもありえただろうし、鈍器でもありえたことだろう。重要なことは1マナで3点のダメージを与えるインスタント呪文という性能に見合うフレイバーであるかどうかで、フレイバーの質には意味がなかった。
《ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator》以降のパラダイムでは、デザイナーはあらゆるものを自由自在に装飾できる。フレイバーに満ちた飾りにゲーム上の機能は存在しないが、他のメカニズムがそれを参照することで擬似的に機能が与えられる。
そして、ドミナリアの歴史的に至って、もはやフレイバーは装飾としての役割を超えたものになりつつある。このメカニズムは、ルール上のつながりを何も持たないアーティファクトと伝説と英雄譚をフレイバーによってつなぐ試みだ。《ウェザーライトへの乗艦/Board the Weatherlight》でカードを選ぶ際に、プレイヤーはカード・タイプと特殊タイプとサブタイプについて個別に考える必要はない。興味深いことに、このカードをルールに従って正しく制御するためには、ドミナリアの歴史について考えることが最短の近道なのだ。
歴史的のフォーマットはきわめて応用可能性に富んでおり、様々な切り口で無関係なもの同士を容易につなぐことができる。
R&Dが実際にこのメカニズムのバリエーションを大量に作るかどうかはさておき、同じ文法を使って大量の類似品を作ることができるのは確かだ。歴史的は(神河物語で失敗した)伝説のクリーチャーの開封比を調整するためのアイデアだが、近い将来、別な問題を解決するためにこの手法を再び使う日が来る可能性は十分にある。
驚くべき風味
ここまで、25年の長きに渡るフレイバーの歴史をきわめて主観的にたどってきた。この記事は私の記憶と印象に基づいており、ここに書かれたことはマローたちR&Dの思考過程そのものではなく、彼らが作ったものから無責任にも私が再構成した偽史であることは強調しなければならない。
また、私はこの記事を書くためにマジックのすべてのカードに目を通したわけではないので(それが最も誠実な態度だ)、何か重要な成果を見落としている可能性も否定できない。説明が重複することを避けるため、あえて構成から外したトピックもある。
この記事での私の目的は、マジックのデザインにおけるフレイバーの扱いの変化を描くこと、そしてそのための言語を作ることだった。全てが整理されているわけではなく、自己矛盾に陥っている部分もあるが、私の意見が叩き台になって議論が活性化されるのであれば本望だ。もしも同じテーマを別な観点から扱った記事が書かれるようなことがあれば、私は喜んでそれを読みに行くことだろう。
マジックは、四半世紀もの間、休むことなく拡張セットを作り続けてきた稀有なゲームだ。それゆえ、カードと文字を使って物語を表現する方法についてはおそらく他のどんな卓上ゲームよりも蓄積がある。私がマジックに復帰して新たな時代のフレイバーに驚いたように、様々な分野の人がマジックのフレイバーに驚き、そして思いもよらないフィードバックを与えてくれるようになったなら、これ以上嬉しいことはない。
百手巨人/Hundred-Handed One (2)(白)(白)
クリーチャー ― 巨人 THS, レア
警戒
(3)(白)(白)(白):怪物化3を行う。(このクリーチャーが怪物的でない場合、これの上に+1/+1カウンターを3個置く。これは怪物的になる。)
百手巨人が怪物的であるかぎり、これは到達を持つとともに、各戦闘でさらに99体のクリーチャーをブロックできる。
3/5
再び《百手巨人/Hundred-Handed One》にご登場願おう。怪物化は「直接的フレイバー」の最も現代的な使い方の代表例だ。
特定の状態に継続的に変化するパーマネントをデザインしたければ、デザイナーは過去にマジックで使われたことのある数々の方法から最適なものを選ぶことができる。反転や変身はその最も過激な方法だが、より穏健な選択肢として、カウンターを使う方法もある。
たとえば《Homarid》は、アップキープごとに自身に潮汐カウンターを置き、そのカウンターの数に応じていくつかのステータスを行き来する。カウンターを置くことも、それを参照することも、どちらも卓上ゲームの情報処理としては平凡なもので、きわめて明瞭に運用することができる。
おそらく、同じような仕組みで怪物化をデザインすることも可能だったはずだ。能力を起動すると、(怪物カウンターが置かれていない場合)クリーチャーの上に怪物カウンターが置かれ、それが置かれている間はいくらかの修整を受ける。どうしても+1/+1カウンターが使いたいのなら※、怪物カウンターを+1/+1カウンター数個に置き換えてもよい。
しかしながら、R&Dはそれを選択しなかった。代わりに彼らは、クリーチャーに+1/+1カウンターを置くとともに、それを怪物的という特別な状態にすることにした。もちろん、この方法には無視できないメリットもある。しかし、その副産物として特性や位相ですらない新しい状態が生まれることになり、ルール文章の文法は大きく変わってしまった。
怪物的という状態は目に見えるものではなく、怪物化に伴って置かれる+1/+1カウンターがなければそれが怪物的かどうかはわからない。にもかかわらず、+1/+1カウンターが置かれていることと怪物的であることにルール上のつながりはなく、怪物化以外の方法で+1/+1カウンターが置かれた場合、そのクリーチャーが怪物的でないことを確認する方法は(記憶やメモ以外には)存在しない。
とはいえ、クリーチャーが怪物的なまま+1/+1カウンターだけが取り除かれたり、怪物化を持つクリーチャーに外的な力が働いて+1/+1カウンターが置かれたりする機会はほとんどないのだから、そうした混乱を過度に心配する必要はないのかもしれない。怪物化はほとんどの場合、専用のカウンターを使う古くからのデザインと同じように働くのであって、きわめて特殊な状況を除いて、伝統的なマジックで起こりうることの内側にいる。
怪物化が変えてしまったのは、ゲームとしてのマジックではなく、マジックの説明の仕方なのだ。かつては、まずクリーチャーにカウンターを置き、カウンターが置かれていることとゲーム上の脅威であることを不可分の関係にした。今日では、まずクリーチャーを怪物的と呼ぶことにし、それとは本質的に関係のない方法でクリーチャーを脅威にする。私がここまでに示した用語を使うなら、近年になるほどR&Dは「間接的フレイバー」と「直接的フレイバー」を意図的に混在させるようになっている。
怪物化や高名のように、何かの状態、あるいは呼び名を目印に使うというルール文章はいったいどこから生まれたものなのだろうか? カウンターと状態の相互互換性を発見したという意味で、それはゼンディカーの《黒曜石の火心/Obsidian Fireheart》かもしれない。しかし私は、こうしたデザインの起源は《ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator》なのではないかと考えている。
※……マローによると、ニクスへの旅に入る予定だった+1/+1カウンター関連のメカニズムが、怪物化と貢納を結びつけることになっていたらしい。https://mtg-jp.com/reading/mm/0011020/(デザイン演説2014/State of Design 2014)
調査
不屈の追跡者/Tireless Tracker (2)(緑)
クリーチャー ― 人間・スカウト SOI, レア
土地が1つあなたのコントロール下で戦場に出るたび、調査を行う。(「(2),このアーティファクトを生け贄に捧げる:カードを1枚引く。」を持つ無色の手掛かりアーティファクト・トークンを1つ生成する。)
あなたが手掛かりを1つ生け贄に捧げるたび、不屈の追跡者の上に+1/+1カウンターを1個置く。
3/2
石の宣告/Declaration in Stone (1)(白)
ソーサリー SOI, レア
クリーチャー1体を対象とする。それと、それのコントローラーがコントロールするそれと同じ名前を持つ他のクリーチャーをすべて追放する。そのプレイヤーは、これにより追放されたトークンでないクリーチャー1体につき1回調査を行う。
調査は不思議なキーワード処理だ。調査という名前でありながら、その注釈文の大部分は手掛かりというアーティファクト・トークンの説明に使われており、前例のない入れ子状の構造を持っている。しかも、それでいてユーザーがほとんど何の疑いもなく直感的に操作できるというのだから驚きだ。
ゲームの中で実際に起こることだけを見れば、調査は間違いなく「間接的フレイバー」としてデザインされうるものだ。かつてR&Dが《恐怖/Terror》でそうしたように、このキーワード処理をアーティファクト・トークンとカードを引く能力の組み合わせのみによって設計し、調査や手掛かりといった言葉に頼らずに探偵小説のフレイバーを表現したとしても、機能上は何の問題もなかったに違いない。
しかしR&Dは、そうした旧来の「間接的フレイバー」にあえて「直接的フレイバー」としての名前を与えることで、このメカニズムの外見を「直接的フレイバー」そのものに変えてしまった。その結果、プレイヤーはルール文章の行間を読むことなしに、調査によって手がかりを見つけるという「直接的フレイバー」を理解するだけで、いとも簡単にこのメカニズムを制御できるようになった(おそらく、手がかりの専用のトークン・カードもそれを後押ししている)。
ルール文章の「間接的フレイバー」を理解するためには読解力が必要だが、それを「直接的フレイバー」で装飾することによって実際のゲームプレイを単純化することができる。システムの奥底の情報を表層の明快な記号によって覆うことでユーザビリティを獲得するというこの手法は、コンピュータでいうグラフィカルユーザインタフェースの発想に近いかもしれない。
コンピュータといえば、「直接的フレイバー」によって究極に圧縮された調査は、どことなく流行のデジタルカードゲームを連想させる。卓上ゲームよりも文章量の制限が厳しいデジタルカードゲームでは、時として読んだだけでは何をするのかほとんどわからないテキストが許容される。厳密な挙動はゲームの背後にあるコンピュータが制御するため、たとえカード自体にほとんど情報が書かれていなくても不正なプレイが起きることはありえない。
ある意味で、メカニズムを「直接的フレイバー」化することは、マジックをデジタルカードゲームに近づけることを意味するのかもしれない。カードに書かれた情報は多くなくとも、総合ルールや、リリースノートや、専用のトークン・カードが適切な運用を保証する。良し悪しはともかく、マジックのデザインがそのような傾向にあるのは間違いない。
昇殿
黄金都市の秘密/Secrets of the Golden City (1)(青)(青)
ソーサリー RIX, コモン
昇殿(あなたがパーマネントを10個以上コントロールしているなら、このゲームの間、あなたは都市の承認を得る。)
カードを2枚引く。あなたが都市の承認を持っているなら、代わりにカードを3枚引く。
怪物化がクリーチャーを特別な状態にすることができるのなら、あらゆるものを同じようにすることができる。昇殿は、いわばプレイヤーを怪物的にするメカニズムだ。
怪物化と昇殿の共通点は、機能や実体を持たない不可逆的な記号を生み出すことだ。怪物的とは違って都市の承認にはトークン・カードのようなものが用意されているが、実際にはどちらも実体のあるオブジェクトではなく、クリーチャーやプレイヤーに概念上のタグをつけるだけの存在にすぎない。
ルール上の機能を持たない都市の承認は、(「間接的フレイバー」ではありえないのだから)「直接的フレイバー」を利用したメカニズムだ。というよりも、「直接的フレイバー」そのものだと表現した方が正確かもしれない。実際、都市の承認はストーリーよろしくプレイヤーがオラーズカの支配権を得たことを宣言するが、それ以上のことは何もしない。
誰しも子供のころに、同級生に何種類かの果物の名前を割り振って椅子を取り合うゲームをしたことがあるはずだ——怪物化や昇殿が行うことは、本質的にはそれに近い。ゲームをするためには名前が割り振られていなければならないが、どんな名前であっても機能に違いはない。マジックの場合、それが背景世界の事物を表していればなお素晴らしい。
はるか昔、《巨大戦車/Juggernaut》の時代には、「直接的フレイバー」はマジックのルール用語と自然言語の偶然の重なりの中にあった。それから25年、《ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator》を経て「直接的フレイバー」が意図的に作られるようになった現代では、ルール用語と自然言語の重なりどころか、ルール用語なのかどうかすら疑わしい単なる自然言語にまで「直接的フレイバー」は拡張されている。
歴史的
ウェザーライトへの乗艦/Board the Weatherlight (1)(白)
ソーサリー DOM, アンコモン
あなたのライブラリーの一番上からカードを5枚見る。あなたはその中から歴史的なカード1枚を公開してあなたの手札に加えてもよい。残りをあなたのライブラリーの一番下に無作為の順番で置く。(歴史的とは、アーティファクトと伝説と英雄譚のことである。)
さあ、マジックの歴史における最も新しいフレイバーの利用方法がこれだ。歴史的は、フレイバーそのものでありながらゲーム上の機能を持つというメカニズムの、おそらく最初の例だ。
ブーンズの1枚として《稲妻/Lightning Bolt》がデザインされたとき、フレイバーはカードの情報を整理するための飾りにすぎなかった。熊や巨人を倒すことができて、天使やドラゴンを倒すことができない赤の除去とは何か? おそらくそれは炎でもありえただろうし、鈍器でもありえたことだろう。重要なことは1マナで3点のダメージを与えるインスタント呪文という性能に見合うフレイバーであるかどうかで、フレイバーの質には意味がなかった。
《ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator》以降のパラダイムでは、デザイナーはあらゆるものを自由自在に装飾できる。フレイバーに満ちた飾りにゲーム上の機能は存在しないが、他のメカニズムがそれを参照することで擬似的に機能が与えられる。
そして、ドミナリアの歴史的に至って、もはやフレイバーは装飾としての役割を超えたものになりつつある。このメカニズムは、ルール上のつながりを何も持たないアーティファクトと伝説と英雄譚をフレイバーによってつなぐ試みだ。《ウェザーライトへの乗艦/Board the Weatherlight》でカードを選ぶ際に、プレイヤーはカード・タイプと特殊タイプとサブタイプについて個別に考える必要はない。興味深いことに、このカードをルールに従って正しく制御するためには、ドミナリアの歴史について考えることが最短の近道なのだ。
歴史的のフォーマットはきわめて応用可能性に富んでおり、様々な切り口で無関係なもの同士を容易につなぐことができる。
(賢者とは、アドバイザーと工匠とドルイドとモンクとシャーマンとウィザードのことである。)
(苦痛を受けるとは、パーマネントを生け贄に捧げるか、手札を捨てるか、ライフを失うことである。)
R&Dが実際にこのメカニズムのバリエーションを大量に作るかどうかはさておき、同じ文法を使って大量の類似品を作ることができるのは確かだ。歴史的は(神河物語で失敗した)伝説のクリーチャーの開封比を調整するためのアイデアだが、近い将来、別な問題を解決するためにこの手法を再び使う日が来る可能性は十分にある。
驚くべき風味
ここまで、25年の長きに渡るフレイバーの歴史をきわめて主観的にたどってきた。この記事は私の記憶と印象に基づいており、ここに書かれたことはマローたちR&Dの思考過程そのものではなく、彼らが作ったものから無責任にも私が再構成した偽史であることは強調しなければならない。
また、私はこの記事を書くためにマジックのすべてのカードに目を通したわけではないので(それが最も誠実な態度だ)、何か重要な成果を見落としている可能性も否定できない。説明が重複することを避けるため、あえて構成から外したトピックもある。
この記事での私の目的は、マジックのデザインにおけるフレイバーの扱いの変化を描くこと、そしてそのための言語を作ることだった。全てが整理されているわけではなく、自己矛盾に陥っている部分もあるが、私の意見が叩き台になって議論が活性化されるのであれば本望だ。もしも同じテーマを別な観点から扱った記事が書かれるようなことがあれば、私は喜んでそれを読みに行くことだろう。
マジックは、四半世紀もの間、休むことなく拡張セットを作り続けてきた稀有なゲームだ。それゆえ、カードと文字を使って物語を表現する方法についてはおそらく他のどんな卓上ゲームよりも蓄積がある。私がマジックに復帰して新たな時代のフレイバーに驚いたように、様々な分野の人がマジックのフレイバーに驚き、そして思いもよらないフィードバックを与えてくれるようになったなら、これ以上嬉しいことはない。
メルヴィン的、フレイバーの25年(前編)
2018年6月26日 Magic: The Gathering コメント (1)
はじめに
私がタルキール覇王譚でマジックに復帰したとき、特に驚いたのは新時代のマジックにおけるフレイバーの扱いだった。私の記憶の中のかつてのマジックでは、新しいエキスパンションを作ることは新しいメカニズムを打ち出すこととほとんど同義であり、アラビアンナイトやポータル三国志、神河物語といった少数の例外を除いて、新しいセットは対戦ゲームとしてのマジックを更新するためだけに存在していた(ように感じられた)。
もちろん、現在のマジックにも同じような傾向は存在するし、かつてのマジックがフレイバーに乏しかったわけでもない。しかし、それでも現在のマジックが以前に比べてずっと多様な方法でフレイバーを扱っているのは明らかな事実だ。
とはいえ、私は新時代のマーケティング手法(ストーリーをウェブサイトで公開したり、キャラクター製品を販売したり、新しいカードのプレビューのために謎解きゲームを用意したりすること)に感心したわけではない。私はあくまでカードの中のフレイバーに感銘を受けたのであり、その進化に驚いたのだ。
この記事の題名には「メルヴィン的」とあるので、誤解を招かないようにその意味を詳しく説明する必要があるだろう。この題名に至った経緯には、今回私が取り扱うテーマの性質がよく表れている。
よく知られているように、R&Dはプレイヤー類型という概念を用いて、マジックのプレイヤーを心理学的な側面からティミー、ジョニー、スパイクという3種類に、そして美学的な側面からヴォーソスとメルヴィンという2種類に分類している。これらのうち、ヴォーソスという類型はDaily MTGのライターでもあったアーティストのMatt Cavottaが考案したものだ。
Matt Cavottaの記事※1では、ヴォーソスは(やや誇張されて)以下のように紹介されている。
そして、この記事に書かれたヴォーソスの美学的な鏡像としてマローが新たに設定したのが、メルヴィン(メル)という類型だ。
当初、私はこの記事を「ヴォーソス的」から始まる題名で構想していたが、ある時点で私が書こうとしているものがMatt Cavottaやマローのいう「ヴォーソス的」なるものからあまりにかけ離れていることに気づいた。私はフレイバーについて書きたいと思っているが、フレイバー・テキストについて書きたいわけではない。また、ヴォーソスを喜ばせるような素晴らしくフレイバーに満ちたカードのリストを作ることも今回の目的ではない(それ自体は有意義な行為だ)。
端的に述べるなら、マジックに復帰した私を驚かせたのは、フレイバーそのものではなくフレイバーをメカニズムとして扱う技術の進歩だったのだ。つまり、どんなフレイバーやストーリーを表現しているかということではなく、どのようにフレイバーやストーリーを表現しているかということが、昔とは比べものにならないほど高度になっていると感じたのだ。
たとえるなら、絵画に描かれた世界ではなく、絵画の材料である絵の具について書くのがこの記事の主旨だ。そして、絵の具の技術的進歩を時系列順に整理することによって新しい時代の絵画の特徴について議論することができるようになれば、私の構想は概ね達成されたことになる。
念のため申し上げておくと、私はフレイバーそのものに興味がないわけではなく、マジックのストーリーを追いかけ、尊敬するアーティストが何人もいるという程度にはヴォーソス的だ(ヴォーソスとメルヴィンは対立概念ではなく、両立可能な態度だとマローも述べている※2)。しかし、今回の記事の内容はフレイバーを愛でる行為とは明らかに異なるため、メルヴィン的なフレイバーという矛盾した響きを持つテーマ設定になった。私はこれが矛盾しているとは思っていないが、もしもあなたがこの記事を読んで別な考えを持ったなら、ぜひその意見を聞かせてほしい。
※1……https://magic.wizards.com/en/articles/archive/snack-time-vorthos-2005-08-31(Snack Time with Vorthos)
※2……https://mtg-jp.com/reading/mm/0015666/(ヴォーソスとメル(メルヴィン)
/Vorthos and Mel)
名前
もはや疑問にすら思われないこととして、あらゆるマジックのカードには名前が書かれている。カードには名前がなければならないというこの原則は、マジックの子孫と呼べるゲームにはほとんど間違いなく受け継がれているが、卓上ゲームの世界全体から見れば、こうした原則は特に普遍的なものではない。名前の代わりに通し番号が書かれたカード、アイコンが描かれたカード、あるいはそれすらもなく、絵だけが描かれたカードなど、マジックとは異なる設計思想のカードを使うゲームは数えきれないほど存在する。
ならば、どうしてマジックのカードには名前が書かれているのだろうか? ごく単純には、それが無限に拡張されうるゲームだからだろう。1万8000種類を超える(そしてこれからも増え続けていく)マジックのカードに全く名前が書かれていないという世界は、想像するだけで悪夢そのものだ。
ところで、カードの名前にはカード同士を区別するという基本の機能に加えて、カードが表している背景世界の事物を示すという機能もある。たとえば、《稲妻/Lightning Bolt》がもたらす3点のダメージは、炎によるダメージでもなければ、鈍器によるダメージでもない。それは放電現象によるものでしかありえず、その理由はカードの名前にそう書いてあるからだ。
多くの場合、名前はカードにフレイバーという情報をつけ加えているだけではなく、むしろ情報を整理してプレイヤーの理解を助ける役割を果たしている。あるカードを場に出すと、1ターンに1度、4つの資源を支払って1枚のカードを手に入れることができるようになる。こうした抽象的な説明を補助するために、マジックでは伝統的に《ジェイムデー秘本/Jayemdae Tome》といった名前を使う。このカードの名前には、これを持っているだけでは効果がないこと、読み解くには労力が必要なこと、何度も繰り返し読めることといった多くの情報が圧縮されている。
銀枠世界を除けば、マジックのカードやデッキや勝利点は、マジックの背景にあるファンタジー世界の事物に可能な限り翻訳されなければならない。そして、その最も基本的な表現形式がカードの名前なのだ。
恐怖
私の考えでは、フレイバーをデザインに活用するとき、それは大まかに2つの方向性に分けられる。《恐怖/Terror》はそのうちのひとつを象徴するカードだ。
《恐怖/Terror》を初めて手にするユーザーは、まずルール文章としてこのカードのテキストを読み、不思議な対象制限があるものの、多くの脅威に対処できる除去呪文だと認識する。そして、改めてこのいびつな制限の意味を考える。アーティファクト・クリーチャーと黒いクリーチャーに共通する要素とは何か? この呪文はどのようにしてクリーチャーを絶命させるのだろうか?
次の瞬間、ユーザーはこの呪文がクリーチャーの恐怖心を煽って息の根を止めるのだと理解する。機械には感情がなく、怪物は怪物に恐怖心を抱かないため、《恐怖/Terror》で倒すことができないのだ。そして最後には、単なる用語の羅列に見えていたこのテキストが、意外にも芳醇なフレイバーを持っていたことに思い至る。
すべてのユーザーが同じように考えるわけではないが、《恐怖/Terror》に描かれたフレイバーは概ねこのような構造を持っている。すなわち、このカードが持っているゲーム上の機能が、結果的にユーザーの頭の中にフレイバーを呼び起こすのだ。
《恐怖/Terror》のテキストのそれぞれの語句は紛れもないルール用語であり、単純にこのカードの挙動が書かれているにすぎない。しかしながら、このカードがゲームでなすことから総合的に類推すると、結果的にこのカードが何を意図して作られたものなのかが明らかになる。
このような方法で描かれるフレイバーを、ここでは便宜的に「間接的フレイバー」と呼ぶことにしたい。この手法は珍しいものではなく、むしろ黎明期からあるきわめて基本的なフレイバーの表し方だといえる(飛行もそのひとつだ)。ユーザーは、カードに書かれた言葉自体ではなく、カードがどのように動くかによってフレイバーを認識する。フレイバーに対するこの機能主義的な態度は、程度の差こそあれ、現在に至るまでのあらゆるセットで見られるものだ。
サブタイプ
《恐怖/Terror》に代表される「間接的フレイバー」の対極にあるものは? 私の考えでは、それは《巨大戦車/Juggernaut》や《津波/Tsunami》だ。
巨大戦車は壁によっては妨げられ(ブロックされ)ない、すべての島を破壊する、といったテキストは、ルール用語であると同時にマジックの外の世界でも通用する自然言語でもある。こうした離れ業が可能なのは、これらのカードが壁や島という作為的に選ばれたサブタイプを参照しているからだ。
「間接的フレイバー」と比較してみると、《巨大戦車/Juggernaut》や《津波/Tsunami》が表しているフレイバーには、ルール文章との距離がほとんど存在しない。《巨大戦車/Juggernaut》は壁で防ぐことができない機械であり、カードにもそう書いてある。《津波/Tsunami》は島をことごとく破壊する呪文であり、カードにもそう書いてある。こうしたカードはあたかもゲームで実際に機能するフレイバー・テキストを持つかのようであり、遠回しなルールの読解力を必要としない。そのため、「直接的フレイバー」と呼ぶにふさわしい。
しかしながら、「直接的フレイバー」は、美しい見た目に反して非常に扱いづらい。ドミナリアで再録された《巨大戦車/Juggernaut》の下の段落が実際にゲームで起こすことは何か? おそらく、このセットでただ1種類の壁である《悠久の壁/Amaranthine Wall》に対峙したときと、相手のクリーチャーを《氷結/Deep Freeze》させたときにわずかに得をするだけだろう。ならば《津波/Tsunami》は? 破壊的すぎて現代のマジックには受け入れられない。
この種のフレイバーはコントロールが難しく、美しさと楽しさが同居することは奇跡に近い。とはいえ、私が見る限り、R&Dは現在に近づくほど「直接的フレイバー」を有効に扱えるようになっている。
機械仕掛けの獣
ルール用語による詩である「間接的フレイバー」の例に漏れず、《機械仕掛けの獣/Clockwork Beast》に書かれた長いテキストは、それぞれがゼンマイ式自動機械の挙動をマジックに再現するために設定されている。最初期のアーティファクトを象徴するこのクリーチャーは、同時に「間接的フレイバー」の偉大なる反面教師でもある。
《機械仕掛けの獣/Clockwork Beast》のようなデザインの欠点は、正確を期すために大量の例外則を書く必要があることだ。結局、アンティキティーとホームランドでこのクリーチャーのよく似た亜種が3種類作られた後、数年後のミラディンではカウンターの上限や起動タイミングの制限が取り払われた亜種が作られた。それらはそもそもゼンマイを巻き直せなかったり、全く逆に戦闘中にすらゼンマイを巻くことができたり、巻くことができる回数に限界がなかったりと、正確さからは程遠い代物になったが、少なくともデザイナー側が手当たり次第に予防線を引いた《機械仕掛けの獣/Clockwork Beast》のような人為的な使いづらさは払拭されている。
《機械仕掛けの獣/Clockwork Beast》から得られる教訓は、おそらくこのようなものだろう——正しさと楽しさを天秤にかけるなら、必ず後者を取るべし。デザイナーは「間接的フレイバー」の美学の奴隷になってはならない。
しかしながら、黎明期のマジックにはこうした過剰に正確なフレイバーがあふれていたのだ。《機械仕掛けの獣/Clockwork Beast》の亜種のみならず、機体の先祖である《Phantasmal Mount》や《Heart Wolf》にも、かつてのR&Dにとってのフレイバーの性質がよく表れている。
ボールドウィアの威嚇者
《巨大戦車/Juggernaut》から約14年後、未来予知で《ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator》が印刷された。未来から来た(という設定の)このカードは、そのわずか翌年のモーニングタイドで再録された。しかしながら、このカードが「直接的フレイバー」にもたらした変化は、モーニングタイドよりもさらに先の未来を変えたように思えてならない。
このカードのテキストは画期的だ。伝統的なマジックのカードでは、クリーチャーにブロック制限を与えたければ(当然ながら)クリーチャーにブロック制限を与える。ところが、このカードは代わりにクリーチャーを臆病者という専用のクリーチャー・タイプにし、別な常在型能力で改めて臆病者にブロック制限を与えるという奇妙な方法を用いている。
《ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator》だけを見れば、こうした記述は見た目に楽しいだけで、不必要に回りくどいものに思える。しかしながら、このカードは「直接的フレイバー」を用いてオブジェクトに自由に呼び名(臆病者)がつけられることを発見し、新しいメカニズムへの応用可能性を提示した。そして、それはモーニングタイドのはるか未来のマジックで頻繁に使われる技術となった。
もうひとつ、このカードに興味深い点があるとすれば、R&Dがそうしたフレイバーによる遊びを自覚的に始めたという点だろう。新しいカードを作るために、新しい文体を使ってもよい。これもまた、《ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator》が発見した重要な事実だ。
数
ハイ・ファンタジーの世界を表現するために、誰が数を使うことを思いつくだろうか? これらのカードは、フレイバーに満ちたテキストを作るために、文学的な言葉どころかたった2つの数字が役に立つことを示す事例だ。
こうした手法の興味深い点は、カードの効果の範囲を操作してフレイバーを表している(おそらく「間接的フレイバー」に分類できる)にもかかわらず、効果の全体像には何ら影響がないことだ。機能的には、陰鬱を達成した《悲劇的な過ち/Tragic Slip》が《殺害/Murder》になってはならない理由はない。多少の差に目をつぶれば、2つの効果はどちらもクリーチャーを確実に死亡させるもので、13という数がゲームに意味のある影響を与えることはほとんどない。
しかし、《悲劇的な過ち/Tragic Slip》で数を使うことは、単にクリーチャーを破壊することよりも明らかにフレイバーにあふれた行為だ。典型的なホラー映画では、前半の楽しげな人物紹介が終わると脚本家が次々に彼らを葬っていく時間帯が始まり、スクリーンに映った役者の些細な行動すべてが彼らの命に関わるものになる。陰鬱の後に書かれた13という数は、カードの背景にあるこうした文脈を連想させるには十分すぎるものだ。
余談だが、フレイバーのために数を使うことは、どこか必要以上に効果を大げさに感じさせる性質がある。《百手巨人/Hundred-Handed One》がブロックできるクリーチャーは《希望の化身/Avatar of Hope》よりもずっと少ないはずだが、《百手巨人/Hundred-Handed One》の方がばかげたカードに感じられるのは不思議なことだ。マジックのユーザーにとっては、13や99よりも無限大の方がより身近な概念なのかもしれない。
(後編に続く)
私がタルキール覇王譚でマジックに復帰したとき、特に驚いたのは新時代のマジックにおけるフレイバーの扱いだった。私の記憶の中のかつてのマジックでは、新しいエキスパンションを作ることは新しいメカニズムを打ち出すこととほとんど同義であり、アラビアンナイトやポータル三国志、神河物語といった少数の例外を除いて、新しいセットは対戦ゲームとしてのマジックを更新するためだけに存在していた(ように感じられた)。
もちろん、現在のマジックにも同じような傾向は存在するし、かつてのマジックがフレイバーに乏しかったわけでもない。しかし、それでも現在のマジックが以前に比べてずっと多様な方法でフレイバーを扱っているのは明らかな事実だ。
とはいえ、私は新時代のマーケティング手法(ストーリーをウェブサイトで公開したり、キャラクター製品を販売したり、新しいカードのプレビューのために謎解きゲームを用意したりすること)に感心したわけではない。私はあくまでカードの中のフレイバーに感銘を受けたのであり、その進化に驚いたのだ。
この記事の題名には「メルヴィン的」とあるので、誤解を招かないようにその意味を詳しく説明する必要があるだろう。この題名に至った経緯には、今回私が取り扱うテーマの性質がよく表れている。
よく知られているように、R&Dはプレイヤー類型という概念を用いて、マジックのプレイヤーを心理学的な側面からティミー、ジョニー、スパイクという3種類に、そして美学的な側面からヴォーソスとメルヴィンという2種類に分類している。これらのうち、ヴォーソスという類型はDaily MTGのライターでもあったアーティストのMatt Cavottaが考案したものだ。
Matt Cavottaの記事※1では、ヴォーソスは(やや誇張されて)以下のように紹介されている。
ヴォーソスっていったいなんだ?
ヴォーソス(彼の本当の名前はジョンだけど、仲間にすでにジョニーがいたので、彼は16レベルのハーフエルフのレンジャー/ウォーメイジの名前を使うことにした)は「正しくないから」という理由でデッキに同じ伝説のカードを2枚以上入れようとしない人物だ。
彼は、それを「Bone Crank」と呼びたいがために、アイスエイジ版の《氷の干渉器/Icy Manipulator》を使う人だ。彼はフォールン・エンパイアの劣悪な絵違いのカードを使おうとしない。ヴォーソスは絵が好きでカードを集め出し、マジックの小説を読み、カードの中にお気に入りのキャラクターが登場しているのを見て、遊び方を学んだ人だ。世の中にはたくさんのヴォーソスがいる。カードは集めるが、たぶんプレイはしない人。自分のカードにアーティストのサインをもらうのを楽しみにする人。結末がばらされてしまうのを恐れて、小説を読み終えるまでフレイバー・テキストを読まない人。ヴォーソスはマジックについて、プレイしていないときでも楽しめるものだと理解している。
そして、この記事に書かれたヴォーソスの美学的な鏡像としてマローが新たに設定したのが、メルヴィン(メル)という類型だ。
当初、私はこの記事を「ヴォーソス的」から始まる題名で構想していたが、ある時点で私が書こうとしているものがMatt Cavottaやマローのいう「ヴォーソス的」なるものからあまりにかけ離れていることに気づいた。私はフレイバーについて書きたいと思っているが、フレイバー・テキストについて書きたいわけではない。また、ヴォーソスを喜ばせるような素晴らしくフレイバーに満ちたカードのリストを作ることも今回の目的ではない(それ自体は有意義な行為だ)。
端的に述べるなら、マジックに復帰した私を驚かせたのは、フレイバーそのものではなくフレイバーをメカニズムとして扱う技術の進歩だったのだ。つまり、どんなフレイバーやストーリーを表現しているかということではなく、どのようにフレイバーやストーリーを表現しているかということが、昔とは比べものにならないほど高度になっていると感じたのだ。
たとえるなら、絵画に描かれた世界ではなく、絵画の材料である絵の具について書くのがこの記事の主旨だ。そして、絵の具の技術的進歩を時系列順に整理することによって新しい時代の絵画の特徴について議論することができるようになれば、私の構想は概ね達成されたことになる。
念のため申し上げておくと、私はフレイバーそのものに興味がないわけではなく、マジックのストーリーを追いかけ、尊敬するアーティストが何人もいるという程度にはヴォーソス的だ(ヴォーソスとメルヴィンは対立概念ではなく、両立可能な態度だとマローも述べている※2)。しかし、今回の記事の内容はフレイバーを愛でる行為とは明らかに異なるため、メルヴィン的なフレイバーという矛盾した響きを持つテーマ設定になった。私はこれが矛盾しているとは思っていないが、もしもあなたがこの記事を読んで別な考えを持ったなら、ぜひその意見を聞かせてほしい。
※1……https://magic.wizards.com/en/articles/archive/snack-time-vorthos-2005-08-31(Snack Time with Vorthos)
※2……https://mtg-jp.com/reading/mm/0015666/(ヴォーソスとメル(メルヴィン)
/Vorthos and Mel)
名前
稲妻/Lightning Bolt (赤)
インスタント LEA, コモン
クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。稲妻はそれに3点のダメージを与える。
ジェイムデー秘本/Jayemdae Tome (4)
アーティファクト LEA, アンコモン
(4),(T):カードを1枚引く。
もはや疑問にすら思われないこととして、あらゆるマジックのカードには名前が書かれている。カードには名前がなければならないというこの原則は、マジックの子孫と呼べるゲームにはほとんど間違いなく受け継がれているが、卓上ゲームの世界全体から見れば、こうした原則は特に普遍的なものではない。名前の代わりに通し番号が書かれたカード、アイコンが描かれたカード、あるいはそれすらもなく、絵だけが描かれたカードなど、マジックとは異なる設計思想のカードを使うゲームは数えきれないほど存在する。
ならば、どうしてマジックのカードには名前が書かれているのだろうか? ごく単純には、それが無限に拡張されうるゲームだからだろう。1万8000種類を超える(そしてこれからも増え続けていく)マジックのカードに全く名前が書かれていないという世界は、想像するだけで悪夢そのものだ。
ところで、カードの名前にはカード同士を区別するという基本の機能に加えて、カードが表している背景世界の事物を示すという機能もある。たとえば、《稲妻/Lightning Bolt》がもたらす3点のダメージは、炎によるダメージでもなければ、鈍器によるダメージでもない。それは放電現象によるものでしかありえず、その理由はカードの名前にそう書いてあるからだ。
多くの場合、名前はカードにフレイバーという情報をつけ加えているだけではなく、むしろ情報を整理してプレイヤーの理解を助ける役割を果たしている。あるカードを場に出すと、1ターンに1度、4つの資源を支払って1枚のカードを手に入れることができるようになる。こうした抽象的な説明を補助するために、マジックでは伝統的に《ジェイムデー秘本/Jayemdae Tome》といった名前を使う。このカードの名前には、これを持っているだけでは効果がないこと、読み解くには労力が必要なこと、何度も繰り返し読めることといった多くの情報が圧縮されている。
銀枠世界を除けば、マジックのカードやデッキや勝利点は、マジックの背景にあるファンタジー世界の事物に可能な限り翻訳されなければならない。そして、その最も基本的な表現形式がカードの名前なのだ。
恐怖
恐怖/Terror (1)(黒)
インスタント LEA, コモン
アーティファクトでも黒でもないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
私の考えでは、フレイバーをデザインに活用するとき、それは大まかに2つの方向性に分けられる。《恐怖/Terror》はそのうちのひとつを象徴するカードだ。
《恐怖/Terror》を初めて手にするユーザーは、まずルール文章としてこのカードのテキストを読み、不思議な対象制限があるものの、多くの脅威に対処できる除去呪文だと認識する。そして、改めてこのいびつな制限の意味を考える。アーティファクト・クリーチャーと黒いクリーチャーに共通する要素とは何か? この呪文はどのようにしてクリーチャーを絶命させるのだろうか?
次の瞬間、ユーザーはこの呪文がクリーチャーの恐怖心を煽って息の根を止めるのだと理解する。機械には感情がなく、怪物は怪物に恐怖心を抱かないため、《恐怖/Terror》で倒すことができないのだ。そして最後には、単なる用語の羅列に見えていたこのテキストが、意外にも芳醇なフレイバーを持っていたことに思い至る。
すべてのユーザーが同じように考えるわけではないが、《恐怖/Terror》に描かれたフレイバーは概ねこのような構造を持っている。すなわち、このカードが持っているゲーム上の機能が、結果的にユーザーの頭の中にフレイバーを呼び起こすのだ。
《恐怖/Terror》のテキストのそれぞれの語句は紛れもないルール用語であり、単純にこのカードの挙動が書かれているにすぎない。しかしながら、このカードがゲームでなすことから総合的に類推すると、結果的にこのカードが何を意図して作られたものなのかが明らかになる。
このような方法で描かれるフレイバーを、ここでは便宜的に「間接的フレイバー」と呼ぶことにしたい。この手法は珍しいものではなく、むしろ黎明期からあるきわめて基本的なフレイバーの表し方だといえる(飛行もそのひとつだ)。ユーザーは、カードに書かれた言葉自体ではなく、カードがどのように動くかによってフレイバーを認識する。フレイバーに対するこの機能主義的な態度は、程度の差こそあれ、現在に至るまでのあらゆるセットで見られるものだ。
サブタイプ
巨大戦車/Juggernaut (4)
アーティファクト・クリーチャー ― 巨大戦車 LEA, アンコモン
各戦闘で、巨大戦車は可能なら攻撃する。
巨大戦車は壁によってはブロックされない。
5/3
津波/Tsunami (3)(緑)
ソーサリー LEA, アンコモン
すべての島を破壊する。
《恐怖/Terror》に代表される「間接的フレイバー」の対極にあるものは? 私の考えでは、それは《巨大戦車/Juggernaut》や《津波/Tsunami》だ。
巨大戦車は壁によっては妨げられ(ブロックされ)ない、すべての島を破壊する、といったテキストは、ルール用語であると同時にマジックの外の世界でも通用する自然言語でもある。こうした離れ業が可能なのは、これらのカードが壁や島という作為的に選ばれたサブタイプを参照しているからだ。
「間接的フレイバー」と比較してみると、《巨大戦車/Juggernaut》や《津波/Tsunami》が表しているフレイバーには、ルール文章との距離がほとんど存在しない。《巨大戦車/Juggernaut》は壁で防ぐことができない機械であり、カードにもそう書いてある。《津波/Tsunami》は島をことごとく破壊する呪文であり、カードにもそう書いてある。こうしたカードはあたかもゲームで実際に機能するフレイバー・テキストを持つかのようであり、遠回しなルールの読解力を必要としない。そのため、「直接的フレイバー」と呼ぶにふさわしい。
しかしながら、「直接的フレイバー」は、美しい見た目に反して非常に扱いづらい。ドミナリアで再録された《巨大戦車/Juggernaut》の下の段落が実際にゲームで起こすことは何か? おそらく、このセットでただ1種類の壁である《悠久の壁/Amaranthine Wall》に対峙したときと、相手のクリーチャーを《氷結/Deep Freeze》させたときにわずかに得をするだけだろう。ならば《津波/Tsunami》は? 破壊的すぎて現代のマジックには受け入れられない。
この種のフレイバーはコントロールが難しく、美しさと楽しさが同居することは奇跡に近い。とはいえ、私が見る限り、R&Dは現在に近づくほど「直接的フレイバー」を有効に扱えるようになっている。
機械仕掛けの獣
機械仕掛けの獣/Clockwork Beast (6)
アーティファクト・クリーチャー ― ビースト LEA, レア
機械仕掛けの獣はその上に+1/+0カウンターが7個置かれた状態で戦場に出る。
戦闘終了時に、この戦闘で機械仕掛けの獣が攻撃かブロックした場合、それから+1/+0カウンターを1個取り除く。
(X),(T):機械仕掛けの獣に+1/+0カウンターを最大X個まで置く。この能力は、機械仕掛けの獣の上の+1/+0カウンターの総数を8個以上にすることはできない。 この能力は、あなたのアップキープの間にのみ起動できる。
0/4
ルール用語による詩である「間接的フレイバー」の例に漏れず、《機械仕掛けの獣/Clockwork Beast》に書かれた長いテキストは、それぞれがゼンマイ式自動機械の挙動をマジックに再現するために設定されている。最初期のアーティファクトを象徴するこのクリーチャーは、同時に「間接的フレイバー」の偉大なる反面教師でもある。
《機械仕掛けの獣/Clockwork Beast》のようなデザインの欠点は、正確を期すために大量の例外則を書く必要があることだ。結局、アンティキティーとホームランドでこのクリーチャーのよく似た亜種が3種類作られた後、数年後のミラディンではカウンターの上限や起動タイミングの制限が取り払われた亜種が作られた。それらはそもそもゼンマイを巻き直せなかったり、全く逆に戦闘中にすらゼンマイを巻くことができたり、巻くことができる回数に限界がなかったりと、正確さからは程遠い代物になったが、少なくともデザイナー側が手当たり次第に予防線を引いた《機械仕掛けの獣/Clockwork Beast》のような人為的な使いづらさは払拭されている。
《機械仕掛けの獣/Clockwork Beast》から得られる教訓は、おそらくこのようなものだろう——正しさと楽しさを天秤にかけるなら、必ず後者を取るべし。デザイナーは「間接的フレイバー」の美学の奴隷になってはならない。
しかしながら、黎明期のマジックにはこうした過剰に正確なフレイバーがあふれていたのだ。《機械仕掛けの獣/Clockwork Beast》の亜種のみならず、機体の先祖である《Phantasmal Mount》や《Heart Wolf》にも、かつてのR&Dにとってのフレイバーの性質がよく表れている。
ボールドウィアの威嚇者
ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator (5)(赤)(赤)
クリーチャー ― 巨人・戦士 FUT, アンコモン
臆病者は戦士をブロックできない。
(赤):クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで臆病者になる。
(2)(赤):クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで戦士になる。
5/5
《巨大戦車/Juggernaut》から約14年後、未来予知で《ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator》が印刷された。未来から来た(という設定の)このカードは、そのわずか翌年のモーニングタイドで再録された。しかしながら、このカードが「直接的フレイバー」にもたらした変化は、モーニングタイドよりもさらに先の未来を変えたように思えてならない。
このカードのテキストは画期的だ。伝統的なマジックのカードでは、クリーチャーにブロック制限を与えたければ(当然ながら)クリーチャーにブロック制限を与える。ところが、このカードは代わりにクリーチャーを臆病者という専用のクリーチャー・タイプにし、別な常在型能力で改めて臆病者にブロック制限を与えるという奇妙な方法を用いている。
《ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator》だけを見れば、こうした記述は見た目に楽しいだけで、不必要に回りくどいものに思える。しかしながら、このカードは「直接的フレイバー」を用いてオブジェクトに自由に呼び名(臆病者)がつけられることを発見し、新しいメカニズムへの応用可能性を提示した。そして、それはモーニングタイドのはるか未来のマジックで頻繁に使われる技術となった。
もうひとつ、このカードに興味深い点があるとすれば、R&Dがそうしたフレイバーによる遊びを自覚的に始めたという点だろう。新しいカードを作るために、新しい文体を使ってもよい。これもまた、《ボールドウィアの威嚇者/Boldwyr Intimidator》が発見した重要な事実だ。
数
悲劇的な過ち/Tragic Slip (黒)
インスタント DKA, コモン
クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで-1/-1の修整を受ける。
陰鬱 ― このターン、クリーチャーが死亡していた場合、代わりにそのクリーチャーはターン終了時まで-13/-13の修整を受ける。
百手巨人/Hundred-Handed One (2)(白)(白)
クリーチャー ― 巨人 THS, レア
警戒
(3)(白)(白)(白):怪物化3を行う。(このクリーチャーが怪物的でない場合、これの上に+1/+1カウンターを3個置く。これは怪物的になる。)
百手巨人が怪物的であるかぎり、これは到達を持つとともに、各戦闘でさらに99体のクリーチャーをブロックできる。
3/5
ハイ・ファンタジーの世界を表現するために、誰が数を使うことを思いつくだろうか? これらのカードは、フレイバーに満ちたテキストを作るために、文学的な言葉どころかたった2つの数字が役に立つことを示す事例だ。
こうした手法の興味深い点は、カードの効果の範囲を操作してフレイバーを表している(おそらく「間接的フレイバー」に分類できる)にもかかわらず、効果の全体像には何ら影響がないことだ。機能的には、陰鬱を達成した《悲劇的な過ち/Tragic Slip》が《殺害/Murder》になってはならない理由はない。多少の差に目をつぶれば、2つの効果はどちらもクリーチャーを確実に死亡させるもので、13という数がゲームに意味のある影響を与えることはほとんどない。
しかし、《悲劇的な過ち/Tragic Slip》で数を使うことは、単にクリーチャーを破壊することよりも明らかにフレイバーにあふれた行為だ。典型的なホラー映画では、前半の楽しげな人物紹介が終わると脚本家が次々に彼らを葬っていく時間帯が始まり、スクリーンに映った役者の些細な行動すべてが彼らの命に関わるものになる。陰鬱の後に書かれた13という数は、カードの背景にあるこうした文脈を連想させるには十分すぎるものだ。
余談だが、フレイバーのために数を使うことは、どこか必要以上に効果を大げさに感じさせる性質がある。《百手巨人/Hundred-Handed One》がブロックできるクリーチャーは《希望の化身/Avatar of Hope》よりもずっと少ないはずだが、《百手巨人/Hundred-Handed One》の方がばかげたカードに感じられるのは不思議なことだ。マジックのユーザーにとっては、13や99よりも無限大の方がより身近な概念なのかもしれない。
(後編に続く)
欠色
私が最初に戦乱のゼンディカーについて書いたとき※1、その目的は魅力に乏しい能力である嚥下を有意義なものに変えることだった。その課題は前回までの記事で概ね達成されたと感じているが、このセットには未だ無意味な能力が残されている。章題が示す通り、それは欠色だ。
マローによるデザイン演説※2やストーム値に関する記事※3には、この能力が生まれるに至った経緯とその評価が書かれている。それによると、欠色はあるカードがエルドラージのものであるということを表すための目印であり、かつて使った部族というメカニズムの代替物としてこのブロックに欠かせないものだという。ところが、それがキーワード能力の姿をしているせいでユーザーの不満を買ったため、再登場することがあれば欠色をルール文章の中に「書き下す」ことになるらしい。
確かに、キーワード能力や能力語をデザインすることは、セットが注目しているものを総合ルールに直接書き加える行為であるため、その他の要素のデザインに比べてやや責任の重い工程だといえる。したがって、マローが述べた通り、欠色を現実に印刷されたものよりもわずかに目立たないようにするだけで、この能力を目にして落胆するユーザーを実際よりもずっと少なくすることができたに違いない。
しかしながら、仮に欠色をテキストの中に「書き下す」ことになったとしても、このメカニズムの欠点が完全に消えるわけではない。私の考えでは、欠色の本質的な問題とは有色のカードを無色にするという矛盾した性質それ自体にあり、能力の外見は枝葉末節にすぎない。
思うに、マジックの基本原則をないがしろにしてまで欠色を使うのであれば、R&Dはその対価に見合うデザイン上の必然性をユーザーに示す必要があったのだ。現状では、欠色はデザイナーのための都合のいい道具にすぎず、エルドラージとその呪文を識別するという小さな目的のために、あまりにも大きな法則を乱しているように見える。
とはいえ、私は欠色を嚥下のように戦乱のゼンディカー・ブロックから削除するべきだとは思わない。この記事での私の目的は、現状では単なる目印にすぎない欠色を、(本当の意味で)メカニズムにすることだ。そして、そのためには欠色自体に手を加える必要はないと思われる。
※1……http://casualmtg.diarynote.jp/201602271838453600/
※2…… http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0017420/(デザイン演説2016/State of Design 2016)
※3……http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0018047/(ストーム値:『ゼンディカー』『戦乱のゼンディカー』ブロック/Storm Scale: Zendikar and Battle for Zendikar)
無色、欠色、有色
エルドラージというクリーチャー・タイプの代用品として生み出された欠色は、にもかかわらず他ならぬ色に関する能力でもある。戦乱のゼンディカー・ブロックの完結を経てもなお、サブタイプとも色ともつかないこの奇妙なねじれの意味が回収されることはなく、この能力の周囲にあるデザイン空間は、今やR&Dの失敗の歴史のひとつとして葬り去られようとしている。
デュエルデッキで欠色が《殺戮の先陣/Forerunner of Slaughter》や《威圧ドローン/Dominator Drone》とともに公開されたとき、私はR&Dがきわめて難しいことに挑戦しているのだと感じた。この能力は何もしないように見えるものの、キーワードと専用の枠まで用意されているのだから、何か隠されたデザイン的魅力があるに違いない。この常識はずれの、無意味な、自己矛盾した能力に見合うだけのデザインとはいかなるものなのか?
私はその先のプレビュー・ウィークが素晴らしいものになることを期待していたが、周知の通りそれは肩透かしに終わり、ついにはこの能力が単なる目印でしかないことが明かされた。私はしばらくの間落胆していたが、少し経つとR&Dは何をするべきだったのかを考えるようになった(そしてこのブログを作った)。
現在の私はというと、欠色を目印以上の存在に変えるためにするべきことはそれほど多くないと考えている。そのためには、戦乱のゼンディカー・ブロックに数えきれないほど存在する欠色のカードと無色を参照するカードの中に、欠色をメルヴィン的に感じさせるカードをわずかに加えるだけで済むはずだ。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157462474869/a-drone-that-turns-completely-colorless
これは非常に乱暴なアイデアで、パワー・レベルに至っては不適切ですらあるかもしれない——が、それでも上記の私の発想を最も端的に表したカードだといえる。《骨ばった強兵/Bony Trooper》は、他の欠色を持つカードに(本来存在しないはずの)デザイン的な役割を与えるというアイデアの荒削りな試作品だ。
《骨ばった強兵/Bony Trooper》のようなカードが採用された世界では、欠色は相変わらず単体では何もしないものの、2枚集まると特定の欠色のカードを劇的に軽くするという新たな役割を得る。さらに重要なのは、このカードを唱えるために有色のマナが不要になり、欠色の《骨ばった強兵/Bony Trooper》が名実ともに完全な無色のカードに変化することだ。そのため、あらゆる欠色のカードが、特定の欠色のカードを無色にするというメルヴィン的な存在価値を手に入れることになる。
こうしたデザインを指すR&Dの用語があるかどうかはわからないが、もしも存在しないのであれば「事後正当化」デザインとでも名づけてみたい。《骨ばった強兵/Bony Trooper》は実際に欠色の後に作られており、それがなければ生み出されることのなかったアイデアだが、矛盾に満ちた欠色の性質が(デザイナーの気まぐれではなく)周到な計画に基づいているかのように錯覚させる働きをしている。
余談だが、プレイヤーに呪文を何度も唱えさせてマナ・コストを軽くするという点で、《骨ばった強兵/Bony Trooper》はゲートウォッチの誓いの怒濤によく似ている。私はこのカードを怒濤に近づけすぎないためにマナ・コストを(0)ではなく(4)に変えるアイデアも検討したが、マナの色を補助する能力はエルドラージにふさわしくないという考えから採用しなかった。結局、かつてのエルドラージ・カード(《この世界にあらず/Not of This World》など)を想起させるという理由で、また、なによりも能力の派手さから、《骨ばった強兵/Bony Trooper》は新たなエルドラージのピッチスペルになり、同時にきわめて危険なカードになった。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157506787952/which-is-appropriate-for-bfz-maro-said-the
特定のアーキタイプを補助するカードを作るために、ときにはデメリットが必要になることもある。《荒廃の耕作者/Blight Cultivator》はインベイジョンの《翡翠のヒル/Jade Leech》が持つ能力をより過激にして作られたカードだ。
非常に短いテキストながら、このカードが欠色を「事後正当化」する働きは申し分ない。《荒廃の耕作者/Blight Cultivator》は、唱えられる際に緑マナを要求するものの、戦場に出た後はデッキに入っているあらゆる緑のカードを唱えられなくしてしまう。しかしながら、この能力は緑マナを要求する欠色のカードには全く影響しないため、《荒廃の耕作者/Blight Cultivator》は欠色ばかりを詰め込んだデッキを組むよう遠回しにユーザーに働きかけるカードになっている。
興味深いのは、このカードと同時代の緑を含む楔のカード(《包囲サイ/Siege Rhino》など)が相容れない反面、色を増やす戦略との相性は決して悪くないということだ。戦乱のゼンディカーが加わることで、スタンダード環境はかつてないほど多色化が進んだが、このカードが持つデメリットはタルキール覇王譚ブロックで成立したものとは別な方向性の多色のデッキを生んだ可能性がある。
緑のカードを唱えられなくするというアイデアを飛躍させて、レジェンドの《Quarum Trench Gnomes》に似た方法で緑マナを無色に変えるバージョンも試みた。結果として、新しいテキストでは欠色を「事後正当化」することはできなくなったが、次のセットの無色マナをコストに持つエルドラージとシナジーを形成するようになった。
最初のバージョンのように欠色のデッキを補助することはなくなったものの、依然として《荒廃の耕作者/Blight Cultivator》は欠色がどのような存在で、なぜ無色「そのもの」ではないのかを(どちらかというとヴォーソス的に)説明する役割を果たしている。プレイヤーは欠色を持つカードのために有色のマナを支払うが、どういうわけかそのマナは脱色され、唱えられた呪文は無色になってしまう。それは、彼らがエルドラージの巨人の到来に備えて有色のマジックの世界を無色に変える工兵だからであり、そうした彼らの破壊活動の瞬間をとらえたのがこの《荒廃の耕作者/Blight Cultivator》なのだ。
無色、単色、多色
ところで、私が欠色について考えるときには、新たなるファイレクシアで登場したファイレクシア・マナのことが念頭にある。発売から6年以上が経った今でもこのメカニズムには(パワー・レベルやカラー・パイの問題から)賛否両論があるが、私はこれをアーティファクトの次元のメカニズムとしてはこれ以上望めないものだと考えている。
ファイレクシア・マナが優れているのは、有色のアーティファクトにデザイン上の意義を与え、なおかつファイレクシア的に感じさせるという込み入ったデザイン上の問題を、たったひとつのアイデアでいとも簡単に解決してしまっているからだ。本来無色であるはずのアーティファクトになぜ色が必要なのかという問いに対して、それが無色と有色のマナ・コストを両方持っているからだ、と答えることよりも簡潔で腑に落ちる返答はありえない。加えて、そのためにプレイヤーの命という代替コストを要求することも、ミラディンの新たな支配者にふさわしい。
すでにエルドラージと追放について述べ、無色と欠色についても述べた私に作るべきカードが残されているとすれば、本質的には関連のないこれらの要素すべてをつなぎ合わせる、ファイレクシア・マナのようなデザインがそれにあたるだろう。印刷されたエルドラージの諸要素はトップダウン・デザインに近く、メカニズム的に整理されているとは言い難いが、ここまで示してきた通り、それらがすべて計算ずくで選ばれたかのように「事後正当化」することは決して不可能ではないはずだ。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157548838771/beat-the-wedge-decks
私がこの奇妙なテキストに至る過程で最初に考えたのは、無色と追放領域を結びつける仕組みだった。戦乱のゼンディカー・ブロックを除けば、マジックの歴史において無色と追放領域が特別に結びついていたことはない。かつて私は無色と追放領域の間のデザイン空間を調べたことがある※が、結局のところ特異な方法でカードを追放するテキストを見つけても、それが無色と不可分なものだと断言することはできなかった。
裏を返せば、それは無色と追放領域を関連づけるためには少々強引な手続きが必要だということを意味している。試行錯誤の末、私はもしも無色とカードを追放する効果が分かち難い関係だったなら、という(事実に反する)仮定を置くことにした。マジックの世界の必然的な現象として無色がカードを追放するのなら、おそらくその反対側では有色が別な効果を持っているはずだ。そして、その中間では色の数によって効果が段階的に設定されているに違いない。《超常的直観/Paranormal Intuition》で私が意図したのは、そうした現実にはありえない色の役割を、カードによって「捏造」することだった。
無色から多色に至るカラー・パイの階調はあくまで私が仮定したものにすぎないため、そうした複数の出力結果が得られるようにカードのテキストに細工をしなければならない。モードや条件節を持つ呪文にすることは簡単だったが、欠色をより明確に「事後正当化」するためには、無色にも有色にもなりうるひとつの効果を考えることが最善に思われた。その結果生まれたのが、クリーチャーの色を参照し、その数に応じてカラー・パイを決定する、この奇妙なインスタントである。
あなたが(エルドラージをはじめとする)無色のクリーチャーで攻撃しているときに唱えれば、《超常的直観/Paranormal Intuition》は対戦相手の手札を追放する無色の効果を持つ。反対に、あなたが対戦相手の有色のクリーチャーによって攻撃されているのなら、《超常的直観/Paranormal Intuition》は自分の手札を入れ替える青の伝統的な呪文に姿を変える。言うまでもなく、このカードが最も活躍するのはスタンダード環境でタルキール覇王譚の楔のクリーチャーと対峙した際で、わずかなマナで圧倒的な手札の優位をもたらしてくれることだろう。
《超常的直観/Paranormal Intuition》は決して美しくないアイデアで、テキストから何をするカードなのかを読み取ることすら難しい。しかしながら、無色と有色の効果を行き来する呪文ほど欠色にふさわしいものはなく、それでいて意外にも短いテキストにまとまったことから、私はこのカードをとても気に入っている。
※……http://casualmtg.diarynote.jp/201604070027176861/
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157590648752/beat-the-wedge-decks
無色から多色まで効果が段階的に変わるカードをデザインするためには、何かを追放する効果ともう片方の効果の間に何らかの関連性を与えることが必要になる。それを実現するための最も単純な方法は、《超常的直観/Paranormal Intuition》のように追放したオブジェクトを(色の数に応じて)補充することだが、そのデザイン空間は決して広くはない。私が考える限りでは、カードの形で存在しているオブジェクトのうち、簡単に増減させられるものは手札と土地が限界で、それ以上はデザイン上の危険が伴うと思われる。
こうした経緯から、私は《超常的発火/Paranormal Combustion》を作ることにした。追放するものは《超常的直観/Paranormal Intuition》と全く同じだが、追放したカードのマナ・コストを参照することで、無色の追放効果の反対側にカード以外のリソース(ダメージやライフなど)を扱う効果を置くことができる。
《超常的発火/Paranormal Combustion》はウルザズ・レガシーの《紅蓮術/Pyromancy》を思わせる火力呪文だ。本家(およびその亜種)との重要な違いは、対象になったクリーチャーの色の数によってマナ・コストを参照する回数が決まることで、多色のクリーチャーならばダメージが倍増し、無色のクリーチャーならばダメージが0になる。そのため、自分の無色のクリーチャーを対象にすれば、《超常的直観/Paranormal Intuition》と同じように無色のデッキ専用の手札破壊として運用することもできる。
最後につけ加えると、《超常的直観/Paranormal Intuition》と《超常的発火/Paranormal Combustion》が欠色を「事後正当化」する仕組みは《骨ばった強兵/Bony Trooper》によく似ている。すでに説明したように、これら2枚のカードは対象にしたクリーチャーの色の数によってカラー・パイを決定するため、欠色のクリーチャーを対象にすると無色の効果を得る。このことを裏返せば、対象となった欠色のクリーチャーが、(無色にも有色にもなりうる)これらのカードを名実ともに無色にしているということを意味する。
そして、それをより広い視野で見れば、このセットに含まれるあらゆる欠色のクリーチャーが、特定の欠色のカードを無色に変える役割を持っているということになる。仮に人々がそう納得してくれたなら、エルドラージ・ドローンが単なる目印として無色にされているのではなく、曲がりなりにもメルヴィン的な目的を与えられていると証明できたことになるだろう。
魅力的なメカニズム
横暴にも戦乱のゼンディカーのエルドラージに異を唱え、すでに発売から2年以上が経ったセットのカードを新たに20枚近くも考えるという不毛な行為を通して、私の頭に浮かんだひとつの考えがある。それは、メカニズムが失敗するときには、必ずデザインも失敗しているというものだ。
メカニズムはそれ単体で存在しているわけではなく、どんな形であれカードの中に書かれている。それゆえ、たとえメカニズムを作る過程で失敗したとしても、それをカードの形に仕上げる段階において、常にメカニズムの失敗を補うだけの魅力的なデザインを発明する余地が残されている。
今回のテーマである、欠色を「事後正当化」するカード群もそれを目的に作られたものだが、現実に印刷されたカードにも同様の例は存在する。たとえば、破滅の刻きっての優秀なクリーチャーである《機知の勇者/Champion of Wits》は、ニコル・ボーラスが秘密の目的のためにミイラの軍隊を作り出すことを示した、トップダウン的で必然性の薄いキーワード能力の細部を利用して、カードの側でメカニズムを意義あるものに変化させた例だといえる。
優れたメカニズムが用意されているのなら、魅力的なカードを作ることはたやすい。反対に、メカニズムに問題があるのなら、それを使うデザイナーにはいっそうの工夫が求められる。
おそらく、これこそがこの失敗だらけのセットに私が2年以上も固執している理由なのだろう。メカニズムが失敗しているときにこそ、想像力が必要とされ、そして私はカードを想像することが趣味のユーザーなのだ。
すなわち、誠に傲慢ながら、私にとって戦乱のゼンディカーのメカニズムは魅力的なのだ。たとえそれがいかに魅力的でないとしても。
私が最初に戦乱のゼンディカーについて書いたとき※1、その目的は魅力に乏しい能力である嚥下を有意義なものに変えることだった。その課題は前回までの記事で概ね達成されたと感じているが、このセットには未だ無意味な能力が残されている。章題が示す通り、それは欠色だ。
マローによるデザイン演説※2やストーム値に関する記事※3には、この能力が生まれるに至った経緯とその評価が書かれている。それによると、欠色はあるカードがエルドラージのものであるということを表すための目印であり、かつて使った部族というメカニズムの代替物としてこのブロックに欠かせないものだという。ところが、それがキーワード能力の姿をしているせいでユーザーの不満を買ったため、再登場することがあれば欠色をルール文章の中に「書き下す」ことになるらしい。
確かに、キーワード能力や能力語をデザインすることは、セットが注目しているものを総合ルールに直接書き加える行為であるため、その他の要素のデザインに比べてやや責任の重い工程だといえる。したがって、マローが述べた通り、欠色を現実に印刷されたものよりもわずかに目立たないようにするだけで、この能力を目にして落胆するユーザーを実際よりもずっと少なくすることができたに違いない。
しかしながら、仮に欠色をテキストの中に「書き下す」ことになったとしても、このメカニズムの欠点が完全に消えるわけではない。私の考えでは、欠色の本質的な問題とは有色のカードを無色にするという矛盾した性質それ自体にあり、能力の外見は枝葉末節にすぎない。
思うに、マジックの基本原則をないがしろにしてまで欠色を使うのであれば、R&Dはその対価に見合うデザイン上の必然性をユーザーに示す必要があったのだ。現状では、欠色はデザイナーのための都合のいい道具にすぎず、エルドラージとその呪文を識別するという小さな目的のために、あまりにも大きな法則を乱しているように見える。
とはいえ、私は欠色を嚥下のように戦乱のゼンディカー・ブロックから削除するべきだとは思わない。この記事での私の目的は、現状では単なる目印にすぎない欠色を、(本当の意味で)メカニズムにすることだ。そして、そのためには欠色自体に手を加える必要はないと思われる。
※1……http://casualmtg.diarynote.jp/201602271838453600/
※2…… http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0017420/(デザイン演説2016/State of Design 2016)
※3……http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0018047/(ストーム値:『ゼンディカー』『戦乱のゼンディカー』ブロック/Storm Scale: Zendikar and Battle for Zendikar)
無色、欠色、有色
エルドラージというクリーチャー・タイプの代用品として生み出された欠色は、にもかかわらず他ならぬ色に関する能力でもある。戦乱のゼンディカー・ブロックの完結を経てもなお、サブタイプとも色ともつかないこの奇妙なねじれの意味が回収されることはなく、この能力の周囲にあるデザイン空間は、今やR&Dの失敗の歴史のひとつとして葬り去られようとしている。
デュエルデッキで欠色が《殺戮の先陣/Forerunner of Slaughter》や《威圧ドローン/Dominator Drone》とともに公開されたとき、私はR&Dがきわめて難しいことに挑戦しているのだと感じた。この能力は何もしないように見えるものの、キーワードと専用の枠まで用意されているのだから、何か隠されたデザイン的魅力があるに違いない。この常識はずれの、無意味な、自己矛盾した能力に見合うだけのデザインとはいかなるものなのか?
私はその先のプレビュー・ウィークが素晴らしいものになることを期待していたが、周知の通りそれは肩透かしに終わり、ついにはこの能力が単なる目印でしかないことが明かされた。私はしばらくの間落胆していたが、少し経つとR&Dは何をするべきだったのかを考えるようになった(そしてこのブログを作った)。
現在の私はというと、欠色を目印以上の存在に変えるためにするべきことはそれほど多くないと考えている。そのためには、戦乱のゼンディカー・ブロックに数えきれないほど存在する欠色のカードと無色を参照するカードの中に、欠色をメルヴィン的に感じさせるカードをわずかに加えるだけで済むはずだ。
骨ばった強兵/Bony Trooper (3)(赤)
クリーチャー ― エルドラージ・ドローン
欠色(このカードは無色である。)
このターン、あなたが2つ以上の無色の呪文を唱えていた場合、あなたは骨ばった強兵のマナ・コストを支払うのではなく(0)を支払ってもよい。
速攻
3/2
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157462474869/a-drone-that-turns-completely-colorless
これは非常に乱暴なアイデアで、パワー・レベルに至っては不適切ですらあるかもしれない——が、それでも上記の私の発想を最も端的に表したカードだといえる。《骨ばった強兵/Bony Trooper》は、他の欠色を持つカードに(本来存在しないはずの)デザイン的な役割を与えるというアイデアの荒削りな試作品だ。
《骨ばった強兵/Bony Trooper》のようなカードが採用された世界では、欠色は相変わらず単体では何もしないものの、2枚集まると特定の欠色のカードを劇的に軽くするという新たな役割を得る。さらに重要なのは、このカードを唱えるために有色のマナが不要になり、欠色の《骨ばった強兵/Bony Trooper》が名実ともに完全な無色のカードに変化することだ。そのため、あらゆる欠色のカードが、特定の欠色のカードを無色にするというメルヴィン的な存在価値を手に入れることになる。
こうしたデザインを指すR&Dの用語があるかどうかはわからないが、もしも存在しないのであれば「事後正当化」デザインとでも名づけてみたい。《骨ばった強兵/Bony Trooper》は実際に欠色の後に作られており、それがなければ生み出されることのなかったアイデアだが、矛盾に満ちた欠色の性質が(デザイナーの気まぐれではなく)周到な計画に基づいているかのように錯覚させる働きをしている。
余談だが、プレイヤーに呪文を何度も唱えさせてマナ・コストを軽くするという点で、《骨ばった強兵/Bony Trooper》はゲートウォッチの誓いの怒濤によく似ている。私はこのカードを怒濤に近づけすぎないためにマナ・コストを(0)ではなく(4)に変えるアイデアも検討したが、マナの色を補助する能力はエルドラージにふさわしくないという考えから採用しなかった。結局、かつてのエルドラージ・カード(《この世界にあらず/Not of This World》など)を想起させるという理由で、また、なによりも能力の派手さから、《骨ばった強兵/Bony Trooper》は新たなエルドラージのピッチスペルになり、同時にきわめて危険なカードになった。
荒廃の耕作者/Blight Cultivator (2)(緑)
クリーチャー ― エルドラージ・ドローン
欠色(このカードは無色である。)
あなたは緑の呪文を唱えられない。
荒廃の耕作者のパワーとタフネスはそれぞれ、あなたの手札にあるカードの総数に等しい。
*/*
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157506787952/which-is-appropriate-for-bfz-maro-said-the
特定のアーキタイプを補助するカードを作るために、ときにはデメリットが必要になることもある。《荒廃の耕作者/Blight Cultivator》はインベイジョンの《翡翠のヒル/Jade Leech》が持つ能力をより過激にして作られたカードだ。
非常に短いテキストながら、このカードが欠色を「事後正当化」する働きは申し分ない。《荒廃の耕作者/Blight Cultivator》は、唱えられる際に緑マナを要求するものの、戦場に出た後はデッキに入っているあらゆる緑のカードを唱えられなくしてしまう。しかしながら、この能力は緑マナを要求する欠色のカードには全く影響しないため、《荒廃の耕作者/Blight Cultivator》は欠色ばかりを詰め込んだデッキを組むよう遠回しにユーザーに働きかけるカードになっている。
興味深いのは、このカードと同時代の緑を含む楔のカード(《包囲サイ/Siege Rhino》など)が相容れない反面、色を増やす戦略との相性は決して悪くないということだ。戦乱のゼンディカーが加わることで、スタンダード環境はかつてないほど多色化が進んだが、このカードが持つデメリットはタルキール覇王譚ブロックで成立したものとは別な方向性の多色のデッキを生んだ可能性がある。
荒廃の耕作者/Blight Cultivator (2)(緑)
クリーチャー ― エルドラージ・ドローン
欠色(このカードは無色である。)
あなたがマナを引き出す目的で土地をタップした場合、それは(緑)の代わりに(◇)を生み出す。((◇)は無色マナを表す。)
荒廃の耕作者のパワーとタフネスはそれぞれ、あなたの手札にあるカードの総数に等しい。
*/*
緑のカードを唱えられなくするというアイデアを飛躍させて、レジェンドの《Quarum Trench Gnomes》に似た方法で緑マナを無色に変えるバージョンも試みた。結果として、新しいテキストでは欠色を「事後正当化」することはできなくなったが、次のセットの無色マナをコストに持つエルドラージとシナジーを形成するようになった。
最初のバージョンのように欠色のデッキを補助することはなくなったものの、依然として《荒廃の耕作者/Blight Cultivator》は欠色がどのような存在で、なぜ無色「そのもの」ではないのかを(どちらかというとヴォーソス的に)説明する役割を果たしている。プレイヤーは欠色を持つカードのために有色のマナを支払うが、どういうわけかそのマナは脱色され、唱えられた呪文は無色になってしまう。それは、彼らがエルドラージの巨人の到来に備えて有色のマジックの世界を無色に変える工兵だからであり、そうした彼らの破壊活動の瞬間をとらえたのがこの《荒廃の耕作者/Blight Cultivator》なのだ。
無色、単色、多色
ところで、私が欠色について考えるときには、新たなるファイレクシアで登場したファイレクシア・マナのことが念頭にある。発売から6年以上が経った今でもこのメカニズムには(パワー・レベルやカラー・パイの問題から)賛否両論があるが、私はこれをアーティファクトの次元のメカニズムとしてはこれ以上望めないものだと考えている。
ファイレクシア・マナが優れているのは、有色のアーティファクトにデザイン上の意義を与え、なおかつファイレクシア的に感じさせるという込み入ったデザイン上の問題を、たったひとつのアイデアでいとも簡単に解決してしまっているからだ。本来無色であるはずのアーティファクトになぜ色が必要なのかという問いに対して、それが無色と有色のマナ・コストを両方持っているからだ、と答えることよりも簡潔で腑に落ちる返答はありえない。加えて、そのためにプレイヤーの命という代替コストを要求することも、ミラディンの新たな支配者にふさわしい。
すでにエルドラージと追放について述べ、無色と欠色についても述べた私に作るべきカードが残されているとすれば、本質的には関連のないこれらの要素すべてをつなぎ合わせる、ファイレクシア・マナのようなデザインがそれにあたるだろう。印刷されたエルドラージの諸要素はトップダウン・デザインに近く、メカニズム的に整理されているとは言い難いが、ここまで示してきた通り、それらがすべて計算ずくで選ばれたかのように「事後正当化」することは決して不可能ではないはずだ。
超常的直観/Paranormal Intuition (1)(青)
インスタント
欠色(このカードは無色である。)
防御プレイヤー1人と攻撃クリーチャー1体を対象とする。そのプレイヤーは、そのクリーチャーの色1色につき、カードを1枚引く。その後そのプレイヤーは自分の手札からカードを1枚追放する。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157548838771/beat-the-wedge-decks
私がこの奇妙なテキストに至る過程で最初に考えたのは、無色と追放領域を結びつける仕組みだった。戦乱のゼンディカー・ブロックを除けば、マジックの歴史において無色と追放領域が特別に結びついていたことはない。かつて私は無色と追放領域の間のデザイン空間を調べたことがある※が、結局のところ特異な方法でカードを追放するテキストを見つけても、それが無色と不可分なものだと断言することはできなかった。
裏を返せば、それは無色と追放領域を関連づけるためには少々強引な手続きが必要だということを意味している。試行錯誤の末、私はもしも無色とカードを追放する効果が分かち難い関係だったなら、という(事実に反する)仮定を置くことにした。マジックの世界の必然的な現象として無色がカードを追放するのなら、おそらくその反対側では有色が別な効果を持っているはずだ。そして、その中間では色の数によって効果が段階的に設定されているに違いない。《超常的直観/Paranormal Intuition》で私が意図したのは、そうした現実にはありえない色の役割を、カードによって「捏造」することだった。
無色から多色に至るカラー・パイの階調はあくまで私が仮定したものにすぎないため、そうした複数の出力結果が得られるようにカードのテキストに細工をしなければならない。モードや条件節を持つ呪文にすることは簡単だったが、欠色をより明確に「事後正当化」するためには、無色にも有色にもなりうるひとつの効果を考えることが最善に思われた。その結果生まれたのが、クリーチャーの色を参照し、その数に応じてカラー・パイを決定する、この奇妙なインスタントである。
あなたが(エルドラージをはじめとする)無色のクリーチャーで攻撃しているときに唱えれば、《超常的直観/Paranormal Intuition》は対戦相手の手札を追放する無色の効果を持つ。反対に、あなたが対戦相手の有色のクリーチャーによって攻撃されているのなら、《超常的直観/Paranormal Intuition》は自分の手札を入れ替える青の伝統的な呪文に姿を変える。言うまでもなく、このカードが最も活躍するのはスタンダード環境でタルキール覇王譚の楔のクリーチャーと対峙した際で、わずかなマナで圧倒的な手札の優位をもたらしてくれることだろう。
《超常的直観/Paranormal Intuition》は決して美しくないアイデアで、テキストから何をするカードなのかを読み取ることすら難しい。しかしながら、無色と有色の効果を行き来する呪文ほど欠色にふさわしいものはなく、それでいて意外にも短いテキストにまとまったことから、私はこのカードをとても気に入っている。
※……http://casualmtg.diarynote.jp/201604070027176861/
超常的発火/Paranormal Combustion (1)(赤)
インスタント
欠色(このカードは無色である。)
防御プレイヤー1人と攻撃クリーチャー1体を対象とする。そのプレイヤーは自分の手札からカードを1枚追放する。その攻撃クリーチャーの色1色につき、超常的発火はその攻撃クリーチャーにX点のダメージを与える。Xはその追放されたカードの点数で見たマナ・コストに等しい。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157590648752/beat-the-wedge-decks
無色から多色まで効果が段階的に変わるカードをデザインするためには、何かを追放する効果ともう片方の効果の間に何らかの関連性を与えることが必要になる。それを実現するための最も単純な方法は、《超常的直観/Paranormal Intuition》のように追放したオブジェクトを(色の数に応じて)補充することだが、そのデザイン空間は決して広くはない。私が考える限りでは、カードの形で存在しているオブジェクトのうち、簡単に増減させられるものは手札と土地が限界で、それ以上はデザイン上の危険が伴うと思われる。
こうした経緯から、私は《超常的発火/Paranormal Combustion》を作ることにした。追放するものは《超常的直観/Paranormal Intuition》と全く同じだが、追放したカードのマナ・コストを参照することで、無色の追放効果の反対側にカード以外のリソース(ダメージやライフなど)を扱う効果を置くことができる。
《超常的発火/Paranormal Combustion》はウルザズ・レガシーの《紅蓮術/Pyromancy》を思わせる火力呪文だ。本家(およびその亜種)との重要な違いは、対象になったクリーチャーの色の数によってマナ・コストを参照する回数が決まることで、多色のクリーチャーならばダメージが倍増し、無色のクリーチャーならばダメージが0になる。そのため、自分の無色のクリーチャーを対象にすれば、《超常的直観/Paranormal Intuition》と同じように無色のデッキ専用の手札破壊として運用することもできる。
最後につけ加えると、《超常的直観/Paranormal Intuition》と《超常的発火/Paranormal Combustion》が欠色を「事後正当化」する仕組みは《骨ばった強兵/Bony Trooper》によく似ている。すでに説明したように、これら2枚のカードは対象にしたクリーチャーの色の数によってカラー・パイを決定するため、欠色のクリーチャーを対象にすると無色の効果を得る。このことを裏返せば、対象となった欠色のクリーチャーが、(無色にも有色にもなりうる)これらのカードを名実ともに無色にしているということを意味する。
そして、それをより広い視野で見れば、このセットに含まれるあらゆる欠色のクリーチャーが、特定の欠色のカードを無色に変える役割を持っているということになる。仮に人々がそう納得してくれたなら、エルドラージ・ドローンが単なる目印として無色にされているのではなく、曲がりなりにもメルヴィン的な目的を与えられていると証明できたことになるだろう。
魅力的なメカニズム
横暴にも戦乱のゼンディカーのエルドラージに異を唱え、すでに発売から2年以上が経ったセットのカードを新たに20枚近くも考えるという不毛な行為を通して、私の頭に浮かんだひとつの考えがある。それは、メカニズムが失敗するときには、必ずデザインも失敗しているというものだ。
メカニズムはそれ単体で存在しているわけではなく、どんな形であれカードの中に書かれている。それゆえ、たとえメカニズムを作る過程で失敗したとしても、それをカードの形に仕上げる段階において、常にメカニズムの失敗を補うだけの魅力的なデザインを発明する余地が残されている。
今回のテーマである、欠色を「事後正当化」するカード群もそれを目的に作られたものだが、現実に印刷されたカードにも同様の例は存在する。たとえば、破滅の刻きっての優秀なクリーチャーである《機知の勇者/Champion of Wits》は、ニコル・ボーラスが秘密の目的のためにミイラの軍隊を作り出すことを示した、トップダウン的で必然性の薄いキーワード能力の細部を利用して、カードの側でメカニズムを意義あるものに変化させた例だといえる。
優れたメカニズムが用意されているのなら、魅力的なカードを作ることはたやすい。反対に、メカニズムに問題があるのなら、それを使うデザイナーにはいっそうの工夫が求められる。
おそらく、これこそがこの失敗だらけのセットに私が2年以上も固執している理由なのだろう。メカニズムが失敗しているときにこそ、想像力が必要とされ、そして私はカードを想像することが趣味のユーザーなのだ。
すなわち、誠に傲慢ながら、私にとって戦乱のゼンディカーのメカニズムは魅力的なのだ。たとえそれがいかに魅力的でないとしても。
混沌と秩序
殿堂プレイヤー、Paulo Vitor Damo da Rosa(PV)は、戦乱のゼンディカーの発売直後にこのセットの批判記事※1を書いている。彼によれば戦乱のゼンディカーのメカニズムは「無秩序でナンセンス」であり、欠色や嚥下もその例外ではないという。要するに、何に欠色を与え、何に嚥下を与えるかといった判断に必然性があるようには見えないということらしい。
実際、エルドラージらしさとは非常に雑多な要素から成り立っており、すべてを法則的にすることは難しい。印刷された欠色のカードには(主に描かれたエルドラージの血族ごとに)大まかな傾向が与えられているが、細部まで体系化されているかというと必ずしもそうではない。
もしも私に暴力的な改変が許されるのなら、嚥下と昇華者と追放能力を持つカードだけにウラモグの血族を描き、無色マナに関する能力を持つカードだけにコジレックの血族を描き、その他の無色を参照するカードにはすべてエムラクールの血族を描いたことだろう。こうした整理はある程度は有効に思われるが、その反面、《難題の予見者/Thought-Knot Seer》や《世界を壊すもの/World Breaker》といった複数の要素を持つエルドラージをカードリストから追い出してしまうことにもなる。
このような血族間の体系化はこのブロックの構造自体を変えてしまうかもしれず、安易に踏み込める領域ではない。しかし、ウラモグの血族内に秩序を与えることで、別な形で戦乱のゼンディカーのエルドラージを体系化することはできる。
エルドラージが最初にマジックに登場したとき、それらの間には厳密な縦割り的関係が存在しており、無色のエルドラージは必ず7マナかそれより重く、有色のエルドラージ・ドローンは6マナより大きくなることはできなかった。それから5年以上を経た戦乱のゼンディカーにも同様の傾向はあるが、多様性の観点からかデザイン的な制約はより緩やかになっている。何事にも一長一短はあるものの、印刷されたセットの無秩序な印象からすると、そうしたデザイン的な枠組みを廃止したのは失敗だったように感じられる。
とはいえ、新たなエルドラージは巨大なだけの存在ではないと再定義されているため、7マナという境界線には再考の余地があるだろう。多分に感覚的な問題ではあるが、ミッドレンジ系デッキのマナカーブの終点になりうる程度には軽く、上位の戦闘員であると納得させられる程度には重いという理由で、私は5マナを無色のエルドラージと欠色のエルドラージ・ドローンの境界線にするべきだと考えている。
その場合、より下位の戦闘員であるエルドラージ・ドローンが生産した資源を使うという設定から、昇華者は必然的に無色の大型のエルドラージとしてデザインされることになる。続くゲートウォッチの誓いでもこの境界線が有効なのかどうかはわからないが、これにより戦乱のゼンディカーのエルドラージの組織構造をある程度は明確にすることができると思われる。
※1……http://ch.nicovideo.jp/nagi-mtg/blomaga/ar880647(間違いだらけの「戦乱のゼンディカー」/Everything That’s Wrong with Battle for Zendikar)
欠色の追放
追放領域は戦乱のゼンディカーのテーマとして申し分ないものだが、嚥下にはデザイン的にもデベロップ的にも問題があり、できることなら他の追放手段と取り替えることが望ましい。嚥下は考えうる限りで最も無害な追放手段としてデザインされ、その無意味さゆえに追放領域というテーマの独自性を脅かしている。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157169578091/a-drone-that-has-more-powerful-synergy-with
《虚無を注入するもの/Nihil Instiller》は、かつて私がこのブログに書いたカードに手を加えたものだ。変更前のカードは嚥下のように対戦相手のライブラリーを味気なく追放していたが、新しいバージョンでは各プレイヤーに《摘出/Extract》を行うようになった。
いわゆる《記憶殺し/Memoricide》効果が《Demonic Tutor》に変わる瞬間をとらえたこのカードは、昇華者というメカニズムがなければデザイン不可能なものだ。いずれも黒のカラー・パイに属する伝統的な効果が、どういうわけか異世界から現れたエルドラージの力でデザイン的に裏づけられるというこの状況は、どことなくリドリー・スコットの「プロメテウス(2012)」を思わせる。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157123791815/exile-bounce-or-control-magic
追放版《大クラゲ/Man-o’-War》である《記憶を飲み込むもの/Memory Swallower》もまた、私が記事にしたカードの細部を変更したものだ。元のアイデアでは《夜帷の死霊/Nightveil Specter》のように追放するカードが追放されたカードを参照していたが、再検討の末《影の悪鬼/Fiend of the Shadows》のように独立させることにした。
こうした変更により、この能力をパーマネント以外のカードに与えることが可能になる。欠色を持つインスタントの《同一性の消去/Identity Erasure》は、《記憶を飲み込むもの/Memory Swallower》と同じ発想でデザインされた、バウンスと《支配魔法/Control Magic》の中間に位置するカードだ。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157213187752/a-drone-based-on-clear-the-land
対戦相手のリソースを減らすことばかりが追放領域の利用価値ではない。《掘削ドローン/Excavator Drone》は《開墾/Clear the Land》を元にしたカードで、各プレイヤーに無色のカード(多くの場合は土地)を与えるか、ライブラリーを追放するか、あるいはその両方を行う。
このテキストは完全に中立で、すべてのプレイヤーに平等かつ無作為に働くように書かれているが、こうした記述はデザイナーがよく用いる詭弁にすぎない。事実上《掘削ドローン/Excavator Drone》は無色のデッキ専用の確実なリソース源であり、エルドラージにとっての《ゴブリンの首謀者/Goblin Ringleader》として機能する。
マジックは性悪説のゲームであり、カードは常にユーザーに「悪用」されるものだ。とはいえ、《掘削ドローン/Excavator Drone》は無色のデッキがメタゲーム上で有力になるにつれて弱体化していくため、多少の救いはあるといえる。
昇華者
昇華者のメカニズム自体は非常に独特なものだが、実際に印刷された昇華者の能力は驚くほど月並みだ。嚥下もそうであるように、昇華者も追放領域を数を記録するためにしか使っておらず、追放領域の独自性を自ら否定してしまっている。マローの記事※2を読む限りでは、戦乱のゼンディカーの開発はたいへん後ろ倒しになっており、昇華者が現在の形になったのはデベロップの期間のことだという。そのため、印刷された昇華者はデザインの手を経ていない可能性が高く、デザイン的魅力に欠けるのはむしろ当然のことなのかもしれない。
仮にマローたちデザイン・チームが現在の昇華者の形に速やかにたどり着いていたとしたら、昇華者のデザインはもう少し優れたものになったことだろう。けれども現実にはそのようなことは起こらず、彼らのデザイン的な達成を人々が目にすることはほとんど望めなくなった。しかしながら、空想の世界でなら話は別だ。
※2……http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0015743/(戦乱のゼンディカード その1/Battle for Zendikards, Part 1)
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157254311432/this-card-is-inspired-by-reality-warden-by
このカードは私が作成した昇華者の中では最も古く、私と同じようにカードデザインに関するブログを書いている、とあるユーザーのアイデアが元になっている。
https://damnyoumodoshuffler.tumblr.com/post/138928140214/another-design-from-the-side-now-main-project-i
パワー・レベルについてはさておき、《Reality Warden》が持つ、ある上限までカードを追放するという能力は興味深い。私は当初この能力が《Reality Warden》自身を追放するものだと思い込んでおり、このクリーチャーを戦場に出すためには入念な下準備が必要なのだと勘違いしていた。
メルヴィン的感覚からすると、追放領域のクリーチャー・カード10枚というそれなりの制約が最初の段落に書いてあったのなら、続く段落には追放されたカードをどうにかして減らす能力——ごく単純には、墓地に置く能力——が書かれていると想像するのが妥当だろう。実際には、それらはすべて誤解であり、《Reality Warden》はいわゆるナイトメア能力を持つクリーチャーだったのだが、改めて考えると誤解していたテキストは昇華者の能力そのものだったのだ。
偶然から生まれた《武力を吸収するもの/Absorber of the Force》は、昇華者のデッキのあるべき姿をカードを通じて示している。このカードを戦場に出すためには5枚以上のカードが追放されている必要があるが、単に多くのカードを追放すればよいというわけではない。また、戦場に出てからはできるだけ速やかにそれらのカードを墓地に置く必要があるが、後続の《武力を吸収するもの/Absorber of the Force》を展開するためにはまた新たにカードを追放しなければならない。
総じてこのカードを運用することは難しいが、追放領域を適切に管理することさえできれば、1枚のカードで戦場を支配しつつカード・アドバンテージまで稼ぐことができる。少なくとも、そうした光景を想像させるのがこのカードの優れた点だ。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157294608688
昇華者の重要な特徴は、それがライフやカウンターではなく情報を持ったカードを扱っているということだ。そのため、その情報を参照する《クローン/Clone》のような能力と非常に親和性が高い。
ところが、この性質をエルドラージに特有の「唱えたとき」の誘発型能力と組み合わせると、きわめて奇妙なことが起きる。昇華者がスタック上にある状態で能力が他のカードを参照するため、昇華者をパーマネントでない呪文にすることができるのだ。かくして、インスタントやソーサリーそのものになるクリーチャーが誕生した。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157335314568/a-new-eldrazi-pitch-spell
もはや言うまでもないことだが、昇華者とは能力のコストとして追放領域のカードを使うエルドラージのことだ。では、はたしてそのコストはどれくらい重いのだろうか?
《次元外分泌器/Planer Exocrine》は、昇華者を定義しているこのコストの費用対効果を評価するためのカードだ。7マナ6/7の巨体を持ってはいるものの、このエルドラージは《通りの悪霊/Street Wraith》などと同じく戦場に出されることのないクリーチャーで、実質的には手札1枚と追放領域のカードだけで使用することができる。
無色のクリーチャーへの全体強化はともかくとして、無色のクリーチャーを《次元外分泌器/Planer Exocrine》のコピーにする能力は風変わりなものだ。この能力は、もともと《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》をはじめとする無色の感染クリーチャーとの危険な相互作用を防ぐためのアイデアだったのだが、図らずも《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》や《荒廃鋼の巨像/Blightsteel Colossus》といったクリーチャーを弱体化させる用途を兼ねたものになった。文章量さえ許すなら、この能力の対象を土地でない無色のパーマネント全般に広げることも検討に値するだろう。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157376167742/oblivion-sower-should-be-counted-as-processors
戦乱のゼンディカーでは追放領域のカードを墓地に置くエルドラージのみが昇華者に分類され、追放領域のカードを戦場に出す《忘却蒔き/Oblivion Sower》は蚊帳の外に置かれている。はっきりとした理由は不明だが、R&Dがこのセットの複雑さを危惧した結果、よく似た能力を厳密に分類することを望んだのかもしれないし、デュエルデッキの看板カードにもなった《忘却蒔き/Oblivion Sower》だけがデザイン段階で昇華者に先んじて構想されていたという可能性もある。
いずれにせよ、追放領域のカードを墓地以外の領域に置くことは、その利用価値を広げるための最も簡単な方法だったように思われる。もちろん、《忘却蒔き/Oblivion Sower》のように対戦相手のカードを奪う能力を戦場以外の領域に置き換えることはできないが、対戦相手に不要牌を渡すという新しいコンセプトのカードをデザインすることはできる。むしろ、それは追放領域のカードを墓地に置くという特殊なコストに見合う能力を考えることよりも容易ですらあるだろう。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157417967971/oblivion-sower-should-be-counted-as-processors
マロー曰く、「テーマがコモンに存在しなければ、それはテーマではない」。印刷された昇華者とは違って《忘却蒔き/Oblivion Sower》のような能力は追放領域のカードを移動させることで完結しており、本質的にはそれをコストにした別な何かを引き起こす必要はない。
そのため、テキストは比較的短く単純になり、低いレアリティの昇華者のデザインはいっそう容易になる。《消化腸卜師/Digestive Haruspex》は《破滅の昇華者/Ruin Processor》よりも珍しい能力を持った昇華者だが、その文章量はずっと少ない。
かくやあらん
戦乱のゼンディカー・ブロックからさらに2つのブロックを経て、今や世の中はアモンケットのプレビュー・ウィークを迎えている。かねてから予告されていたように、この次元は古の悪漢ニコル・ボーラスが支配する場所であり、運命再編を除けば彼がストーリーの主流に戻ってくるのは約7年ぶりのことになる。
戦乱のゼンディカー・ブロックによって、エルドラージはニコル・ボーラスやファイレクシアと同じく「再登場した」悪漢になった。マジックのエキスパンションが毎回別な次元を渡り歩くようになってから、合わせて3つのブロックに登場した悪漢はおそらくまだ存在しないが、ブロック構造が変化して各次元の再訪可能性が上がっていることを考えれば、それも時間の問題だろう。
とはいえ前回の冒頭に記したように、エルドラージが再び姿を現したとしても、彼らが私の望むようなテーマを伴っているという保証はどこにもない。エルドラージのアイデンティティと強く結びついている無色マナはまだしも、追放領域というテーマはきわめて恣意的に割り当てられたものであり、次に登場するときにはウラモグの血族の能力は別な何かと差し替えられているかもしれない。
いつかエルドラージが再びプレビューされる日に、おそらく私は落胆するだろう。しかし、それはかつてのウラモグの血族を懐かしむためではなく、追放領域とエルドラージの間の狭い狭いデザイン空間に確かに存在した、闇に葬られたデザインの可能性に光を当てるための落胆なのだ。
(番外編に続く)
殿堂プレイヤー、Paulo Vitor Damo da Rosa(PV)は、戦乱のゼンディカーの発売直後にこのセットの批判記事※1を書いている。彼によれば戦乱のゼンディカーのメカニズムは「無秩序でナンセンス」であり、欠色や嚥下もその例外ではないという。要するに、何に欠色を与え、何に嚥下を与えるかといった判断に必然性があるようには見えないということらしい。
実際、エルドラージらしさとは非常に雑多な要素から成り立っており、すべてを法則的にすることは難しい。印刷された欠色のカードには(主に描かれたエルドラージの血族ごとに)大まかな傾向が与えられているが、細部まで体系化されているかというと必ずしもそうではない。
もしも私に暴力的な改変が許されるのなら、嚥下と昇華者と追放能力を持つカードだけにウラモグの血族を描き、無色マナに関する能力を持つカードだけにコジレックの血族を描き、その他の無色を参照するカードにはすべてエムラクールの血族を描いたことだろう。こうした整理はある程度は有効に思われるが、その反面、《難題の予見者/Thought-Knot Seer》や《世界を壊すもの/World Breaker》といった複数の要素を持つエルドラージをカードリストから追い出してしまうことにもなる。
このような血族間の体系化はこのブロックの構造自体を変えてしまうかもしれず、安易に踏み込める領域ではない。しかし、ウラモグの血族内に秩序を与えることで、別な形で戦乱のゼンディカーのエルドラージを体系化することはできる。
エルドラージが最初にマジックに登場したとき、それらの間には厳密な縦割り的関係が存在しており、無色のエルドラージは必ず7マナかそれより重く、有色のエルドラージ・ドローンは6マナより大きくなることはできなかった。それから5年以上を経た戦乱のゼンディカーにも同様の傾向はあるが、多様性の観点からかデザイン的な制約はより緩やかになっている。何事にも一長一短はあるものの、印刷されたセットの無秩序な印象からすると、そうしたデザイン的な枠組みを廃止したのは失敗だったように感じられる。
とはいえ、新たなエルドラージは巨大なだけの存在ではないと再定義されているため、7マナという境界線には再考の余地があるだろう。多分に感覚的な問題ではあるが、ミッドレンジ系デッキのマナカーブの終点になりうる程度には軽く、上位の戦闘員であると納得させられる程度には重いという理由で、私は5マナを無色のエルドラージと欠色のエルドラージ・ドローンの境界線にするべきだと考えている。
その場合、より下位の戦闘員であるエルドラージ・ドローンが生産した資源を使うという設定から、昇華者は必然的に無色の大型のエルドラージとしてデザインされることになる。続くゲートウォッチの誓いでもこの境界線が有効なのかどうかはわからないが、これにより戦乱のゼンディカーのエルドラージの組織構造をある程度は明確にすることができると思われる。
※1……http://ch.nicovideo.jp/nagi-mtg/blomaga/ar880647(間違いだらけの「戦乱のゼンディカー」/Everything That’s Wrong with Battle for Zendikar)
欠色の追放
追放領域は戦乱のゼンディカーのテーマとして申し分ないものだが、嚥下にはデザイン的にもデベロップ的にも問題があり、できることなら他の追放手段と取り替えることが望ましい。嚥下は考えうる限りで最も無害な追放手段としてデザインされ、その無意味さゆえに追放領域というテーマの独自性を脅かしている。
虚無を注入するもの/Nihil Instiller (2)(黒)
クリーチャー ― エルドラージ・ドローン
欠色(このカードは無色である。)
虚無を注入するものが戦場に出たとき、各プレイヤー1人につき、そのプレイヤーのライブラリーからカード1枚を探し、それを追放する。その後そのプレイヤーは自分のライブラリーを切り直す。
これにより追放された対戦相手がオーナーであるカードが追放領域を離れたとき、あなたはこれにより追放されたあなたがオーナーであるカードをあなたの手札に加えてもよい。
3/1
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157169578091/a-drone-that-has-more-powerful-synergy-with
《虚無を注入するもの/Nihil Instiller》は、かつて私がこのブログに書いたカードに手を加えたものだ。変更前のカードは嚥下のように対戦相手のライブラリーを味気なく追放していたが、新しいバージョンでは各プレイヤーに《摘出/Extract》を行うようになった。
いわゆる《記憶殺し/Memoricide》効果が《Demonic Tutor》に変わる瞬間をとらえたこのカードは、昇華者というメカニズムがなければデザイン不可能なものだ。いずれも黒のカラー・パイに属する伝統的な効果が、どういうわけか異世界から現れたエルドラージの力でデザイン的に裏づけられるというこの状況は、どことなくリドリー・スコットの「プロメテウス(2012)」を思わせる。
記憶を飲み込むもの/Memory Swallower (3)(青)
クリーチャー ― エルドラージ・ドローン
欠色(このカードは無色である。)
記憶を飲み込むものが戦場に出たとき、他のクリーチャー1体を対象とし、それを追放する。そのカードが追放され続けているかぎり、そのオーナーはそれをプレイしてもよい。
2/2
同一性の消去/Identity Erasure (2)(青)
インスタント
欠色(このカードは無色である。)
クリーチャー1体を対象とし、それを追放する。そのカードが追放され続けているかぎり、各プレイヤーはそれをプレイしてもよい。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157123791815/exile-bounce-or-control-magic
追放版《大クラゲ/Man-o’-War》である《記憶を飲み込むもの/Memory Swallower》もまた、私が記事にしたカードの細部を変更したものだ。元のアイデアでは《夜帷の死霊/Nightveil Specter》のように追放するカードが追放されたカードを参照していたが、再検討の末《影の悪鬼/Fiend of the Shadows》のように独立させることにした。
こうした変更により、この能力をパーマネント以外のカードに与えることが可能になる。欠色を持つインスタントの《同一性の消去/Identity Erasure》は、《記憶を飲み込むもの/Memory Swallower》と同じ発想でデザインされた、バウンスと《支配魔法/Control Magic》の中間に位置するカードだ。
掘削ドローン/Excavator Drone (3)(緑)
クリーチャー ― エルドラージ・ドローン
欠色(このカードは無色である。)
掘削ドローンが戦場に出たとき、各プレイヤーはそれぞれ自分のライブラリーの一番上からカードを2枚公開し、これにより公開されたすべての無色のカードを自分の手札に加え、残りを追放する。
3/2
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157213187752/a-drone-based-on-clear-the-land
対戦相手のリソースを減らすことばかりが追放領域の利用価値ではない。《掘削ドローン/Excavator Drone》は《開墾/Clear the Land》を元にしたカードで、各プレイヤーに無色のカード(多くの場合は土地)を与えるか、ライブラリーを追放するか、あるいはその両方を行う。
このテキストは完全に中立で、すべてのプレイヤーに平等かつ無作為に働くように書かれているが、こうした記述はデザイナーがよく用いる詭弁にすぎない。事実上《掘削ドローン/Excavator Drone》は無色のデッキ専用の確実なリソース源であり、エルドラージにとっての《ゴブリンの首謀者/Goblin Ringleader》として機能する。
マジックは性悪説のゲームであり、カードは常にユーザーに「悪用」されるものだ。とはいえ、《掘削ドローン/Excavator Drone》は無色のデッキがメタゲーム上で有力になるにつれて弱体化していくため、多少の救いはあるといえる。
昇華者
昇華者のメカニズム自体は非常に独特なものだが、実際に印刷された昇華者の能力は驚くほど月並みだ。嚥下もそうであるように、昇華者も追放領域を数を記録するためにしか使っておらず、追放領域の独自性を自ら否定してしまっている。マローの記事※2を読む限りでは、戦乱のゼンディカーの開発はたいへん後ろ倒しになっており、昇華者が現在の形になったのはデベロップの期間のことだという。そのため、印刷された昇華者はデザインの手を経ていない可能性が高く、デザイン的魅力に欠けるのはむしろ当然のことなのかもしれない。
仮にマローたちデザイン・チームが現在の昇華者の形に速やかにたどり着いていたとしたら、昇華者のデザインはもう少し優れたものになったことだろう。けれども現実にはそのようなことは起こらず、彼らのデザイン的な達成を人々が目にすることはほとんど望めなくなった。しかしながら、空想の世界でなら話は別だ。
※2……http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0015743/(戦乱のゼンディカード その1/Battle for Zendikards, Part 1)
武力を吸収するもの/Absorber of the Force (6)
クリーチャー ― エルドラージ・昇華者
武力を吸収するものか他のクリーチャーが1体戦場に出るたび、追放領域に対戦相手がオーナーであるカードが5枚以上ないかぎり、それを追放する。
あなたの終了ステップの開始時に、あなたは追放領域から対戦相手がオーナーであるカードを1枚そのプレイヤーの墓地に置いてもよい。そうしたなら、カードを1枚引く。
6/6
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157254311432/this-card-is-inspired-by-reality-warden-by
このカードは私が作成した昇華者の中では最も古く、私と同じようにカードデザインに関するブログを書いている、とあるユーザーのアイデアが元になっている。
Reality Warden (2)(白)(青)
伝説のクリーチャー ― アバター
他のクリーチャーが戦場に出るなら、追放領域にクリーチャー・カードが10枚以上ないかぎり、代わりにそれを追放する。
Reality Wardenが戦場を離れたとき、各プレイヤーはReality Wardenによって追放された、自分がオーナーであるすべてのクリーチャー・カードを自分のコントロール下で戦場に出す。
6/4
https://damnyoumodoshuffler.tumblr.com/post/138928140214/another-design-from-the-side-now-main-project-i
パワー・レベルについてはさておき、《Reality Warden》が持つ、ある上限までカードを追放するという能力は興味深い。私は当初この能力が《Reality Warden》自身を追放するものだと思い込んでおり、このクリーチャーを戦場に出すためには入念な下準備が必要なのだと勘違いしていた。
メルヴィン的感覚からすると、追放領域のクリーチャー・カード10枚というそれなりの制約が最初の段落に書いてあったのなら、続く段落には追放されたカードをどうにかして減らす能力——ごく単純には、墓地に置く能力——が書かれていると想像するのが妥当だろう。実際には、それらはすべて誤解であり、《Reality Warden》はいわゆるナイトメア能力を持つクリーチャーだったのだが、改めて考えると誤解していたテキストは昇華者の能力そのものだったのだ。
偶然から生まれた《武力を吸収するもの/Absorber of the Force》は、昇華者のデッキのあるべき姿をカードを通じて示している。このカードを戦場に出すためには5枚以上のカードが追放されている必要があるが、単に多くのカードを追放すればよいというわけではない。また、戦場に出てからはできるだけ速やかにそれらのカードを墓地に置く必要があるが、後続の《武力を吸収するもの/Absorber of the Force》を展開するためにはまた新たにカードを追放しなければならない。
総じてこのカードを運用することは難しいが、追放領域を適切に管理することさえできれば、1枚のカードで戦場を支配しつつカード・アドバンテージまで稼ぐことができる。少なくとも、そうした光景を想像させるのがこのカードの優れた点だ。
計略吐き/Ruse Spitter (5)
クリーチャー ― エルドラージ・昇華者
瞬速
あなたが計略吐きを唱えたとき、あなたは追放領域から対戦相手がオーナーであるインスタント・カード1枚かソーサリー・カード1枚をそのプレイヤーの墓地に置いてもよい。そうしたなら、計略吐きはそのカードのコピーになる。あなたはそれの新しい対象を選んでもよい。
到達、接死
3/5
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157294608688
昇華者の重要な特徴は、それがライフやカウンターではなく情報を持ったカードを扱っているということだ。そのため、その情報を参照する《クローン/Clone》のような能力と非常に親和性が高い。
ところが、この性質をエルドラージに特有の「唱えたとき」の誘発型能力と組み合わせると、きわめて奇妙なことが起きる。昇華者がスタック上にある状態で能力が他のカードを参照するため、昇華者をパーマネントでない呪文にすることができるのだ。かくして、インスタントやソーサリーそのものになるクリーチャーが誕生した。
次元外分泌器/Planer Exocrine (7)
クリーチャー ― エルドラージ・昇華者
追放領域から対戦相手がオーナーであるカードを1枚そのプレイヤーの墓地に置く,次元外分泌器を捨てる:ターン終了時まで、あなたがコントロールする無色のクリーチャーは+1/+1の修整を受ける。
追放領域から対戦相手がオーナーであるカードを2枚、それらのオーナーの墓地に置く,次元外分泌器を捨てる:無色のクリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、そのクリーチャーは次元外分泌器のコピーになる。
6/7
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157335314568/a-new-eldrazi-pitch-spell
もはや言うまでもないことだが、昇華者とは能力のコストとして追放領域のカードを使うエルドラージのことだ。では、はたしてそのコストはどれくらい重いのだろうか?
《次元外分泌器/Planer Exocrine》は、昇華者を定義しているこのコストの費用対効果を評価するためのカードだ。7マナ6/7の巨体を持ってはいるものの、このエルドラージは《通りの悪霊/Street Wraith》などと同じく戦場に出されることのないクリーチャーで、実質的には手札1枚と追放領域のカードだけで使用することができる。
無色のクリーチャーへの全体強化はともかくとして、無色のクリーチャーを《次元外分泌器/Planer Exocrine》のコピーにする能力は風変わりなものだ。この能力は、もともと《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》をはじめとする無色の感染クリーチャーとの危険な相互作用を防ぐためのアイデアだったのだが、図らずも《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》や《荒廃鋼の巨像/Blightsteel Colossus》といったクリーチャーを弱体化させる用途を兼ねたものになった。文章量さえ許すなら、この能力の対象を土地でない無色のパーマネント全般に広げることも検討に値するだろう。
論理を分解するもの/Logic Decomposer (6)
クリーチャー ― エルドラージ・昇華者
あなたが論理を分解するものを唱えたとき、対戦相手1人を対象とする。あなたは追放領域にある、そのプレイヤーがオーナーであるカードを望む数だけ選んでもよい。そうしたなら、そのプレイヤーは同じ枚数のカードを捨て、選ばれたカードをそのプレイヤーの手札に加える。
威迫
6/5
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157376167742/oblivion-sower-should-be-counted-as-processors
戦乱のゼンディカーでは追放領域のカードを墓地に置くエルドラージのみが昇華者に分類され、追放領域のカードを戦場に出す《忘却蒔き/Oblivion Sower》は蚊帳の外に置かれている。はっきりとした理由は不明だが、R&Dがこのセットの複雑さを危惧した結果、よく似た能力を厳密に分類することを望んだのかもしれないし、デュエルデッキの看板カードにもなった《忘却蒔き/Oblivion Sower》だけがデザイン段階で昇華者に先んじて構想されていたという可能性もある。
いずれにせよ、追放領域のカードを墓地以外の領域に置くことは、その利用価値を広げるための最も簡単な方法だったように思われる。もちろん、《忘却蒔き/Oblivion Sower》のように対戦相手のカードを奪う能力を戦場以外の領域に置き換えることはできないが、対戦相手に不要牌を渡すという新しいコンセプトのカードをデザインすることはできる。むしろ、それは追放領域のカードを墓地に置くという特殊なコストに見合う能力を考えることよりも容易ですらあるだろう。
消化腸卜師/Digestive Haruspex (5)
クリーチャー ― エルドラージ・昇華者
あなたが消化腸卜師を唱えたとき、あなたは追放領域から対戦相手がオーナーであるカードを最大2枚まで、それらのオーナーのライブラリーの一番上に望む順番で置いてもよい。
トランプル
4/4
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157417967971/oblivion-sower-should-be-counted-as-processors
マロー曰く、「テーマがコモンに存在しなければ、それはテーマではない」。印刷された昇華者とは違って《忘却蒔き/Oblivion Sower》のような能力は追放領域のカードを移動させることで完結しており、本質的にはそれをコストにした別な何かを引き起こす必要はない。
そのため、テキストは比較的短く単純になり、低いレアリティの昇華者のデザインはいっそう容易になる。《消化腸卜師/Digestive Haruspex》は《破滅の昇華者/Ruin Processor》よりも珍しい能力を持った昇華者だが、その文章量はずっと少ない。
かくやあらん
戦乱のゼンディカー・ブロックからさらに2つのブロックを経て、今や世の中はアモンケットのプレビュー・ウィークを迎えている。かねてから予告されていたように、この次元は古の悪漢ニコル・ボーラスが支配する場所であり、運命再編を除けば彼がストーリーの主流に戻ってくるのは約7年ぶりのことになる。
戦乱のゼンディカー・ブロックによって、エルドラージはニコル・ボーラスやファイレクシアと同じく「再登場した」悪漢になった。マジックのエキスパンションが毎回別な次元を渡り歩くようになってから、合わせて3つのブロックに登場した悪漢はおそらくまだ存在しないが、ブロック構造が変化して各次元の再訪可能性が上がっていることを考えれば、それも時間の問題だろう。
とはいえ前回の冒頭に記したように、エルドラージが再び姿を現したとしても、彼らが私の望むようなテーマを伴っているという保証はどこにもない。エルドラージのアイデンティティと強く結びついている無色マナはまだしも、追放領域というテーマはきわめて恣意的に割り当てられたものであり、次に登場するときにはウラモグの血族の能力は別な何かと差し替えられているかもしれない。
いつかエルドラージが再びプレビューされる日に、おそらく私は落胆するだろう。しかし、それはかつてのウラモグの血族を懐かしむためではなく、追放領域とエルドラージの間の狭い狭いデザイン空間に確かに存在した、闇に葬られたデザインの可能性に光を当てるための落胆なのだ。
(番外編に続く)
かくありき
昨年公開されたマローの記事※1によると、嚥下と昇華者の再録は絶望的ということらしい。もとより私はこれら戦乱のゼンディカーのエルドラージのデザインに苦言を述べるためにこのブログを作ったので、市場調査の結果とマローの結論に何ら疑問はない。何度か述べたように、新たなメカニズム的実験として追放領域を扱うのならば、それは嚥下のように無意味なものであってはならなかったし、手垢のついたデザインのために昇華者の枠を割くべきでもなかった。戦乱のゼンディカーのエルドラージのデザインは率直に言って失敗しており、そうしたメカニズムの再録可能性が低いのは当然のことだ。
しかし、将来のマジックでこれらウラモグの血族を目にすることが本当になくなったのだと思うと、私としては別の感情を抱かざるをえない。最初の記事※2を書いて以来、私は嚥下と昇華者のデザインを魅力的にする方法について考え続けており、すでに記事にしたものも含め、私の空想の中の戦乱のゼンディカーのカードはかなりの数になった。人間とは不思議なもので、エルドラージのデザインについてあれこれ妄想するという行為が、どういうわけか彼らに対する愛着を生んだようだ。今や私は、不幸にも失敗してしまった彼らのデザイン的な名誉を回復したいという熱意に駆られている。
ストーリー※3では、ウラモグとコジレックが倒されてもなお、その血族は依然としてゼンディカーに残っているらしく、そうした生き残りが統率者のような製品に収録される可能性もないわけではない。しかし、プレイヤーが求めるものこそ製品化に値するという前提に立つのなら、優先的に印刷されるのはおそらく無色マナ関連のカードだろう。追放領域をメカニズムとして再び扱う可能性についてマローがどう考えているのかはわからないが、少なくともその最初の挑戦は大いに不満の残る結果に終わった。完結から1年以上が経った今、戦乱のゼンディカー・ブロックの最も印象的な記憶とは(コジレックの血族の)無色マナにまつわるものであり、決して追放領域ではありえない。
したがって、エルドラージが何らかの理由で再び姿を現すことがあるとしても、それが追放領域をテーマにしている可能性は非常に低い。同様に、追放領域が再びテーマになるとしても、それがエルドラージと結びつけられている可能性は決して高くはないだろう。それはすなわち、未来のマジックにおいて、追放領域を使ってより魅力的なエルドラージがデザインできるということを証明する機会がほとんど失われたことを意味している。
こうした状況から、追放領域とエルドラージの間に広がるデザイン空間の可能性を追究できるのは、もはや空想の中だけになってしまった。私のアイデアすべてが魅力的だということはありえないが、20枚近い私のアイデアの中のたとえ1枚でも彼らのデザイン的な名誉回復に貢献できたなら、これ以上嬉しいことはない。
※1……http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0018047/(ストーム値:『ゼンディカー』『戦乱のゼンディカー』ブロック/Storm Scale: Zendikar and Battle for Zendikar)
※2……http://casualmtg.diarynote.jp/201602271838453600/
※3……http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0016563/(ゼンディカーの復興/Zendikar Resurgent)
無色の追放
以前の記事※4で、私は無色と追放領域のわずかな重なりを使って新しいカードが作れないか試みたことがあったが、単に追放領域の利用方法を分類するに留まってしまい、あまりうまくはいかなかった。今にして思えば、無色と追放領域の共通部分を洗い出すだけではなく、そこから有色と追放領域の共通部分を引く作業が必要だったのかもしれない。
※4……http://casualmtg.diarynote.jp/201604070027176861/
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/156950937232
カラー・パイを持たない無色のカードで他のカードを追放するには、それを正当化する何らかの論理が必要だ。そのための最も簡単な方法は、おそらく追放能力を状況依存的にすることだろう。つまり、無色のカードに単純に何かを追放させるのではなく、特定の状況が追放に変わるよう背中を押す働きをさせるのだ。
《命取り/Fatal Blow》がダメージを《終止/Terminate》に変えるカードだとすれば、《反自然/Against Nature》は《終止/Terminate》を《剣を鍬に/Swords to Plowshares》に変えるカードだ。そしてもちろんのこと、あらゆるコンバット・トリックへの対策カードでもある。
ルール上不正なものというわけではないにせよ、このカードのテキストには奇妙な響きがある。特に、英語版テキスト(Exile target permanent and target spell that targets that permanent.)には文章を機械的に切り貼りしたような不思議なリズム感があり、どことなく次元間生物の呪文の詠唱を思わせる。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/156997399668
このカードは追放能力を適切に調整して無色にするという目標をうまく達成しているように見えるものの、実際には他の追放手段に頼っており、問題の解決にはなっていない。《忌むべき者の頸木/Yoke of the Damned》とは違って追放は容易には起こらず、完全に色を使わずにカードを追放するためには別な無色の追放手段が必要になる。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157040082891
このカードも過去の黒いカードによく似ている。元になっているのは未来予知の《危険な墓/Grave Peril》で、インスタントメントになり、土地をはじめとするクリーチャー以外のパーマネントも追放するようになった。
戦乱のゼンディカーでは《存在の一掃/Scour from Existence》が、霊気紛争では《万能溶剤/Universal Solvent》がデザインされ、無色の万能除去に与えるべきマナ・コストは7マナ程度だという不文律が示された。《次元の外へ/Into the Outside》に瞬速を与えるコストはどちらかというと美的な面を優先して設定されているが、合計のコストは偶然にもこうした無色の《名誉回復/Vindicate》を連想させるものになっている。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157081367127/beat-the-wedge-decks
戦乱のゼンディカーが発売されると、このセットのカードは土地と《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar》だけだ、と冗談半分に(半分本気で)言われるようになった。実際、皮肉なことにこのエキスパンションによって強化されたのは、無色のエルドラージでも多色の同盟者でもなく、多色の楔のカードだったのだ。
R&Dがそうした事態を想定していたかどうかはわからないが、仮にエルドラージをメタゲーム上で多少なりとも優位に立たせたかったのであれば、《包囲サイ/Siege Rhino》をはじめとした楔のカードに対する何かしらの有力な対抗手段が必要だったように思われる。
《少数は多数/Less Is More》は奇妙な状況を引き起こす全体除去で、プレイヤーがコントロールしているパーマネントの色の数が少ないほど対戦相手に大きな被害を与えることができる。《全ては塵/All Is Dust》と異なるのは両方のプレイヤーが無色のデッキだった場合と、片方のプレイヤーが土地以外のパーマネントを出していなかった場合で、色に関係なくすべての土地でないパーマネントが追放される。
(後編に続く)
昨年公開されたマローの記事※1によると、嚥下と昇華者の再録は絶望的ということらしい。もとより私はこれら戦乱のゼンディカーのエルドラージのデザインに苦言を述べるためにこのブログを作ったので、市場調査の結果とマローの結論に何ら疑問はない。何度か述べたように、新たなメカニズム的実験として追放領域を扱うのならば、それは嚥下のように無意味なものであってはならなかったし、手垢のついたデザインのために昇華者の枠を割くべきでもなかった。戦乱のゼンディカーのエルドラージのデザインは率直に言って失敗しており、そうしたメカニズムの再録可能性が低いのは当然のことだ。
しかし、将来のマジックでこれらウラモグの血族を目にすることが本当になくなったのだと思うと、私としては別の感情を抱かざるをえない。最初の記事※2を書いて以来、私は嚥下と昇華者のデザインを魅力的にする方法について考え続けており、すでに記事にしたものも含め、私の空想の中の戦乱のゼンディカーのカードはかなりの数になった。人間とは不思議なもので、エルドラージのデザインについてあれこれ妄想するという行為が、どういうわけか彼らに対する愛着を生んだようだ。今や私は、不幸にも失敗してしまった彼らのデザイン的な名誉を回復したいという熱意に駆られている。
ストーリー※3では、ウラモグとコジレックが倒されてもなお、その血族は依然としてゼンディカーに残っているらしく、そうした生き残りが統率者のような製品に収録される可能性もないわけではない。しかし、プレイヤーが求めるものこそ製品化に値するという前提に立つのなら、優先的に印刷されるのはおそらく無色マナ関連のカードだろう。追放領域をメカニズムとして再び扱う可能性についてマローがどう考えているのかはわからないが、少なくともその最初の挑戦は大いに不満の残る結果に終わった。完結から1年以上が経った今、戦乱のゼンディカー・ブロックの最も印象的な記憶とは(コジレックの血族の)無色マナにまつわるものであり、決して追放領域ではありえない。
したがって、エルドラージが何らかの理由で再び姿を現すことがあるとしても、それが追放領域をテーマにしている可能性は非常に低い。同様に、追放領域が再びテーマになるとしても、それがエルドラージと結びつけられている可能性は決して高くはないだろう。それはすなわち、未来のマジックにおいて、追放領域を使ってより魅力的なエルドラージがデザインできるということを証明する機会がほとんど失われたことを意味している。
こうした状況から、追放領域とエルドラージの間に広がるデザイン空間の可能性を追究できるのは、もはや空想の中だけになってしまった。私のアイデアすべてが魅力的だということはありえないが、20枚近い私のアイデアの中のたとえ1枚でも彼らのデザイン的な名誉回復に貢献できたなら、これ以上嬉しいことはない。
※1……http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0018047/(ストーム値:『ゼンディカー』『戦乱のゼンディカー』ブロック/Storm Scale: Zendikar and Battle for Zendikar)
※2……http://casualmtg.diarynote.jp/201602271838453600/
※3……http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0016563/(ゼンディカーの復興/Zendikar Resurgent)
無色の追放
以前の記事※4で、私は無色と追放領域のわずかな重なりを使って新しいカードが作れないか試みたことがあったが、単に追放領域の利用方法を分類するに留まってしまい、あまりうまくはいかなかった。今にして思えば、無色と追放領域の共通部分を洗い出すだけではなく、そこから有色と追放領域の共通部分を引く作業が必要だったのかもしれない。
※4……http://casualmtg.diarynote.jp/201604070027176861/
反自然/Against Nature (1)
インスタント
パーマネント1つとそのパーマネントを対象とする呪文1つを対象とし、それらを追放する。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/156950937232
カラー・パイを持たない無色のカードで他のカードを追放するには、それを正当化する何らかの論理が必要だ。そのための最も簡単な方法は、おそらく追放能力を状況依存的にすることだろう。つまり、無色のカードに単純に何かを追放させるのではなく、特定の状況が追放に変わるよう背中を押す働きをさせるのだ。
《命取り/Fatal Blow》がダメージを《終止/Terminate》に変えるカードだとすれば、《反自然/Against Nature》は《終止/Terminate》を《剣を鍬に/Swords to Plowshares》に変えるカードだ。そしてもちろんのこと、あらゆるコンバット・トリックへの対策カードでもある。
ルール上不正なものというわけではないにせよ、このカードのテキストには奇妙な響きがある。特に、英語版テキスト(Exile target permanent and target spell that targets that permanent.)には文章を機械的に切り貼りしたような不思議なリズム感があり、どことなく次元間生物の呪文の詠唱を思わせる。
無に帰す/Return to Nothing (2)
エンチャント ― オーラ
エンチャント(土地でないパーマネント)
対戦相手がオーナーであるカードが1枚いずれかの領域から追放されたとき、エンチャントされているパーマネントを追放する。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/156997399668
このカードは追放能力を適切に調整して無色にするという目標をうまく達成しているように見えるものの、実際には他の追放手段に頼っており、問題の解決にはなっていない。《忌むべき者の頸木/Yoke of the Damned》とは違って追放は容易には起こらず、完全に色を使わずにカードを追放するためには別な無色の追放手段が必要になる。
次元の外へ/Into the Outside (3)
エンチャント
あなたが次元の外へを唱えるためにさらに(3)を支払うなら、あなたは次元の外へを、瞬速を持っているかのように唱えてもよい。
パーマネントが1つ対戦相手のコントロール下で戦場に出たとき、 次元の外へを生け贄に捧げる。そうした場合、そのパーマネントを追放する。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157040082891
このカードも過去の黒いカードによく似ている。元になっているのは未来予知の《危険な墓/Grave Peril》で、インスタントメントになり、土地をはじめとするクリーチャー以外のパーマネントも追放するようになった。
戦乱のゼンディカーでは《存在の一掃/Scour from Existence》が、霊気紛争では《万能溶剤/Universal Solvent》がデザインされ、無色の万能除去に与えるべきマナ・コストは7マナ程度だという不文律が示された。《次元の外へ/Into the Outside》に瞬速を与えるコストはどちらかというと美的な面を優先して設定されているが、合計のコストは偶然にもこうした無色の《名誉回復/Vindicate》を連想させるものになっている。
少数は多数/Less Is More (7)
ソーサリー
各プレイヤーは、自分の対戦相手がコントロールするパーマネントの中の色1色につき、自分がコントロールするパーマネントを1つ選ぶ。その後、各プレイヤーはそれぞれ、自分がコントロールする他のすべての土地でないパーマネントを追放する。
http://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/157081367127/beat-the-wedge-decks
戦乱のゼンディカーが発売されると、このセットのカードは土地と《ゼンディカーの同盟者、ギデオン/Gideon, Ally of Zendikar》だけだ、と冗談半分に(半分本気で)言われるようになった。実際、皮肉なことにこのエキスパンションによって強化されたのは、無色のエルドラージでも多色の同盟者でもなく、多色の楔のカードだったのだ。
R&Dがそうした事態を想定していたかどうかはわからないが、仮にエルドラージをメタゲーム上で多少なりとも優位に立たせたかったのであれば、《包囲サイ/Siege Rhino》をはじめとした楔のカードに対する何かしらの有力な対抗手段が必要だったように思われる。
《少数は多数/Less Is More》は奇妙な状況を引き起こす全体除去で、プレイヤーがコントロールしているパーマネントの色の数が少ないほど対戦相手に大きな被害を与えることができる。《全ては塵/All Is Dust》と異なるのは両方のプレイヤーが無色のデッキだった場合と、片方のプレイヤーが土地以外のパーマネントを出していなかった場合で、色に関係なくすべての土地でないパーマネントが追放される。
(後編に続く)
霊気紛争フレイバー・レビュー(翻訳)(後編)
2017年2月27日 Magic: The Gathering
それ以外の特筆すべきカード
良かれ悪しかれ、これらは画像を眺める僕の目をとらえたカードだ。
飛空艦隊の指揮官に昇進する者も「多い」という領事府の空軍の規模はどのくらいなのだろう? 「艦隊の指揮官」と言われると、イギリスの王立海軍※1のような「何千という者への責任」を想像してしまう。
※1……https://en.wikipedia.org/wiki/Fleet_Commander
《グレムリン解放/Release the Gremlins》だ! 僕はこの口ぶりが大好きだ。これは僕が想像するドワーフの話し方に完璧に合っているだけでなく、かかってこいと言わんばかりの様子がにじみ出ているアートワークだと思う。「単なる」ガラス瓶を持った男であるにもかかわらず。
……スラムが使っている道具は他にどこにあるのだろう? また、Palumboのイラストの左側にいるのは? 素晴らしい。マジックにおいて、わずかな細部の問題から禿げたキャラクターにたどり着くことがはたして何回あるだろうか?
Lake Hurwitzは、こんなに美しい背景まで描く必要はなかったはずだ。彼はまず風景を描き、そこに豪華なクリーチャーを加えたんだ!
どうしてこれは注目のストーリーではないのだろう? たった5つを取り上げるだけでは不十分だ。また、テゼレットの創造物の鋭い形状を描くアーティストの素晴らしい筆致は、カラデシュの豪華な曲線と衝突するかのようだ。
これが(これまでのマジックにおける最も都市化された2つの次元の間の)折り返し電話でないというなら、何だというんだ?
霊気紛争からマジックにデビューしたShreya Shettyを温かく迎えよう。風変わりなファンタジーと存命の創作写実画の巨匠、Donato Giancolaの指導※2の組み合わせは素晴らしく、とりわけ《たかり猫猿/Scrounging Bandar》はもっとたくさんの作品が見られるよう僕に期待させるものだ。
※2……http://www.shreyashetty.com/resume/
もう一人温かく迎えるのは、Yongjae Choiだ。韓国のコンセプト・アーティストでありイラストレーターでもある(彼のindusconcept.com※3のウェブサイトでは、名字である「Choi」を先に書く韓国式の順番になっている——なぜカードのクレジットでは反対になっているのだろう?)。彼はビデオゲームから出発し、相当な彫刻的才能※4も持っているようだ。
※3……http://indusconcept.com/
※4……https://twitter.com/indusconcept/status/749038630136451072
君は「これがスパルタの流儀だ!(This Is Sparta!)」という台詞を聞いたことがあるだろう。きっとアートの概要のどこかにも書いてあったはずだ。
さらに歓迎すべき人がいる! ヨーロッパのイラストレーターであるJohn Silvaも今回デビューを果たした。ほとんど独学のSilva氏はTwitchの配信を利用している(彼が成熟した視聴者のためにやっているというのでリンクは貼らないが、彼の別のオンライン・プロフィール※5を見ればチャンネルは簡単に見つかるに違いない)。彼はマジックのイラストの仕事が25年以内にどの程度来るものなのかという疑問の答えになる人物だ。
※5……https://twitter.com/JohnSilvaArt
Gathererで確認※6:ヤヘンニはフレイバー・テキストで「あなた(darling)※7」と発言した、これまでで唯一のキャラクターである。
※6……http://gatherer.wizards.com/Pages/Search/Default.aspx?action=advanced&flavor=+%5bdarling%5d
※7……日本語訳についてはMTG Wikiを参照。http://mtgwiki.com/wiki/%E3%83%A4%E3%83%98%E3%83%B3%E3%83%8B/Yahenni
《ピアの革命/Pia’s Revolution》と対になるカードであり、同じアーティストのClint Cearleyによって描かれている。母のバージョンよりも明らかに個人主義的であり、《チャンドラの革命/Chandra’s Revolution》は、金属のハンマーの硬さと置き換えられた炎の自然さによって、いっそう表現豊かになっている。とはいえ、どちらの場合もフレイバー・テキストには難があり、第三者視点から語られている。僕は彼ら自身の言葉でそれを聞きたかった。
もしこのセットからイラストを1枚、僕のリビングにテレポートさせられるなら、このVolkan Bagaによる虎模様のドラゴンを選ぶだろう。
彼女はゴーグルをした「ラガバン」という名前の伝説の猿を「王子様」にしている海賊の女王のティーンエイジャーだ。大好きにならない理由があるかい?
根っからのコレクター※8としては、これはきついカードだ。コレクションを守れ!
※8……http://www.starcitygames.com/article/31363_Your-Hobby-Your-Career.html(Your Hobby, Your Career)
さあ「Winona Nelsonのアート鑑賞」の時間だ。
時間終わり。次に行こう。
冗談だよ。2回目だ。
領事府の権威を転倒させ、打ち捨てる「漏霊塔(leaking spire)」の文様は、霊気紛争およびカラデシュにおけるいくつかの(ときには思いもよらない)場所に登場している。しかし、ステンシル※9のような方法なしでグラフィティにするには、あまりに凝りすぎではないだろうか?
※9……https://en.wikipedia.org/wiki/Stencil_graffiti
これは奇妙な絵だ。武器についた(おそらく毒が塗られているであろう)棘は強調されておらず、改革派の前側の手がどこで終わり、建物がどこから始まるのかも曖昧になっている。
Winona Nelsonのアート鑑賞、その3。
ここには特に見るべきものがない……Ryan Pancoastが完全に王者の風格で、基本セット2010でデビューして以来の奇想天外な風景を描いたということ以外には。
3つのアジャニの絵、首と下半身の衣装との間の皮の胸帯の3つの異なる位置、そしてお互いに関係している3つの異なる角度。これらは僕を悩ませる。
現在と過去(「過去」はプレインズウォーカーがカード・タイプになって2年目のものだ)。彼もずいぶん変わった。
墨溜まりのリバイアサン「適当な次元のクリーチャーを7/11にして、フレイバー・テキストで『Big Gulp※10』を飲ませる? 面白いね」
領事府の弩級艦「アメリカで長いこと南アジア系の人を傷つけるステレオタイプとして使われてきたというのに(ザ・シンプソンズ※11もそうだ)、インドに触発されたカラデシュの機体を『7/11』にする? 面白くないね。これについてはShivam Bhatt※12に賛成だし、マーク・ローズウォーターも謝罪していた※13」
※10……https://www.7-eleven.com/Drinks/Big-Gulp/
※11……https://en.wikipedia.org/wiki/Apu_Nahasapeemapetilon
※12……http://talinthas.tumblr.com/post/155954286712/i-have-to-say-i-was-really-dismayed-to-see-the
※13……https://twitter.com/maro254/status/821073466803634176
ゴンティを(2)(黒)(黒)で唱えて、霊気心臓を取り出すことはできるかな? どうかな?
「ギラプールの失望(Nope of Ghirapur)※13」かな。
※13……http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0018252/(起死回生/Breaking Points)
またもやLake Hurwitzは複雑なイラストを難なく素晴らしく仕上げた。
……ならどうやって容器を持っているんだ? 教えてくれ!
豪華なJohn Avonの土地のイラストだろう? 未だ、僕の心はヴォーソスのままだ。ウィザーズ・オブ・ザ・コーストは、このセットの締め方を知っていたのか?
君がこの嵐のような霊気紛争のフレイバー・ツアーを楽しんでくれたらと願っている。君の好きなカードは何で、その理由は何だろう?
ソース…… http://www.starcitygames.com/article/34439_Aether-Revolt-Flavor-Review.html(Aether Revolt Flavor Review)
翻訳後記
補足のため、※12と※13のリンクも和訳しておきます。
信じてもらえないかもしれませんが、今回私がこの記事を翻訳したのはマジックが政治的に中立でないとしてWotCを糾弾するためではありません。確かにこの記事は全体として批判的な雰囲気で書かれていますが、内容は政治的メッセージだけではありません。
内容に賛成するにせよ反対するにせよ、このJohn Dale Beetyというライターの視点は珍しいと思います。単にヴォーソス的であるという以上に、現実の歴史やアーティストやクリエイティブ・チームへ際限なく枝を伸ばしていく様子がとても興味深く感じられました。
ちなみに、カラデシュのアートがソ連的であるという指摘はしばしばなされているようです(https://twitter.com/ReserveList/status/783379028581416960/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw)。
誤訳や誤字、用語の間違いなどありましたら指摘していただければ幸いです。
良かれ悪しかれ、これらは画像を眺める僕の目をとらえたカードだ。
飛空士の提督/Aeronaut Admiral (3)(白)
クリーチャー ― 人間・操縦士 AER, アンコモン
飛行
あなたがコントロールする機体は飛行を持つ。
領事府の優秀な操縦士は大半が飛空会の出身だ。飛空艦隊の指揮官に昇進する者も多い。
3/1
Illus. E. M. Gist
飛空艦隊の指揮官に昇進する者も「多い」という領事府の空軍の規模はどのくらいなのだろう? 「艦隊の指揮官」と言われると、イギリスの王立海軍※1のような「何千という者への責任」を想像してしまう。
※1……https://en.wikipedia.org/wiki/Fleet_Commander
大胆な潜入者/Audacious Infiltrator (1)(白)
クリーチャー ― ドワーフ・ならず者 AER, コモン
大胆な潜入者はアーティファクト・クリーチャーによってはブロックされない。
「こいつは30秒もあれば何でもスクラップにできるよ!どうした、最初に試すのは誰だい?俺のことを止めてみなよ!」
3/1
Illus. Jakub Kasper
《グレムリン解放/Release the Gremlins》だ! 僕はこの口ぶりが大好きだ。これは僕が想像するドワーフの話し方に完璧に合っているだけでなく、かかってこいと言わんばかりの様子がにじみ出ているアートワークだと思う。「単なる」ガラス瓶を持った男であるにもかかわらず。
修復専門家/Restoration Specialist (1)(白)
クリーチャー ― ドワーフ・工匠 AER, アンコモン
(白),修復専門家を生け贄に捧げる:あなたの墓地からアーティファクト・カード最大1枚とエンチャント・カード最大1枚を対象とし、それらをあなたの手札に戻す。
ドワーフが使う工具は何代も受け継がれた家宝であり値段は付けられない。
2/1
Illus. David Palumbo
スラムの巧技/Sram’s Expertise (2)(白)(白)
ソーサリー AER, レア
無色の1/1の霊気装置・アーティファクト・クリーチャー・トークンを3体生成する。
あなたは、あなたの手札から点数で見たマナ・コストが3以下のカード1枚を、そのマナ・コストを支払うことなく唱えてもよい。
「どんな場合でも重要なのは、仕事に最適な工具の選択だ。爪楊枝には、こいつが最適だ。」
Illus. Kieran Yanner
……スラムが使っている道具は他にどこにあるのだろう? また、Palumboのイラストの左側にいるのは? 素晴らしい。マジックにおいて、わずかな細部の問題から禿げたキャラクターにたどり着くことがはたして何回あるだろうか?
内陸のドレイク/Hinterland Drake (2)(青)
クリーチャー ― ドレイク AER, コモン
飛行
内陸のドレイクではアーティファクト・クリーチャーをブロックできない。
「子供のころ、野生のドレイクに乗って飛びたいって思ったわ。それで自分用の翼を作ったのよ。」
――空大工、雲触れのナジャ
2/3
Illus. Lake Hurwitz
Lake Hurwitzは、こんなに美しい背景まで描く必要はなかったはずだ。彼はまず風景を描き、そこに豪華なクリーチャーを加えたんだ!
金属の叱責/Metallic Rebuke (2)(青)
インスタント AER, コモン
即席(あなたのアーティファクトが、この呪文を唱える助けとなる。あなたはあなたのアーティファクトをタップして、1個あたり(1)の支払いに代えてもよい。)
呪文1つを対象とする。それのコントローラーが(3)を支払わないかぎり、それを打ち消す。
「手遅れだ。あれはもう動いている。」
――テゼレット
Illus. Eric Deschamps
どうしてこれは注目のストーリーではないのだろう? たった5つを取り上げるだけでは不十分だ。また、テゼレットの創造物の鋭い形状を描くアーティストの素晴らしい筆致は、カラデシュの豪華な曲線と衝突するかのようだ。
身柄拘束/Take into Custody (青)
インスタント AER, コモン
クリーチャー1体を対象とし、それをタップする。それは、それのコントローラーの次のアンタップ・ステップにアンタップしない。
「俺に白状するか、それとも遵法長のところに行くか。簡単に済ませた方がいいんじゃないか?」
Illus. David Palumbo
拘引/Arrest (2)(白)
エンチャント ― オーラ(Aura) RTR, アンコモン
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは攻撃もブロックもできず、その起動型能力を起動できない。
「あんたの罪なら立証してやるわ。うちらが無実の者を拘引するわけないでしょ。」
――第10管区の拘引者、ラヴィニア
Illus. Greg Staples
これが(これまでのマジックにおける最も都市化された2つの次元の間の)折り返し電話でないというなら、何だというんだ?
風友会の強襲者/Wind-Kin Raiders (4)(青)(青)
クリーチャー ― 人間・工匠 AER, アンコモン
即席(あなたのアーティファクトが、この呪文を唱える助けとなる。あなたはあなたのアーティファクトをタップして、1個あたり(1)の支払いに代えてもよい。)
飛行
風友会のような小さな飛空士組織には、改革派に組しても失う物は少なく、得る物は大きい。
4/3
Illus. Shreya Shetty
たかり猫猿/Scrounging Bandar (1)(緑)
クリーチャー ― 猫・猿 AER, コモン
たかり猫猿は、+1/+1カウンターが2個置かれた状態で戦場に出る。
あなたのアップキープの開始時に、他のクリーチャー1体を対象とする。あなたはたかり猫猿の上から望む数の+1/+1カウンターをそれの上に移動してもよい。
「ついさっき、ここにいたんだが……」
0/0
Illus. Shreya Shetty
霊気紛争からマジックにデビューしたShreya Shettyを温かく迎えよう。風変わりなファンタジーと存命の創作写実画の巨匠、Donato Giancolaの指導※2の組み合わせは素晴らしく、とりわけ《たかり猫猿/Scrounging Bandar》はもっとたくさんの作品が見られるよう僕に期待させるものだ。
※2……http://www.shreyashetty.com/resume/
霊気毒殺者/Aether Poisoner (1)(黒)
クリーチャー ― 人間・工匠 AER, コモン
接死(これが何らかのダメージをクリーチャーに与えたら、それだけで破壊する。)
霊気毒殺者が戦場に出たとき、あなたは(E)(E)(エネルギー・カウンター2個)を得る。
霊気毒殺者が攻撃するたび、あなたは(E)(E)を支払ってもよい。そうしたなら、無色の1/1の霊気装置・アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体生成する。
1/1
Illus. Yongjae Choi
もう一人温かく迎えるのは、Yongjae Choiだ。韓国のコンセプト・アーティストでありイラストレーターでもある(彼のindusconcept.com※3のウェブサイトでは、名字である「Choi」を先に書く韓国式の順番になっている——なぜカードのクレジットでは反対になっているのだろう?)。彼はビデオゲームから出発し、相当な彫刻的才能※4も持っているようだ。
※3……http://indusconcept.com/
※4……https://twitter.com/indusconcept/status/749038630136451072
致命的な一押し/Fatal Push (黒)
インスタント AER, アンコモン
クリーチャー1体を対象とし、それの点数で見たマナ・コストが2以下であるなら、それを破壊する。
紛争 ― このターンにあなたがコントロールするパーマネントが戦場を離れていたなら、代わりに、そのクリーチャーの点数で見たマナ・コストが4以下であるなら、それを破壊する。
Illus. Eric Deschamps
君は「これがスパルタの流儀だ!(This Is Sparta!)」という台詞を聞いたことがあるだろう。きっとアートの概要のどこかにも書いてあったはずだ。
第四橋をうろつく者/Fourth Bridge Prowler (黒)
クリーチャー ― 人間・ならず者 AER, コモン
第四橋をうろつく者が戦場に出たとき、クリーチャー1体を対象とする。あなたは「ターン終了時まで、それは-1/-1の修整を受ける。」を選んでもよい。
高尚な賢者からケチなこそ泥まで、改革派はどこにでもいる。
1/1
Illus. John Silva
さらに歓迎すべき人がいる! ヨーロッパのイラストレーターであるJohn Silvaも今回デビューを果たした。ほとんど独学のSilva氏はTwitchの配信を利用している(彼が成熟した視聴者のためにやっているというのでリンクは貼らないが、彼の別のオンライン・プロフィール※5を見ればチャンネルは簡単に見つかるに違いない)。彼はマジックのイラストの仕事が25年以内にどの程度来るものなのかという疑問の答えになる人物だ。
※5……https://twitter.com/JohnSilvaArt
不死の援護者、ヤヘンニ/Yahenni, Undying Partisan (2)(黒)
伝説のクリーチャー ― 霊基体・吸血鬼 AER, レア
速攻
対戦相手がコントロールするクリーチャーが1体死亡するたび、不死の援護者、ヤヘンニの上に+1/+1カウンターを1個置く。
他のクリーチャー1体を生け贄に捧げる:ターン終了時まで、不死の援護者、ヤヘンニは破壊不能を得る。
「繊細さの時期は終わったのよ、あなた。」
2/2
Illus. Lius Lasahido
ヤヘンニの巧技/Yahenni’s Expertise (2)(黒)(黒)
ソーサリー AER, レア
ターン終了時まで、すべてのクリーチャーは-3/-3の修整を受ける。
あなたは、あなたの手札から点数で見たマナ・コストが3以下のカード1枚を、そのマナ・コストを支払うことなく唱えてもよい。
「領事府が私を追い込んだのよ、あなた。その結果が、これ。」
Illus. Daarken
Gathererで確認※6:ヤヘンニはフレイバー・テキストで「あなた(darling)※7」と発言した、これまでで唯一のキャラクターである。
※6……http://gatherer.wizards.com/Pages/Search/Default.aspx?action=advanced&flavor=+%5bdarling%5d
※7……日本語訳についてはMTG Wikiを参照。http://mtgwiki.com/wiki/%E3%83%A4%E3%83%98%E3%83%B3%E3%83%8B/Yahenni
チャンドラの革命/Chandra’s Revolution (3)(赤)
ソーサリー AER, コモン
クリーチャー1体と土地1つを対象とする。チャンドラの革命はそのクリーチャーに4点のダメージを与える。その土地をタップする。その土地は、それのコントローラーの次のアンタップ・ステップにアンタップしない。
怒りがチャンドラを突き動かしていた。その怒りは父を奪った男に向けられていた。
Illus. Clint Cearley
《ピアの革命/Pia’s Revolution》と対になるカードであり、同じアーティストのClint Cearleyによって描かれている。母のバージョンよりも明らかに個人主義的であり、《チャンドラの革命/Chandra’s Revolution》は、金属のハンマーの硬さと置き換えられた炎の自然さによって、いっそう表現豊かになっている。とはいえ、どちらの場合もフレイバー・テキストには難があり、第三者視点から語られている。僕は彼ら自身の言葉でそれを聞きたかった。
無秩序街の主/Freejam Regent (4)(赤)(赤)
クリーチャー ― ドラゴン AER, レア
即席(あなたのアーティファクトが、この呪文を唱える助けとなる。あなたはあなたのアーティファクトをタップして、1個あたり(1)の支払いに代えてもよい。)
飛行
(1)(赤):ターン終了時まで、無秩序街の主は+2/+0の修整を受ける。
無秩序街の塔に鎮座するドラゴンは、この地域の断固とした独立を象徴している。
4/4
Illus. Volkan Baga
もしこのセットからイラストを1枚、僕のリビングにテレポートさせられるなら、このVolkan Bagaによる虎模様のドラゴンを選ぶだろう。
航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ/Kari Zev, Skyship Raider (1)(赤)
伝説のクリーチャー ― 人間・海賊 AER, レア
先制攻撃、威迫
航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴが攻撃するたび、「ラガバン」という名前の赤の2/1の伝説の猿・クリーチャー・トークンを1体、タップ状態で攻撃している状態で生成する。戦闘終了時に、そのトークンを追放する。
自身の船であるドラゴンの笑み号の上では、カーリは自分以外誰の規則にも縛られない。
1/3
Illus. Brad Rigney
彼女はゴーグルをした「ラガバン」という名前の伝説の猿を「王子様」にしている海賊の女王のティーンエイジャーだ。大好きにならない理由があるかい?
貪欲な侵入者/Ravenous Intruder (1)(赤)
クリーチャー ― グレムリン AER, アンコモン
アーティファクト1つを生け贄に捧げる:ターン終了時まで、貪欲な侵入者は+2/+2の修整を受ける。
「近ごろ素晴らしい品を買い入れたのだ。あれに見合うよう防犯機構を一新しようと思っている。明日、専門家に来てもらう予定だ。」
――月光会、クルナ・マジャーン
1/2
Illus. Mathias Kollros
根っからのコレクター※8としては、これはきついカードだ。コレクションを守れ!
※8……http://www.starcitygames.com/article/31363_Your-Hobby-Your-Career.html(Your Hobby, Your Career)
霊気流の豹/Aetherstream Leopard (2)(緑)
クリーチャー ― 猫 AER, コモン
トランプル
霊気流の豹が戦場に出たとき、あなたは(E)(エネルギー・カウンター1個)を得る。
霊気流の豹が攻撃するたび、あなたは(E)を支払ってもよい。そうしたなら、ターン終了時まで、これは+2/+0の修整を受ける。
2/3
Illus. Winona Nelson
さあ「Winona Nelsonのアート鑑賞」の時間だ。
時間終わり。次に行こう。
造命師の贈り物/Lifecrafter’s Gift (3)(緑)
インスタント AER, アンコモン
クリーチャー1体を対象とし、それの上に+1/+1カウンターを1個置く。その後、あなたがコントロールする+1/+1カウンターが置かれている各クリーチャーの上に+1/+1カウンターをそれぞれ1個置く。
優れた技師には、問題が解決していてもそれがわかる。
Illus. Winona Nelson
冗談だよ。2回目だ。
襲拳会の革命家/Maulfist Revolutionary (1)(緑)(緑)
クリーチャー ― 人間・戦士 AER, アンコモン
トランプル
襲拳会の革命家が戦場に出たか死亡したとき、パーマネント1つかプレイヤー1人を対象とし、それが持つカウンター1種類につきそれぞれその種類のカウンターをもう1個、そのパーマネントの上に置くかそのプレイヤーに与える。
3/3
Illus. Scott Murphy
結束への呼びかけ/Call for Unity (3)(白)(白)
エンチャント AER, レア
紛争 ― あなたの終了ステップの開始時に、このターンにあなたがコントロールするパーマネントが戦場を離れていた場合、結束への呼びかけの上に結束カウンターを1個置く。
あなたがコントロールするクリーチャーは、結束への呼びかけの上に置かれている結束カウンター1個につき+1/+1の修整を受ける。
「漏霊塔」は領事府の統制からの解放を意味する。
Illus. John Severin Brassell
気ままな芸術家/Spontaneous Artist (3)(赤)
クリーチャー ― 人間・ならず者 KLD, コモン
気ままな芸術家が戦場に出たとき、あなたは(E)(エネルギー・カウンター1個)を得る。
(E)を支払う:クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは速攻を得る。
「漏霊塔」の落書きは、改革派がいるところならどこにでも見つかる。
3/3
Illus. Viktor Titov
領事府の権威を転倒させ、打ち捨てる「漏霊塔(leaking spire)」の文様は、霊気紛争およびカラデシュにおけるいくつかの(ときには思いもよらない)場所に登場している。しかし、ステンシル※9のような方法なしでグラフィティにするには、あまりに凝りすぎではないだろうか?
※9……https://en.wikipedia.org/wiki/Stencil_graffiti
ナーナムの改革派/Narnam Renegade (緑)
クリーチャー ― エルフ・戦士 AER, アンコモン
接死
紛争 ― このターンにあなたがコントロールするパーマネントが戦場を離れていたなら、ナーナムの改革派は+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。
「お前の心臓を串刺しにする以外にも、それを止める方法はあるのだ。」
1/2
Illus. Greg Opalinski
これは奇妙な絵だ。武器についた(おそらく毒が塗られているであろう)棘は強調されておらず、改革派の前側の手がどこで終わり、建物がどこから始まるのかも曖昧になっている。
起伏鱗の大牙獣/Ridgescale Tusker (3)(緑)(緑)
クリーチャー ― ビースト AER, アンコモン
起伏鱗の大牙獣が戦場に出たとき、あなたがコントロールする他の各クリーチャーの上に+1/+1カウンターをそれぞれ1個置く。
「どの生き物も課題の解決法を持っているわ。見習わなくてはね。」
――造命の賢者、オビア・パースリー
5/5
Illus. Winona Nelson
Winona Nelsonのアート鑑賞、その3。
枷はずれな成長/Unbridled Growth (緑)
エンチャント ― オーラ AER, コモン
エンチャント(土地)
エンチャントされている土地は「(T):あなたのマナ・プールに、好きな色1色のマナ1点を加える。」を持つ。
枷はずれな成長を生け贄に捧げる:カードを1枚引く。
「領事府が好き勝手をするなら、自然もそうするさ。」
――僧帽地帯の番人、スーラーシ
Illus. Ryan Pancoast
見紛う蜃気楼/Convincing Mirage (1)(青)
エンチャント ― オーラ M10, コモン
エンチャント(土地)
見紛う蜃気楼が戦場に出るに際し、基本土地タイプを1つ選ぶ。
エンチャントされている土地は選ばれたタイプである。
「ここはどこだ、だって? もっと意味のある質問をしてくれよ。」
Illus. Ryan Pancoast
ここには特に見るべきものがない……Ryan Pancoastが完全に王者の風格で、基本セット2010でデビューして以来の奇想天外な風景を描いたということ以外には。
不撓のアジャニ/Ajani Unyielding (4)(緑)(白)
プレインズウォーカー ― アジャニ AER, 神話レア
[+2]:あなたのライブラリーの一番上からカードを3枚公開する。これにより公開されたすべての土地でないパーマネント・カードをあなたの手札に加え、残りをあなたのライブラリーの一番下に望む順番で置く。
[-2]:クリーチャー1体を対象とし、それを追放する。それのコントローラーは、それのパワーに等しい点数のライフを得る。
[-9]:あなたがコントロールする各クリーチャーの上に+1/+1カウンターをそれぞれ5個と、あなたがコントロールする他の各プレインズウォーカーの上に忠誠カウンターをそれぞれ5個置く。
4
Illus. Kieran Yanner
アジャニの誓い/Oath of Ajani (緑)(白)
伝説のエンチャント AER, レア
アジャニの誓いが戦場に出たとき、あなたがコントロールする各クリーチャーの上に+1/+1カウンターをそれぞれ1個置く。
あなたがプレインズウォーカー呪文を唱えるためのコストは(1)少なくなる。
「すべての者が居場所を見つけるまで、私はゲートウォッチになる。」
Illus. Wesley Burt
勇敢な守護者、アジャニ/Ajani, Valiant Protector (4)(緑)(白)
プレインズウォーカー ― アジャニ AER, 神話レア
[+2]:クリーチャー最大1体を対象とし、それの上に+1/+1カウンターを2個置く。
[+1]:クリーチャー・カードが公開されるまで、あなたのライブラリーの一番上からカードを1枚ずつ公開する。そのカードをあなたの手札に加え、残りをあなたのライブラリーの一番下に無作為の順番で置く。
[-11]:クリーチャー1体を対象とし、それの上に+1/+1カウンターをX個置く。Xはあなたのライフ総量に等しい。ターン終了時まで、そのクリーチャーはトランプルを得る。
4
Illus. Anna Steinbauer
3つのアジャニの絵、首と下半身の衣装との間の皮の胸帯の3つの異なる位置、そしてお互いに関係している3つの異なる角度。これらは僕を悩ませる。
策謀家テゼレット/Tezzeret the Schemer (2)(青)(黒)
プレインズウォーカー ― テゼレット AER, 神話レア
[+1]:「エーテリウム電池」という名前のアーティファクト・トークンを1つ生成する。それは「(T),このアーティファクトを生け贄に捧げる:あなたのマナ・プールに好きな色1色のマナ1点を加える。」を持つ。
[-2]:クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは+X/-Xの修整を受ける。Xは、あなたがコントロールするアーティファクトの総数に等しい。
[-7]:あなたは「あなたのターンの戦闘の開始時に、あなたがコントロールするアーティファクト1つを対象とする。それは基本のパワーとタフネスが5/5のアーティファクト・クリーチャーになる。」を持つ紋章を得る。
5
Illus. Ryan Alexander Lee
求道者テゼレット/Tezzeret the Seeker (3)(青)(青)
プレインズウォーカー ― テゼレット ALA, 神話レア
[+1]:アーティファクトを最大2つまで対象とし、それらをアンタップする。
[-X]:あなたのライブラリーから、点数で見たマナ・コストがX以下のアーティファクト・カードを1枚探し、それを戦場に出す。その後、あなたのライブラリーを切り直す。
[-5]:ターン終了時まで、あなたがコントロールするアーティファクトは基本のパワーとタフネスが5/5のアーティファクト・クリーチャーになる。
4
Illus. Anthony Francisco
現在と過去(「過去」はプレインズウォーカーがカード・タイプになって2年目のものだ)。彼もずいぶん変わった。
領事府の弩級艦/Consulate Dreadnought (1)
アーティファクト ― 機体 AER, アンコモン
搭乗6(あなたがコントロールする望む数のクリーチャーを、パワーの合計が6以上になるように選んでタップする:ターン終了時まで、この機体(Vehicle)はアーティファクト・クリーチャーになる。)
「まるで港の中央に砦がもう一つできたみたいですよ。」
――ボーマットの商人、ベズ・タバーニ
7/11
Illus. Cliff Childs
墨溜まりのリバイアサン/Inkwell Leviathan (7)(青)(青)
アーティファクト・クリーチャー ― リバイアサン CON, レア
島渡り(このクリーチャーは、防御プレイヤーが島をコントロールしているかぎりブロックされない。)
トランプル
被覆(このクリーチャーは呪文や能力の対象にならない。)
「その口に七つ目の海が消え、世界が存在する間、二度その姿を見せることはありませんでした。」
――エスパーの寓話
7/11
Illus. Anthony Francisco
墨溜まりのリバイアサン「適当な次元のクリーチャーを7/11にして、フレイバー・テキストで『Big Gulp※10』を飲ませる? 面白いね」
領事府の弩級艦「アメリカで長いこと南アジア系の人を傷つけるステレオタイプとして使われてきたというのに(ザ・シンプソンズ※11もそうだ)、インドに触発されたカラデシュの機体を『7/11』にする? 面白くないね。これについてはShivam Bhatt※12に賛成だし、マーク・ローズウォーターも謝罪していた※13」
※10……https://www.7-eleven.com/Drinks/Big-Gulp/
※11……https://en.wikipedia.org/wiki/Apu_Nahasapeemapetilon
※12……http://talinthas.tumblr.com/post/155954286712/i-have-to-say-i-was-really-dismayed-to-see-the
※13……https://twitter.com/maro254/status/821073466803634176
豪華の王、ゴンティ/Gonti, Lord of Luxury (2)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー ― 霊基体・ならず者 KLD, レア
接死
豪華の王、ゴンティが戦場に出たとき、対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーのライブラリーの一番上からカードを4枚見て、そのうち1枚を裏向きに追放し、その後残りをそのライブラリーの一番下に無作為の順番で置く。そのカードが追放され続けているかぎり、あなたはそれを見てもよく、あなたはそれを唱えてもよく、あなたはそれを唱えるために任意のマナを望むタイプのマナであるかのように支払ってもよい。
2/3
Illus. Daarken
ゴンティの霊気心臓/Gonti’s Aether Heart (6)
伝説のアーティファクト AER, 神話レア
ゴンティの霊気心臓か他のアーティファクトが1つあなたのコントロール下で戦場に出るたび、あなたは(E)(E)(エネルギー・カウンター2個)を得る。
(E)(E)(E)(E)(E)(E)(E)(E)を支払う,ゴンティの霊気心臓を追放する:このターンに続いて追加の1ターンを行う。
ゴンティを生かし続ける魔法の働きにもかかわらず、この犯罪王は血が通っていないと言われている。
Illus. Vincent Proce
ゴンティを(2)(黒)(黒)で唱えて、霊気心臓を取り出すことはできるかな? どうかな?
ギラプールの希望/Hope of Ghirapur (1)
伝説のアーティファクト・クリーチャー ― 飛行機械 AER, レア
飛行
ギラプールの希望を生け贄に捧げる:このターンにギラプールの希望によって戦闘ダメージを与えられたプレイヤー1人を対象とする。あなたの次のターンまで、そのプレイヤーはクリーチャーでない呪文を唱えられない。
テゼレットの次元橋を破壊するため、改革派は軽量の飛行機械に霊気撹乱機を積み込んだ。
1/1
Illus. Lius Lasahido
「ギラプールの失望(Nope of Ghirapur)※13」かな。
※13……http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0018252/(起死回生/Breaking Points)
改革派の地図/Renegade Map (1)
アーティファクト AER, コモン
改革派の地図はタップ状態で戦場に出る。
(T),改革派の地図を生け贄に捧げる:あなたのライブラリーから基本土地カード1枚を探し、それを公開してあなたの手札に加え、その後あなたのライブラリーを切り直す。
「どの地域にも隠れ家があるが、これ無しでは見つけられないさ。」
Illus. Lake Hurwitz
達人の巻物/Scroll of the Masters (2)
アーティファクト FRF, レア
あなたがクリーチャーでない呪文を1つ唱えるたび、達人の巻物の上に伝承カウンターを1個置く。
(3),(T):あなたがコントロールするクリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは達人の巻物の上に置かれている伝承カウンター1個につき+1/+1の修整を受ける。
Illus. Lake Hurwitz
またもやLake Hurwitzは複雑なイラストを難なく素晴らしく仕上げた。
万能溶剤/Universal Solvent (1)
アーティファクト AER, コモン
(7),(T),万能溶剤を生け贄に捧げる:パーマネント1つを対象とし、それを破壊する。
「これ数滴で、どんな問題も解決よ。」
――速接会の発明者、ターマズ
Illus. Christopher Moeller
……ならどうやって容器を持っているんだ? 教えてくれ!
産業の塔/Spire of Industry
土地 AER, レア
(T):あなたのマナ・プールに(◇)を加える。
(T),1点のライフを支払う:あなたのマナ・プールに好きな色1色のマナ1点を加える。この能力は、あなたがアーティファクトをコントロールしているときにのみ起動できる。
ある者には繁栄の灯、他の者には抑圧の影。
Illus. John Avon
豪華なJohn Avonの土地のイラストだろう? 未だ、僕の心はヴォーソスのままだ。ウィザーズ・オブ・ザ・コーストは、このセットの締め方を知っていたのか?
君がこの嵐のような霊気紛争のフレイバー・ツアーを楽しんでくれたらと願っている。君の好きなカードは何で、その理由は何だろう?
ソース…… http://www.starcitygames.com/article/34439_Aether-Revolt-Flavor-Review.html(Aether Revolt Flavor Review)
翻訳後記
補足のため、※12と※13のリンクも和訳しておきます。
※12
霊気紛争の《領事府の弩級艦/Consulate Dreadnought》が7/11であるのを見たとき、それがインドがテーマのセットに込められた明らかなジョークだとしても、私は本当にうろたえた。けれども、それはバニラに与えられた単なる数字であり、R&Dが好きなものだとわかっていたので(《墨溜まりのリバイアサン/Inkwell Leviathan》は私が大好きなクリーチャーのうちの1体だ。嘘じゃない)、私は肩をすくめて何も言わないことにした。
何も大騒ぎすることはない、意味なんてない、気にしないでいよう。そして今日、公式サイトでマローの記事を開くとこんなことが――私が初めてこのカードを見たときの感想は、もしこのカードのフレイバー・テキストを私が担当していたら、カード名かフレイバー・テキストのどこかに「コンビニエンス」という単語を入れることに拘っていただろう、というものだ(私がカード名やフレイバー・テキストを担当すべきでないという強い証拠かもしれない。しかし、セブン-イレブンといえばコンビニエンスストアだ)。その次に浮かんだ感想は、これはパワーとタフネスの新しい組み合わせだ、というものだった。違った。過去に2回使っている。
おい、おい。
さあみんな、歴史のお勉強だ。9/11以前、アメリカに住むインド人を最も傷つけたステレオタイプは何だろうか? それはコンビニエンスストアのオーナーなんだ。特にセブン-イレブン。というのも私たちが図々しくもここに移住し、できる仕事は何でもやり、家族を養うためにめちゃくちゃに働き、親戚を呼び寄せ、彼らに職を与えてやり、家族全体の社会的地位が向上するまで単純作業をしたからだ。
けれども、本当のアメリカ人たちが見たものは、訛りの強い、おかしな見た目の、スラーピーとナチョスを売るときに「ありがとうございました、またいらしてください(Thank you come again)」と言う人々であり、嘲笑と侮辱のために「数十年」も戯画化されてきた。ザ・シンプソンズにはアプーというインド人のコンビニ店員のキャラクターがおり、声やアクセントなどを印象づけている。
繰り返し言おう――9/11と、あらゆるテロリストもしくはオサマ関連のジョークの前には、セブン-イレブンのジョークが茶色い肌の人を最も傷つけるものだった。そして程度の差こそあれ、今もこのステレオタイプは強く根づいている。
マジックのクリエイティブ・チームがこのジョークを採用しなくて本当によかった。もしこれが本当になっていたなら、カラデシュの悪夢の完璧な仕上げになっただろうから。
私の最悪の瞬間、PAXの会場で、私はコミュニティ・マネージャーのAlisonに、マジックを愛していると伝えた。しかし現在、マジックは私を愛していないと感じる。そして、もしもこのジョークが製品になっていたとしたら、私はそれが真実だと思っただろう。
ソース……http://talinthas.tumblr.com/post/155954286712/i-have-to-say-i-was-really-dismayed-to-see-the
※13
マーク・ローズウォーター
@maro254
@ghirapurigears 君が今日教えてくれるまで、私はそのつながりに気づいていなかった。意図的なものではないよ。とても申し訳ない。#WotCStaff
ソース……https://twitter.com/maro254/status/821073466803634176
信じてもらえないかもしれませんが、今回私がこの記事を翻訳したのはマジックが政治的に中立でないとしてWotCを糾弾するためではありません。確かにこの記事は全体として批判的な雰囲気で書かれていますが、内容は政治的メッセージだけではありません。
内容に賛成するにせよ反対するにせよ、このJohn Dale Beetyというライターの視点は珍しいと思います。単にヴォーソス的であるという以上に、現実の歴史やアーティストやクリエイティブ・チームへ際限なく枝を伸ばしていく様子がとても興味深く感じられました。
ちなみに、カラデシュのアートがソ連的であるという指摘はしばしばなされているようです(https://twitter.com/ReserveList/status/783379028581416960/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw)。
誤訳や誤字、用語の間違いなどありましたら指摘していただければ幸いです。
霊気紛争フレイバー・レビュー(翻訳)(前編)
2017年2月27日 Magic: The Gathering
霊気紛争フレイバー・レビュー
John Dale Beety
2017年1月24日
やあみんな! 久しぶりに記事を書くということもあり、僕の最近の2つの小説、「A Tile In The Mosaic」※1と「A Footsoldier’s Confession」※2に意見をくれたみんなにお礼を言いたい。こうした短編を試してからしばらく経ったが、人受けか僕の自己満足か、もしくはそれ以上のものを感じてくれたなら幸いだ。
さて今回はというと、霊気紛争の話だ。
※1……http://www.starcitygames.com/article/34164_A-Tile-In-The-Mosaic.html(A Tile In The Mosaic)
※2……http://www.starcitygames.com/article/34235_A-Footsoldiers-Confession.html(A Footsoldier’s Confession)
注目のストーリー
大まかなストーリーの流れとして、今やテゼレットの《慮外な押収/Confiscation Coup》は達成された。
彼はカラデシュを実効支配しており(それともギラプール市内のみだろうか? 政府の権力がどの程度なのかは全くわからない)、巨大な《次元橋/Planar Bridge》を創造するために労力を注いでいる。何らかの……理由で。
当然ながら、カラデシュの発明家たちはその計画に不満を持っている。領事府は戒厳令と弾圧によってそれに応じた。
もはや「改革派」レジスタンスの象徴として有名になったピア・ナラーは、霊気紛争のリーダーとなった。おかしなことに、彼女の個人主義への情熱を祝福するはずのシーンは、共産主義のプロパガンダのイメージを借りて表現されている(工業的発展を象徴する歯車、ハンマーを振るう女性)。社会主義リアリズム※3そのものというわけではないにせよ、大きなサイズ※4で見ると隠れた細部が明らかになり(ピアの表情、服の装飾、武器あるいは道具)、それが奇妙な効果をもたらしていることがわかる。
※3……https://www.google.com/search?q=socialist+realism&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwjt0prCt9XRAhVEzIMKHe_PDekQ_AUICCgB&biw=1920&bih=971
※4……http://68.media.tumblr.com/20edaba7cf62512421d76162f36d4df6/tumblr_ojdcupRYoJ1u9beo8o2_1280.jpg
一方、ゲートウォッチという名のスクービー・ギャング※5もカラデシュの問題に巻き込まれている。チャンドラ・ナラーは、おそらく処刑人である、打ち消しを用いる宿敵、バラルに公然と容赦無く嘲られ、言い負かされてほとんど自暴自棄になっている※6。
※5……「バフィー 〜恋する十字架〜」の主人公、バフィーとその仲間たちの通称。
※6……http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0018216/(業火/Burn)
Magic Storyのコラムでは残りの注目のストーリー・カードについて触れていないが、大筋は書いてある。《橋上の戦い/Battle at the Bridge》は、《策謀家テゼレット/Tezzeret the Schemer》との対決のクライマックスを描き……
……そして《闇の暗示/Dark Intimations》は、テゼレットの悪人然とした独白が何かの手先であると匂わせる理由を示している。《ニコル・ボーラス/Nicol Bolas》が背後で糸を引いているのだ。
しかしながら、これら5枚のカードだけがストーリー上の場面を描いているわけではない。たとえば《ヤヘンニの巧技/Yahenni’s Expertise》は、ヤヘンニが本当の革命を後押しするためにできることを示している。
また、《次元橋/Planar Bridge》については話したが、これもフレイバー・テキストで明確なストーリー上の場面を表している。しかし、どういうわけか注目のストーリー・カードには選ばれていない。
この記事を書いている時点ではストーリーは完結していないが、これまでのところ、物語のそれぞれの視点(チャンドラと母との再会、バラルを打ち砕くという目的、テゼレットを打倒しようとするゲートウォッチ、政府に変革を求めるカラデシュの改革派)はうまく結びつけられているとはいえない。実際、この紛争はゲートウォッチのものなのだろうか? それとも改革派のものなのだろうか? さらにいえば、これは改革派の闘争なのだろうか? それともテゼレットの支配を転覆させようというゲートウォッチの大騒ぎなのだろうか?
そして、そもそも改革派は「霊気を我らの手に」という行動宣言以上のことをするのだろうか?
霊気紛争は現実の20世紀の革命運動から多くを得ている。「ソ連的」な様式の《ピアの革命/Pia’s Revolution》に加え、《ならず者の精製屋/Rogue Refiner》の含みのあるフレイバー・テキストもそれにあたる。
このフレイバー・テキストに書かれた、カラデシュの大気から霊気を集めることに関する議論は、海における塩と強く共鳴している。
海塩は、インドを含む海岸線の人々によって数千年にわたって集められてきた。しかし18世紀に、イギリスの入植者たちは塩の販売を独占しようとし※7、塩の密輸人や他の脱税者を足止めして捕まえるための、数千マイルという長さに数千人の警察官を配置した「インドの巨大な生垣※8」を建造した。1930年のマハトマ・ガンディーの塩の行進※9では、市民的不服従の形で、無税ゆえに違法の塩を海岸線から集めるため、公の(あるいは公にされた)数週間にわたる徒歩の移動が行われたが、これはインドにいた人々だけではなく未来の非暴力抵抗運動のリーダーたちの模範にもなった。その最も顕著な例が、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア※10である。
とはいえマジックのゲームは非暴力とはかけ離れており(「戦闘フェイズ」だって?)、霊気紛争も同様だ。《ピアの革命/Pia’s Revolution》や《ならず者の精製屋/Rogue Refiner》、そしてこの小型セットに散りばめられた様々な文様や形状により、セット全体は非常に雑多な印象になっている。ウィザーズ・オブ・ザ・コーストは「クリエイティブ・コンサルタント」として6人の南アジア系の人物を挙げているが、あと2、3人ほどの紛争経験者(たとえば、ビロード革命※11のような)が加わっていれば、霊気紛争での仕事は優れたものになっただろう。
おそらくそのはずだ。僕にはわからないが。
※7……https://en.wikipedia.org/wiki/History_of_the_British_salt_tax_in_India
※8……https://en.wikipedia.org/wiki/Inland_Customs_Line
※9……https://en.wikipedia.org/wiki/Salt_March
※10……http://www.thekingcenter.org/archive/theme/4733
※11……https://en.wikipedia.org/wiki/Velvet_Revolution
ソース…… http://www.starcitygames.com/article/34439_Aether-Revolt-Flavor-Review.html
(後編に続く)
John Dale Beety
2017年1月24日
やあみんな! 久しぶりに記事を書くということもあり、僕の最近の2つの小説、「A Tile In The Mosaic」※1と「A Footsoldier’s Confession」※2に意見をくれたみんなにお礼を言いたい。こうした短編を試してからしばらく経ったが、人受けか僕の自己満足か、もしくはそれ以上のものを感じてくれたなら幸いだ。
さて今回はというと、霊気紛争の話だ。
※1……http://www.starcitygames.com/article/34164_A-Tile-In-The-Mosaic.html(A Tile In The Mosaic)
※2……http://www.starcitygames.com/article/34235_A-Footsoldiers-Confession.html(A Footsoldier’s Confession)
注目のストーリー
大まかなストーリーの流れとして、今やテゼレットの《慮外な押収/Confiscation Coup》は達成された。
慮外な押収/Confiscation Coup (3)(青)(青)
ソーサリー KLD, レア
アーティファクト1つかクリーチャー1体を対象とする。あなたは(E)(E)(E)(E)(エネルギー・カウンター4個)を得る。その後あなたは、そのパーマネントの点数で見たマナ・コストに等しい数の(E)を支払ってもよい。そうしたなら、それのコントロールを得る。
「市民の皆さん、抵抗はお止めください。あなた方の安全のためです。テゼレット審判長の命により発明品を押収します。直ちにです。」
Illus. Joseph Meehan
彼はカラデシュを実効支配しており(それともギラプール市内のみだろうか? 政府の権力がどの程度なのかは全くわからない)、巨大な《次元橋/Planar Bridge》を創造するために労力を注いでいる。何らかの……理由で。
次元橋/Planar Bridge (6)
伝説のアーティファクト MPS, スペシャル
(8),(T):あなたのライブラリーからパーマネント・カード1枚を探し、それを戦場に出す。その後あなたのライブラリーを切り直す。
「ラシュミの設計は始まりにすぎない。我々は大領事の計画の全貌を知ることを熱望している。」
――領事府の技師の記録
Illus. Raymond Swanland
当然ながら、カラデシュの発明家たちはその計画に不満を持っている。領事府は戒厳令と弾圧によってそれに応じた。
領事府の弾圧/Consulate Crackdown (3)(白)(白)
エンチャント AER, レア
領事府の弾圧が戦場に出たとき、領事府の弾圧が戦場を離れるまで、対戦相手がコントロールするすべてのアーティファクトを追放する。
「作業場はどこも静まり返っている。作品も奪われてしまった。領事府は、私たちの命を奪ったようなものだわ。」
――ピア・ナラー
Illus. Jonas De Ro
もはや「改革派」レジスタンスの象徴として有名になったピア・ナラーは、霊気紛争のリーダーとなった。おかしなことに、彼女の個人主義への情熱を祝福するはずのシーンは、共産主義のプロパガンダのイメージを借りて表現されている(工業的発展を象徴する歯車、ハンマーを振るう女性)。社会主義リアリズム※3そのものというわけではないにせよ、大きなサイズ※4で見ると隠れた細部が明らかになり(ピアの表情、服の装飾、武器あるいは道具)、それが奇妙な効果をもたらしていることがわかる。
ピアの革命/Pia’s Revolution (2)(赤)
エンチャント AER, レア
トークンでないアーティファクトが1つ戦場からあなたの墓地に置かれるたび、対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーが「ピアの革命はそのプレイヤーに3点のダメージを与える」を選ばないかぎり、そのカードをあなたの手札に戻す。
ピアの情熱は大局を目指している。真実の永続性のある変化をもたらすことだ。
Illus. Clint Cearley
※3……https://www.google.com/search?q=socialist+realism&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwjt0prCt9XRAhVEzIMKHe_PDekQ_AUICCgB&biw=1920&bih=971
※4……http://68.media.tumblr.com/20edaba7cf62512421d76162f36d4df6/tumblr_ojdcupRYoJ1u9beo8o2_1280.jpg
一方、ゲートウォッチという名のスクービー・ギャング※5もカラデシュの問題に巻き込まれている。チャンドラ・ナラーは、おそらく処刑人である、打ち消しを用いる宿敵、バラルに公然と容赦無く嘲られ、言い負かされてほとんど自暴自棄になっている※6。
不許可/Disallow (1)(青)(青)
インスタント AER, レア
呪文1つか起動型能力1つか誘発型能力1つを対象とし、それを打ち消す。(マナ能力は対象にできない。)
「お前の炎を消す程度、造作もない。」
――遵法長、バラル
Illus. Min Yum
※5……「バフィー 〜恋する十字架〜」の主人公、バフィーとその仲間たちの通称。
※6……http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0018216/(業火/Burn)
Magic Storyのコラムでは残りの注目のストーリー・カードについて触れていないが、大筋は書いてある。《橋上の戦い/Battle at the Bridge》は、《策謀家テゼレット/Tezzeret the Schemer》との対決のクライマックスを描き……
橋上の戦い/Battle at the Bridge (X)(黒)
ソーサリー AER, レア
即席(あなたのアーティファクトが、この呪文を唱える助けとなる。あなたはあなたのアーティファクトをタップして、1個あたり(1)の支払いに代えてもよい。)
クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは-X/-Xの修整を受ける。あなたはX点のライフを得る。
「巨大だぞ。お前たち全員を合わせたよりもな。」
――テゼレット
Illus. Chris Rallis
……そして《闇の暗示/Dark Intimations》は、テゼレットの悪人然とした独白が何かの手先であると匂わせる理由を示している。《ニコル・ボーラス/Nicol Bolas》が背後で糸を引いているのだ。
闇の暗示/Dark Intimations (2)(青)(黒)(赤)
ソーサリー AER, レア
各対戦相手はそれぞれ、クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体を生け贄に捧げ、その後カード1枚を捨てる。あなたは、あなたの墓地からクリーチャー・カード1枚かプレインズウォーカー・カード1枚をあなたの手札に戻し、その後カードを1枚引く。
あなたがボーラス(Bolas)・プレインズウォーカー呪文を1つ唱えたとき、あなたの墓地から闇の暗示を追放する。そのプレインズウォーカーは忠誠(loyalty)カウンターが追加で1個置かれた状態で戦場に出る。
Illus. Chase Stone
しかしながら、これら5枚のカードだけがストーリー上の場面を描いているわけではない。たとえば《ヤヘンニの巧技/Yahenni’s Expertise》は、ヤヘンニが本当の革命を後押しするためにできることを示している。
ヤヘンニの巧技/Yahenni’s Expertise (2)(黒)(黒)
ソーサリー AER, レア
ターン終了時まで、すべてのクリーチャーは-3/-3の修整を受ける。
あなたは、あなたの手札から点数で見たマナ・コストが3以下のカード1枚を、そのマナ・コストを支払うことなく唱えてもよい。
「領事府が私を追い込んだのよ、あなた。その結果が、これ。」
Illus. Daarken
また、《次元橋/Planar Bridge》については話したが、これもフレイバー・テキストで明確なストーリー上の場面を表している。しかし、どういうわけか注目のストーリー・カードには選ばれていない。
次元橋/Planar Bridge (6)
伝説のアーティファクト AER, 神話レア
(8),(T):あなたのライブラリーからパーマネント・カード1枚を探し、それを戦場に出す。その後あなたのライブラリーを切り直す。
「完成だ。ここからが本番だぞ。」
――テゼレット
Illus. Chase Stone
この記事を書いている時点ではストーリーは完結していないが、これまでのところ、物語のそれぞれの視点(チャンドラと母との再会、バラルを打ち砕くという目的、テゼレットを打倒しようとするゲートウォッチ、政府に変革を求めるカラデシュの改革派)はうまく結びつけられているとはいえない。実際、この紛争はゲートウォッチのものなのだろうか? それとも改革派のものなのだろうか? さらにいえば、これは改革派の闘争なのだろうか? それともテゼレットの支配を転覆させようというゲートウォッチの大騒ぎなのだろうか?
そして、そもそも改革派は「霊気を我らの手に」という行動宣言以上のことをするのだろうか?
霊気紛争は現実の20世紀の革命運動から多くを得ている。「ソ連的」な様式の《ピアの革命/Pia’s Revolution》に加え、《ならず者の精製屋/Rogue Refiner》の含みのあるフレイバー・テキストもそれにあたる。
ならず者の精製屋/Rogue Refiner (1)(緑)(青)
クリーチャー ― 人間・ならず者 AER, アンコモン
ならず者の精製屋が戦場に出たとき、カードを1枚引き、あなたは(E)(E)(エネルギー・カウンター2個)を得る。
「自然に、身の回りに、いくらでもあるのさ。まぁ試してみて。何か問題があったら言ってよ。」
3/2
Illus. Victor Adame Minguez
このフレイバー・テキストに書かれた、カラデシュの大気から霊気を集めることに関する議論は、海における塩と強く共鳴している。
海塩は、インドを含む海岸線の人々によって数千年にわたって集められてきた。しかし18世紀に、イギリスの入植者たちは塩の販売を独占しようとし※7、塩の密輸人や他の脱税者を足止めして捕まえるための、数千マイルという長さに数千人の警察官を配置した「インドの巨大な生垣※8」を建造した。1930年のマハトマ・ガンディーの塩の行進※9では、市民的不服従の形で、無税ゆえに違法の塩を海岸線から集めるため、公の(あるいは公にされた)数週間にわたる徒歩の移動が行われたが、これはインドにいた人々だけではなく未来の非暴力抵抗運動のリーダーたちの模範にもなった。その最も顕著な例が、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア※10である。
とはいえマジックのゲームは非暴力とはかけ離れており(「戦闘フェイズ」だって?)、霊気紛争も同様だ。《ピアの革命/Pia’s Revolution》や《ならず者の精製屋/Rogue Refiner》、そしてこの小型セットに散りばめられた様々な文様や形状により、セット全体は非常に雑多な印象になっている。ウィザーズ・オブ・ザ・コーストは「クリエイティブ・コンサルタント」として6人の南アジア系の人物を挙げているが、あと2、3人ほどの紛争経験者(たとえば、ビロード革命※11のような)が加わっていれば、霊気紛争での仕事は優れたものになっただろう。
おそらくそのはずだ。僕にはわからないが。
※7……https://en.wikipedia.org/wiki/History_of_the_British_salt_tax_in_India
※8……https://en.wikipedia.org/wiki/Inland_Customs_Line
※9……https://en.wikipedia.org/wiki/Salt_March
※10……http://www.thekingcenter.org/archive/theme/4733
※11……https://en.wikipedia.org/wiki/Velvet_Revolution
ソース…… http://www.starcitygames.com/article/34439_Aether-Revolt-Flavor-Review.html
(後編に続く)
容疑をかける
今回、個別のデザインに画像を設けてみたが、そこから得られるものは非常に大きかった。謎解きのような複雑なデザインでは往々にしてルール文章は長くなる傾向にあり、テキストボックスの大きさがデザインの内容をある程度決めることになる。《三つの署名/The Sign of Three》の起動型能力は、ライブラリーを追放する能力と謎を解く能力がひとつになった奇妙なものだが、お気づきの通りこのテキストはなんとか文章量を削減しようともがいた悪あがきの産物である。
とりわけ、謎が解けた場合と解けなかった場合の処理を記す条件節は、文章をいとも簡単にテキストボックスの外にあふれ出させてしまう。当初《三つの署名/The Sign of Three》にはいくつもの「場合」という言葉が含まれていたが、そのテキストの量は《ネクロマンシー/Necromancy》に匹敵するほどだった。
しかし、謎解き自体の複雑さでいえば《三つの署名/The Sign of Three》はそれほど複雑ではない。むしろ私はこのカードを謎解きのメカニズムの試金石としてデザインしたのであり、可能な限り複雑さを排除したとすら思っている。とはいえ、このカードのテキストは事実として長いため、この能力のバリエーションを大量に作ることはおそらく困難だろう。
実際のところ《三つの署名/The Sign of Three》が実行していることはあまりにも多く、謎を作り、解かせ、判定し、報酬を与えるという過程をすべて1枚のカードが制御している。本質的には、謎解きのメカニズムとはマジックのゲームに謎を作り出すメカニズムなのであって、その他の要素は必ずしもカードの中に書かれていなくてもよいはずだ。
https://66.media.tumblr.com/4daa8553b4af323360238671b8608f6e/tumblr_inline_ojo8d9LQZ01rqe8be_1280.jpg
https://66.media.tumblr.com/32535f7987cee7c75acd4e1243005fa6/tumblr_inline_okhelpi3T41rqe8be_1280.jpg
「容疑をかける(suspect)」は、対戦相手に謎解きを要求するキーワード処理だ。このキーワードが行うことは単純で、まずクリーチャーの中から容疑者を選び、その中から1体を秘密裏に「犯人(culprit)」に選ぶ。少々面倒なのはその表現方法で、クリーチャーが秘密裏に選ばれた犯人であることを何らかの方法で証明しなければならない。メモを用いてもよいが、トランプ(1枚だけジョーカーを混ぜておく)やチップ(1枚だけ目印を書いておく)などを容疑カウンターに使うことが推奨されるだろう。
変異クリーチャーがそうであるように、プレイヤーには容疑者が戦場を離れる際に、(容疑カウンターを裏返すなどの方法で)それが犯人だったのかどうかを示す義務がある。また、犯人の存在と数を常に明らかにしておく義務もある。
謎解きをキーワードにする利点は、こうしたルーリングの細部をカードの中ではなく総合ルールやリリースノートに書くことができるという点だ。もちろん、カードテキストは過不足なく明瞭に書かれているのが理想だが、こうした複雑なデザインであらゆる情報をテキストに記載することはむしろ混乱の種になると思われる。
《辺境の谷の惨劇/The Outland Valley Mystery》と《恐怖の村/The Village of Fear》はそれぞれ、容疑を用いた《骨の粉砕/Bone Splinters》と《未達への旅/Journey to Nowhere》だ。これらのカードのオーナーは、秘密裏に選ばれた犯人が戦場に残っている間は恩恵を受けることができるものの、犯人が明らかにされ戦場を離れるとリソースを失ってしまう。
見方によっては、《辺境の谷の惨劇/The Outland Valley Mystery》は《骨の粉砕/Bone Splinters》の生け贄を運任せにしたものだと考えられるかもしれない。実際、運の要素は確実に存在するが、強いクリーチャーよりも弱いクリーチャーを犯人に選ぶ動機づけの方が強いため、(《嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum》の場合と同じく)犯人の選択には偏りが出る。
また、《恐怖の村/The Village of Fear》のような継続的な効果を持つカードでは、対戦相手は犯人をあぶり出すために様々な方法を行使することができる。除去呪文はその最たる例だが、無謀に見えるアタックやブロックなど、戦闘を介することでも犯人の手がかりを得ることができる。カードそのものには謎を解く手段は書かれていないが、クリーチャーはマジックにおいて最も対処しやすいパーマネントであるため、対戦相手は謎に関する質問をするよりもずっとマジック的な方法で謎を解くことができるだろう。
https://66.media.tumblr.com/3f6afd5d8539eaabe1a27e6a2976dc28/tumblr_inline_ol0u5kpgNd1rqe8be_1280.jpg
容疑はクリーチャーの数に応じて強化されるメカニズムなので、単純にクリーチャーが全滅してしまうと効果を得られない。しかし、カードの側であらかじめトークンを用意しておくことで、謎の難易度をある程度保証することは可能である。
《灰毛組合/The Grizzled League》は、呪禁の代わりに容疑を用いた《聖トラフトの霊/Geist of Saint Traft》だ。カード・タイプや誘発タイミングなど異なる点も多いが、トークンの強靭さと単体除去への強さ、そして全体除去への弱さは本家同様だ。
イニストラードにおける狼男のデザイン的規格は、条件を満たすと自動的に裏返る両面クリーチャーというものだが、条件の特殊さから好ましくないと感じるユーザーも少なからずいたようだ。月の夜の変身に限らず狼男には様々な側面があり、《灰毛組合/The Grizzled League》のように誰が狼男なのかわからないという恐怖を描くのもひとつの方法だったのかもしれない。
謎は謎を呼ぶ
ギャンブル的なカードもそうだが、謎解きのデザインは、すでに優れたゲームであるマジックの中に入れ子状に別のゲームを内包する試みだと理解することができる。ゲームの定義に関する最も過激な考え方に沿えば、ゲームとはプレイヤーに困難と報酬をもたらすものなのだから、原則的にその困難の種類は問題ではなく、ギャンブルも謎解きもあるいはパズルやカードの物理的な扱いさえも(《Chaos Orb》)、マジックの中に取り込むことができるということになる。
しかし、20年かけて作り上げられたマジックらしさの範疇の中に、それらすべてが無条件に含まれうるとは思えない。謎解きのデザインは、私の目からはその境界線のやや内側にいるように見えるが、そう思わない人がいたとしても不思議ではない。
とはいえ、たとえ謎解きのデザインがマジック的でないとしても、こうした境界線上の試みが本当の意味で無価値になることは稀である。マジックとは何かという巨大な謎の輪郭を明らかにするためには、その境界線を踏み外してみることすらも有意義なのだから。
今回、個別のデザインに画像を設けてみたが、そこから得られるものは非常に大きかった。謎解きのような複雑なデザインでは往々にしてルール文章は長くなる傾向にあり、テキストボックスの大きさがデザインの内容をある程度決めることになる。《三つの署名/The Sign of Three》の起動型能力は、ライブラリーを追放する能力と謎を解く能力がひとつになった奇妙なものだが、お気づきの通りこのテキストはなんとか文章量を削減しようともがいた悪あがきの産物である。
とりわけ、謎が解けた場合と解けなかった場合の処理を記す条件節は、文章をいとも簡単にテキストボックスの外にあふれ出させてしまう。当初《三つの署名/The Sign of Three》にはいくつもの「場合」という言葉が含まれていたが、そのテキストの量は《ネクロマンシー/Necromancy》に匹敵するほどだった。
しかし、謎解き自体の複雑さでいえば《三つの署名/The Sign of Three》はそれほど複雑ではない。むしろ私はこのカードを謎解きのメカニズムの試金石としてデザインしたのであり、可能な限り複雑さを排除したとすら思っている。とはいえ、このカードのテキストは事実として長いため、この能力のバリエーションを大量に作ることはおそらく困難だろう。
実際のところ《三つの署名/The Sign of Three》が実行していることはあまりにも多く、謎を作り、解かせ、判定し、報酬を与えるという過程をすべて1枚のカードが制御している。本質的には、謎解きのメカニズムとはマジックのゲームに謎を作り出すメカニズムなのであって、その他の要素は必ずしもカードの中に書かれていなくてもよいはずだ。
辺境の谷の惨劇/The Outland Valley Mystery (1)(黒)
ソーサリー
容疑をかける。(望む数の、あなたがコントロールする容疑カウンターが置かれていないクリーチャーを選ぶ。それらの上に、それぞれ容疑カウンターを1個置く。それらのうち1体を秘密裏に犯人に選ぶ。)
クリーチャー1体を対象とする。あなたが犯人をコントロールしている場合、それを破壊する。そのクリーチャーのコントローラーは、あなたがコントロールする容疑カウンターが置かれているクリーチャーを1体選ぶ。そのクリーチャーが犯人である場合、それを生け贄に捧げる。
https://66.media.tumblr.com/4daa8553b4af323360238671b8608f6e/tumblr_inline_ojo8d9LQZ01rqe8be_1280.jpg
恐怖の村/The Village of Fear (3)(白)
エンチャント
恐怖の村が戦場に出たとき、対戦相手がコントロールするクリーチャー最大2体を対象とし、恐怖の村が戦場を離れるまでそれを追放する。その後容疑をかける。(望む数の、あなたがコントロールする容疑カウンターが置かれていないクリーチャーを選ぶ。それらの上に、それぞれ容疑カウンターを1個置く。それらのうち1体を秘密裏に犯人に選ぶ。)
あなたのアップキープの開始時に、あなたが犯人をコントロールしていない場合、恐怖の村を生け贄に捧げる。
https://66.media.tumblr.com/32535f7987cee7c75acd4e1243005fa6/tumblr_inline_okhelpi3T41rqe8be_1280.jpg
「容疑をかける(suspect)」は、対戦相手に謎解きを要求するキーワード処理だ。このキーワードが行うことは単純で、まずクリーチャーの中から容疑者を選び、その中から1体を秘密裏に「犯人(culprit)」に選ぶ。少々面倒なのはその表現方法で、クリーチャーが秘密裏に選ばれた犯人であることを何らかの方法で証明しなければならない。メモを用いてもよいが、トランプ(1枚だけジョーカーを混ぜておく)やチップ(1枚だけ目印を書いておく)などを容疑カウンターに使うことが推奨されるだろう。
変異クリーチャーがそうであるように、プレイヤーには容疑者が戦場を離れる際に、(容疑カウンターを裏返すなどの方法で)それが犯人だったのかどうかを示す義務がある。また、犯人の存在と数を常に明らかにしておく義務もある。
謎解きをキーワードにする利点は、こうしたルーリングの細部をカードの中ではなく総合ルールやリリースノートに書くことができるという点だ。もちろん、カードテキストは過不足なく明瞭に書かれているのが理想だが、こうした複雑なデザインであらゆる情報をテキストに記載することはむしろ混乱の種になると思われる。
《辺境の谷の惨劇/The Outland Valley Mystery》と《恐怖の村/The Village of Fear》はそれぞれ、容疑を用いた《骨の粉砕/Bone Splinters》と《未達への旅/Journey to Nowhere》だ。これらのカードのオーナーは、秘密裏に選ばれた犯人が戦場に残っている間は恩恵を受けることができるものの、犯人が明らかにされ戦場を離れるとリソースを失ってしまう。
見方によっては、《辺境の谷の惨劇/The Outland Valley Mystery》は《骨の粉砕/Bone Splinters》の生け贄を運任せにしたものだと考えられるかもしれない。実際、運の要素は確実に存在するが、強いクリーチャーよりも弱いクリーチャーを犯人に選ぶ動機づけの方が強いため、(《嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum》の場合と同じく)犯人の選択には偏りが出る。
また、《恐怖の村/The Village of Fear》のような継続的な効果を持つカードでは、対戦相手は犯人をあぶり出すために様々な方法を行使することができる。除去呪文はその最たる例だが、無謀に見えるアタックやブロックなど、戦闘を介することでも犯人の手がかりを得ることができる。カードそのものには謎を解く手段は書かれていないが、クリーチャーはマジックにおいて最も対処しやすいパーマネントであるため、対戦相手は謎に関する質問をするよりもずっとマジック的な方法で謎を解くことができるだろう。
灰毛組合/The Grizzled League (2)(赤)(緑)
ソーサリー
赤であり緑である1/1の人間・クリーチャー・トークンを4体生成する。それらは「あなたのターンの戦闘の開始時に、あなたが犯人をコントロールし、かつ狂戦士をコントロールしていない場合、速攻を持つ赤であり緑である5/5の狼男・狂戦士・クリーチャー・トークンを1体生成する。戦闘終了時に、そのトークンを追放する。」を持つ。
容疑をかける。
https://66.media.tumblr.com/3f6afd5d8539eaabe1a27e6a2976dc28/tumblr_inline_ol0u5kpgNd1rqe8be_1280.jpg
容疑はクリーチャーの数に応じて強化されるメカニズムなので、単純にクリーチャーが全滅してしまうと効果を得られない。しかし、カードの側であらかじめトークンを用意しておくことで、謎の難易度をある程度保証することは可能である。
《灰毛組合/The Grizzled League》は、呪禁の代わりに容疑を用いた《聖トラフトの霊/Geist of Saint Traft》だ。カード・タイプや誘発タイミングなど異なる点も多いが、トークンの強靭さと単体除去への強さ、そして全体除去への弱さは本家同様だ。
イニストラードにおける狼男のデザイン的規格は、条件を満たすと自動的に裏返る両面クリーチャーというものだが、条件の特殊さから好ましくないと感じるユーザーも少なからずいたようだ。月の夜の変身に限らず狼男には様々な側面があり、《灰毛組合/The Grizzled League》のように誰が狼男なのかわからないという恐怖を描くのもひとつの方法だったのかもしれない。
謎は謎を呼ぶ
ギャンブル的なカードもそうだが、謎解きのデザインは、すでに優れたゲームであるマジックの中に入れ子状に別のゲームを内包する試みだと理解することができる。ゲームの定義に関する最も過激な考え方に沿えば、ゲームとはプレイヤーに困難と報酬をもたらすものなのだから、原則的にその困難の種類は問題ではなく、ギャンブルも謎解きもあるいはパズルやカードの物理的な扱いさえも(《Chaos Orb》)、マジックの中に取り込むことができるということになる。
しかし、20年かけて作り上げられたマジックらしさの範疇の中に、それらすべてが無条件に含まれうるとは思えない。謎解きのデザインは、私の目からはその境界線のやや内側にいるように見えるが、そう思わない人がいたとしても不思議ではない。
とはいえ、たとえ謎解きのデザインがマジック的でないとしても、こうした境界線上の試みが本当の意味で無価値になることは稀である。マジックとは何かという巨大な謎の輪郭を明らかにするためには、その境界線を踏み外してみることすらも有意義なのだから。
はじめに
ミラディンの傷跡から数えて実に4つ目の再訪ブロックとなるイニストラードを覆う影ブロックで、クリエイティブはその実力を遺憾なく発揮したと私は思う。とはいえ、過去のイニストラード・ブロックに強い愛着のあるユーザーにとっては、格調高いゴシック・ホラーの次元がB級SF映画さながらの異星人の侵略によって蹂躙されたうえ、この次元に馴染みの薄いプレインズウォーカーたちによるヒーロー物語の舞台にされてしまったと感じられたかもしれず、実際そうした人々の不満の声を聞かなかったわけではない。
しかし私は、結果的に次元の風景を歪めることになったとはいえ、このゴシック・ホラーの次元の再訪において、クリエイティブが推理小説とラヴクラフトの小説という隣接分野に手を伸ばしたことは評価に値すると考えている。そもそも、イニストラードやテーロスといったトップダウン傾向の強い次元は、題材の有限性からして何度も再訪するのに適した次元ではない。もしもイニストラードを厳格なゴシック・ホラーの次元として守り続けるのであれば、未来のどこかの時点でイニストラードには新たに提示するべきものがなくなってしまうだろう。
それゆえ今回のクリエイティブの仕事は、彼らがイニストラードを常に新鮮に感じさせるために、この次元の拡張可能性を示したものだと理解することができるだろう。それは様々な面でかつてのイニストラードを破壊してしまったかもしれないが、同時にこの次元が意外にも多くのテーマに柔軟に対応できるということをユーザーに証明した。私が思うに、イニストラードを覆う影ブロックのクリエイティブ的な成果によって、この次元への再訪(再再訪)可能性は以前にも増して高まったのではないだろうか。
さらに多くの謎を
むしろSOIに関して私が不満に思うのは、推理小説という新たな題材そのものではなく、そのメカニズム的解釈の方だ。手掛かりを得て真実に迫ることは、新たな知識を得ることに類する行為ではあるものの、謎を解くこととカードを引くことを似た体験であると認めることは難しい。以前のポスト※1で私は手掛かりのメカニズム的な美点について褒めたが、だからといってそれを優れたトップダウン・デザインだと思っているわけではない。
ストーリーにおける中心的な謎であるエムラクールの登場がコミュニティによって早々に暴かれてしまったこともあり、私はブロックを通じてこの謎解きという要素をもう少し強調する必要があったと考えている。したがって、このポストではR&Dがわずかに触れるに留まった謎解きという要素を、ゲームプレイの中にメカニズムとして取り入れる方法について考えてみたい。
※1……http://casualmtg.diarynote.jp/201609041659211639/
非マジック的謎
ある意味では、あえて私が導入するまでもなく、マジックというゲームはプレイヤーに謎を解くように要求しているともいえる。目的や意図が特定できないデッキとの対戦はその代表例で、そうしたデッキを前にしたプレイヤーは謎を解く探索者そのものだ。私が最も好きなエピソードはオウリング・ボアにまつわる話で、グランプリ浜松06のカバレージ※2には、この正体不明のデッキがプレイヤーに解明困難な謎として立ちはだかる様子が描かれている。
しかし、特定のカードがデッキに入っているのか否かといった謎は、当然ながら長くは機能しない。謎のデッキは次のゲーム(あるいは次のマッチや次の大会)ではすでに解明された謎であり、継続的に謎であり続けることは難しい。
また、マジックはある種の詰めマジック的な状況によってプレイヤーに謎をもたらすことがある。複雑な相互作用と最適解を持つそのようなパズルはまさに謎と呼ぶにふさわしいが、詰めマジックの良問は毎回必ずプレイヤーの前に現れるわけではなく、再現性に大きな難点がある。
謎をメカニズムとして採用するということは、謎がデザインに応用できる資源でなければならないということだ。きわめて複雑な盤面でしか機能しないカードも、きわめて複雑な盤面を作り出すカードも、どちらもデザインとして成立させるのは難しいだろう。
したがって、仮にSOIにメカニズムとして謎解きを取り入れるのならば、それはマジックの中にあらかじめ存在している謎とは異なったものになると思われる。こうした考えは、すでにマジックが素晴らしく謎に満ちたゲームだと考える人々(私もそうであるつもりだ)には単なる蛇足に感じられるかもしれないが、それでも私はこうした思考実験的なアイデアには最低限のデザイン的意義があると信じている。
私が謎解きのメカニズムに惹かれるのは、マジックというゲームがどこまで多くの要素を内包できるのか、マジックはどこまでマジックであり続けられるのかという、極限の探求に結びついていると思うからだ。その結果としてマジックの新たな側面が発見できたのなら喜ばしいことだし、仮に失敗に終わったとしても(私のデザインが印刷される可能性はありえないのだから)失うものは何もない。
※2……http://magic.wizards.com/en/node/556821(Saturday, April 8: 2:36 P.M. - Round 3 : The Fireball VS. Limit Break)
投資家と探索者
上記の内容から考えると、メカニズムとして使用可能な謎とは、デッキの内容における謎とは反対に継続性を持ち、詰めマジック的な謎とは反対に再現性を持つ必要があるということになる。そして、さらに条件をつけ加えるならば、それはプレイヤーが筋道立てて解くことができるものでなければならない。
マジックには黎明期から実に多くのギャンブル的なカードが存在している。それらはマジックに本来のゲームとは別種の楽しみをもたらすという点で謎解きによく似ているが、謎と違って正解を持たない。《無道の競り/Illicit Auction》のような競りカードや、チキンレースを挑む《ゴブリンのゲーム/Goblin Game》なども同様で、それらはプレイヤーに投資家として有限のリソースを最大効率で利益に変換するよう求めることはあっても、探索者として真実を突き止めさせることはない。もちろん、そうしたカードにも戦略や最善策は存在しているが、戦略上最も有効だと思われる手が必ずしも最高の結果を生むとは限らない。
反対に、謎は必ず解かれるべき答えを持っており、プレイヤーが論理的な力を行使してそれを明らかにすることができなければならない。謎解きの結果は、競りカードやチキンレースのように利益と損失が入り混じった曖昧なものであってはならず、誰の目にも明らかな正解か、誰の目にも明らかな不正解であることが望ましいといえる。
巻物と振り子
ギャンブル的なカードの悩ましさは謎とは別種のものだと述べたが、私は運の要素をすべて否定しているわけではない。探索者は謎を解明する過程で多くの選択肢に直面するが、そうした過程から運の要素が完全に排除されていることはむしろ珍しいと思われる。重要なのは、たとえ結果に運の要素が不可分に関わっていたとしても、プレイヤーに何かしらの有意な選択をする余地が残されていること(少なくともそう感じさせること)だ。
このことは、どちらかというとギャンブル的なカードに属する、よく似た2枚のカードの比較によって理解することができる。
ご覧の通り、この2枚の共通点は不確実な方法で利益を得るアーティファクトだということだ。《呪われた巻物/Cursed Scroll》の運の要素は変化するため、比較のために手札が名前の異なる2枚のカードであると仮定しよう。そうした場合、《呪われた巻物/Cursed Scroll》がダメージを与えることができる確率はちょうど50%になるが、《嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum》でカードを引くことができる確率はそうではない。
《嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum》のコントローラーが実際には手札に持っていないカードを宣言した場合、対戦相手の予想が不正解ならば手札を公開してカードを引き、正解ならば手札を公開することはなく何も起こらない。対戦相手の予想が正解であった場合にも(すなわち「ない」と予想された場合にも)、手札に存在しないカードの情報は与えてしまうが、そこから類推できる手札の内容はごくわずかなものだ。
逆に、《嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum》のコントローラーが実際に手札に持っているカードを宣言した場合、たとえ対戦相手の予想が正解であった場合にも(すなわち「ある」と予想された場合にも)、手札に宣言したカードを持っていると対戦相手に示したことになり、大きな情報のアドバンテージを与えてしまう。
したがって、情報という観点では《嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum》のコントローラーが手札に持っていないカードを宣言する動機づけの方が強いため、プレイヤーの選択には若干の偏りが出ることになる。もちろん、対戦相手の予想が不正解でもカードを引かないという選択肢もありうるし、戦場や墓地の公開情報によって宣言の信憑性は変化する。しかし、このわずかな思考の余地は重要であり、それによってプレイヤーは単なるコイン投げ以上の体験を得ることができる。
銀枠的謎
《嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum》は多少の謎解きを要求するが、それでも運の要素は依然として強い。そもそもこのカードは謎を完全には解くことができないというジレンマを中心にデザインされており、その挙動が運やブラフに満ちていたとしても当然だといえる。
20年以上のマジックの歴史を見渡しても、筋道立てて謎を解くようにデザインされたカードはほとんど見当たらない。しかし、銀枠世界まで視野を広げればその限りでない。
プレイヤーに腕相撲やにらめっこをさせるアンヒンジドのミニゲーム・カードの中でも、《Head to Head》は優れて謎解き的なカードだ。このカードには運の要素もあるが、6回という質問の数はプレイヤーに筋道立てて謎を解いていると感じさせるのに十分な数だろう。
謎解きの結果もたらされるものはあまりにも地味だが、概ね《Head to Head》は私が求めている謎解きのメカニズムそのものだといってよい。とはいえ、このカードのルール文章は銀枠世界のものなので、競技的なマジックの世界でも運用できるように少々手を加える必要がある。
https://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/155126094292/unshadow-over-innistrad-2
《三つの署名/The Sign of Three》は《Ancestral Recall》を謎解きのメカニズムによって調整したカードだ。謎解きの方法は《Head to Head》に近いとも遠いともいえるが、最も大きな違いは質問6回という制限の代わりにマナ・コストが設定されていることだろう。
《Head to Head》のように質問の回数に上限を定めてしまうと、プレイヤーは上限を超えて質問することができない。《Head to Head》はミニゲームの勝敗を決める必要があるカードなので当然だともいえるが、謎が解けずに終わってしまうのは謎解きのメカニズムとしては片手落ちの感が否めない。質問の回数を増やすことは簡単だが、効果の解決のたびに何度も質問をしていたのでは、ゲームがあまりにも長い間中断されてしまう。
したがって、《三つの署名/The Sign of Three》ではマナ・コストという減速装置付きのスイッチを設定し、謎を解くことができるという保証と、ゲームの適切な進行の両立を図った。
謎解きのメカニズムは思考実験だと述べたが、仮にこうしたデザインが印刷された場合に予想される問題は、何よりもトーナメントでのトラブルだろう。カード名の宣言をはじめ、対戦相手が不正確なプレイを行った場合など、ジャッジの仕事が倍増することは想像に難くない。実のところ、こうしたデザインにおける最大の難関は、カードの設計ではなくトーナメントの混乱を防ぐことなのかもしれない。
(後編に続く)
ミラディンの傷跡から数えて実に4つ目の再訪ブロックとなるイニストラードを覆う影ブロックで、クリエイティブはその実力を遺憾なく発揮したと私は思う。とはいえ、過去のイニストラード・ブロックに強い愛着のあるユーザーにとっては、格調高いゴシック・ホラーの次元がB級SF映画さながらの異星人の侵略によって蹂躙されたうえ、この次元に馴染みの薄いプレインズウォーカーたちによるヒーロー物語の舞台にされてしまったと感じられたかもしれず、実際そうした人々の不満の声を聞かなかったわけではない。
しかし私は、結果的に次元の風景を歪めることになったとはいえ、このゴシック・ホラーの次元の再訪において、クリエイティブが推理小説とラヴクラフトの小説という隣接分野に手を伸ばしたことは評価に値すると考えている。そもそも、イニストラードやテーロスといったトップダウン傾向の強い次元は、題材の有限性からして何度も再訪するのに適した次元ではない。もしもイニストラードを厳格なゴシック・ホラーの次元として守り続けるのであれば、未来のどこかの時点でイニストラードには新たに提示するべきものがなくなってしまうだろう。
それゆえ今回のクリエイティブの仕事は、彼らがイニストラードを常に新鮮に感じさせるために、この次元の拡張可能性を示したものだと理解することができるだろう。それは様々な面でかつてのイニストラードを破壊してしまったかもしれないが、同時にこの次元が意外にも多くのテーマに柔軟に対応できるということをユーザーに証明した。私が思うに、イニストラードを覆う影ブロックのクリエイティブ的な成果によって、この次元への再訪(再再訪)可能性は以前にも増して高まったのではないだろうか。
さらに多くの謎を
むしろSOIに関して私が不満に思うのは、推理小説という新たな題材そのものではなく、そのメカニズム的解釈の方だ。手掛かりを得て真実に迫ることは、新たな知識を得ることに類する行為ではあるものの、謎を解くこととカードを引くことを似た体験であると認めることは難しい。以前のポスト※1で私は手掛かりのメカニズム的な美点について褒めたが、だからといってそれを優れたトップダウン・デザインだと思っているわけではない。
ストーリーにおける中心的な謎であるエムラクールの登場がコミュニティによって早々に暴かれてしまったこともあり、私はブロックを通じてこの謎解きという要素をもう少し強調する必要があったと考えている。したがって、このポストではR&Dがわずかに触れるに留まった謎解きという要素を、ゲームプレイの中にメカニズムとして取り入れる方法について考えてみたい。
※1……http://casualmtg.diarynote.jp/201609041659211639/
非マジック的謎
ある意味では、あえて私が導入するまでもなく、マジックというゲームはプレイヤーに謎を解くように要求しているともいえる。目的や意図が特定できないデッキとの対戦はその代表例で、そうしたデッキを前にしたプレイヤーは謎を解く探索者そのものだ。私が最も好きなエピソードはオウリング・ボアにまつわる話で、グランプリ浜松06のカバレージ※2には、この正体不明のデッキがプレイヤーに解明困難な謎として立ちはだかる様子が描かれている。
しかし、特定のカードがデッキに入っているのか否かといった謎は、当然ながら長くは機能しない。謎のデッキは次のゲーム(あるいは次のマッチや次の大会)ではすでに解明された謎であり、継続的に謎であり続けることは難しい。
また、マジックはある種の詰めマジック的な状況によってプレイヤーに謎をもたらすことがある。複雑な相互作用と最適解を持つそのようなパズルはまさに謎と呼ぶにふさわしいが、詰めマジックの良問は毎回必ずプレイヤーの前に現れるわけではなく、再現性に大きな難点がある。
謎をメカニズムとして採用するということは、謎がデザインに応用できる資源でなければならないということだ。きわめて複雑な盤面でしか機能しないカードも、きわめて複雑な盤面を作り出すカードも、どちらもデザインとして成立させるのは難しいだろう。
したがって、仮にSOIにメカニズムとして謎解きを取り入れるのならば、それはマジックの中にあらかじめ存在している謎とは異なったものになると思われる。こうした考えは、すでにマジックが素晴らしく謎に満ちたゲームだと考える人々(私もそうであるつもりだ)には単なる蛇足に感じられるかもしれないが、それでも私はこうした思考実験的なアイデアには最低限のデザイン的意義があると信じている。
私が謎解きのメカニズムに惹かれるのは、マジックというゲームがどこまで多くの要素を内包できるのか、マジックはどこまでマジックであり続けられるのかという、極限の探求に結びついていると思うからだ。その結果としてマジックの新たな側面が発見できたのなら喜ばしいことだし、仮に失敗に終わったとしても(私のデザインが印刷される可能性はありえないのだから)失うものは何もない。
※2……http://magic.wizards.com/en/node/556821(Saturday, April 8: 2:36 P.M. - Round 3 : The Fireball VS. Limit Break)
投資家と探索者
上記の内容から考えると、メカニズムとして使用可能な謎とは、デッキの内容における謎とは反対に継続性を持ち、詰めマジック的な謎とは反対に再現性を持つ必要があるということになる。そして、さらに条件をつけ加えるならば、それはプレイヤーが筋道立てて解くことができるものでなければならない。
マジックには黎明期から実に多くのギャンブル的なカードが存在している。それらはマジックに本来のゲームとは別種の楽しみをもたらすという点で謎解きによく似ているが、謎と違って正解を持たない。《無道の競り/Illicit Auction》のような競りカードや、チキンレースを挑む《ゴブリンのゲーム/Goblin Game》なども同様で、それらはプレイヤーに投資家として有限のリソースを最大効率で利益に変換するよう求めることはあっても、探索者として真実を突き止めさせることはない。もちろん、そうしたカードにも戦略や最善策は存在しているが、戦略上最も有効だと思われる手が必ずしも最高の結果を生むとは限らない。
反対に、謎は必ず解かれるべき答えを持っており、プレイヤーが論理的な力を行使してそれを明らかにすることができなければならない。謎解きの結果は、競りカードやチキンレースのように利益と損失が入り混じった曖昧なものであってはならず、誰の目にも明らかな正解か、誰の目にも明らかな不正解であることが望ましいといえる。
巻物と振り子
ギャンブル的なカードの悩ましさは謎とは別種のものだと述べたが、私は運の要素をすべて否定しているわけではない。探索者は謎を解明する過程で多くの選択肢に直面するが、そうした過程から運の要素が完全に排除されていることはむしろ珍しいと思われる。重要なのは、たとえ結果に運の要素が不可分に関わっていたとしても、プレイヤーに何かしらの有意な選択をする余地が残されていること(少なくともそう感じさせること)だ。
このことは、どちらかというとギャンブル的なカードに属する、よく似た2枚のカードの比較によって理解することができる。
呪われた巻物/Cursed Scroll (1)
アーティファクト TMP, レア
(3),(T):クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。カード名を1つ指定する。あなたの手札からカードを1枚、無作為に公開する。そのカードが指定されたカードであった場合、呪われた巻物はそれに2点のダメージを与える。
嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum (1)
アーティファクト MRD, レア
(2),(T):カード名を1つ指定する。対戦相手1人を対象とし、そのプレイヤーはあなたの手札にその名前のカードがあるか予想する。あなたはあなたの手札を公開してもよい。もしあなたはそうして、あなたの対戦相手の予想が間違えていた場合、カードを1枚引く。
ご覧の通り、この2枚の共通点は不確実な方法で利益を得るアーティファクトだということだ。《呪われた巻物/Cursed Scroll》の運の要素は変化するため、比較のために手札が名前の異なる2枚のカードであると仮定しよう。そうした場合、《呪われた巻物/Cursed Scroll》がダメージを与えることができる確率はちょうど50%になるが、《嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum》でカードを引くことができる確率はそうではない。
《嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum》のコントローラーが実際には手札に持っていないカードを宣言した場合、対戦相手の予想が不正解ならば手札を公開してカードを引き、正解ならば手札を公開することはなく何も起こらない。対戦相手の予想が正解であった場合にも(すなわち「ない」と予想された場合にも)、手札に存在しないカードの情報は与えてしまうが、そこから類推できる手札の内容はごくわずかなものだ。
逆に、《嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum》のコントローラーが実際に手札に持っているカードを宣言した場合、たとえ対戦相手の予想が正解であった場合にも(すなわち「ある」と予想された場合にも)、手札に宣言したカードを持っていると対戦相手に示したことになり、大きな情報のアドバンテージを与えてしまう。
したがって、情報という観点では《嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum》のコントローラーが手札に持っていないカードを宣言する動機づけの方が強いため、プレイヤーの選択には若干の偏りが出ることになる。もちろん、対戦相手の予想が不正解でもカードを引かないという選択肢もありうるし、戦場や墓地の公開情報によって宣言の信憑性は変化する。しかし、このわずかな思考の余地は重要であり、それによってプレイヤーは単なるコイン投げ以上の体験を得ることができる。
銀枠的謎
《嘘つきの振り子/Liar’s Pendulum》は多少の謎解きを要求するが、それでも運の要素は依然として強い。そもそもこのカードは謎を完全には解くことができないというジレンマを中心にデザインされており、その挙動が運やブラフに満ちていたとしても当然だといえる。
20年以上のマジックの歴史を見渡しても、筋道立てて謎を解くようにデザインされたカードはほとんど見当たらない。しかし、銀枠世界まで視野を広げればその限りでない。
Head to Head (白)
インスタント UNH, アンコモン
対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーとあなたは、そのプレイヤーのライブラリーの一番上のカードについて「7つの質問ゲーム」をする。(そのプレイヤーはそのカードを見る。その後あなたはそのカードについて、6回まで「はい」か「いいえ」で答えられる質問をし、そのプレイヤーは正直に答える。その後あなたはそのカードの名前を言い——これが7つ目の質問——、そのプレイヤーはそのカードを公開する)あなたが勝った場合、このターン、あなたが選んだいずれかの発生源からのすべてのダメージを軽減する。
プレイヤーに腕相撲やにらめっこをさせるアンヒンジドのミニゲーム・カードの中でも、《Head to Head》は優れて謎解き的なカードだ。このカードには運の要素もあるが、6回という質問の数はプレイヤーに筋道立てて謎を解いていると感じさせるのに十分な数だろう。
謎解きの結果もたらされるものはあまりにも地味だが、概ね《Head to Head》は私が求めている謎解きのメカニズムそのものだといってよい。とはいえ、このカードのルール文章は銀枠世界のものなので、競技的なマジックの世界でも運用できるように少々手を加える必要がある。
三つの署名/The Sign of Three (青)
エンチャント
あなたはあなたのライブラリーを探せない。
(2):あなたのライブラリーを切り直し、その後、あなたは一番上から3枚のカードを裏向きに追放してもよい。対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは三つの署名によって追放されたすべてのカードを見て、それらのカードの点数で見たマナ・コストの合計を宣言する。あなたはそれらのカードの名前を推測して宣言する。それが当たっていた場合、三つの署名によって追放されたすべてのカードをオーナーの手札に加え、これを生け贄に捧げる。
https://competitive-casual-magic.tumblr.com/post/155126094292/unshadow-over-innistrad-2
《三つの署名/The Sign of Three》は《Ancestral Recall》を謎解きのメカニズムによって調整したカードだ。謎解きの方法は《Head to Head》に近いとも遠いともいえるが、最も大きな違いは質問6回という制限の代わりにマナ・コストが設定されていることだろう。
《Head to Head》のように質問の回数に上限を定めてしまうと、プレイヤーは上限を超えて質問することができない。《Head to Head》はミニゲームの勝敗を決める必要があるカードなので当然だともいえるが、謎が解けずに終わってしまうのは謎解きのメカニズムとしては片手落ちの感が否めない。質問の回数を増やすことは簡単だが、効果の解決のたびに何度も質問をしていたのでは、ゲームがあまりにも長い間中断されてしまう。
したがって、《三つの署名/The Sign of Three》ではマナ・コストという減速装置付きのスイッチを設定し、謎を解くことができるという保証と、ゲームの適切な進行の両立を図った。
謎解きのメカニズムは思考実験だと述べたが、仮にこうしたデザインが印刷された場合に予想される問題は、何よりもトーナメントでのトラブルだろう。カード名の宣言をはじめ、対戦相手が不正確なプレイを行った場合など、ジャッジの仕事が倍増することは想像に難くない。実のところ、こうしたデザインにおける最大の難関は、カードの設計ではなくトーナメントの混乱を防ぐことなのかもしれない。
(後編に続く)
統率者(2016年版)のデザイン(翻訳)
2016年11月5日 Magic: The Gathering
統率者(2016年版)のデザイン
2016年10月24日
イーサン・フライシャー
この混乱は、R&Dの奈落(訳注:開発部の面々がいる場所)の真ん中で、もし僕が統率者のデザイン・チームを任されたなら4色の伝説のクリーチャーを作るだろうと大声で宣言したことにすべて端を発している。誰かが僕の頭にステープラーを投げ、「正気じゃない!」と言った。
「いやあ、きっと朝飯前さ」僕は陽気に答えた。
結局のところ、ステープラーを投げた人は正しく、僕が間違っていた。統率者(2016年版)は、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストでの5年半にわたる僕のキャリアの中で最も困難なデザインだということが明らかになった。
なんてドラマチックなんだ。で、どうしたの?
僕たちは、いずれも熱狂的な統率者プレイヤーである、聡明で、魅力的で、チャーミングなデザイナーからなるチームを編成した。これら素晴らしき人々の詳細については、マーク・ローズウォーターの今日の記事※1を読むことをお勧めする。
※1……http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0017891/(よろしく共闘/Howdy Partner)
最初の数回のミーティングで、僕は本当に4色の統率者デッキを作ることに束縛されたり、固執したりしているわけではないこと、そしてこの問題をグループで話し合い、あらゆる選択肢を見つける必要があることを伝え、みんなを安心させた。僕たちは考えうる限りのあらゆる選択肢や視点について話し合った。それでも、僕は直感的に2016年は4色デッキをデザインすべき年だと感じており、説得のためにプレゼンすることになった。
僕は統率者の製品ラインがどのようであったのかについて述べ(僕たちは楔3色のデッキ、弧3色のデッキ、単色のデッキ、対抗色のデッキを作ってきた)、それがこれからどのようになると想像しているかを伝えた(これからは[編集済み]、[編集済み]、そしておそらく[編集済み]すら作ることだろう)。僕は、4色の伝説のクリーチャーはファンから最も頻繁にリクエストされるもののひとつであり、統率者はそうしたカードを印刷するのに最適の場所であると話した。僕たちは、4色デッキこそが進むべき道であると決定した。
僕は有力だと思われる4色デッキのテーマのリストを何年か温めていたので、いくつかのデッキを構築するうえで幸先のよいスタートが切れたと感じていた。これらのテーマはメカニズム的に発想されたもので、僕たちが過去にマジックでしてきたことに基づいている。たとえば、グリクシスとゴルガリには大量のゾンビたちがいた。青黒赤緑はゾンビ部族デッキにすることができる!
また、賛美はアラーラ・ブロックではバントであり、基本セット2013では白黒だった。緑白青黒の賛美デッキが作れる!
これは有力な方向性に思えたので、僕たちはこれに沿ってデッキを作り、その統率者の作成に取りかかった。僕はチームが「ネフィリム・スタイル」のカードを作りたいのだということを理解していたので、これらは普通の多色のカードになった。これらは今日までのマジックにおける唯一の4色カードである、ギルドパクトのネフィリムにちなんで名づけられた。これは4色の統率者を作るための最も直線的な方法だった。
統率者のルールの奇抜なところのひとつは、カードを唱えるためのコスト、あるいはテキストボックス内に書かれているマナ・シンボルを「固有色」として数えるというものだ。そのため君が《墓後家蜘蛛、イシュカナ/Ishkanah, Grafwidow》を統率者として使うなら、デッキには緑と黒のカードを入れることができる。あるいは《死に微笑むもの、アリーシャ/Alesha, Who Smiles at Death》を統率者として使うなら、デッキには赤、白、黒のカードを入れることができる。《メムナーク/Memnarch》は無色のアーティファクト・クリーチャーだが、青の起動型能力があるため彼の固有色は青だ。
僕たちはこの流れに沿ってかなりの数の「ワイルド・カード」統率者をデザインした。混成マナの伝説のクリーチャーに全く異なる混成マナの起動型能力をつけたもの。単色の伝説のクリーチャーに別の3つの色の起動型能力をつけたもの。伝説のアーティファクト・クリーチャーに4色の起動型能力をつけたものなど。安心してほしい、それらの中でよい結果を出したものはひとつとしてなかった。最も簡単にデザインできるカードとは最も確かなコンセプトを持つカードであって、逆もまたしかり。マジックのカードではメカニズムとクリエイティブ的な側面を十分に融合させることが重要なため、僕たちは「ワイルド・カード」統率者の道に進むことを断念した。
ケン・ネーグルはきわめて過激なことを示唆してくれた。もしも4色デッキを率いてチームを組むことができる2色の統率者が2体いたとしたら? アリ・メドウィンはすぐさま熱狂的にこのアイデアを支持した。僕は最初は懐疑的だったが、試してみる価値はあると思った。要約すると、これは素晴らしかった!(本当に、共闘メカニズムについてのマークの記事を読んでほしい)
君はできそうもないと言うだろう
デヴァイン(デザインとデベロップが重なる期間のこと)が始まるとき、リード・デベロッパーのベン・ヘイズはあるアイデアを持っていた。僕たちがデザインしたメカニズム的テーマのひとつ(シミック+アブザン=緑白青黒+1/+1カウンター)をサポートする統率者が、他の統率者に比べていっそう本質的なレベルでベンに訴えかけたのだ。オルゾフが白と黒の部分集合のアイデンティティを持っているように、仮に緑白青黒が(ふたつのパーツの全体というよりは)独立したアイデンティティを持っているとしたらどうだろうか?
僕たちがどうやって金色のカードをデザインしているかについてのちょっとした横道
伝統的な多色、または「金色の」カードはいくつかのカテゴリーに分類される。ご覧の通りだ。ここでは単純でわかりやすいので2色のカードを例に用いている。マーク・ローズウォーターはこれらのカテゴリーについて、彼の記事「Midas Touch」※2で詳しく掘り下げている。
※2……http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/midas-touch-2005-11-14(Midas Touch)
「チャイニーズ・メニュー」※3デザイン
これらのカードは、色Aにふさわしい効果と色Bにふさわしい効果を手に取って乱暴にひとつのカードに貼り合わせて作られる。具体例は《予言の稲妻/Prophetic Bolt》で、これは赤の《電撃破/Lightning Blast》の効果と青の《衝動/Impulse》の効果を合体させたカードだ。
※3……中華料理店でいくつかの料理を組み合わせて注文するように、複数の選択肢から選びとられた組み合わせを意味する言葉。
「ベン図」デザイン
これらはどちらかの色のカードとしても印刷可能なものだ。最近、僕たちはこのタイプのデザインを混成マナのカードのために取っておこうと試みている。具体例は《ボロスの速太刀/Boros Swiftblade》だ。白のクリーチャーも赤のクリーチャーも、どちらも二段攻撃を持つことができる。
「点呼」デザイン
これらのカードは、テキストボックスの中で特に彼らの色(もしくは関連する基本土地タイプ)に呼びかける。具体例は《トルシミール・ウルフブラッド/Tolsimir Wolfblood》で、君の他の白のクリーチャーを+1/+1し、君の他の緑のクリーチャーを+1/+1する。
「ピカピカで新しい」デザイン
これらのカードはマジックの歴史にかつてなかった効果を持つ。具体例は《草ハイドラ/Phytohydra》だ。
「共通の趣味」デザイン
これらのカードは、数色にまたがる能力の派閥のメンバーだ。それによって僕たちは同じテーマの能力を持つ単色もしくは多色のカードを作ることができる。これのよい例は活用能力だろう。これらは黒のカードにも、緑のカードにも、緑黒のカードにもなる。ゴルガリの派閥のアイデンティティは、これら3つの色の組み合わせのいずれにも当てはめることができる。死体から力を引き出すというコンセプトはゴルガリのテーマになっている部分だ。重要なのは、これが緑と黒が力を合わせるの唯一の方法というわけではなく、ゴルガリが行動する方法だということだ。
ベンが示唆したのは「ラヴニカのギルド」スタイルのアイデンティティを4色の各グループに与えてみるということだった。彼は+1/+1カウンターがテーマの緑白青黒のデッキによって僕たちがすでにこの考えにたどり着いていると信じていた。欠けている色である赤は、刹那的快楽とリソースの浪費を中心とした色だ。緑白青黒のデッキはゆっくりと時間をかけて強力になっていく。このことは赤の哲学と対照的で、統率者のプレイを楽しいものにする。 彼はデザイン・チームに、同様な「ギルドのアイデンティティ」を4色のグループそれぞれについて考えるように言った。
これは大いなる挑戦になったが、デザイン・チームはこの課題に熱心に取り組んだ。終わったときにはスケジュールが狂い、予算もオーバーしてしまったが、僕たちは統率者2016の冒険的なデザインをいっそう魅力的にし、仕上げ始める時間を2週間削った。これが僕たちの成果だ。
白青黒赤「細工」※4
白は文明を体現する発展を信奉している。青はテクノロジーを魅惑的なものだと感じている。黒は自然と人工物を道徳的に区別しない。赤は作ったり壊したりすることが好きだ。では緑は? 緑はこれらすべてが嫌いなのだ!
このデッキは有色と無色のアーティファクトに加えて、4色から選ばれた何種類もの「アーティファクト関連」のカードを活用する。これは、複雑な機械を組み上げて延々とアドバンテージを稼ぎたいプレイヤーに向けられたものだ。
※4……原文では「Artifice」で、文字通り「工匠(Artificer)」の語源でありながら、策略や狡猾さを表す言葉。
青黒赤緑「混沌」
青は実証的な実験の結果を明らかにしたいと思っている。黒は敵を困惑させるのが好きだ。赤はその本質に不可欠な要素として混沌を信奉している。緑は宇宙がおのずから展開するままに任せようとしている。秩序と組織の色である白は、毎ターン混沌を抑えようとする——が、混沌を抑えることはできない!
このデッキは変化を内包しており、デッキの一番上の見えないカードをプレイする、コインを投げる、あるいはその他の方法でゲームにランダム性を導入する。このデッキはすべての動きを慎重に計算するよりも、「何が起こるか見てみる」のを好むプレイヤーに向けられている。
黒赤緑白「攻勢」
黒は若い芽が成長して脅威となる前に握りつぶすことをよしとする。赤はあくまで快感のために戦うことを愛好する。緑は弱肉強食が自然全体を強くすると理解している。白は人々や信条を守るために戦うことをいとわない。しかしながら、青は速度を緩め、正しい解決策を見つけるために状況を検討しようとする。
アグロデッキは政治に興味がなく、端的にテーブルの上の全員を可能な限り素早く殺そうとする。このデッキは無駄な時間が嫌いで、単なる統率者というよりはリミテッドに似たプレイスタイルを好むプレイヤーにとって理想的なものだ。
赤緑白青「利他」
赤は友達が好きだ。緑は共生の力を理解している。白は何よりもコミュニティを信じている。青は知識を尊重し、それが自由に共有されるべきだと思っている。黒は利己主義を善だと見なしており、利他主義は弱さを助長するだけだと確信している。
このデッキのパイロットは、テーブルの全員が楽しい時間を過ごし、全員のデッキが何をするのか見たいと思っている。それがマナやカードやトークンをあちこちに贈って他のプレイヤーを助ける理由だ。もちろん贈り物をいぶかしむプレイヤーもいるので、このデッキにはパイロットへの攻撃を困難にするためのカードも含まれている。
緑白青黒「成長」
緑は巨大な樫も小さな種から成長すると認識している。白は文明社会の偉大なる建設者だ。青は知性を拡大させたいと思っている。黒は自らの力を強大にしたいと思っている。衝動的に行動する赤は、未来のことなど気にせず、今、今、今、何ができるかだけを考えている!
このデッキは大量のカウンター(特に+1/+1カウンター)テーマを扱っている。この中のクリーチャーは十分な時間さえ与えればどれも強大な脅威に成長する。このデッキは64/64のハイドラなんてものにスリルを感じるプレイヤー向けだ。
面白いね、でもプレビュー・カードは?
素晴らしい。僕の頭の中で人々が話す声が聞こえる!
「あなたの終了ステップの開始時に、増殖を行う。」テキストのこの文は「長期的な成長」をとてもうまく具体化したものだ! 君のデッキの4色のカードには、アトラクサと組み合わせることができる、むかつくほど強力なカウンターがこれでもかと入っている。
先述のカテゴリーを用いると、アトラクサの半分は「チャイニーズ・メニュー」で、もう半分は「共通の趣味」だ。彼女には各色から得た4つのキーワードがあり、増殖能力は彼女が緑白青黒「成長」の派閥に属していることを表している。
クリエイティブ的には、アトラクサは新ファイレクシアの4人の法務官によって生み出された天使だ。赤の法務官であるウラブラスクは他の法務官と協力しないので、彼はその過程には関わっていない。アトラクサは完璧な使節となるべくして生み出された。
他のプレビュー・カードは?
おいおい、欲張りすぎやしないかい?
何でもいい! 神話レアじゃなくてもいいから!
よおーしわかった。
想像に難くないように、この製品のマナベースは手ごわい。僕は人々が4色のカードをきちんと唱えられるようにする何かしらの新しい道具を作りたかったので、基本土地サイクリングを持つ6枚の新カードを作った。僕はそれらの多くを、比較的重いカードに限られた用途の能力をつけたものにしたいと考えた。アーティファクトやエンチャントを追放することは特定のゲームで決定打になる反面、それ以外のゲームでは完全に役に立たない効果のお手本で、基本土地サイクリングを持つカードとして申し分ない候補となった。コンフラックスに収録されたオリジナルの基本土地サイクリングには色マナが必要だったが、僕はどんな色のマナでも構わないようにした。マナを整えるために先にマナが整っていないといけないなんておかしいだろう?
横道にそれるが、このアートを見てほしい! イニストラードを覆う影以来、僕はSeb McKinnonの大ファンなんだ。
デッキリストが公開されたとき、君は僕たちがマナベースでいつもと違うことをしているのに気づくだろう。通常、統率者の構築済みデッキにレアの2色土地を入れることはない。こうしたカードは、より広いファンに向けられた主力のブースターやマスターズのような製品に収録されている。4色デッキが色マナへのアクセスという特殊な問題をもたらすのはわかっていたので、僕たちは近い将来ブースターパックに入れるつもりのないレアの2色土地を時間をかけて選んだ。僕たちはデッキがスムーズに動くように、それらのうち何枚かを統率者2016のデッキに入れることにした。
よし、帰る時間だ
僕は統率者(2016年版)で自分がした仕事に本当に誇りを持っている。デザイン・チームは素晴らしいテーマを見つけ、全力を傾け、デベロップ・チームはそれらのテーマがきちんと動くようにしてくれた。僕の考えでは、これらのデッキは今まで売り出したどの製品よりも自家製の統率者に近く感じられることだろう。全くもってこれらは奇妙だ! 僕は君がこれらのデッキで遊び、新しい統率者(あるいは統率者たち!)で新しいデッキを組み、すでにある君のデッキに入る素晴らしいカードを見つけてくれるのを願っている。
楽しんで!
ソース……http://magic.wizards.com/en/articles/archive/card-preview/designing-commander-2016-edition-2016-10-24(Designing Commander (2016 Edition))
翻訳後記
2016年の統率者のリード・デザイナーを務めたイーサン・フライシャーによる記事です。日本公式サイトに上がる様子がないので翻訳しました。
今回の統率者の出来には様々な意見があると思いますが、まず理解しておきたいのは4色のカードをデザインするのは非常に難しいということです(おそらくそれは5色のカードよりも難しいはずです)。この記事やマローの記事を読む限りでは、当初イーサンたちはメカニズム的な美しさをもってこの課題を解決しようとしていたようです。すなわち、4色であるということをマナ・コストや固有色の面でどのように工夫できるのかという発想で、ある意味では「賢い」方法だといえるでしょう。
しかし、それも途中で頓挫し、デベロップへの移行期間になるまでデザインが固まっていなかったというから驚きです(もしも今回の統率者が凡庸に見えるとしたら、直接的な原因は時間の不足なのかもしれません)。結局のところ彼らが選択したのは、各色の哲学の共通部分と差異を書き出して総当たり的に4色のアイデンティティを導き出すというたいへん「泥臭い」方法でした。
彼らが最初からこの方法を取らなかった理由もわかるような気がします。全部で5色しかないマジックにおいて、4色の共通部分はあまりに抽象度が高すぎ、仮にそれが見つかったとしても個性的なカードを作ることは難しいのです。たとえば各色の単体除去を持ち寄って、4色バージョンの《終止/Terminate》を作ったとしても、それを究極の除去呪文であると認めることは難しいでしょう。今回の統率者でいえば、黒赤緑白の《不撓のサスキア/Saskia the Unyielding》はこうした足し算によって逆に没個性的なカードになってしまった例かもしれません。
ただ、カードはもとよりそうして作られた4色のアイデンティティは(いかに泥臭いものであったとしても)努力の成果としてそれなりに評価できると私は考えています。5つの組み合わせそれぞれの論拠は筋が通っていますし、お互いに十分異なってもいます。時間をかけただけの力技的なデザインは、裏返せば時間をかけなければ生み出されないデザインでもあり、その限りで尊重すべきものでしょう。
すでにデッキリストが公開されていますが、青黒赤緑のデッキ(《大渦を操る者、イドリス/Yidris, Maelstrom Wielder》のデッキ)では面白いことが起きています。今回この色の組み合わせのアイデンティティが「混沌」だと位置づけられたことで、《変身/Polymorph》能力が赤に印刷されました(《分岐変容/Divergent Transformations》)。また、同じデッキに《光り葉のナース/Nath of the Gilt-Leaf》が再録されていますが、このカードはもはや《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》と《新緑の魔力/Verdant Force》の足し算ではありません。このデッキの中では、「混沌」を司る青黒赤緑の半分として、黒緑に新たなデザイン的役割が与えられているのです。
誤訳や誤字がありましたら指摘していただければ幸いです。
2016年10月24日
イーサン・フライシャー
この混乱は、R&Dの奈落(訳注:開発部の面々がいる場所)の真ん中で、もし僕が統率者のデザイン・チームを任されたなら4色の伝説のクリーチャーを作るだろうと大声で宣言したことにすべて端を発している。誰かが僕の頭にステープラーを投げ、「正気じゃない!」と言った。
「いやあ、きっと朝飯前さ」僕は陽気に答えた。
結局のところ、ステープラーを投げた人は正しく、僕が間違っていた。統率者(2016年版)は、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストでの5年半にわたる僕のキャリアの中で最も困難なデザインだということが明らかになった。
なんてドラマチックなんだ。で、どうしたの?
僕たちは、いずれも熱狂的な統率者プレイヤーである、聡明で、魅力的で、チャーミングなデザイナーからなるチームを編成した。これら素晴らしき人々の詳細については、マーク・ローズウォーターの今日の記事※1を読むことをお勧めする。
※1……http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/0017891/(よろしく共闘/Howdy Partner)
最初の数回のミーティングで、僕は本当に4色の統率者デッキを作ることに束縛されたり、固執したりしているわけではないこと、そしてこの問題をグループで話し合い、あらゆる選択肢を見つける必要があることを伝え、みんなを安心させた。僕たちは考えうる限りのあらゆる選択肢や視点について話し合った。それでも、僕は直感的に2016年は4色デッキをデザインすべき年だと感じており、説得のためにプレゼンすることになった。
僕は統率者の製品ラインがどのようであったのかについて述べ(僕たちは楔3色のデッキ、弧3色のデッキ、単色のデッキ、対抗色のデッキを作ってきた)、それがこれからどのようになると想像しているかを伝えた(これからは[編集済み]、[編集済み]、そしておそらく[編集済み]すら作ることだろう)。僕は、4色の伝説のクリーチャーはファンから最も頻繁にリクエストされるもののひとつであり、統率者はそうしたカードを印刷するのに最適の場所であると話した。僕たちは、4色デッキこそが進むべき道であると決定した。
僕は有力だと思われる4色デッキのテーマのリストを何年か温めていたので、いくつかのデッキを構築するうえで幸先のよいスタートが切れたと感じていた。これらのテーマはメカニズム的に発想されたもので、僕たちが過去にマジックでしてきたことに基づいている。たとえば、グリクシスとゴルガリには大量のゾンビたちがいた。青黒赤緑はゾンビ部族デッキにすることができる!
また、賛美はアラーラ・ブロックではバントであり、基本セット2013では白黒だった。緑白青黒の賛美デッキが作れる!
これは有力な方向性に思えたので、僕たちはこれに沿ってデッキを作り、その統率者の作成に取りかかった。僕はチームが「ネフィリム・スタイル」のカードを作りたいのだということを理解していたので、これらは普通の多色のカードになった。これらは今日までのマジックにおける唯一の4色カードである、ギルドパクトのネフィリムにちなんで名づけられた。これは4色の統率者を作るための最も直線的な方法だった。
統率者のルールの奇抜なところのひとつは、カードを唱えるためのコスト、あるいはテキストボックス内に書かれているマナ・シンボルを「固有色」として数えるというものだ。そのため君が《墓後家蜘蛛、イシュカナ/Ishkanah, Grafwidow》を統率者として使うなら、デッキには緑と黒のカードを入れることができる。あるいは《死に微笑むもの、アリーシャ/Alesha, Who Smiles at Death》を統率者として使うなら、デッキには赤、白、黒のカードを入れることができる。《メムナーク/Memnarch》は無色のアーティファクト・クリーチャーだが、青の起動型能力があるため彼の固有色は青だ。
僕たちはこの流れに沿ってかなりの数の「ワイルド・カード」統率者をデザインした。混成マナの伝説のクリーチャーに全く異なる混成マナの起動型能力をつけたもの。単色の伝説のクリーチャーに別の3つの色の起動型能力をつけたもの。伝説のアーティファクト・クリーチャーに4色の起動型能力をつけたものなど。安心してほしい、それらの中でよい結果を出したものはひとつとしてなかった。最も簡単にデザインできるカードとは最も確かなコンセプトを持つカードであって、逆もまたしかり。マジックのカードではメカニズムとクリエイティブ的な側面を十分に融合させることが重要なため、僕たちは「ワイルド・カード」統率者の道に進むことを断念した。
ケン・ネーグルはきわめて過激なことを示唆してくれた。もしも4色デッキを率いてチームを組むことができる2色の統率者が2体いたとしたら? アリ・メドウィンはすぐさま熱狂的にこのアイデアを支持した。僕は最初は懐疑的だったが、試してみる価値はあると思った。要約すると、これは素晴らしかった!(本当に、共闘メカニズムについてのマークの記事を読んでほしい)
君はできそうもないと言うだろう
デヴァイン(デザインとデベロップが重なる期間のこと)が始まるとき、リード・デベロッパーのベン・ヘイズはあるアイデアを持っていた。僕たちがデザインしたメカニズム的テーマのひとつ(シミック+アブザン=緑白青黒+1/+1カウンター)をサポートする統率者が、他の統率者に比べていっそう本質的なレベルでベンに訴えかけたのだ。オルゾフが白と黒の部分集合のアイデンティティを持っているように、仮に緑白青黒が(ふたつのパーツの全体というよりは)独立したアイデンティティを持っているとしたらどうだろうか?
僕たちがどうやって金色のカードをデザインしているかについてのちょっとした横道
伝統的な多色、または「金色の」カードはいくつかのカテゴリーに分類される。ご覧の通りだ。ここでは単純でわかりやすいので2色のカードを例に用いている。マーク・ローズウォーターはこれらのカテゴリーについて、彼の記事「Midas Touch」※2で詳しく掘り下げている。
※2……http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/midas-touch-2005-11-14(Midas Touch)
「チャイニーズ・メニュー」※3デザイン
これらのカードは、色Aにふさわしい効果と色Bにふさわしい効果を手に取って乱暴にひとつのカードに貼り合わせて作られる。具体例は《予言の稲妻/Prophetic Bolt》で、これは赤の《電撃破/Lightning Blast》の効果と青の《衝動/Impulse》の効果を合体させたカードだ。
※3……中華料理店でいくつかの料理を組み合わせて注文するように、複数の選択肢から選びとられた組み合わせを意味する言葉。
「ベン図」デザイン
これらはどちらかの色のカードとしても印刷可能なものだ。最近、僕たちはこのタイプのデザインを混成マナのカードのために取っておこうと試みている。具体例は《ボロスの速太刀/Boros Swiftblade》だ。白のクリーチャーも赤のクリーチャーも、どちらも二段攻撃を持つことができる。
「点呼」デザイン
これらのカードは、テキストボックスの中で特に彼らの色(もしくは関連する基本土地タイプ)に呼びかける。具体例は《トルシミール・ウルフブラッド/Tolsimir Wolfblood》で、君の他の白のクリーチャーを+1/+1し、君の他の緑のクリーチャーを+1/+1する。
「ピカピカで新しい」デザイン
これらのカードはマジックの歴史にかつてなかった効果を持つ。具体例は《草ハイドラ/Phytohydra》だ。
「共通の趣味」デザイン
これらのカードは、数色にまたがる能力の派閥のメンバーだ。それによって僕たちは同じテーマの能力を持つ単色もしくは多色のカードを作ることができる。これのよい例は活用能力だろう。これらは黒のカードにも、緑のカードにも、緑黒のカードにもなる。ゴルガリの派閥のアイデンティティは、これら3つの色の組み合わせのいずれにも当てはめることができる。死体から力を引き出すというコンセプトはゴルガリのテーマになっている部分だ。重要なのは、これが緑と黒が力を合わせるの唯一の方法というわけではなく、ゴルガリが行動する方法だということだ。
ベンが示唆したのは「ラヴニカのギルド」スタイルのアイデンティティを4色の各グループに与えてみるということだった。彼は+1/+1カウンターがテーマの緑白青黒のデッキによって僕たちがすでにこの考えにたどり着いていると信じていた。欠けている色である赤は、刹那的快楽とリソースの浪費を中心とした色だ。緑白青黒のデッキはゆっくりと時間をかけて強力になっていく。このことは赤の哲学と対照的で、統率者のプレイを楽しいものにする。 彼はデザイン・チームに、同様な「ギルドのアイデンティティ」を4色のグループそれぞれについて考えるように言った。
これは大いなる挑戦になったが、デザイン・チームはこの課題に熱心に取り組んだ。終わったときにはスケジュールが狂い、予算もオーバーしてしまったが、僕たちは統率者2016の冒険的なデザインをいっそう魅力的にし、仕上げ始める時間を2週間削った。これが僕たちの成果だ。
白青黒赤「細工」※4
白は文明を体現する発展を信奉している。青はテクノロジーを魅惑的なものだと感じている。黒は自然と人工物を道徳的に区別しない。赤は作ったり壊したりすることが好きだ。では緑は? 緑はこれらすべてが嫌いなのだ!
このデッキは有色と無色のアーティファクトに加えて、4色から選ばれた何種類もの「アーティファクト関連」のカードを活用する。これは、複雑な機械を組み上げて延々とアドバンテージを稼ぎたいプレイヤーに向けられたものだ。
※4……原文では「Artifice」で、文字通り「工匠(Artificer)」の語源でありながら、策略や狡猾さを表す言葉。
青黒赤緑「混沌」
青は実証的な実験の結果を明らかにしたいと思っている。黒は敵を困惑させるのが好きだ。赤はその本質に不可欠な要素として混沌を信奉している。緑は宇宙がおのずから展開するままに任せようとしている。秩序と組織の色である白は、毎ターン混沌を抑えようとする——が、混沌を抑えることはできない!
このデッキは変化を内包しており、デッキの一番上の見えないカードをプレイする、コインを投げる、あるいはその他の方法でゲームにランダム性を導入する。このデッキはすべての動きを慎重に計算するよりも、「何が起こるか見てみる」のを好むプレイヤーに向けられている。
黒赤緑白「攻勢」
黒は若い芽が成長して脅威となる前に握りつぶすことをよしとする。赤はあくまで快感のために戦うことを愛好する。緑は弱肉強食が自然全体を強くすると理解している。白は人々や信条を守るために戦うことをいとわない。しかしながら、青は速度を緩め、正しい解決策を見つけるために状況を検討しようとする。
アグロデッキは政治に興味がなく、端的にテーブルの上の全員を可能な限り素早く殺そうとする。このデッキは無駄な時間が嫌いで、単なる統率者というよりはリミテッドに似たプレイスタイルを好むプレイヤーにとって理想的なものだ。
赤緑白青「利他」
赤は友達が好きだ。緑は共生の力を理解している。白は何よりもコミュニティを信じている。青は知識を尊重し、それが自由に共有されるべきだと思っている。黒は利己主義を善だと見なしており、利他主義は弱さを助長するだけだと確信している。
このデッキのパイロットは、テーブルの全員が楽しい時間を過ごし、全員のデッキが何をするのか見たいと思っている。それがマナやカードやトークンをあちこちに贈って他のプレイヤーを助ける理由だ。もちろん贈り物をいぶかしむプレイヤーもいるので、このデッキにはパイロットへの攻撃を困難にするためのカードも含まれている。
緑白青黒「成長」
緑は巨大な樫も小さな種から成長すると認識している。白は文明社会の偉大なる建設者だ。青は知性を拡大させたいと思っている。黒は自らの力を強大にしたいと思っている。衝動的に行動する赤は、未来のことなど気にせず、今、今、今、何ができるかだけを考えている!
このデッキは大量のカウンター(特に+1/+1カウンター)テーマを扱っている。この中のクリーチャーは十分な時間さえ与えればどれも強大な脅威に成長する。このデッキは64/64のハイドラなんてものにスリルを感じるプレイヤー向けだ。
面白いね、でもプレビュー・カードは?
素晴らしい。僕の頭の中で人々が話す声が聞こえる!
法務官の声、アトラクサ/Atraxa, Praetors’ Voice (緑)(白)(青)(黒)
伝説のクリーチャー ― 天使・ホラー C16, 神話レア
飛行、警戒、接死、絆魂
あなたの終了ステップの開始時に、増殖を行う。(あなたはカウンターの置かれているパーマネントやプレイヤーを望む数だけ選び、その後それぞれに、その上に置かれているカウンターのうち1種類を1個置く。)
4/4
「あなたの終了ステップの開始時に、増殖を行う。」テキストのこの文は「長期的な成長」をとてもうまく具体化したものだ! 君のデッキの4色のカードには、アトラクサと組み合わせることができる、むかつくほど強力なカウンターがこれでもかと入っている。
先述のカテゴリーを用いると、アトラクサの半分は「チャイニーズ・メニュー」で、もう半分は「共通の趣味」だ。彼女には各色から得た4つのキーワードがあり、増殖能力は彼女が緑白青黒「成長」の派閥に属していることを表している。
クリエイティブ的には、アトラクサは新ファイレクシアの4人の法務官によって生み出された天使だ。赤の法務官であるウラブラスクは他の法務官と協力しないので、彼はその過程には関わっていない。アトラクサは完璧な使節となるべくして生み出された。
他のプレビュー・カードは?
おいおい、欲張りすぎやしないかい?
何でもいい! 神話レアじゃなくてもいいから!
よおーしわかった。
森の再生/Sylvan Reclamation (3)(緑)(白)
インスタント C16, アンコモン
アーティファクトやエンチャント最大2つを対象とし、それらを追放する。
基本土地サイクリング(2)((2),このカードを捨てる:あなたのライブラリーから基本土地カードを1枚探す。それを公開し、あなたの手札に加える。その後あなたのライブラリーを切り直す。)
想像に難くないように、この製品のマナベースは手ごわい。僕は人々が4色のカードをきちんと唱えられるようにする何かしらの新しい道具を作りたかったので、基本土地サイクリングを持つ6枚の新カードを作った。僕はそれらの多くを、比較的重いカードに限られた用途の能力をつけたものにしたいと考えた。アーティファクトやエンチャントを追放することは特定のゲームで決定打になる反面、それ以外のゲームでは完全に役に立たない効果のお手本で、基本土地サイクリングを持つカードとして申し分ない候補となった。コンフラックスに収録されたオリジナルの基本土地サイクリングには色マナが必要だったが、僕はどんな色のマナでも構わないようにした。マナを整えるために先にマナが整っていないといけないなんておかしいだろう?
横道にそれるが、このアートを見てほしい! イニストラードを覆う影以来、僕はSeb McKinnonの大ファンなんだ。
デッキリストが公開されたとき、君は僕たちがマナベースでいつもと違うことをしているのに気づくだろう。通常、統率者の構築済みデッキにレアの2色土地を入れることはない。こうしたカードは、より広いファンに向けられた主力のブースターやマスターズのような製品に収録されている。4色デッキが色マナへのアクセスという特殊な問題をもたらすのはわかっていたので、僕たちは近い将来ブースターパックに入れるつもりのないレアの2色土地を時間をかけて選んだ。僕たちはデッキがスムーズに動くように、それらのうち何枚かを統率者2016のデッキに入れることにした。
よし、帰る時間だ
僕は統率者(2016年版)で自分がした仕事に本当に誇りを持っている。デザイン・チームは素晴らしいテーマを見つけ、全力を傾け、デベロップ・チームはそれらのテーマがきちんと動くようにしてくれた。僕の考えでは、これらのデッキは今まで売り出したどの製品よりも自家製の統率者に近く感じられることだろう。全くもってこれらは奇妙だ! 僕は君がこれらのデッキで遊び、新しい統率者(あるいは統率者たち!)で新しいデッキを組み、すでにある君のデッキに入る素晴らしいカードを見つけてくれるのを願っている。
楽しんで!
ソース……http://magic.wizards.com/en/articles/archive/card-preview/designing-commander-2016-edition-2016-10-24(Designing Commander (2016 Edition))
翻訳後記
2016年の統率者のリード・デザイナーを務めたイーサン・フライシャーによる記事です。日本公式サイトに上がる様子がないので翻訳しました。
今回の統率者の出来には様々な意見があると思いますが、まず理解しておきたいのは4色のカードをデザインするのは非常に難しいということです(おそらくそれは5色のカードよりも難しいはずです)。この記事やマローの記事を読む限りでは、当初イーサンたちはメカニズム的な美しさをもってこの課題を解決しようとしていたようです。すなわち、4色であるということをマナ・コストや固有色の面でどのように工夫できるのかという発想で、ある意味では「賢い」方法だといえるでしょう。
しかし、それも途中で頓挫し、デベロップへの移行期間になるまでデザインが固まっていなかったというから驚きです(もしも今回の統率者が凡庸に見えるとしたら、直接的な原因は時間の不足なのかもしれません)。結局のところ彼らが選択したのは、各色の哲学の共通部分と差異を書き出して総当たり的に4色のアイデンティティを導き出すというたいへん「泥臭い」方法でした。
彼らが最初からこの方法を取らなかった理由もわかるような気がします。全部で5色しかないマジックにおいて、4色の共通部分はあまりに抽象度が高すぎ、仮にそれが見つかったとしても個性的なカードを作ることは難しいのです。たとえば各色の単体除去を持ち寄って、4色バージョンの《終止/Terminate》を作ったとしても、それを究極の除去呪文であると認めることは難しいでしょう。今回の統率者でいえば、黒赤緑白の《不撓のサスキア/Saskia the Unyielding》はこうした足し算によって逆に没個性的なカードになってしまった例かもしれません。
ただ、カードはもとよりそうして作られた4色のアイデンティティは(いかに泥臭いものであったとしても)努力の成果としてそれなりに評価できると私は考えています。5つの組み合わせそれぞれの論拠は筋が通っていますし、お互いに十分異なってもいます。時間をかけただけの力技的なデザインは、裏返せば時間をかけなければ生み出されないデザインでもあり、その限りで尊重すべきものでしょう。
すでにデッキリストが公開されていますが、青黒赤緑のデッキ(《大渦を操る者、イドリス/Yidris, Maelstrom Wielder》のデッキ)では面白いことが起きています。今回この色の組み合わせのアイデンティティが「混沌」だと位置づけられたことで、《変身/Polymorph》能力が赤に印刷されました(《分岐変容/Divergent Transformations》)。また、同じデッキに《光り葉のナース/Nath of the Gilt-Leaf》が再録されていますが、このカードはもはや《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》と《新緑の魔力/Verdant Force》の足し算ではありません。このデッキの中では、「混沌」を司る青黒赤緑の半分として、黒緑に新たなデザイン的役割が与えられているのです。
誤訳や誤字がありましたら指摘していただければ幸いです。
カード・アドバンテージを失いテンポを得る
《不屈の追跡者/Tireless Tracker》は手掛かりによってテンポを失いながらカード・アドバンテージを得るカードだった。では、その反対はどうなるだろうか? 《石の宣告/Declaration in Stone》は、そうした問いに答えるカードだ。
《剣を鍬に/Swords to Plowshares》の亜種は数あれど、デザイン的な意味で成功を収めたものは少ない。大抵の場合それらは強すぎるか、あるいは弱すぎるかのどちらかで、デザインとデベロップがパワー・レベルを適切に設定できることはあまりない。私はこれを、白という色が持ちうるデメリットの種類の貧困さの問題だと思っている。すなわち、除去されたクリーチャーのコントローラーにライフを与えたり、タップ状態の土地を与えたりすることはほとんどデメリットにならないが、かといって《正義の凝視/Gaze of Justice》では使い物にならないのだ。
したがって、R&Dが手掛かりというメカニズムを使って対戦相手に手札を与える白いカードをデザインしたことは賞賛されるべきだろう。面白いことに、このトークンはライフや土地と違って戦況に影響を与える有効牌に変わる反面、マッチアップ次第では単に死期を早めるテンポロスにしかならない。結果的に《石の宣告/Declaration in Stone》は純粋にテンポだけを取る短期決戦向きの追放除去としてデザインされ、クリーチャーを殲滅することを目的としたデッキではなく、ゲームプランの速いデッキで多用される除去呪文になった。
テンポとカード・アドバンテージの関係だけを見れば、このカードはバウンス呪文に非常に近い。そのため、このカードの直系の祖先は《剣を鍬に/Swords to Plowshares》や《流刑への道/Path to Exile》ではなく《破門/Excommunicate》や《失脚/Oust》だといえるかもしれない。《石の宣告/Declaration in Stone》は《失脚/Oust》のマナ・コストを重く、カード・アドバンテージまで失うようにしたバージョンだが、対戦相手が除去された脅威を取り戻すまでの時間は本家よりもずっと長くなった。
困難は不可能ではない
先述したように、テンポはカラー・パイに依存していないため、テンポを利用したデザインはあらゆる色で可能なはずだ。そして、《石の宣告/Declaration in Stone》のように本来はその色が苦手なことをテンポの形で表現することも同様にできると思われる。
注意しなければならないのは、テンポとデザインが結びつくこと自体は何ら目新しいものではないということだ。たとえば待機はマナ効率を超えた時間のアドバンテージ(ディスアドバンテージ)に着目したメカニズムであるし、マジック・オリジンの《一日のやり直し/Day’s Undoing》はテンポをうまく利用してヴィンテージ制限カードを再び印刷可能にしたデザインだといえる。
また、誤解のないよう繰り返すと、私はカラー・パイの境界をむやみに曖昧にすることには反対の立場だ。そもそもカラー・パイはマジックに色が存在することの意義そのものであるし、メタゲームを健全に循環させるための最も基本的な手段でもある。
そのため、私はマジックに手札を増やすことが得意な色とそうでない色が存在することは問題だと思わない(現状、青と黒がその分野において抜きん出ている)。問題なのは、1枚の手札を与えることが適切でないという理由で、それが苦手な色からリソースを増やす行為自体が消滅してしまうことだ。
私が《不屈の追跡者/Tireless Tracker》や《石の宣告/Declaration in Stone》をデザイン的な達成だと述べるのは、カードを引くことにまつわるこうした問題を、R&Dがある程度解決できたように思うからだ。たとえ1枚の手札がカラー・パイによって制限されているとしても、テンポをデザインに応用して各色に小数点以下の手札を与えることはおそらく間違いではない。手掛かりは、テンポを適切に設定することによって、これらの色に全体除去やトークン以外の方法でカード・アドバンテージを与えるための試みだといえる。
赤くて長い時間
私はカードをデザインすることが趣味のユーザーなので、手掛かりの系譜にある新たなデザインを考えずにはいられない。とはいえ、スタンダード環境をプレイして緑や白のカードには食傷気味のプレイヤーも多いと思われるため、カード・アドバンテージを得ることが苦手な他の色のカードをデザインすることにしよう。すなわち、それは赤だ。
マローがかつてコラムで語ったように※、ある効果がカラー・パイ的に適切か否かという問題には感情が大きく関わっている。あくまで私見だが、手掛かりのようにマナを支払って単にカードを引く行為は、おそらく現状ではユーザーに赤らしい効果として認識されないだろう。
したがって、赤らしさを保ちながら実質的に手掛かりと同じように機能する効果——できることなら、ルーター効果や《エルキンの壷/Elkin Bottle》効果のようにありふれていないもの——を探す必要がある。最終的に《場当たりな襲撃/Impromptu Raid》ほど危険ではないという理由で《混沌のねじれ/Chaos Warp》に近いデザインにしたが、このクリーチャー4枚と巨大クリーチャー36枚で構成されたデッキの誕生を防ぐため、誘発条件の段階でデッキの構造にある程度制約をかけた。
エンチャント・トークンを複数生み出すようにしたのは、この効果がメリットとしてもデメリットとしても中途半端に感じられたからだ。このマナ・コストとカード・アドバンテージの組み合わせが適切なのかどうかは不明だが、もしもデベロップという過程を経ることがあるならば、エンチャント・トークンが狙い通りのテンポを生むよう厳密に(そして容易に)調整されることだろう。
※……http://mtg-jp.com/reading/translated/001731/(混交の話/The Bleed Story)
赤いカードに存在しうるカード・アドバンテージ獲得方法の中でも、トーナメントシーンにあまり姿を現さないもののひとつが《ボガーダンの鎚/Hammer of Bogardan》や《陶片のフェニックス/Shard Phoenix》といった再利用可能なカードだろう。特に前者のような再利用できる火力呪文は、かつてR&Dが《罰する火/Punishing Fire》で痛い目を見たためか、今日において積極的な調整がなされることはほとんどない。
見ての通りこのテキストは《ボガーダンの鎚/Hammer of Bogardan》を強く意識したもので、能力を起動するごとにテンポが悪くなるよう設計されている。本家同様に理論上は無限に再利用できるダメージ源になるが、1枚で対戦相手を焼き切るためには土地を21枚まで伸ばさなければならない。
私がこのカードによって試みたのは、1枚のカードが演出する時間を最長にすることだ。一定間隔で繰り返される火力という意味でこのカードは《弧状の刃/Arc Blade》のような時間カウンターを用いたデザインに近いが、マナ効率が変化することでそれは単なる反復以上のものになる。ゲームプレイの場合とは異なって、デザインにおけるテンポは効率を求めることばかりを目的としていない。全く反対に、より長い時間、より悪いマナ効率を使ってドラマのあるカードをデザインすることも可能なのだ。
デザインの手掛かり
私がテンポという言葉を興味深いと思うのは、その概念の中にマジックの様々な要素が溶け合っていると感じるからだ。そこでは、マナ・コストは時間であり、タイミングはマナ・カーブであり、カード・アドバンテージはライフである。
デザイナーは、テンポとうまく関わることで、カードの中の限られたパラメータから不可視のデザイン的要素にアクセスすることを学ぶ。今日のマジックで重要なのはカード・アドバンテージとテンポ・アドバンテージだ——という格言に従い、プレイヤーのみならずデザイナーが扱う問題も変化していると思われる。
《不屈の追跡者/Tireless Tracker》は手掛かりによってテンポを失いながらカード・アドバンテージを得るカードだった。では、その反対はどうなるだろうか? 《石の宣告/Declaration in Stone》は、そうした問いに答えるカードだ。
《剣を鍬に/Swords to Plowshares》の亜種は数あれど、デザイン的な意味で成功を収めたものは少ない。大抵の場合それらは強すぎるか、あるいは弱すぎるかのどちらかで、デザインとデベロップがパワー・レベルを適切に設定できることはあまりない。私はこれを、白という色が持ちうるデメリットの種類の貧困さの問題だと思っている。すなわち、除去されたクリーチャーのコントローラーにライフを与えたり、タップ状態の土地を与えたりすることはほとんどデメリットにならないが、かといって《正義の凝視/Gaze of Justice》では使い物にならないのだ。
したがって、R&Dが手掛かりというメカニズムを使って対戦相手に手札を与える白いカードをデザインしたことは賞賛されるべきだろう。面白いことに、このトークンはライフや土地と違って戦況に影響を与える有効牌に変わる反面、マッチアップ次第では単に死期を早めるテンポロスにしかならない。結果的に《石の宣告/Declaration in Stone》は純粋にテンポだけを取る短期決戦向きの追放除去としてデザインされ、クリーチャーを殲滅することを目的としたデッキではなく、ゲームプランの速いデッキで多用される除去呪文になった。
テンポとカード・アドバンテージの関係だけを見れば、このカードはバウンス呪文に非常に近い。そのため、このカードの直系の祖先は《剣を鍬に/Swords to Plowshares》や《流刑への道/Path to Exile》ではなく《破門/Excommunicate》や《失脚/Oust》だといえるかもしれない。《石の宣告/Declaration in Stone》は《失脚/Oust》のマナ・コストを重く、カード・アドバンテージまで失うようにしたバージョンだが、対戦相手が除去された脅威を取り戻すまでの時間は本家よりもずっと長くなった。
困難は不可能ではない
先述したように、テンポはカラー・パイに依存していないため、テンポを利用したデザインはあらゆる色で可能なはずだ。そして、《石の宣告/Declaration in Stone》のように本来はその色が苦手なことをテンポの形で表現することも同様にできると思われる。
注意しなければならないのは、テンポとデザインが結びつくこと自体は何ら目新しいものではないということだ。たとえば待機はマナ効率を超えた時間のアドバンテージ(ディスアドバンテージ)に着目したメカニズムであるし、マジック・オリジンの《一日のやり直し/Day’s Undoing》はテンポをうまく利用してヴィンテージ制限カードを再び印刷可能にしたデザインだといえる。
また、誤解のないよう繰り返すと、私はカラー・パイの境界をむやみに曖昧にすることには反対の立場だ。そもそもカラー・パイはマジックに色が存在することの意義そのものであるし、メタゲームを健全に循環させるための最も基本的な手段でもある。
そのため、私はマジックに手札を増やすことが得意な色とそうでない色が存在することは問題だと思わない(現状、青と黒がその分野において抜きん出ている)。問題なのは、1枚の手札を与えることが適切でないという理由で、それが苦手な色からリソースを増やす行為自体が消滅してしまうことだ。
私が《不屈の追跡者/Tireless Tracker》や《石の宣告/Declaration in Stone》をデザイン的な達成だと述べるのは、カードを引くことにまつわるこうした問題を、R&Dがある程度解決できたように思うからだ。たとえ1枚の手札がカラー・パイによって制限されているとしても、テンポをデザインに応用して各色に小数点以下の手札を与えることはおそらく間違いではない。手掛かりは、テンポを適切に設定することによって、これらの色に全体除去やトークン以外の方法でカード・アドバンテージを与えるための試みだといえる。
赤くて長い時間
私はカードをデザインすることが趣味のユーザーなので、手掛かりの系譜にある新たなデザインを考えずにはいられない。とはいえ、スタンダード環境をプレイして緑や白のカードには食傷気味のプレイヤーも多いと思われるため、カード・アドバンテージを得ることが苦手な他の色のカードをデザインすることにしよう。すなわち、それは赤だ。
[カード名] (2)(赤)
クリーチャー ― 人間・シャーマン
威迫
[カード名]かあなたがコントロールする他のトークンでないクリーチャーが1体死亡するたび、赤の「混沌」という名前のエンチャント・トークンを2つ戦場に出す。それらは「(3),このエンチャントを生け贄に捧げる:あなたのライブラリーを切り直し、その後、一番上のカードを公開する。それがパーマネント・カードであるなら、あなたはそのカードを戦場に出してもよい。」を持つ。
3/2
[カード名] (1)(赤)
ソーサリー
トークンでないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それのコントローラーは、赤の「混沌」という名前のエンチャント・トークンを2つ戦場に出す。それらは「(3),このエンチャントを生け贄に捧げる:あなたのライブラリーを切り直し、その後、一番上のカードを公開する。それがパーマネント・カードであるなら、あなたはそのカードを戦場に出してもよい。」を持つ。
マローがかつてコラムで語ったように※、ある効果がカラー・パイ的に適切か否かという問題には感情が大きく関わっている。あくまで私見だが、手掛かりのようにマナを支払って単にカードを引く行為は、おそらく現状ではユーザーに赤らしい効果として認識されないだろう。
したがって、赤らしさを保ちながら実質的に手掛かりと同じように機能する効果——できることなら、ルーター効果や《エルキンの壷/Elkin Bottle》効果のようにありふれていないもの——を探す必要がある。最終的に《場当たりな襲撃/Impromptu Raid》ほど危険ではないという理由で《混沌のねじれ/Chaos Warp》に近いデザインにしたが、このクリーチャー4枚と巨大クリーチャー36枚で構成されたデッキの誕生を防ぐため、誘発条件の段階でデッキの構造にある程度制約をかけた。
エンチャント・トークンを複数生み出すようにしたのは、この効果がメリットとしてもデメリットとしても中途半端に感じられたからだ。このマナ・コストとカード・アドバンテージの組み合わせが適切なのかどうかは不明だが、もしもデベロップという過程を経ることがあるならば、エンチャント・トークンが狙い通りのテンポを生むよう厳密に(そして容易に)調整されることだろう。
※……http://mtg-jp.com/reading/translated/001731/(混交の話/The Bleed Story)
[カード名] (1)(赤)(赤)
エンチャント
瞬速
[カード名]が戦場に出たとき、あなたのマナ・プールに(赤)(赤)(赤)を加える。
(X)(赤)(赤)(赤):クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。[カード名]はそれに3点のダメージを与える。占術3を行う。[カード名]の上に猛火カウンターを3個置く。Xは[カード名]の上の猛火カウンターの数に等しい。この能力は、毎ターン1回のみ起動できる。
赤いカードに存在しうるカード・アドバンテージ獲得方法の中でも、トーナメントシーンにあまり姿を現さないもののひとつが《ボガーダンの鎚/Hammer of Bogardan》や《陶片のフェニックス/Shard Phoenix》といった再利用可能なカードだろう。特に前者のような再利用できる火力呪文は、かつてR&Dが《罰する火/Punishing Fire》で痛い目を見たためか、今日において積極的な調整がなされることはほとんどない。
見ての通りこのテキストは《ボガーダンの鎚/Hammer of Bogardan》を強く意識したもので、能力を起動するごとにテンポが悪くなるよう設計されている。本家同様に理論上は無限に再利用できるダメージ源になるが、1枚で対戦相手を焼き切るためには土地を21枚まで伸ばさなければならない。
私がこのカードによって試みたのは、1枚のカードが演出する時間を最長にすることだ。一定間隔で繰り返される火力という意味でこのカードは《弧状の刃/Arc Blade》のような時間カウンターを用いたデザインに近いが、マナ効率が変化することでそれは単なる反復以上のものになる。ゲームプレイの場合とは異なって、デザインにおけるテンポは効率を求めることばかりを目的としていない。全く反対に、より長い時間、より悪いマナ効率を使ってドラマのあるカードをデザインすることも可能なのだ。
デザインの手掛かり
私がテンポという言葉を興味深いと思うのは、その概念の中にマジックの様々な要素が溶け合っていると感じるからだ。そこでは、マナ・コストは時間であり、タイミングはマナ・カーブであり、カード・アドバンテージはライフである。
デザイナーは、テンポとうまく関わることで、カードの中の限られたパラメータから不可視のデザイン的要素にアクセスすることを学ぶ。今日のマジックで重要なのはカード・アドバンテージとテンポ・アドバンテージだ——という格言に従い、プレイヤーのみならずデザイナーが扱う問題も変化していると思われる。
はじめに
2016年9月現在、スタンダードで最もカードを引いているカードは何だろうか? 仮に、各カードごとの全世界累計ドロー枚数を数えている機関がどこかにあったとしたら、その機関はすぐさま《不屈の追跡者/Tireless Tracker》の名前を挙げるだろう。
もしかすると、その機関は答えの後に長い想定反論をつけるかもしれない。この算出結果は《衝動/Impulse》型の呪文のドロー効率を無視して抽出しており、加えてメタゲーム上での緑の支配率が長期にわたって高かったことの影響がどれほどあるかを考慮する必要があり——しかし、グランプリやプロツアーで《不屈の追跡者/Tireless Tracker》が両手で数えることができないほどの手掛かりを積み上げているのを目にすると、かくも強力なドロー性能を持つカードが緑に生まれる時代になったことに驚嘆せずにはいられないのだ。
私が考えるに、軽々とカラー・パイを乗り越えているかに見える《不屈の追跡者/Tireless Tracker》のテキストには、何かしらのデザイン的な達成が含まれている。もちろん《新緑の女魔術師/Verduran Enchantress》や《繁殖力/Fecundity》に代表される誘発型能力によるドローは昔から緑の領分であったし、時のらせんブロックでは《調和/Harmonize》が印刷されもしたが、《不屈の追跡者/Tireless Tracker》が生み出すカードの枚数は、並みの青のドロー呪文の比ではない。
よいデザインでありながらカラー・パイにとらわれないカードの例として、マローは《ドラゴン変化/Form of the Dragon》をよく挙げる。このカードの個々の能力には赤らしくないものも含まれているが、カード全体が意図しているものは非常に赤らしいため、カラー・パイを多少ないがしろにする価値があるというわけだ。
《不屈の追跡者/Tireless Tracker》のドロー性能は確かに緑単色のカードとしては規格外だが、その能力が土地に関係していること、またクリーチャーのサイズを大きくすることからかろうじて緑らしさの内側にいるともいえる。したがって、このカードを《ドラゴン変化/Form of the Dragon》の系譜に位置づけることも決して間違いではないだろう。
しかし、スタンダードで最も強力なドローエンジンが緑のカードとしてデザインされたという背景には、おそらくもう少し複雑なデザイン的な事情が絡んでいる。私の考えでは、手掛かりに隠されているのはデザインにテンポという概念を応用するための方法論だ。これはあくまで仮説にすぎないが、テンポはカード・アドバンテージへの中間地点を作り、本来カードのやりとりが得意でない色にデザイン空間を開きうる。今回のポストの目的はこの私の曖昧な直感をどうにかして形にすることにある。
マジックワード
先に断っておくと、私が考えているのはあくまでカードのデザインにおけるテンポの活用方法であって、ゲームプレイの中でテンポを駆使して勝利に近づく方法ではない。まして私は店舗大会やPPTQに足しげく通うようなプレイヤーではないため、この記事を読んだあなたをプレイヤーとして新たな段階に導くことはできそうにない。それどころか、テンポという言葉の定義すら行わないつもりだ。
テンポという概念に対しては、プロプレイヤーからも批判的な意見が絶えない。それがあまりに抽象的で無秩序に使われていることから、テンポという言葉をマジックワードだとする声もある。インターネット上にはテンポの定義に終止符を打つ、と銘打たれた文章がいくつも存在しているはずだが、そうした文章が乱立しているということ自体が、この語を定義することの難しさを逆説的に表している。
しかし、(私を含む)テンポという言葉を使うユーザーは、その言葉が未定義であるにもかかわらず、それを使って思考しているきらいがある。不思議に思えるかもしれないが、それはある意味では当然のことだ。そもそも言葉を発する際にその辞書的な意味を常に念頭に置いている人などありえないし、文脈によって言葉の意味するところが事後的に決まることも珍しくない。
トートロジーになってしまうが、テンポとは何か、という問いに対する最も真実に近い答えは、ユーザーがテンポと認識しているものの総体だ、ということになるだろう。その正体がいかにつかみどころのないものだったとしても、ユーザーはゲームプレイの中にテンポと呼ばれるものがあることを実感しており、言語による定義はあくまでそれの代替物にすぎない。
専門的な検証は言語学の徒に任せるとして、ともかくこのポストでは、テンポという言葉を前もって定義することは控えさせていただきたい。テーマになっている言葉を説明しないというのはあまりに不親切かもしれないが、私が伝えたいことを通して概念を帰納的に表現する方が、この語の実際の使われ方に即しているといえる※。
※……とはいえ、世界選手権での優勝経験もある彌永淳也選手の定義は参考になるかもしれない。https://twitter.com/junyaiyanaga/status/755808268295954432
テンポを失いカード・アドバンテージを得る
デザインの常として、強力なカードの発明は新たなデメリットの発明と不可分の関係にある。《難題の予見者/Thought-Knot Seer》はかつてないほど強力な4マナ域のクリーチャーだが、それはこのカードがマナベースに与える負担が前代未聞のものだからに他ならない。
では、はたして《不屈の追跡者/Tireless Tracker》が抱えるデメリットとは何だろうか? すでに示唆していることだが、私はそれをテンポの悪さだと考えている。このクリーチャーは生き残りさえすれば無尽蔵にカード・アドバンテージを稼ぎ続けるが、そのマナ効率は格別優れたものではない。冒頭に記したように《不屈の追跡者/Tireless Tracker》が大量の手掛かりを積み上げることは珍しくないものの、それは2マナを支払って1枚の手札を得るべきタイミングがなかなか訪れないためでもある。
つまるところ、この軽い緑のクリーチャーにカラー・パイを超越したドロー性能が与えられている理由は、生み出した手がかりがカードになるまでに時間を要するからなのだ。R&Dの面々が本当にそう考えていたかどうかはさておき、《不屈の追跡者/Tireless Tracker》はデザインにおいてテンポがデメリットとして活用できることを証明したカードだといえるだろう。
このテンポというデメリットが重要な理由は、それが基本的にカラー・パイに依存していないことにある。カード・アドバンテージはその獲得方法も含めてかなり厳密にカラー・パイに結びけられているが、テンポを得たり失ったりすることはあらゆる色で平等に起こりうる。私はカラー・パイの乗り越えが無制限に起こるべきだとは思わないが、その色が得意でないことをテンポを使って書き換えることは、新たなカードを生み出すためのひとつの方法だと思っている。
0.5枚のドロー
デザインにテンポを導入するもうひとつの利点は、パワー・レベルの調整の容易さだ。このことは、《不屈の追跡者/Tireless Tracker》によく似た別のカードとの比較によっていっそう明確になるだろう。
厳密には《どん欲の角笛/Horn of Greed》は《不屈の追跡者/Tireless Tracker》とは似ていないので、能力の誘発条件が自分の土地限定だったならと仮定してほしい。最終的に得られる手札の枚数だけを見ればこれら3枚は全く同じだが、能力の利便性には明確な序列が存在する。《どん欲の角笛/Horn of Greed》が土地をプレイするだけで1枚の手札を得ることができるのに対し、他の2枚はマナを必要とする。《不屈の追跡者/Tireless Tracker》と《予見者の日時計/Seer’s Sundial》は要求するマナの数は同じだが、任意のタイミングでカードを引ける前者の方がテンポを無駄にすることは少ない。
端的に言えば、《不屈の追跡者/Tireless Tracker》は《どん欲の角笛/Horn of Greed》よりもテンポが悪く、《予見者の日時計/Seer’s Sundial》よりはテンポがよいということになる。すなわち、テンポに代表される時間のアドバンテージはカードで表されるアドバンテージよりも不定形で幅があり、そのためパワー・レベルに差をつけることが容易なのだ。これら3枚の例では、同じ1枚のカード・アドバンテージの間にすら、テンポという観点でははっきりとグラデーションが設けられている。
整数に支配されたマジックの世界では、残念なことに1枚のドローより格下のドロー呪文を印刷することはできない(あるいは、最近流行のオンラインカードゲームであれば0.5枚のドローも実装可能かもしれない)。しかし、1枚のドローのマナ効率やタイミングを調整することで、それを適切なパワー・レベルに設定することはできる。テンポをデザインに応用することは、本来紙のマジックでは表しえない小数点以下のカード・アドバンテージを擬似的に表現する手段だともいえる。
余談になるが、「カードを引く」と(手掛かりのような)「カードを引ける」の間には、テンポの他にも情報の差が存在する。当たり前のことだが、「カードを引く」ことが戦略上の有意義な選択肢を増やすのに対し、「カードを引ける」ことはそうではない。《不屈の追跡者/Tireless Tracker》を使ったことがあるプレイヤーなら誰しも、厳しい盤面で2マナを支払って打開策を探しに行くか、手札にあるカードを使って延命するかという答えのない選択肢に直面したことがあるはずだ。
通常、手札のカードよりもライブラリーの上が強い可能性は誰にもわからない。「カードを引く」ことによって手札に加えられたカードがオーナーから見えるのとは対照的に、「カードを引ける」ことになっている裏向きのライブラリーは戦略的な情報を全く与えてくれないのだ。このことを考慮すると、《不屈の追跡者/Tireless Tracker》や《予見者の日時計/Seer’s Sundial》の能力は、1枚のドローからテンポだけでなく公開情報までをも取り去ったものだと考えることができるだろう。たとえて言うなら、それらは商品を直接渡してくれるのではなく、中身のわからない商品を買うことができるチケットを渡すカードなのだ。
(後編に続く)
2016年9月現在、スタンダードで最もカードを引いているカードは何だろうか? 仮に、各カードごとの全世界累計ドロー枚数を数えている機関がどこかにあったとしたら、その機関はすぐさま《不屈の追跡者/Tireless Tracker》の名前を挙げるだろう。
もしかすると、その機関は答えの後に長い想定反論をつけるかもしれない。この算出結果は《衝動/Impulse》型の呪文のドロー効率を無視して抽出しており、加えてメタゲーム上での緑の支配率が長期にわたって高かったことの影響がどれほどあるかを考慮する必要があり——しかし、グランプリやプロツアーで《不屈の追跡者/Tireless Tracker》が両手で数えることができないほどの手掛かりを積み上げているのを目にすると、かくも強力なドロー性能を持つカードが緑に生まれる時代になったことに驚嘆せずにはいられないのだ。
私が考えるに、軽々とカラー・パイを乗り越えているかに見える《不屈の追跡者/Tireless Tracker》のテキストには、何かしらのデザイン的な達成が含まれている。もちろん《新緑の女魔術師/Verduran Enchantress》や《繁殖力/Fecundity》に代表される誘発型能力によるドローは昔から緑の領分であったし、時のらせんブロックでは《調和/Harmonize》が印刷されもしたが、《不屈の追跡者/Tireless Tracker》が生み出すカードの枚数は、並みの青のドロー呪文の比ではない。
よいデザインでありながらカラー・パイにとらわれないカードの例として、マローは《ドラゴン変化/Form of the Dragon》をよく挙げる。このカードの個々の能力には赤らしくないものも含まれているが、カード全体が意図しているものは非常に赤らしいため、カラー・パイを多少ないがしろにする価値があるというわけだ。
《不屈の追跡者/Tireless Tracker》のドロー性能は確かに緑単色のカードとしては規格外だが、その能力が土地に関係していること、またクリーチャーのサイズを大きくすることからかろうじて緑らしさの内側にいるともいえる。したがって、このカードを《ドラゴン変化/Form of the Dragon》の系譜に位置づけることも決して間違いではないだろう。
しかし、スタンダードで最も強力なドローエンジンが緑のカードとしてデザインされたという背景には、おそらくもう少し複雑なデザイン的な事情が絡んでいる。私の考えでは、手掛かりに隠されているのはデザインにテンポという概念を応用するための方法論だ。これはあくまで仮説にすぎないが、テンポはカード・アドバンテージへの中間地点を作り、本来カードのやりとりが得意でない色にデザイン空間を開きうる。今回のポストの目的はこの私の曖昧な直感をどうにかして形にすることにある。
マジックワード
先に断っておくと、私が考えているのはあくまでカードのデザインにおけるテンポの活用方法であって、ゲームプレイの中でテンポを駆使して勝利に近づく方法ではない。まして私は店舗大会やPPTQに足しげく通うようなプレイヤーではないため、この記事を読んだあなたをプレイヤーとして新たな段階に導くことはできそうにない。それどころか、テンポという言葉の定義すら行わないつもりだ。
テンポという概念に対しては、プロプレイヤーからも批判的な意見が絶えない。それがあまりに抽象的で無秩序に使われていることから、テンポという言葉をマジックワードだとする声もある。インターネット上にはテンポの定義に終止符を打つ、と銘打たれた文章がいくつも存在しているはずだが、そうした文章が乱立しているということ自体が、この語を定義することの難しさを逆説的に表している。
しかし、(私を含む)テンポという言葉を使うユーザーは、その言葉が未定義であるにもかかわらず、それを使って思考しているきらいがある。不思議に思えるかもしれないが、それはある意味では当然のことだ。そもそも言葉を発する際にその辞書的な意味を常に念頭に置いている人などありえないし、文脈によって言葉の意味するところが事後的に決まることも珍しくない。
トートロジーになってしまうが、テンポとは何か、という問いに対する最も真実に近い答えは、ユーザーがテンポと認識しているものの総体だ、ということになるだろう。その正体がいかにつかみどころのないものだったとしても、ユーザーはゲームプレイの中にテンポと呼ばれるものがあることを実感しており、言語による定義はあくまでそれの代替物にすぎない。
専門的な検証は言語学の徒に任せるとして、ともかくこのポストでは、テンポという言葉を前もって定義することは控えさせていただきたい。テーマになっている言葉を説明しないというのはあまりに不親切かもしれないが、私が伝えたいことを通して概念を帰納的に表現する方が、この語の実際の使われ方に即しているといえる※。
※……とはいえ、世界選手権での優勝経験もある彌永淳也選手の定義は参考になるかもしれない。https://twitter.com/junyaiyanaga/status/755808268295954432
テンポを失いカード・アドバンテージを得る
デザインの常として、強力なカードの発明は新たなデメリットの発明と不可分の関係にある。《難題の予見者/Thought-Knot Seer》はかつてないほど強力な4マナ域のクリーチャーだが、それはこのカードがマナベースに与える負担が前代未聞のものだからに他ならない。
では、はたして《不屈の追跡者/Tireless Tracker》が抱えるデメリットとは何だろうか? すでに示唆していることだが、私はそれをテンポの悪さだと考えている。このクリーチャーは生き残りさえすれば無尽蔵にカード・アドバンテージを稼ぎ続けるが、そのマナ効率は格別優れたものではない。冒頭に記したように《不屈の追跡者/Tireless Tracker》が大量の手掛かりを積み上げることは珍しくないものの、それは2マナを支払って1枚の手札を得るべきタイミングがなかなか訪れないためでもある。
つまるところ、この軽い緑のクリーチャーにカラー・パイを超越したドロー性能が与えられている理由は、生み出した手がかりがカードになるまでに時間を要するからなのだ。R&Dの面々が本当にそう考えていたかどうかはさておき、《不屈の追跡者/Tireless Tracker》はデザインにおいてテンポがデメリットとして活用できることを証明したカードだといえるだろう。
このテンポというデメリットが重要な理由は、それが基本的にカラー・パイに依存していないことにある。カード・アドバンテージはその獲得方法も含めてかなり厳密にカラー・パイに結びけられているが、テンポを得たり失ったりすることはあらゆる色で平等に起こりうる。私はカラー・パイの乗り越えが無制限に起こるべきだとは思わないが、その色が得意でないことをテンポを使って書き換えることは、新たなカードを生み出すためのひとつの方法だと思っている。
0.5枚のドロー
デザインにテンポを導入するもうひとつの利点は、パワー・レベルの調整の容易さだ。このことは、《不屈の追跡者/Tireless Tracker》によく似た別のカードとの比較によっていっそう明確になるだろう。
どん欲の角笛/Horn of Greed (3)
アーティファクト STH, レア
プレイヤー1人が土地をプレイするたび、そのプレイヤーはカードを1枚引く。
予見者の日時計/Seer’s Sundial (4)
アーティファクト WWK, レア
上陸 ― 土地が1つあなたのコントロール下で戦場に出るたび、あなたは(2)を支払ってもよい。そうした場合、カードを1枚引く。
厳密には《どん欲の角笛/Horn of Greed》は《不屈の追跡者/Tireless Tracker》とは似ていないので、能力の誘発条件が自分の土地限定だったならと仮定してほしい。最終的に得られる手札の枚数だけを見ればこれら3枚は全く同じだが、能力の利便性には明確な序列が存在する。《どん欲の角笛/Horn of Greed》が土地をプレイするだけで1枚の手札を得ることができるのに対し、他の2枚はマナを必要とする。《不屈の追跡者/Tireless Tracker》と《予見者の日時計/Seer’s Sundial》は要求するマナの数は同じだが、任意のタイミングでカードを引ける前者の方がテンポを無駄にすることは少ない。
端的に言えば、《不屈の追跡者/Tireless Tracker》は《どん欲の角笛/Horn of Greed》よりもテンポが悪く、《予見者の日時計/Seer’s Sundial》よりはテンポがよいということになる。すなわち、テンポに代表される時間のアドバンテージはカードで表されるアドバンテージよりも不定形で幅があり、そのためパワー・レベルに差をつけることが容易なのだ。これら3枚の例では、同じ1枚のカード・アドバンテージの間にすら、テンポという観点でははっきりとグラデーションが設けられている。
整数に支配されたマジックの世界では、残念なことに1枚のドローより格下のドロー呪文を印刷することはできない(あるいは、最近流行のオンラインカードゲームであれば0.5枚のドローも実装可能かもしれない)。しかし、1枚のドローのマナ効率やタイミングを調整することで、それを適切なパワー・レベルに設定することはできる。テンポをデザインに応用することは、本来紙のマジックでは表しえない小数点以下のカード・アドバンテージを擬似的に表現する手段だともいえる。
余談になるが、「カードを引く」と(手掛かりのような)「カードを引ける」の間には、テンポの他にも情報の差が存在する。当たり前のことだが、「カードを引く」ことが戦略上の有意義な選択肢を増やすのに対し、「カードを引ける」ことはそうではない。《不屈の追跡者/Tireless Tracker》を使ったことがあるプレイヤーなら誰しも、厳しい盤面で2マナを支払って打開策を探しに行くか、手札にあるカードを使って延命するかという答えのない選択肢に直面したことがあるはずだ。
通常、手札のカードよりもライブラリーの上が強い可能性は誰にもわからない。「カードを引く」ことによって手札に加えられたカードがオーナーから見えるのとは対照的に、「カードを引ける」ことになっている裏向きのライブラリーは戦略的な情報を全く与えてくれないのだ。このことを考慮すると、《不屈の追跡者/Tireless Tracker》や《予見者の日時計/Seer’s Sundial》の能力は、1枚のドローからテンポだけでなく公開情報までをも取り去ったものだと考えることができるだろう。たとえて言うなら、それらは商品を直接渡してくれるのではなく、中身のわからない商品を買うことができるチケットを渡すカードなのだ。
(後編に続く)
Convocations #1
2015年8月26日水曜日
僕※1が書いた「Armada continuity overview(Armada社の書籍のまとめ)」にLeonardoが返信をくれたのだが※2、Armada社の「Convocations(召集などの意)」と呼ばれる書籍については僕はまとめなかった。なぜならストーリーに関係がないからだ。表紙を見ればわかるように、この書籍は「A Magic: the Gathering gallery」と銘打ってあり、中には23のアートピースが収められている。それらはマジックのアーティストの手になるものもあれば、コミックのアーティストによって描かれたものもある。ここにストーリーはないため、僕はこれに触れないつもりだった。しかし、この製品はマジックのコミックに分類される可能性はあるので、どんなものであるかについて最低限の言及はするべきだと思い直した。そして……僕は今、それを手にしている! とはいえ、記事にするならいくつかの作品を見せる必要があるだろう。
※1……ブログ「Multiverse in Review」の筆者、Squirle。主にマジックのストーリーについて書いている。
※2……「Armada continuity overview」はArmada社によるマジックのストーリー関係の書籍をまとめたものだが、そのコメント欄においてLeonardoというユーザーから「Convocations」は取り上げないのかという指摘があった。
http://4.bp.blogspot.com/-WaOBXiJR3LY/Vd2JaiLCEhI/AAAAAAAAEEo/hhfanwk3Xsc/s1600/Braingeyser%2BUnderworld%2BDreams.png
作品のうちのほとんどは、実際のカードのコンボにまつわるものだ。これは《Braingeyser》+《地獄界の夢/Underworld Dreams》で、Mike Dringenberg作。
http://4.bp.blogspot.com/-RsX78q78AQ8/Vd2JcVtQJoI/AAAAAAAAEEw/yDcgXM1AjGo/s1600/Lhurgoyf%2BRockert%2BLauncher.png
これはPete Ventersの《ルアゴイフ/Lhurgoyf》+《Rocket Launcher》+《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》+《Spoils of Evil》+《Songs of the Damned》コンボだ。どちらかというと一般的にはシナジーと呼ばれるかもしれない。
作品はまだまだある。
http://1.bp.blogspot.com/-ufyAmAySzv4/Vd2JfrAh1cI/AAAAAAAAEE4/G9Oq0WXrmJo/s1600/DougShuler.png
Douglas Shulerによる《奈落の王/Lord of the Pit》+《増殖槽/Breeding Pit》。
http://1.bp.blogspot.com/-mam0lQwDAGc/Vd2JfzV6p9I/AAAAAAAAEFA/dSQMggp6MuI/s1600/Fallen%2BAngel.png
Gerald Leeによる《All Hallow’s Eve》+《堕天使/Fallen Angel》。
http://2.bp.blogspot.com/-2koyr0LZNX4/Vd2Jfz5iD8I/AAAAAAAAEE8/HfR2DmVKiE8/s1600/Ice%2BAge%2BCover.png
Charles Vessによる「Ice Age #2」のカバー。
http://3.bp.blogspot.com/-qIXDE5ex9pw/Vd2JhxFrMBI/AAAAAAAAEFQ/4aeZ33ZEUKc/s1600/Lure%2BBasilisk.png
最も古典的なコンボのひとつ、《茂みのバジリスク/Thicket Basilisk》+《寄せ餌/Lure》、Brad Marshal作。
http://4.bp.blogspot.com/-0FAEoBJPbX4/Vd2JjHM-6sI/AAAAAAAAEFU/dbyz8ED0KzE/s1600/Ron%2BSpencer.png
Ron Spencerの《不吉の月/Bad Moon》+《増殖槽/Breeding Pit》。僕が思うに、この穴を取り囲む人々はその後、彼が描いたバージョンの《超巨大化/Monstrous Growth》に再登場している。
http://2.bp.blogspot.com/-r7m0Hgp7lGs/Vd2JjA_OsBI/AAAAAAAAEFY/FGUW2RYqk9s/s1600/What.png
Stu Suchitの《Lich》+《Mirror Universe》。
http://4.bp.blogspot.com/-_9PO4AuogCY/Vd2JkOc8DDI/AAAAAAAAEFk/GSApcTX9Pdc/s1600/WhatWhat.png
Denis Caleroによる《極楽鳥/Birds of Paradise》+《再生/Regeneration》+《賦活/Instill Energy》+《停滞/Stasis》。
ソース……http://multiverseinreview.blogspot.jp/2015/08/convocations-1.html#more(Convocations #1)
翻訳後記
この記事はネットサーフィンをしていて偶然見つけたもので、マジック黎明期にはこんな製品があったのかと驚かされました。
有名なマジックのプレイヤー類型の話(ティミー、ジョニー、スパイク、ヴォーソス、メルヴィン)がありますが、こうしたアートピースはどの類型に分類されるべきでしょうか? 現代でもrk postが親和やストームなどのデッキをモチーフにしたプレイマットを描いているように、厳密なプレイヤー類型に当てはまらない、未だ名づけられていない楽しみ方がマジックには存在しているような気がします。
ちなみに私が感銘を受けたのはエナジーステイシスを描いた最後の作品。リチャード・ガーフィールドの親類が描いたという《停滞/Stasis》はもとより不可解なモチーフで有名ですが、あろうことかそれを《極楽鳥/Birds of Paradise》と《賦活/Instill Energy》によって維持する様子を描こうとは。
誤訳や誤字がありましたら指摘していただければ幸いです。
2015年8月26日水曜日
僕※1が書いた「Armada continuity overview(Armada社の書籍のまとめ)」にLeonardoが返信をくれたのだが※2、Armada社の「Convocations(召集などの意)」と呼ばれる書籍については僕はまとめなかった。なぜならストーリーに関係がないからだ。表紙を見ればわかるように、この書籍は「A Magic: the Gathering gallery」と銘打ってあり、中には23のアートピースが収められている。それらはマジックのアーティストの手になるものもあれば、コミックのアーティストによって描かれたものもある。ここにストーリーはないため、僕はこれに触れないつもりだった。しかし、この製品はマジックのコミックに分類される可能性はあるので、どんなものであるかについて最低限の言及はするべきだと思い直した。そして……僕は今、それを手にしている! とはいえ、記事にするならいくつかの作品を見せる必要があるだろう。
※1……ブログ「Multiverse in Review」の筆者、Squirle。主にマジックのストーリーについて書いている。
※2……「Armada continuity overview」はArmada社によるマジックのストーリー関係の書籍をまとめたものだが、そのコメント欄においてLeonardoというユーザーから「Convocations」は取り上げないのかという指摘があった。
http://4.bp.blogspot.com/-WaOBXiJR3LY/Vd2JaiLCEhI/AAAAAAAAEEo/hhfanwk3Xsc/s1600/Braingeyser%2BUnderworld%2BDreams.png
作品のうちのほとんどは、実際のカードのコンボにまつわるものだ。これは《Braingeyser》+《地獄界の夢/Underworld Dreams》で、Mike Dringenberg作。
http://4.bp.blogspot.com/-RsX78q78AQ8/Vd2JcVtQJoI/AAAAAAAAEEw/yDcgXM1AjGo/s1600/Lhurgoyf%2BRockert%2BLauncher.png
これはPete Ventersの《ルアゴイフ/Lhurgoyf》+《Rocket Launcher》+《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》+《Spoils of Evil》+《Songs of the Damned》コンボだ。どちらかというと一般的にはシナジーと呼ばれるかもしれない。
作品はまだまだある。
http://1.bp.blogspot.com/-ufyAmAySzv4/Vd2JfrAh1cI/AAAAAAAAEE4/G9Oq0WXrmJo/s1600/DougShuler.png
Douglas Shulerによる《奈落の王/Lord of the Pit》+《増殖槽/Breeding Pit》。
http://1.bp.blogspot.com/-mam0lQwDAGc/Vd2JfzV6p9I/AAAAAAAAEFA/dSQMggp6MuI/s1600/Fallen%2BAngel.png
Gerald Leeによる《All Hallow’s Eve》+《堕天使/Fallen Angel》。
http://2.bp.blogspot.com/-2koyr0LZNX4/Vd2Jfz5iD8I/AAAAAAAAEE8/HfR2DmVKiE8/s1600/Ice%2BAge%2BCover.png
Charles Vessによる「Ice Age #2」のカバー。
http://3.bp.blogspot.com/-qIXDE5ex9pw/Vd2JhxFrMBI/AAAAAAAAEFQ/4aeZ33ZEUKc/s1600/Lure%2BBasilisk.png
最も古典的なコンボのひとつ、《茂みのバジリスク/Thicket Basilisk》+《寄せ餌/Lure》、Brad Marshal作。
http://4.bp.blogspot.com/-0FAEoBJPbX4/Vd2JjHM-6sI/AAAAAAAAEFU/dbyz8ED0KzE/s1600/Ron%2BSpencer.png
Ron Spencerの《不吉の月/Bad Moon》+《増殖槽/Breeding Pit》。僕が思うに、この穴を取り囲む人々はその後、彼が描いたバージョンの《超巨大化/Monstrous Growth》に再登場している。
http://2.bp.blogspot.com/-r7m0Hgp7lGs/Vd2JjA_OsBI/AAAAAAAAEFY/FGUW2RYqk9s/s1600/What.png
Stu Suchitの《Lich》+《Mirror Universe》。
http://4.bp.blogspot.com/-_9PO4AuogCY/Vd2JkOc8DDI/AAAAAAAAEFk/GSApcTX9Pdc/s1600/WhatWhat.png
Denis Caleroによる《極楽鳥/Birds of Paradise》+《再生/Regeneration》+《賦活/Instill Energy》+《停滞/Stasis》。
ソース……http://multiverseinreview.blogspot.jp/2015/08/convocations-1.html#more(Convocations #1)
翻訳後記
この記事はネットサーフィンをしていて偶然見つけたもので、マジック黎明期にはこんな製品があったのかと驚かされました。
有名なマジックのプレイヤー類型の話(ティミー、ジョニー、スパイク、ヴォーソス、メルヴィン)がありますが、こうしたアートピースはどの類型に分類されるべきでしょうか? 現代でもrk postが親和やストームなどのデッキをモチーフにしたプレイマットを描いているように、厳密なプレイヤー類型に当てはまらない、未だ名づけられていない楽しみ方がマジックには存在しているような気がします。
ちなみに私が感銘を受けたのはエナジーステイシスを描いた最後の作品。リチャード・ガーフィールドの親類が描いたという《停滞/Stasis》はもとより不可解なモチーフで有名ですが、あろうことかそれを《極楽鳥/Birds of Paradise》と《賦活/Instill Energy》によって維持する様子を描こうとは。
誤訳や誤字がありましたら指摘していただければ幸いです。
メイルストロム・マジック(翻訳)
2016年6月7日 Magic: The Gathering コメント (2)
メイルストロム・マジック(デッキ構築型フォーマット)
Andrew Wilson 2016年5月17日
この実験では、我々はプレイ中にドラフトする。
僕は来週から新しい仕事を始めるので、これが最後の記事になるだろう。僕は少しの間あることに取り組んでおり、だから今週はその準備をして、それを書くに値する十分なアイデアにする必要があった。
というわけで今日は、メイルストロム・マジックを紹介することにしよう。
マジックプレイヤーの中には「アセンション」や「スターレルムズ」、「レジェンダリー:マーベル」なんかの「ドミニオン」が元祖とされるデッキ構築型ゲームについて聞いたことがある人も多いはずだ。これらのゲームの基本的なアイデアは、それぞれのプレイヤーは同じ基本のカードのセットを持ってゲームを始め、ゲームプレイの経過にしたがってリソースを消費しながらより強力なカードを買い、デッキを強化することができるというものだ。ターン終了時にプレイヤーは余ったカードをすべて捨て、その後何枚かのカード——多くの場合5枚——をターン終了時に引く。プレイヤーはしょっちゅうデッキを引ききってしまうので、ゲーム中にデッキに加えたカードと同様に、ゲーム開始時の基本のカードもプレイし直すことができるようになっている。
君がカードを使ってやることはゲームごとに異なる——たとえば「ドミニオン」では勝利点カードと呼ばれるものがあり、ゲームの終了時に最も多くの勝利点を獲得したプレイヤーが勝者となる。一方「レジェンダリー:マーベル」では勝利点のようなものはなく、プレイヤーはカードを使ってヴィランやゲームの黒幕を倒すことで点数を稼ぐ必要がある。
そんなわけで、デッキ構築型ゲームの精神をマジックに適用させることが僕の目標だ。それではやってみよう。
ルール
なによりもまず、「ネクサス(訳注:中心や中核を意味する言葉)」が必要だ。「キューブ」というフォーマットをプレイするとき、プレイヤーは「キューブ」と呼ばれるカードのコレクションの中からデッキを構築する。メイルストロム・マジックでは、プレイヤーはネクサスと呼ばれる山からデッキをドラフトする(そう、このフォーマットはいくらか《大渦のきずな/Maelstrom Nexus》にちなんで名づけられた。我々は墓地をライブラリーに加えて切り直すことになるため《記憶のきずな/Mnemonic Nexus》の方が意味は近いが、「Mnemonic」という単語からは連想しにくい……そして《大渦のきずな/Maelstrom Nexus》の方がクールなカードだ!)。
それに加えて君には基本土地カードの束と、ゲーム開始時のカードも必要だ。ゲーム開始時のカードの中には各色2枚、合計10枚の1マナ呪文が含まれている。ゲーム開始時のカードを2等分し、その両半分に、シャッフルしたネクサスからそれぞれ5枚のカードを加える。この2つの束がプレイヤーのゲーム開始時のデッキになる。もし君が多人数メイルストロムを試したいのなら、プレイヤー1人につき5枚のカードをゲーム開始時のカードに加える必要がある。
ゲーム開始時のカードの目的は、プレイヤーに第一ターンの行動を保証することにある。また、それぞれのプレイヤーに同じデッキを渡さないのは(多くのゲームではそれらは同じだ)、プレイヤーに様々な方向性を与え、ゲーム内に多様性を創り出すためだ。「アセンション」のようなゲームでは、プレイヤーは他のプレイヤーではなく中央に並んだカードに働きかけるためにカードを使うが、マジックのゲームでは、両方のプレイヤーは常に《銀のマイア/Silver Myr》か何かからゲームを始めることになってしまい、とても退屈なものになるだろう。
さて、2人のプレイヤーがゲーム開始時のデッキを用意したら、ネクサスから3枚のカードを3つの異なるドラフトパイルとして裏向きに並べる。パイルのうち1つ目は片方のプレイヤーに「近づけて」置き、2つ目のパイルはもう片方のプレイヤーに「近づけて」置く。3つ目のパイルは中央のパイルにする。多人数メイルストロムでは、1つ目のパイルをすべてのプレイヤーの近くに置き、2つ目のパイルはすべてのプレイヤーから遠ざけて置く。
これで準備は整った。ではルールの変更を見ていこう。
メイルストロム・マジックのルール
マジックの基本的なルールは同じだが、以下の部分は異なる。
墓地
我々はデッキのカードをドラフトし、各ターンでプレイしなかったカードを手札から捨てる——しかし余計な情報は見せたくないものだ。この非公開情報はゲームをよりエキサイティングにする——君は対戦相手を驚かせることができる!——だけではなく、情報が重荷になることを防ぎ、すべてが推測可能にならないようにする。
ドロー・ステップ
ドロー・ステップは、通常のマジックと比べてゲームプレイ上の変更点が最も多い。普通はドロー・ステップの間にアクティブ・プレイヤーがカードを1枚引く。メイルストロム・マジックはこれとは大きく異なる。
我々はすぐにドラフトを始め、見ての通り、プレイヤーの手札は絶えず回転し続ける。手札のカードを取っておいてそこに1枚ずつカードを加える代わりに、君はすべてのカードを捨てて持っていたカード+2枚のカードを引く。そのため、君が使えるカードはひっきりなしに変化し続けるだろう。とはいえデッキの枚数は比較的少ないから、君はターンごとに何を引くか予想することもできる。
デッキは常に流動的になる。墓地とライブラリーは入れ替わる。このシステムのせいで、デッキに入れられるカードには制約がある。《研究室の偏執狂/Laboratory Maniac》は採用できないし(もしくは、そこに書いてあるようにオーバーパワーだ)、《石臼/Millstone》は使い道がないカードの類だ(けれども僕は完全にそうだとは思わない)。
ドラフト
ドラフトの方法はウィンストン・ドラフトに似ているが、変更点として、2人対戦のメイルストロムでは各プレイヤーは違う方向からパイルを見始める。もちろん、ゲームプレイの最中にドラフトを行うことや、ドラフトしたカードをプレイヤーが数ターン後に引くことも大きな変更だ。
また、通常のウィンストン・ドラフトでは、君にデッキ構築の際の選択肢を増やし、対戦相手の選択肢を狭めるために大きなパイルをピックすることが推奨される。しかしメイルストロムでは、たくさんのカードをデッキに加えると本当は引きたくないカードまでデッキに入れることになってしまう。君は無駄なカードを無視できるほどカードを引けるが、もし手札がいらないカードであふれかえってしまうのであればドラフトの方法を考え直した方がいい。
土地のプレイ
君はどうやってプレイヤーが呪文を唱えるのか疑問に思っていたことだろう。土地はゲーム開始時のカードの中にもネクサスの中にも入っておらず、まして君がデッキをあらかじめ作っておけるわけでもないため、土地をどこか別の場所からプレイする必要がある。基本的に、君は各ターンに1枚の土地をプレイでき、好きな基本土地を選ぶことができる。しかしながら、そうするためには手札からカードを追放する必要がある。追放されたカードは君のライブラリーに混ぜられることはなく、したがって土地のプレイによって君は二度と引きたくないと思うカードをデッキから除外することができる——が、君の手札が好きな呪文や、ゲームの後半で必要だと思うカードばかりの場合、難しい選択を引き起こす。
また、下半分にあるように、君が使う最初の2色は自由だが、3色目、4色目、5色目は追加のコストが必要になる。たとえば、君は手札のカードを1枚追放して1ターン目に《平地/Plains》をプレイし、もう1枚追放して2ターン目に《島/Island》をプレイすることができる。その後も君が《平地/Plains》か《島/Island》を欲しいと思うなら、手札を1枚追放するだけでいい。しかし、もし《沼/Swamp》が欲しいなら、君はその3色目にアクセスするために手札を2枚追放しないといけない。一度その《沼/Swamp》を手に入れてしまえば、その後の《沼/Swamp》は通常通り1枚の追放でプレイできるが、新たに《山/Mountain》や《森/Forest》をプレイする際には2枚のカードが必要になる。
ゲームを通して、最終的にプレイヤーは4〜5色にアクセスする傾向があるが、そうすると手札の消費は激しくなる。
奇妙な状況
これらのルールでプレイすると、いくつかの奇妙な相互作用や意図しない結果が起こることがある(《地ならし屋/Leveler》だって?)。個別の例外や特殊な状況のリストを作るよりも抜本的な対策は、問題を起こすカードを避けることだ。墓地は裏向きであり、また墓地に落ちたクリーチャーはすぐに引き直せるため、《死者再生/Raise Dead》はプレイに値しない。そんなわけで端的にこのカードはネクサスに必要ないだろう。同様に、ライブラリーに基本土地は入っていないから《不屈の自然/Rampant Growth》は予選敗退だ。キューブと同じように、望むドラフト体験を創造するためにカードを選定し、きちんと機能しないカードは取り除いてしまおう。
君のネクサスを作る
さて、試してみるためのカードリストがない新フォーマットなんてありえるだろうか? ここからは僕のネクサスとその作り方のガイドラインを紹介しよう。
基本的に、僕はネクサスを作るときに「モジュール」というコンセプトを意識している。君はそうする必要はない。君は好きなようにネクサスを作ればよく、メイルストロムのルール内で機能し、君が楽しめるカードを選ぶこと以外にルールはない。しかしモジュールを使うことは体系化されたネクサスを作る方法であり、僕が好きなテーマを盛り込むことを確実にしつつ、それらのテーマを後から入れ替えられるようにもしてくれる。
モジュールとは、要するにお互いにうまく機能する数枚のカード——そしておそらくその戦略で戦うためのカードだ。このネクサスでは、ある色のカード5枚、その友好色のカード5枚、それらと戦うための対抗色のカード2枚からなる、友好色を中心にしたモジュールを使った。また「コア」と呼ばれるカード群と、当然ながらどのモジュールにも含まれないゲーム開始時のカードも用意した。
考えうる他のモジュールは、5色のモジュール(同盟者、スリヴァー、アーティファクト系など)、対抗色のモジュール、弧のモジュール(アラーラの断片)、楔のモジュール(アポカリプスまたはタルキール覇王譚)、単色のモジュール(部族中心になるかもしれない)など。可能性は無限大だ。
ゲーム開始時のカード
ゲーム開始時のカード——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《治癒の軟膏/Healing Salve》
1 《希望の壁/Wall of Hope》
-白(2)-
1 《のぞき見/Peek》
1 《翼作り/Wingcrafter》
-青(2)-
1 《深夜の魔除け/Midnight Charm》
1 《鼓動の追跡者/Pulse Tracker》
-黒(2)-
1 《焼炉の悪獣/Furnace Scamp》
1 《ショック/Shock》
-赤(2)-
1 《戦闘の成長/Battlegrowth》
1 《芽吹き/Sprout》
-緑(2)-
ゲーム開始時のカードは君が思う通りにすればいい——君はそれをなくしてもいい。けれども僕はプレイヤーに最序盤の動きを保証し、ゲームに多少安定したスタート地点を与えるためにそれをお薦めする。これらのカードは飛び抜けて強力でない方がよいが、様々なテーマとシナジーを形成する能力を持ち、プレイヤーがゲームのプランを立てやすくなるように作られている必要がある——それらは各色のテーマを表現していなければならない。
コア
コア——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《彩色マンティコア/Chromanticore》
1 《荒廃の双子/Desolation Twin》
1 《ドラコ/Draco》
1 《大渦のきずな/Maelstrom Nexus》
1 《多相の戦士/Shapeshifter》
-多色および無色(5)-
1 《オーラの旋風/Aura Blast》
1 《放逐する僧侶/Banisher Priest》
1 《戒厳令/Martial Law》
1 《セラの天使/Serra Angel》
1 《戦乱の神託者/War Oracle》
-白(5)-
1 《蒼穹の魔道士/Azure Mage》
1 《対抗呪文/Counterspell》
1 《熟考漂い/Mulldrifter》
1 《魂刃のジン/Soulblade Djinn》
1 《拭い捨て/Wipe Away》
-青(5)-
1 《闇の掌握/Grasp of Darkness》
1 《ナントゥーコの鞘虫/Nantuko Husk》
1 《ネクラタル/Nekrataal》
1 《血の儀式の司祭/Priest of the Blood Rite》
1 《喉笛切り/Throat Slitter》
-黒(5)-
1 《チャンドラの憤怒/Chandra’s Fury》
1 《輝き帯び/Glarewielder》
1 《シヴ山のドラゴン/Shivan Dragon》
1 《松明の悪鬼/Torch Fiend》
1 《ウルザの激怒/Urza’s Rage》
-赤(5)-
1 《高木の巨人/Arbor Colossus》
1 《茨角/Briarhorn》
1 《ガラクの群れ率い/Garruk’s Packleader》
1 《再利用の賢者/Reclamation Sage》
1 《ソーンウィールドの射手/Thornweald Archer》
-緑(5)-
ネクサスを作るのに、僕はモジュールの他にコアがあると便利だと思っている。これらのカードは各色を体現し、またネクサスの中に除去やアーティファクト破壊、エンチャント破壊、強力なフィニッシャーといった基本的なツールを確保する。
5枚の多色と無色のカードは、最初の数ターンでどの基本土地をプレイしたかに関係なく、両方のプレイヤーに選択肢を提供する。これはゲームの終了を保証するもうひとつの方法だ。これらはネクサスから出てくる最も強力なカードであると同時に、色を縛らないことでプレイヤーが速やかに、安全に色を決められるようにする。
《大渦のきずな/Maelstrom Nexus》はこのフォーマットの名前のもとなので、たとえどんなネクサスであっても入れた方がいいのではないかと思う。《多相の戦士/Shapeshifter》は、単に僕が好きだからだ。
緑白トークン
緑白トークン——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《獣性の脅威/Bestial Menace》
1 《残忍な実体化/Feral Incarnation》
1 《翡翠の魔道士/Jade Mage》
1 《狼育ち/Raised by Wolves》
1 《種のばら撒き/Scatter the Seeds》
-緑(5)-
1 《天空の目/Eyes in the Skies》
1 《町民の結集/Gather the Townsfolk》
1 《幽霊の将軍/Phantom General》
1 《エメリアへの撤退/Retreat to Emeria》
1 《武器を手に/Take Up Arms》
-白(5)-
1 《蔓延/Infest》
1 《湧き上がる瘴気/Rising Miasma》
-黒(2)-
トークンがテーマのモジュールを作ることは、トークンを出すカードの束を作るだけの簡単な作業に思われるかもしれない。しかし、実際にはトークンを「サポートする」カードがなければ意味がない。《天空の目/Eyes in the Skies》は《深夜の出没/Midnight Haunting》に似ているが、1マナ重い代わりに君の持っている象・クリーチャー・トークンを複製してくれる。《幽霊の将軍/Phantom General》と《エメリアへの撤退/Retreat to Emeria》はトークン全体のパワーを上げてくれる。《残忍な実体化/Feral Incarnation》と《種のばら撒き/Scatter the Seeds》は複数のクリーチャーをコントロールしていると唱えやすくなる。
黒のカードは1/1や2/2の群れを無に帰すことでトークン戦略に対抗する——ビーストや象に対処するのは難しいかもしれないが、でもまあ、誰かがなんとかしてくれるはずだ。
白青オーラ
白青オーラ——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《神性変異/Divine Transformation》
1 《霊刃の幻霊/Ghostblade Eidolon》
1 《雅刃の職工/Graceblade Artisan》
1 《希望の幻霊/Hopeful Eidolon》
1 《イオナの祝福/Iona’s Blessing》
-白(5)-
1 《長魚の陰影/Eel Umbra》
1 《閃足の幻霊/Flitterstep Eidolon》
1 《幻影の鎧/Illusionary Armor》
1 《メタスランの精鋭/Metathran Elite》
1 《雨雲のナイアード/Nimbus Naiad》
-青(5)-
1 《憤激/Lose Calm》
1 《抑圧的支配/Press into Service》
-赤(2)-
モジュールの作成で重要なことは——ネクサスの作成もそうだが——カード間にバランスのとれたコストを与えることだ。デッキビルダーやキューブビルダーはこの教訓をすでに理解していると思うが、シナジーのあるクールなカードのリストを作るときには忘れがちになる。また《神性変異/Divine Transformation》が示しているように、ベストなカードに枠を割くことが常に重要だというわけではない。考え方は人それぞれなので、君が強力なキューブのようなネクサスを作りたいのならそれでもいいが、僕は全体的により低いパワー・レベルのマジックの方が好みだ。
オーラがテーマのモジュールでは、ただ単にオーラを入れるのではなく関係性を作ることが重要だ。おそらく《オーラ術師の装い/Auramancer’s Guise》は適切ではないが、《雅刃の職工/Graceblade Artisan》や《メタスランの精鋭/Metathran Elite》はオーラに額面以上の関係性を与えてくれるだろう。
赤の《脅しつけ/Threaten》効果を持つカードは、オーラがエンチャントされた巨大なクリーチャーを奪い、形勢を逆転する。
青黒フェアリー
青黒フェアリー——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
4 《フェアリーの悪党/Faerie Miscreant》
1 《スプライトの貴族/Sprite Noble》
-青(5)-
1 《ウーナの黒近衛/Oona’s Blackguard》
1 《群れの侮蔑/Pack’s Disdain》
1 《コショウ煙/Peppersmoke》
1 《泥棒スプライト/Thieving Sprite》
1 《スミレの棺/Violet Pall》
-黒(5)-
1 《突風/Squall》
1 《巣網から見張るもの/Watcher in the Web》
-緑(2)-
キューブにも統率者にも、同名のカードは1枚までしか入れられないというルールがある。けれども実際は多くの人がそう思い込んでいるだけで、キューブについては正しくない。いいかい、もし君が統率者のデッキを組むなら、ゲームのバランスを崩して周りのプレイヤーを唖然とさせないように、誰もが守っているルールを守らないといけない。しかし君がキューブを組むのなら、ドラフトするプレイヤーは「君の」ルールに従わないといけない——君が決めたことなら何でもだ。
たとえば、こんな場合がそうだ——たとえ君がネクサスに2枚以上の同名のカードを入れたいと思ったとしても、それを止める理由はどこにもない。《蓄積した知識/Accumulated Knowledge》や《集中砲火/Flame Burst》は墓地が裏向きで循環するためうまく働いてくれないが、《フェアリーの悪党/Faerie Miscreant》は空を埋め尽くしてコントローラーのために相当のカード・アドバンテージを手に入れてくれる。ドロー・ステップの変更があるとはいえ、カード・アドバンテージはメイルストロムでも依然として重要だ。
僕がリストに入れたスターター版の《突風/Squall》(訳注:原文のリスト参照)についても触れておこう。このカードのコストはメルカディアン・マスクス版や第8版のように(2)(緑)ではなく、(1)(緑)と誤植されている。わざわざこれを入れたのは、僕のネクサスの中では(1)(緑)として機能するように意図したからだ。わかったかい? ここでは自分のルールを作ることができるんだ。
黒赤アグロ
黒赤アグロ——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《アリーシャの先兵/Alesha’s Vanguard》
1 《ゲスの評決/Geth’s Verdict》
1 《無謀なインプ/Reckless Imp》
1 《血の復讐/Vendetta》
1 《卑劣なアヌーリッド/Wretched Anurid》
-黒(5)-
1 《真紅の魔道士/Crimson Mage》
1 《心臓鞭の燃えがら/Heartlash Cinder》
1 《内炎の見習い/Inner-Flame Acolyte》
1 《稲妻のやっかいもの/Lightning Mauler》
1 《稲妻の金切り魔/Lightning Shrieker》
-赤(5)-
1 《懲罰/Chastise》
1 《群れの護衛/Pride Guardian》
-白(2)-
このモジュールはおそらく最もテーマ性が薄い——もしかしたらゴブリンか何かにするべきだったかもしれない。これは今回のモジュールの中でもシナジーが薄く、弱く、そしてゲームプレイ中に惹きつけられるような魅力もない。
しかし、僕はこれら12枚のカードをすでにネクサスから分離し、ネクサスの残りのカードを気にすることなくそれらを戻すことも、別のテーマを持ったモジュールと入れ替えることもできる状態にしている。これがモジュールがもともと持っている美点だ。
《稲妻の金切り魔/Lightning Shrieker》は、僕がほとんどの場合避けている、メイルストロムのルール上で奇妙なことを起こすカードとして特筆すべき1枚だ。君はこいつを唱え、攻撃し、そしてライブラリーと混ぜ合わせる。次の君のドロー・ステップの間に、君は手札を捨て、さっきのライブラリーから何枚かの新しいカードを引く。メイルストロムのライブラリーは割合少ないので、1、2ターンの間に《稲妻の金切り魔/Lightning Shrieker》を引く確率はかなり高い。このカードは《溶岩の斧/Lava Axe》よりも可能性を秘めているといえる。なぜなら我々はライブラリーと墓地を循環させ、その中で様々なカードを何回も目にするが、こいつは自分でライブラリーに戻ってより頻繁に顔を見せることになるからだ。
一方で、疾駆クリーチャーたちは毎ターン疾駆することはできないが、カード・アドバンテージを失うことはない。彼らが戦闘で死なない限り。
赤緑カウンター
赤緑カウンター——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《うろつく餌食の呪い/Curse of Stalked Prey》
1 《激情の発動/Fierce Invocation》
1 《パーフォロスの試練/Ordeal of Purphoros》
1 《跳ね散らす凶漢/Splatter Thug》
1 《電位の負荷/Volt Charge》
-赤(5)-
1 《アフィヤの樹/Afiya Grove》
1 《戦線クルショク/Battlefront Krushok》
1 《円環の賢者/Gyre Sage》
1 《カヴーのタイタン/Kavu Titan》
1 《幻影の虎/Phantom Tiger》
-緑(5)-
1 《凍結/Frozen Solid》
1 《掃き飛ばし/Sweep Away》
-青(2)-
最後のモジュールは+1/+1カウンターがテーマだ。トークンやオーラのモジュールと同様に、+1/+1カウンターを生み出す手段とサポートする手段が入っている。《パーフォロスの試練/Ordeal of Purphoros》は、エンチャントされるクリーチャーにあらかじめカウンターが置かれていればすぐに発射可能になるし、そうでなくても何回かの攻撃でクリーチャーを大きくすることができる。《電位の負荷/Volt Charge》はすでに強化されているクリーチャーを強化し、《アフィヤの樹/Afiya Grove》や《うろつく餌食の呪い/Curse of Stalked Prey》は君のあらゆるクリーチャーにカウンターを置き、《戦線クルショク/Battlefront Krushok》は大きくなった君のクリーチャーに《地元の利/Familiar Ground》能力を与える。
《カヴーのタイタン/Kavu Titan》や《跳ね散らす凶漢/Splatter Thug》は単にカウンターを置くだけだが、《幻影の虎/Phantom Tiger》や《円環の賢者/Gyre Sage》は追加で置かれるカウンターの数によってより強力になる。
一方、青のカードは大きな脅威を無力化する方法を提供してくれる。《凍結/Frozen Solid》は相手に「ノー」を突きつけ、《掃き飛ばし/Sweep Away》はクリーチャーを霊気の世界へ送って+1/+1カウンターを消してしまう。また、《掃き飛ばし/Sweep Away》がメイルストロムの中で生み出す決断は興味深い。
クリーチャーを手札に戻すとそのカードはドロー・ステップ中に捨てられるが、引き直す際の手札は多くなる(通常のバウンス呪文と同じように、君はカード・アドバンテージを失う)。しかし、たとえ君がそのクリーチャーをオーナーのライブラリーの一番上に置いたとしても、1:1交換にはなるがそのクリーチャーは次のターンにすぐさま戻ってきてしまう。通常のマジックではバウンス呪文はカード・アドバンテージの面で《追い返し/Repel》より弱いが、メイルストロムでクリーチャーを手札に戻すことは通常とは異なる意味を持つ。
ボーナス!
12枚のカードからなる5つのモジュール、30枚のコア(1色につき5枚と無色と多色5枚)、そして10枚のゲーム開始時のカードを足してちょうど100枚になった! ということは、必要な基本土地を別にすれば、ネクサスは統率者のデッキのように持ち運べるということだ。
けれども、やはり僕は自分を抑えることができなかった。僕はどうしても「もう5枚のカード」をねじ込みたかった。これらを入れてネクサスを薄めることは、モジュールのシナジーを弱め、コアがこのフォーマットを健全に保つのを阻害するが、リストの中にボルバーを投入したいという気持ちには抗えなかった。ちょうど同じように使えるカードは、他にも師匠サイクル(《陽景学院の師匠/Sunscape Master》)、アラーラの断片の戦闘魔道士サイクル(《エスパーの戦闘魔道士/Esper Battlemage》)、プレーンシフトの戦闘魔道士サイクル(《夜景学院の戦闘魔道士/Nightscape Battlemage》)、基本セット2015(訳注:誤植?)の友好色の起動型能力を持つクリーチャー(《真紅の汚水這い/Crimson Muckwader》)、タルキール覇王譚のカン(《龍爪のスーラク/Surrak Dragonclaw》)などがある。
ボーナス!——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《デイガボルバー/Degavolver》
1 《シータボルバー/Cetavolver》
1 《ネクラボルバー/Necravolver》
1 《ラッカボルバー/Rakavolver》
1 《アナボルバー/Anavolver》
-ボルバー(5)-
しかしながらボルバーは、必要に応じてバニラ・テスト※の失敗作として早めに戦場に出せるためこのフォーマットでは素晴らしい働きをする。そして、マナさえ——量と色のどちらも——あれば、戦場で死んだ後、再び唱え直す際にキッカー・コストをいろいろな形で支払うことができる。基本的に、キッカーを持つ呪文はその柔軟性がメイルストロムに非常に合っているし、さらに、複数の色を要求するカードは試合の方向性を面白くする。すなわちボルバーはここでは最高のカードの1つだということだ。
僕はかつて部族トーナメントでボルバーを使ったことがあるので、これらのカードには強い思い入れがある。
※……バニラ・テストとは、クリーチャーのコスト・パフォーマンスを数値的に比較しようとして考えられたもの。私が知る限りだとhttp://blackdeckwins.tumblr.com/post/129568175299/the-vanilla-testに詳しい。
実に過去4年間にわたって、僕のひどい、扱いにくい、おかしな、正気でない、二番煎じの、そして楽しいコンボの記事を読んでくれたことをみんなに感謝する。僕のアイデアが君のデッキ構築のヒントになったり、君がメイルストロムを試してくれたりすることを心から願っている。僕はもっと様々なテーマや枚数のモジュールがあれば見てみたいし、なによりこのフォーマットをプレイしてくれているところを見てみたい。
今、そして未来のいつかの時点で、僕、Andrewは言う。「下手くそ、これ僕の昔の締め方だな。」
Andrew Wilson
ソース……http://www.gatheringmagic.com/andrewwilson-051716-maelstrom-magic-the-deck-building-format/(Maelstrom Magic: The Deck-Building Format)
翻訳後記
この記事はGatheringMagic.comの電波デッキビルダー(?)であるAndrew Wilsonの、どうやら最後の記事ということらしいです。そもそもドラフト用のキューブの作り方を調べている最中に見つけたのですが、マジックをデッキ構築型ゲームとしてプレイするというアイデアに惹かれて翻訳してみました。
実は私自身も(全く別の方法で)マジックをデッキ構築型ゲームにする、というかドミニオンにするというアイデアについて考えていたことがあり、面白く読むことができました。メイルストロム・マジックのドラフト方法であるウィンストン・ドラフトについては私も含め苦手な方も多いと思うのですが、大きなパイルをドラフトすることがこの手のゲームではデメリットになるという発想は興味深いものです。それがプレイヤーに対してどれほどのストレスになるのかはわかりませんが、ウィンストン・ドラフトの改良方法としてはかなり画期的なのではないでしょうか。
いつもの通り、誤訳や誤字がありましたら指摘していただければ幸いです。
Andrew Wilson 2016年5月17日
この実験では、我々はプレイ中にドラフトする。
僕は来週から新しい仕事を始めるので、これが最後の記事になるだろう。僕は少しの間あることに取り組んでおり、だから今週はその準備をして、それを書くに値する十分なアイデアにする必要があった。
というわけで今日は、メイルストロム・マジックを紹介することにしよう。
マジックプレイヤーの中には「アセンション」や「スターレルムズ」、「レジェンダリー:マーベル」なんかの「ドミニオン」が元祖とされるデッキ構築型ゲームについて聞いたことがある人も多いはずだ。これらのゲームの基本的なアイデアは、それぞれのプレイヤーは同じ基本のカードのセットを持ってゲームを始め、ゲームプレイの経過にしたがってリソースを消費しながらより強力なカードを買い、デッキを強化することができるというものだ。ターン終了時にプレイヤーは余ったカードをすべて捨て、その後何枚かのカード——多くの場合5枚——をターン終了時に引く。プレイヤーはしょっちゅうデッキを引ききってしまうので、ゲーム中にデッキに加えたカードと同様に、ゲーム開始時の基本のカードもプレイし直すことができるようになっている。
君がカードを使ってやることはゲームごとに異なる——たとえば「ドミニオン」では勝利点カードと呼ばれるものがあり、ゲームの終了時に最も多くの勝利点を獲得したプレイヤーが勝者となる。一方「レジェンダリー:マーベル」では勝利点のようなものはなく、プレイヤーはカードを使ってヴィランやゲームの黒幕を倒すことで点数を稼ぐ必要がある。
そんなわけで、デッキ構築型ゲームの精神をマジックに適用させることが僕の目標だ。それではやってみよう。
ルール
なによりもまず、「ネクサス(訳注:中心や中核を意味する言葉)」が必要だ。「キューブ」というフォーマットをプレイするとき、プレイヤーは「キューブ」と呼ばれるカードのコレクションの中からデッキを構築する。メイルストロム・マジックでは、プレイヤーはネクサスと呼ばれる山からデッキをドラフトする(そう、このフォーマットはいくらか《大渦のきずな/Maelstrom Nexus》にちなんで名づけられた。我々は墓地をライブラリーに加えて切り直すことになるため《記憶のきずな/Mnemonic Nexus》の方が意味は近いが、「Mnemonic」という単語からは連想しにくい……そして《大渦のきずな/Maelstrom Nexus》の方がクールなカードだ!)。
それに加えて君には基本土地カードの束と、ゲーム開始時のカードも必要だ。ゲーム開始時のカードの中には各色2枚、合計10枚の1マナ呪文が含まれている。ゲーム開始時のカードを2等分し、その両半分に、シャッフルしたネクサスからそれぞれ5枚のカードを加える。この2つの束がプレイヤーのゲーム開始時のデッキになる。もし君が多人数メイルストロムを試したいのなら、プレイヤー1人につき5枚のカードをゲーム開始時のカードに加える必要がある。
ゲーム開始時のカードの目的は、プレイヤーに第一ターンの行動を保証することにある。また、それぞれのプレイヤーに同じデッキを渡さないのは(多くのゲームではそれらは同じだ)、プレイヤーに様々な方向性を与え、ゲーム内に多様性を創り出すためだ。「アセンション」のようなゲームでは、プレイヤーは他のプレイヤーではなく中央に並んだカードに働きかけるためにカードを使うが、マジックのゲームでは、両方のプレイヤーは常に《銀のマイア/Silver Myr》か何かからゲームを始めることになってしまい、とても退屈なものになるだろう。
さて、2人のプレイヤーがゲーム開始時のデッキを用意したら、ネクサスから3枚のカードを3つの異なるドラフトパイルとして裏向きに並べる。パイルのうち1つ目は片方のプレイヤーに「近づけて」置き、2つ目のパイルはもう片方のプレイヤーに「近づけて」置く。3つ目のパイルは中央のパイルにする。多人数メイルストロムでは、1つ目のパイルをすべてのプレイヤーの近くに置き、2つ目のパイルはすべてのプレイヤーから遠ざけて置く。
これで準備は整った。ではルールの変更を見ていこう。
メイルストロム・マジックのルール
マジックの基本的なルールは同じだが、以下の部分は異なる。
墓地
各プレイヤーの墓地はそれぞれ裏向きの山とする。プレイヤーはいつでも自分の墓地の枚数を数えてもよいが、対戦相手の墓地の枚数を数えることはできない。
我々はデッキのカードをドラフトし、各ターンでプレイしなかったカードを手札から捨てる——しかし余計な情報は見せたくないものだ。この非公開情報はゲームをよりエキサイティングにする——君は対戦相手を驚かせることができる!——だけではなく、情報が重荷になることを防ぎ、すべてが推測可能にならないようにする。
ドロー・ステップ
ドロー・ステップは、通常のマジックと比べてゲームプレイ上の変更点が最も多い。普通はドロー・ステップの間にアクティブ・プレイヤーがカードを1枚引く。メイルストロム・マジックはこれとは大きく異なる。
・アクティブ・プレイヤーはドラフトを行い、ドラフトしたカードを自分の墓地に置く。その後、そのプレイヤーは自分の手札を捨て、捨てたカードの枚数+2枚のカードを引く。このターン起因処理はスタックを用いない。
・各プレイヤーはそれぞれの第一ターンのドロー・ステップを飛ばす。
・カードがないライブラリーからカードを引こうとしたプレイヤーは、自分の墓地を自分のライブラリーに加えて切り直し、カードを引き続ける。
我々はすぐにドラフトを始め、見ての通り、プレイヤーの手札は絶えず回転し続ける。手札のカードを取っておいてそこに1枚ずつカードを加える代わりに、君はすべてのカードを捨てて持っていたカード+2枚のカードを引く。そのため、君が使えるカードはひっきりなしに変化し続けるだろう。とはいえデッキの枚数は比較的少ないから、君はターンごとに何を引くか予想することもできる。
デッキは常に流動的になる。墓地とライブラリーは入れ替わる。このシステムのせいで、デッキに入れられるカードには制約がある。《研究室の偏執狂/Laboratory Maniac》は採用できないし(もしくは、そこに書いてあるようにオーバーパワーだ)、《石臼/Millstone》は使い道がないカードの類だ(けれども僕は完全にそうだとは思わない)。
ドラフト
・ドラフトを行うには、アクティブ・プレイヤーは自分に最も近いパイルのカードを見る。そのプレイヤーはそれらのカードをドラフトして、それらを自分の墓地に裏向きで置いてもよい。そうしない場合、そのプレイヤーはパイルを戻し、そのパイルの上にネクサスから表側を見ずにカードを1枚加え、次のパイルを見てこの手順を繰り返す。そのプレイヤーがパイルをドラフトした場合、そのパイルの位置にネクサスから表側を見ずにカードを1枚加える。もしもそのプレイヤーがどのパイルもドラフトしなかった場合、そのプレイヤーはネクサスの一番上のカードをドラフトする(そのプレイヤーはドラフトされたカードを見てもよい)。
ドラフトの方法はウィンストン・ドラフトに似ているが、変更点として、2人対戦のメイルストロムでは各プレイヤーは違う方向からパイルを見始める。もちろん、ゲームプレイの最中にドラフトを行うことや、ドラフトしたカードをプレイヤーが数ターン後に引くことも大きな変更だ。
また、通常のウィンストン・ドラフトでは、君にデッキ構築の際の選択肢を増やし、対戦相手の選択肢を狭めるために大きなパイルをピックすることが推奨される。しかしメイルストロムでは、たくさんのカードをデッキに加えると本当は引きたくないカードまでデッキに入れることになってしまう。君は無駄なカードを無視できるほどカードを引けるが、もし手札がいらないカードであふれかえってしまうのであればドラフトの方法を考え直した方がいい。
土地のプレイ
・土地のプレイは特別な処理である(訳注:スタックを用いない)。土地をプレイするには、プレイヤーは手札からカードを1枚追放し、ゲームの外部にあるいずれかの基本土地カード1枚を戦場に出す。通常、プレイヤーは自分のターンの間に1回だけこの特別な処理を行うことができる。 優先権を持つプレイヤーは、自分のメイン・フェイズで、スタックが空の間、この特別な処理を行うことができる。
・2種類以上のタイプの基本土地をコントロールしているプレイヤーが、自分がコントロールしていないタイプの基本土地をプレイするためにこの特別な処理を行う場合、そのプレイヤーは手札からカードを1枚追放する代わりに2枚追放する。
君はどうやってプレイヤーが呪文を唱えるのか疑問に思っていたことだろう。土地はゲーム開始時のカードの中にもネクサスの中にも入っておらず、まして君がデッキをあらかじめ作っておけるわけでもないため、土地をどこか別の場所からプレイする必要がある。基本的に、君は各ターンに1枚の土地をプレイでき、好きな基本土地を選ぶことができる。しかしながら、そうするためには手札からカードを追放する必要がある。追放されたカードは君のライブラリーに混ぜられることはなく、したがって土地のプレイによって君は二度と引きたくないと思うカードをデッキから除外することができる——が、君の手札が好きな呪文や、ゲームの後半で必要だと思うカードばかりの場合、難しい選択を引き起こす。
また、下半分にあるように、君が使う最初の2色は自由だが、3色目、4色目、5色目は追加のコストが必要になる。たとえば、君は手札のカードを1枚追放して1ターン目に《平地/Plains》をプレイし、もう1枚追放して2ターン目に《島/Island》をプレイすることができる。その後も君が《平地/Plains》か《島/Island》を欲しいと思うなら、手札を1枚追放するだけでいい。しかし、もし《沼/Swamp》が欲しいなら、君はその3色目にアクセスするために手札を2枚追放しないといけない。一度その《沼/Swamp》を手に入れてしまえば、その後の《沼/Swamp》は通常通り1枚の追放でプレイできるが、新たに《山/Mountain》や《森/Forest》をプレイする際には2枚のカードが必要になる。
ゲームを通して、最終的にプレイヤーは4〜5色にアクセスする傾向があるが、そうすると手札の消費は激しくなる。
奇妙な状況
これらのルールでプレイすると、いくつかの奇妙な相互作用や意図しない結果が起こることがある(《地ならし屋/Leveler》だって?)。個別の例外や特殊な状況のリストを作るよりも抜本的な対策は、問題を起こすカードを避けることだ。墓地は裏向きであり、また墓地に落ちたクリーチャーはすぐに引き直せるため、《死者再生/Raise Dead》はプレイに値しない。そんなわけで端的にこのカードはネクサスに必要ないだろう。同様に、ライブラリーに基本土地は入っていないから《不屈の自然/Rampant Growth》は予選敗退だ。キューブと同じように、望むドラフト体験を創造するためにカードを選定し、きちんと機能しないカードは取り除いてしまおう。
君のネクサスを作る
さて、試してみるためのカードリストがない新フォーマットなんてありえるだろうか? ここからは僕のネクサスとその作り方のガイドラインを紹介しよう。
基本的に、僕はネクサスを作るときに「モジュール」というコンセプトを意識している。君はそうする必要はない。君は好きなようにネクサスを作ればよく、メイルストロムのルール内で機能し、君が楽しめるカードを選ぶこと以外にルールはない。しかしモジュールを使うことは体系化されたネクサスを作る方法であり、僕が好きなテーマを盛り込むことを確実にしつつ、それらのテーマを後から入れ替えられるようにもしてくれる。
モジュールとは、要するにお互いにうまく機能する数枚のカード——そしておそらくその戦略で戦うためのカードだ。このネクサスでは、ある色のカード5枚、その友好色のカード5枚、それらと戦うための対抗色のカード2枚からなる、友好色を中心にしたモジュールを使った。また「コア」と呼ばれるカード群と、当然ながらどのモジュールにも含まれないゲーム開始時のカードも用意した。
考えうる他のモジュールは、5色のモジュール(同盟者、スリヴァー、アーティファクト系など)、対抗色のモジュール、弧のモジュール(アラーラの断片)、楔のモジュール(アポカリプスまたはタルキール覇王譚)、単色のモジュール(部族中心になるかもしれない)など。可能性は無限大だ。
ゲーム開始時のカード
ゲーム開始時のカード——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《治癒の軟膏/Healing Salve》
1 《希望の壁/Wall of Hope》
-白(2)-
1 《のぞき見/Peek》
1 《翼作り/Wingcrafter》
-青(2)-
1 《深夜の魔除け/Midnight Charm》
1 《鼓動の追跡者/Pulse Tracker》
-黒(2)-
1 《焼炉の悪獣/Furnace Scamp》
1 《ショック/Shock》
-赤(2)-
1 《戦闘の成長/Battlegrowth》
1 《芽吹き/Sprout》
-緑(2)-
ゲーム開始時のカードは君が思う通りにすればいい——君はそれをなくしてもいい。けれども僕はプレイヤーに最序盤の動きを保証し、ゲームに多少安定したスタート地点を与えるためにそれをお薦めする。これらのカードは飛び抜けて強力でない方がよいが、様々なテーマとシナジーを形成する能力を持ち、プレイヤーがゲームのプランを立てやすくなるように作られている必要がある——それらは各色のテーマを表現していなければならない。
コア
コア——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《彩色マンティコア/Chromanticore》
1 《荒廃の双子/Desolation Twin》
1 《ドラコ/Draco》
1 《大渦のきずな/Maelstrom Nexus》
1 《多相の戦士/Shapeshifter》
-多色および無色(5)-
1 《オーラの旋風/Aura Blast》
1 《放逐する僧侶/Banisher Priest》
1 《戒厳令/Martial Law》
1 《セラの天使/Serra Angel》
1 《戦乱の神託者/War Oracle》
-白(5)-
1 《蒼穹の魔道士/Azure Mage》
1 《対抗呪文/Counterspell》
1 《熟考漂い/Mulldrifter》
1 《魂刃のジン/Soulblade Djinn》
1 《拭い捨て/Wipe Away》
-青(5)-
1 《闇の掌握/Grasp of Darkness》
1 《ナントゥーコの鞘虫/Nantuko Husk》
1 《ネクラタル/Nekrataal》
1 《血の儀式の司祭/Priest of the Blood Rite》
1 《喉笛切り/Throat Slitter》
-黒(5)-
1 《チャンドラの憤怒/Chandra’s Fury》
1 《輝き帯び/Glarewielder》
1 《シヴ山のドラゴン/Shivan Dragon》
1 《松明の悪鬼/Torch Fiend》
1 《ウルザの激怒/Urza’s Rage》
-赤(5)-
1 《高木の巨人/Arbor Colossus》
1 《茨角/Briarhorn》
1 《ガラクの群れ率い/Garruk’s Packleader》
1 《再利用の賢者/Reclamation Sage》
1 《ソーンウィールドの射手/Thornweald Archer》
-緑(5)-
ネクサスを作るのに、僕はモジュールの他にコアがあると便利だと思っている。これらのカードは各色を体現し、またネクサスの中に除去やアーティファクト破壊、エンチャント破壊、強力なフィニッシャーといった基本的なツールを確保する。
5枚の多色と無色のカードは、最初の数ターンでどの基本土地をプレイしたかに関係なく、両方のプレイヤーに選択肢を提供する。これはゲームの終了を保証するもうひとつの方法だ。これらはネクサスから出てくる最も強力なカードであると同時に、色を縛らないことでプレイヤーが速やかに、安全に色を決められるようにする。
《大渦のきずな/Maelstrom Nexus》はこのフォーマットの名前のもとなので、たとえどんなネクサスであっても入れた方がいいのではないかと思う。《多相の戦士/Shapeshifter》は、単に僕が好きだからだ。
緑白トークン
緑白トークン——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《獣性の脅威/Bestial Menace》
1 《残忍な実体化/Feral Incarnation》
1 《翡翠の魔道士/Jade Mage》
1 《狼育ち/Raised by Wolves》
1 《種のばら撒き/Scatter the Seeds》
-緑(5)-
1 《天空の目/Eyes in the Skies》
1 《町民の結集/Gather the Townsfolk》
1 《幽霊の将軍/Phantom General》
1 《エメリアへの撤退/Retreat to Emeria》
1 《武器を手に/Take Up Arms》
-白(5)-
1 《蔓延/Infest》
1 《湧き上がる瘴気/Rising Miasma》
-黒(2)-
トークンがテーマのモジュールを作ることは、トークンを出すカードの束を作るだけの簡単な作業に思われるかもしれない。しかし、実際にはトークンを「サポートする」カードがなければ意味がない。《天空の目/Eyes in the Skies》は《深夜の出没/Midnight Haunting》に似ているが、1マナ重い代わりに君の持っている象・クリーチャー・トークンを複製してくれる。《幽霊の将軍/Phantom General》と《エメリアへの撤退/Retreat to Emeria》はトークン全体のパワーを上げてくれる。《残忍な実体化/Feral Incarnation》と《種のばら撒き/Scatter the Seeds》は複数のクリーチャーをコントロールしていると唱えやすくなる。
黒のカードは1/1や2/2の群れを無に帰すことでトークン戦略に対抗する——ビーストや象に対処するのは難しいかもしれないが、でもまあ、誰かがなんとかしてくれるはずだ。
白青オーラ
白青オーラ——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《神性変異/Divine Transformation》
1 《霊刃の幻霊/Ghostblade Eidolon》
1 《雅刃の職工/Graceblade Artisan》
1 《希望の幻霊/Hopeful Eidolon》
1 《イオナの祝福/Iona’s Blessing》
-白(5)-
1 《長魚の陰影/Eel Umbra》
1 《閃足の幻霊/Flitterstep Eidolon》
1 《幻影の鎧/Illusionary Armor》
1 《メタスランの精鋭/Metathran Elite》
1 《雨雲のナイアード/Nimbus Naiad》
-青(5)-
1 《憤激/Lose Calm》
1 《抑圧的支配/Press into Service》
-赤(2)-
モジュールの作成で重要なことは——ネクサスの作成もそうだが——カード間にバランスのとれたコストを与えることだ。デッキビルダーやキューブビルダーはこの教訓をすでに理解していると思うが、シナジーのあるクールなカードのリストを作るときには忘れがちになる。また《神性変異/Divine Transformation》が示しているように、ベストなカードに枠を割くことが常に重要だというわけではない。考え方は人それぞれなので、君が強力なキューブのようなネクサスを作りたいのならそれでもいいが、僕は全体的により低いパワー・レベルのマジックの方が好みだ。
オーラがテーマのモジュールでは、ただ単にオーラを入れるのではなく関係性を作ることが重要だ。おそらく《オーラ術師の装い/Auramancer’s Guise》は適切ではないが、《雅刃の職工/Graceblade Artisan》や《メタスランの精鋭/Metathran Elite》はオーラに額面以上の関係性を与えてくれるだろう。
赤の《脅しつけ/Threaten》効果を持つカードは、オーラがエンチャントされた巨大なクリーチャーを奪い、形勢を逆転する。
青黒フェアリー
青黒フェアリー——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
4 《フェアリーの悪党/Faerie Miscreant》
1 《スプライトの貴族/Sprite Noble》
-青(5)-
1 《ウーナの黒近衛/Oona’s Blackguard》
1 《群れの侮蔑/Pack’s Disdain》
1 《コショウ煙/Peppersmoke》
1 《泥棒スプライト/Thieving Sprite》
1 《スミレの棺/Violet Pall》
-黒(5)-
1 《突風/Squall》
1 《巣網から見張るもの/Watcher in the Web》
-緑(2)-
キューブにも統率者にも、同名のカードは1枚までしか入れられないというルールがある。けれども実際は多くの人がそう思い込んでいるだけで、キューブについては正しくない。いいかい、もし君が統率者のデッキを組むなら、ゲームのバランスを崩して周りのプレイヤーを唖然とさせないように、誰もが守っているルールを守らないといけない。しかし君がキューブを組むのなら、ドラフトするプレイヤーは「君の」ルールに従わないといけない——君が決めたことなら何でもだ。
たとえば、こんな場合がそうだ——たとえ君がネクサスに2枚以上の同名のカードを入れたいと思ったとしても、それを止める理由はどこにもない。《蓄積した知識/Accumulated Knowledge》や《集中砲火/Flame Burst》は墓地が裏向きで循環するためうまく働いてくれないが、《フェアリーの悪党/Faerie Miscreant》は空を埋め尽くしてコントローラーのために相当のカード・アドバンテージを手に入れてくれる。ドロー・ステップの変更があるとはいえ、カード・アドバンテージはメイルストロムでも依然として重要だ。
僕がリストに入れたスターター版の《突風/Squall》(訳注:原文のリスト参照)についても触れておこう。このカードのコストはメルカディアン・マスクス版や第8版のように(2)(緑)ではなく、(1)(緑)と誤植されている。わざわざこれを入れたのは、僕のネクサスの中では(1)(緑)として機能するように意図したからだ。わかったかい? ここでは自分のルールを作ることができるんだ。
黒赤アグロ
黒赤アグロ——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《アリーシャの先兵/Alesha’s Vanguard》
1 《ゲスの評決/Geth’s Verdict》
1 《無謀なインプ/Reckless Imp》
1 《血の復讐/Vendetta》
1 《卑劣なアヌーリッド/Wretched Anurid》
-黒(5)-
1 《真紅の魔道士/Crimson Mage》
1 《心臓鞭の燃えがら/Heartlash Cinder》
1 《内炎の見習い/Inner-Flame Acolyte》
1 《稲妻のやっかいもの/Lightning Mauler》
1 《稲妻の金切り魔/Lightning Shrieker》
-赤(5)-
1 《懲罰/Chastise》
1 《群れの護衛/Pride Guardian》
-白(2)-
このモジュールはおそらく最もテーマ性が薄い——もしかしたらゴブリンか何かにするべきだったかもしれない。これは今回のモジュールの中でもシナジーが薄く、弱く、そしてゲームプレイ中に惹きつけられるような魅力もない。
しかし、僕はこれら12枚のカードをすでにネクサスから分離し、ネクサスの残りのカードを気にすることなくそれらを戻すことも、別のテーマを持ったモジュールと入れ替えることもできる状態にしている。これがモジュールがもともと持っている美点だ。
《稲妻の金切り魔/Lightning Shrieker》は、僕がほとんどの場合避けている、メイルストロムのルール上で奇妙なことを起こすカードとして特筆すべき1枚だ。君はこいつを唱え、攻撃し、そしてライブラリーと混ぜ合わせる。次の君のドロー・ステップの間に、君は手札を捨て、さっきのライブラリーから何枚かの新しいカードを引く。メイルストロムのライブラリーは割合少ないので、1、2ターンの間に《稲妻の金切り魔/Lightning Shrieker》を引く確率はかなり高い。このカードは《溶岩の斧/Lava Axe》よりも可能性を秘めているといえる。なぜなら我々はライブラリーと墓地を循環させ、その中で様々なカードを何回も目にするが、こいつは自分でライブラリーに戻ってより頻繁に顔を見せることになるからだ。
一方で、疾駆クリーチャーたちは毎ターン疾駆することはできないが、カード・アドバンテージを失うことはない。彼らが戦闘で死なない限り。
赤緑カウンター
赤緑カウンター——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《うろつく餌食の呪い/Curse of Stalked Prey》
1 《激情の発動/Fierce Invocation》
1 《パーフォロスの試練/Ordeal of Purphoros》
1 《跳ね散らす凶漢/Splatter Thug》
1 《電位の負荷/Volt Charge》
-赤(5)-
1 《アフィヤの樹/Afiya Grove》
1 《戦線クルショク/Battlefront Krushok》
1 《円環の賢者/Gyre Sage》
1 《カヴーのタイタン/Kavu Titan》
1 《幻影の虎/Phantom Tiger》
-緑(5)-
1 《凍結/Frozen Solid》
1 《掃き飛ばし/Sweep Away》
-青(2)-
最後のモジュールは+1/+1カウンターがテーマだ。トークンやオーラのモジュールと同様に、+1/+1カウンターを生み出す手段とサポートする手段が入っている。《パーフォロスの試練/Ordeal of Purphoros》は、エンチャントされるクリーチャーにあらかじめカウンターが置かれていればすぐに発射可能になるし、そうでなくても何回かの攻撃でクリーチャーを大きくすることができる。《電位の負荷/Volt Charge》はすでに強化されているクリーチャーを強化し、《アフィヤの樹/Afiya Grove》や《うろつく餌食の呪い/Curse of Stalked Prey》は君のあらゆるクリーチャーにカウンターを置き、《戦線クルショク/Battlefront Krushok》は大きくなった君のクリーチャーに《地元の利/Familiar Ground》能力を与える。
《カヴーのタイタン/Kavu Titan》や《跳ね散らす凶漢/Splatter Thug》は単にカウンターを置くだけだが、《幻影の虎/Phantom Tiger》や《円環の賢者/Gyre Sage》は追加で置かれるカウンターの数によってより強力になる。
一方、青のカードは大きな脅威を無力化する方法を提供してくれる。《凍結/Frozen Solid》は相手に「ノー」を突きつけ、《掃き飛ばし/Sweep Away》はクリーチャーを霊気の世界へ送って+1/+1カウンターを消してしまう。また、《掃き飛ばし/Sweep Away》がメイルストロムの中で生み出す決断は興味深い。
クリーチャーを手札に戻すとそのカードはドロー・ステップ中に捨てられるが、引き直す際の手札は多くなる(通常のバウンス呪文と同じように、君はカード・アドバンテージを失う)。しかし、たとえ君がそのクリーチャーをオーナーのライブラリーの一番上に置いたとしても、1:1交換にはなるがそのクリーチャーは次のターンにすぐさま戻ってきてしまう。通常のマジックではバウンス呪文はカード・アドバンテージの面で《追い返し/Repel》より弱いが、メイルストロムでクリーチャーを手札に戻すことは通常とは異なる意味を持つ。
ボーナス!
12枚のカードからなる5つのモジュール、30枚のコア(1色につき5枚と無色と多色5枚)、そして10枚のゲーム開始時のカードを足してちょうど100枚になった! ということは、必要な基本土地を別にすれば、ネクサスは統率者のデッキのように持ち運べるということだ。
けれども、やはり僕は自分を抑えることができなかった。僕はどうしても「もう5枚のカード」をねじ込みたかった。これらを入れてネクサスを薄めることは、モジュールのシナジーを弱め、コアがこのフォーマットを健全に保つのを阻害するが、リストの中にボルバーを投入したいという気持ちには抗えなかった。ちょうど同じように使えるカードは、他にも師匠サイクル(《陽景学院の師匠/Sunscape Master》)、アラーラの断片の戦闘魔道士サイクル(《エスパーの戦闘魔道士/Esper Battlemage》)、プレーンシフトの戦闘魔道士サイクル(《夜景学院の戦闘魔道士/Nightscape Battlemage》)、基本セット2015(訳注:誤植?)の友好色の起動型能力を持つクリーチャー(《真紅の汚水這い/Crimson Muckwader》)、タルキール覇王譚のカン(《龍爪のスーラク/Surrak Dragonclaw》)などがある。
ボーナス!——メイルストロム・マジック | Andrew Wilson
1 《デイガボルバー/Degavolver》
1 《シータボルバー/Cetavolver》
1 《ネクラボルバー/Necravolver》
1 《ラッカボルバー/Rakavolver》
1 《アナボルバー/Anavolver》
-ボルバー(5)-
しかしながらボルバーは、必要に応じてバニラ・テスト※の失敗作として早めに戦場に出せるためこのフォーマットでは素晴らしい働きをする。そして、マナさえ——量と色のどちらも——あれば、戦場で死んだ後、再び唱え直す際にキッカー・コストをいろいろな形で支払うことができる。基本的に、キッカーを持つ呪文はその柔軟性がメイルストロムに非常に合っているし、さらに、複数の色を要求するカードは試合の方向性を面白くする。すなわちボルバーはここでは最高のカードの1つだということだ。
僕はかつて部族トーナメントでボルバーを使ったことがあるので、これらのカードには強い思い入れがある。
※……バニラ・テストとは、クリーチャーのコスト・パフォーマンスを数値的に比較しようとして考えられたもの。私が知る限りだとhttp://blackdeckwins.tumblr.com/post/129568175299/the-vanilla-testに詳しい。
実に過去4年間にわたって、僕のひどい、扱いにくい、おかしな、正気でない、二番煎じの、そして楽しいコンボの記事を読んでくれたことをみんなに感謝する。僕のアイデアが君のデッキ構築のヒントになったり、君がメイルストロムを試してくれたりすることを心から願っている。僕はもっと様々なテーマや枚数のモジュールがあれば見てみたいし、なによりこのフォーマットをプレイしてくれているところを見てみたい。
今、そして未来のいつかの時点で、僕、Andrewは言う。「下手くそ、これ僕の昔の締め方だな。」
Andrew Wilson
ソース……http://www.gatheringmagic.com/andrewwilson-051716-maelstrom-magic-the-deck-building-format/(Maelstrom Magic: The Deck-Building Format)
翻訳後記
この記事はGatheringMagic.comの電波デッキビルダー(?)であるAndrew Wilsonの、どうやら最後の記事ということらしいです。そもそもドラフト用のキューブの作り方を調べている最中に見つけたのですが、マジックをデッキ構築型ゲームとしてプレイするというアイデアに惹かれて翻訳してみました。
実は私自身も(全く別の方法で)マジックをデッキ構築型ゲームにする、というかドミニオンにするというアイデアについて考えていたことがあり、面白く読むことができました。メイルストロム・マジックのドラフト方法であるウィンストン・ドラフトについては私も含め苦手な方も多いと思うのですが、大きなパイルをドラフトすることがこの手のゲームではデメリットになるという発想は興味深いものです。それがプレイヤーに対してどれほどのストレスになるのかはわかりませんが、ウィンストン・ドラフトの改良方法としてはかなり画期的なのではないでしょうか。
いつもの通り、誤訳や誤字がありましたら指摘していただければ幸いです。
パーツを組み立てる
多くのユーザーがそうしているように、ここまで《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》に示唆されたメカニズムを便宜上「からくり」と呼んできたが、より本質的なのはおそらく「組み立てる」の方だろう。もとより「組み立てる」はルール上重要なキーワード処理であるだけでなく、その曖昧さによって多様に解釈されてきた。私の見立てでは、約10年にわたってメルヴィンたちが生み出してきた無数のからくりのアイデアも、この語の理解の仕方によって3通りに分類することができる。
1つ目の解釈は、パーツを組み立てるというものだ。MTG Salvationに2007年に投稿されたBootsyというユーザーのアイデアがこの解釈の典型的な例だろう。
この解釈の特徴は、からくりという語が持つ複雑で不可解な機械というイメージを、単純なパーツ同士の組み合わせで表現していることだ。結果として個々のカードはきわめて簡潔になり、真の完成はプレイヤーの創造性に任される。こうしたデザインの偉大な先例はスリヴァーで、《Funky Rigger》がそれをもとにしていることは言うまでもない。
大多数のユーザーはからくりをアーティファクト・トークンだと予想しているが、アーティファクト・カードを使ったアイデアも存在する。MTG CardsmithのAngry_Potatoesというユーザーは、《進化の飛躍/Evolutionary Leap》に近いテキストを用いてライブラリーの中のアーティファクト・カードに装具工がアクセスできるようにした。
このデザインには問題もあるものの(装具工が流れてくると信じてマナ・コストのないからくりをピックする気分はどんなものだろうか?)、からくりをカードとして処理することによってテキスト量に余裕を持たせることができるという大きなメリットがある。もしもからくりがリミテッドのアーキタイプになるのなら、セットにはコモンからレアまで十数枚の装具工がいるはずであり、判読性やプレイアビリティを考慮すると分割表記にすることは賢い選択だといえる。
※1……http://www.mtgsalvation.com/forums/creativity/custom-card-creation/349307-contraptions-and-riggers#c17
※2……https://mtgcardsmith.com/view/apprentice-contraptionist?list=user
※3……https://mtgcardsmith.com/view/whatevermobile?list=user
集合体を組み立てる
「組み立てる」の2つ目の解釈は、集合体を組み立てるというものだ。これはいくつかの単純なアーティファクトを材料に複雑なアーティファクトを組み上げる過程をデザイン的に表現したもので、この場合のからくりは単体で強力なものとして理解されていることが多い。
2010年にdb8r_boiというユーザーによってMTG Salvationに投稿されたこれらのアイデアでは、装具工とからくりの間にモジュールという新たなアーティファクト・タイプを差し込むことで多様な組み合わせのからくりを生み出すことを可能にしている。モジュールのテキストは正常に機能するのか若干怪しいが、《発生器の召使い/Generator Servant》のような能力だと考えれば多少の修正で済むだろう。
集合体を組み立てるという解釈では、からくりの素材がデザインの焦点になる。db8r_boiのようにアーティファクトを素材としてからくりに作り変えるアイデアの他、墓地のアーティファクト・カードを素材にするもの、アーティファクト上のカウンターを素材とするものなどあらゆる可能性が試されてきた。中でも私が興味深いと思ったのは(正確な表現ではないかもしれないが)コストと効果を素材として、それらを組み立てるというアイデアだ。
奇抜なテキストが目を引くManiteというユーザーのこれらのアイデアは、プレイヤーをゲーム内でマジックのデザイナーにするものだといえるだろう。入力・部品(Input Part)と名づけられたアーティファクトには能力の起動コスト、もしくは誘発条件だけが書いてあり、装具工の力で出力・部品(Output Part)と組み合わされることによって1つの能力として機能し始める。おそらくこのメカニズムを実装するためには総合ルールへの大幅な加筆が必要になると思われるが、非常に直感的であるため混乱を生むことは少ないはずだ。
db8r_boiとManiteのアイデアの欠点は、これらが典型的なA/Bメカニズムだということだ(考えようによってはA/B/C)。そのうえ単体ではほとんど仕事をしないカードがシナジーの両翼を担っているため、恐ろしいほどにリミテッドでのプレイに不向きだといえる。この問題の根本的な解決策は、端的にこれらのカードが他のアーキタイプでも使用可能になるように追加の能力を与えることだろう。いっそのことアーティファクト・クリーチャーにしてしまうのも有効な方法だ。
完全に余談だが、やがて発売されるカラデシュのデザインでもこうした問題は少なからず重要になると思われる。いわゆる置物系アーティファクトがアーキタイプのキーカードになる場合、アーキタイプに依存しすぎると単体であまりにも弱く、有用すぎる能力をつけるとリミテッドのバランスを崩し、かといって中庸な能力では全く使われないというジレンマを抱えることになる。R&Dは2回のミラディン・ブロックでよく似た事態に直面してきたが、カラデシュ・ブロックではどのように対処するのかデザイン的な観点での興味が尽きない。
※4……http://www.mtgsalvation.com/forums/creativity/custom-card-creation/631366-riggers-and-contraptions#c1
※5……http://www.mtgsalvation.com/forums/creativity/custom-card-creation/699649-lets-assemble-some-contraptions-input-and-output#c1
複雑さを上げる
ユーザーによる「組み立てる」の解釈の3つ目は、戦場にあるアーティファクトの複雑さを上げるという解釈だ。これはメカニズム的に怪物化やLvアップに近く、アーティファクトが戦場で加工を施されたことをカウンターなどを用いて間接的に表現する。
私のようにブログでデザインについて考察しているDaveというユーザーの手になるこのアイデアは、(やや強力すぎるきらいがあるものの)先述のリミテッドにおける問題をうまく回避しつつ《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》とのシナジーを失わないようによく計算されたデザインになっている。
このテキストでは、からくりは組み立てられていない状態で戦場に登場し、クリーチャーによる2回の労働を経て完成する。組み立てること自体は装具工でなくとも可能だが、《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》が隣にいれば驚異的なスピードで周囲のアーティファクトを組み立てることができるだろう。
Daveが意識していたかどうかはわからないが、このカードはローウィン・ブロックの《棘噛みの杖/Thornbite Staff》をはじめとした部族装備品のサイクルに似ている。単体でも有用であると同時に特定の部族との組み合わせで劇的な効果を発揮するようなデザインにすることで、アーキタイプのキーカードが完全な専用カードになるのを防ぐことができる。
ところで、怪物化や高名など、パーマネントを(マーカー以上の意味を持たない)特定の状態にするキーワードは近年のマジックのデザインにしばしば登場するようになってきた。アーティファクトの複雑さを上げるという解釈のデザインはそれをからくりに応用したものだが、個人的にはやや歯切れが悪く感じられる。少なくとも怪物化は、怪物的という状態にすると同時に+1/+1カウンターを置くことで実際にクリーチャーを「怪物化」する。しかし、「からくり」は本当に特定の状態として表現可能だろうか?
これには異論もあるかもしれないが、からくりが組み立てられたことを表すのなら実際にゲームの中でも組み立ててみせればいいのであって、ルール用語でそれを表すのはナンセンスだと私は思う。仮にあるアーティファクトがルール上組み立てられた状態になっていたとしても、ユーザーが組み立てられたと感じないのだとしたら本末転倒だろう。
※6……https://flavoracle.tumblr.com/post/116362186937/do-you-guys-have-some-kind-of-internal-prize-at
デザインの楽しみ、楽しみのデザイン
初回のポストの末尾に記した通り、この文章の目的はからくりがどんなメカニズムなのかを予想することだった。カラデシュのプレビューが始まる前に、過去のメルヴィンたちのアイデアに加えて私の妄想をここに書き留めておこうと思う。
意外に思われるかもしれないが、このデザインは先述のManiteのアイデアに触発されたものだ。当初案ではこれは《Apprentice Contraptionist》とほぼ同じライブラリーからからくりを出すゴブリンで、からくり側はスリヴァーと《水銀の精霊/Quicksilver Elemental》を足したような能力を持っていた。
スリヴァーはお互いの能力を共有するだけだが、このアイデアでは能力を共有したうえでコストを自在に組み合わせることができる。このカード単体ではカード・アドバンテージを失う効率の悪いルーターにすぎないが、後続のからくりの起動コスト次第では非常に強力なドローエンジンにもなりうるというわけだ。
コストを組み合わせるというアイデアはたいへん魅力的だったが、同時にそれには問題もあった。からくりをアーティファクトの部族としてデザインすると、部族外のアーティファクトとのつながりが断たれて発展性のないメカニズムになってしまうのだ。
私はミラディン・ブロックのころにマーク・ゴットリーブが書いた、「Welcome to the Machine」というコラム※7をよく覚えている。これはアーティファクトによる何通りもの無限コンボが搭載されたジョニー垂涎のデッキ集なのだが、いくつかのデッキでフィフス・ドーンの基地サイクルが部分的に採用されていることを子供心に不思議に思ったものだ。無限コンボが目的ならば、初めから(デザイナーがそう仕向けた)基地サイクルを4種類搭載すればよい。にもかかわらず、なぜプレイヤーは執拗に他のカードと組み合わせたがるのだろうか?
つまるところ、プレイヤーは自力でコンボを探すことに楽しみを見出すのであって、答えのわかっているパズルであるデザイナーズ・コンボは魅力に欠けるのだ。私は基地サイクルのデザインをたいへん美しいと思うが、むしろこれらのカードにとって重要なのは、デザイナーが美しくしつらえたカードが必ずしもプレイヤーに好まれるわけではないという皮肉な事実を明らかにしたことだろう。
すでにおわかりのように、基地サイクルの問題は同時にからくりの問題でもある。からくり同士の組み合わせを柔軟にすることと、素材化できるアーティファクトの範囲を広げることを天秤にかけた結果、私は後者を取ることにした。それにより起動コストを組み合わせる能力は失われてしまったが、未知のアーティファクトとの組み合わせの可能性がその楽しみを埋め合わせてくれると考えている。
※7……http://magic.wizards.com/en/articles/archive/feature/welcome-machine-2004-05-27(Welcome to the Machine)
フラクタル的デザイン
からくりをトークンとしてデザインする場合、問題となるのはそれが次第に複雑になっていく過程をどのように表現するかということだ。トークンに様々な能力を記述できれば簡単なのだが、キーワード処理の定義は簡潔に行わなければならず、トークンが持てる複雑さは限られている。
この問題の最も現実的な解決方法は、Bootsyによる《Funky Rigger》のようにトークンではなく装具工の側に能力を与えることだろう。バニラ・アーティファクトであるからくりが様々な装具工によって強化されるという関係性にすることで、1種類のトークンに複数の能力を持たせつつも簡潔なテキストを維持することができる。
一方で、全く異なる考え方も存在する。それは、複雑さをカードテキストの中に記述するのではなく、トークン同士の関係性の中で自然発生させるというものだ。突飛な発想に思われるかもしれないが、単純でありながら繰り返すごとに全く異なった結果が生じるような特殊なキーワード処理があれば《Funky Rigger》とは別な観点からこの問題を解決できることになる。
このような、1つの単純な規則(「からくりを組み立てる」)から多様な要素を引き出すという発想は、幾何学で言うフラクタル図形に近いものがあるかもしれない。私は専門家ではないのであくまでイメージの問題だが、ある単純なルールに基づいてコッホ雪片が正三角形から六芒星、無限の周長を持つ図形へと変化していく様子はこのアイデアの性質によく似ている。
こうした考えはもはや思考実験に近く、からくりの予想という当初の目的から外れてしまっているのも事実だが、そこに目をつぶれば新たなデザイン空間を開く有意義な試みになることは間違いない。
このアイデアではからくりはクリーチャーであり(《ドライアドの東屋/Dryad Arbor》のように土地タイプとクリーチャー・タイプを持つクリーチャーも存在しているため、可能性はゼロではない)、戦場のからくりの数に応じて0/4、1/3、2/2、3/1と姿を変える。5体目のからくりが戦場に出るとそれらはすべて死亡してしまうものの、装具工が持つ能力によって小さい《黄鉄の呪文爆弾/Pyrite Spellbomb》に変化する。
クリーチャーほど簡単ではないが、クリーチャーでないアーティファクトによっても数に応じて機能が変化するからくりをデザインすることができる。その場合に肝心なのは数字を変えただけで機能が変化するような効果を見つけることで、ルーター効果はその代表例だといえる。このアイデアの場合、からくり1つでは手札が減る一方だが、3つ以上になるとカード・アドバンテージを得られるようになる。
おそらく問題があるとすればこの能力がカラー・パイに合っていないことだろう。前回のポストで私はからくりがカラデシュに入るのならば黒赤か赤緑か黒赤緑のアーキタイプになると予想したが、《蒸気打ちの発明家》はどちらかといえば青赤のデザインに見える。
幸いなことにこのからくりのフォーマットはたいへん優れており、「引く」と「捨てる」以外にも対になる効果を探すことで、すぐにでもカラー・パイに適したデザインを手に入れることができるだろう。
答えは作られる
いつの間にかエターナルマスターズのプレビューウィークも終わってしまったが、おそらく来週からは続く異界月、およびコンスピラシーの情報が少しずつ解禁されていくことだろう。そして、さらにその後ろにはカラデシュが控えている。
実を言えば、今回のポストでは《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》に書かれていながら全くといっていいほどデザインに取り込めなかった要素がある。「他の装具工クリーチャーは、+1/+0の修整を受けるとともに速攻を持つ。」という1文がそれであり、私も他のメルヴィンも、このテキストが示唆すること、つまり装具工はシステムクリーチャーではなく戦闘要員なのではないかという可能性にはほとんど目をつぶってきた。
もとを正せば《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》は事実上のジョークカードなのであって、架空のメカニズムのロードにすぎない。それゆえ、こうして架空のメカニズムであるからくりを予想し、明らかになっている諸条件をすべて満たしたと思っても、想定外のところで破綻してしまうのはある意味で必然的なことなのかもしれない。
思うに、からくりのメカニズムを考えるメルヴィンたちの姿は、どこか暗黒物質の正体をつかもうとする科学者に近いものがある。誰もそれを見たことはないが、存在を示す周辺情報だけがあり、それをもとに実在を信じて推論し、そして同時に疑ってもいる。
両者に違いがあるとすれば、暗黒物質の答えは揺るぎなく、今も人類の発見を待っているのに対し、からくりの答えは(少なくとも未来予知の時点では)存在せず、後から人為的に作り出されるということだろう。答えがあるということ自体がフィクションである《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》のメカニズムの答えを、マローがどれほどの本物らしさで「捏造」することができるのか、マジックのユーザーの1人として素直に期待しようと思う。
もちろん、カラデシュにからくりが登場するとは限らないのだが。
多くのユーザーがそうしているように、ここまで《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》に示唆されたメカニズムを便宜上「からくり」と呼んできたが、より本質的なのはおそらく「組み立てる」の方だろう。もとより「組み立てる」はルール上重要なキーワード処理であるだけでなく、その曖昧さによって多様に解釈されてきた。私の見立てでは、約10年にわたってメルヴィンたちが生み出してきた無数のからくりのアイデアも、この語の理解の仕方によって3通りに分類することができる。
1つ目の解釈は、パーツを組み立てるというものだ。MTG Salvationに2007年に投稿されたBootsyというユーザーのアイデアがこの解釈の典型的な例だろう。
Funky Rigger (2)(赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
(赤),(T):組み立てる。(アーティファクト・からくり・トークンを1つ戦場に出す。)
すべてのからくりは「このアーティファクトを生け贄に捧げる:クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。このアーティファクトはそれに1点のダメージを与える。」を持つ。
1/1
※1
この解釈の特徴は、からくりという語が持つ複雑で不可解な機械というイメージを、単純なパーツ同士の組み合わせで表現していることだ。結果として個々のカードはきわめて簡潔になり、真の完成はプレイヤーの創造性に任される。こうしたデザインの偉大な先例はスリヴァーで、《Funky Rigger》がそれをもとにしていることは言うまでもない。
Apprentice Contraptionist (1)(赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
(2)(赤),(T):組み立て1(あなたのライブラリーの一番上から、からくり・カードが公開されるまでカードを公開し、そのカードを戦場に出す。その後あなたのライブラリーを切り直す。)
1/1
※2
Whatevermobile
アーティファクト — からくり
(2),(T):あなたがコントロールする装具工を最大2体対象とし、それらをアンタップする。ターン終了時まで、それらは飛行を得る。
あなたがコントロールするアンタップ状態のクリーチャー3体をタップする:Whatevermobileをアンタップする。
※3
大多数のユーザーはからくりをアーティファクト・トークンだと予想しているが、アーティファクト・カードを使ったアイデアも存在する。MTG CardsmithのAngry_Potatoesというユーザーは、《進化の飛躍/Evolutionary Leap》に近いテキストを用いてライブラリーの中のアーティファクト・カードに装具工がアクセスできるようにした。
このデザインには問題もあるものの(装具工が流れてくると信じてマナ・コストのないからくりをピックする気分はどんなものだろうか?)、からくりをカードとして処理することによってテキスト量に余裕を持たせることができるという大きなメリットがある。もしもからくりがリミテッドのアーキタイプになるのなら、セットにはコモンからレアまで十数枚の装具工がいるはずであり、判読性やプレイアビリティを考慮すると分割表記にすることは賢い選択だといえる。
※1……http://www.mtgsalvation.com/forums/creativity/custom-card-creation/349307-contraptions-and-riggers#c17
※2……https://mtgcardsmith.com/view/apprentice-contraptionist?list=user
※3……https://mtgcardsmith.com/view/whatevermobile?list=user
集合体を組み立てる
「組み立てる」の2つ目の解釈は、集合体を組み立てるというものだ。これはいくつかの単純なアーティファクトを材料に複雑なアーティファクトを組み上げる過程をデザイン的に表現したもので、この場合のからくりは単体で強力なものとして理解されていることが多い。
Steamflogger Trainee (赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
(2)(赤),(T):からくりを組み立てる。(からくりを組み立てるために、このクリーチャーのコントローラーは2つのモジュール(Modules)を生け贄に捧げてもよい。そうしたなら、そのプレイヤーは無色のからくり・アーティファクト・トークンを1つ戦場に出す。)
1/1
※4
Galvanized Steel (1)
アーティファクト — モジュール(Modules)
Galvanized Steelがからくりを組み立てるために生け贄に捧げられたとき、そのからくりは破壊不能を得る。
※4
Assembly Line (2)
アーティファクト — モジュール(Modules)
Assembly Lineがからくりを組み立てるために生け贄に捧げられたとき、そのからくりは「あなたのアップキープの開始時に、無色の1/1の構築物・アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。」を得る。
※4
2010年にdb8r_boiというユーザーによってMTG Salvationに投稿されたこれらのアイデアでは、装具工とからくりの間にモジュールという新たなアーティファクト・タイプを差し込むことで多様な組み合わせのからくりを生み出すことを可能にしている。モジュールのテキストは正常に機能するのか若干怪しいが、《発生器の召使い/Generator Servant》のような能力だと考えれば多少の修正で済むだろう。
集合体を組み立てるという解釈では、からくりの素材がデザインの焦点になる。db8r_boiのようにアーティファクトを素材としてからくりに作り変えるアイデアの他、墓地のアーティファクト・カードを素材にするもの、アーティファクト上のカウンターを素材とするものなどあらゆる可能性が試されてきた。中でも私が興味深いと思ったのは(正確な表現ではないかもしれないが)コストと効果を素材として、それらを組み立てるというアイデアだ。
Steamflogger Lackey (赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
(T):からくりを組み立てる。(からくりを組み立てるには、入力・部品(Input Part)1つと出力・部品(Output Part)1つを連結(join)する。)
1/1
※5
Lever Switch (1)
アーティファクト — 入力・部品(Input Part)
(この部品は出力・部品(Output Part)1つとしか連結(join)できない。)
(T):…
※5
Trap Door (3)
アーティファクト — 出力・部品(Output Part)
(この部品は入力・部品(Input Part)1つとしか連結(join)できない。)
…飛行を持たないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。
※5
奇抜なテキストが目を引くManiteというユーザーのこれらのアイデアは、プレイヤーをゲーム内でマジックのデザイナーにするものだといえるだろう。入力・部品(Input Part)と名づけられたアーティファクトには能力の起動コスト、もしくは誘発条件だけが書いてあり、装具工の力で出力・部品(Output Part)と組み合わされることによって1つの能力として機能し始める。おそらくこのメカニズムを実装するためには総合ルールへの大幅な加筆が必要になると思われるが、非常に直感的であるため混乱を生むことは少ないはずだ。
db8r_boiとManiteのアイデアの欠点は、これらが典型的なA/Bメカニズムだということだ(考えようによってはA/B/C)。そのうえ単体ではほとんど仕事をしないカードがシナジーの両翼を担っているため、恐ろしいほどにリミテッドでのプレイに不向きだといえる。この問題の根本的な解決策は、端的にこれらのカードが他のアーキタイプでも使用可能になるように追加の能力を与えることだろう。いっそのことアーティファクト・クリーチャーにしてしまうのも有効な方法だ。
完全に余談だが、やがて発売されるカラデシュのデザインでもこうした問題は少なからず重要になると思われる。いわゆる置物系アーティファクトがアーキタイプのキーカードになる場合、アーキタイプに依存しすぎると単体であまりにも弱く、有用すぎる能力をつけるとリミテッドのバランスを崩し、かといって中庸な能力では全く使われないというジレンマを抱えることになる。R&Dは2回のミラディン・ブロックでよく似た事態に直面してきたが、カラデシュ・ブロックではどのように対処するのかデザイン的な観点での興味が尽きない。
※4……http://www.mtgsalvation.com/forums/creativity/custom-card-creation/631366-riggers-and-contraptions#c1
※5……http://www.mtgsalvation.com/forums/creativity/custom-card-creation/699649-lets-assemble-some-contraptions-input-and-output#c1
複雑さを上げる
ユーザーによる「組み立てる」の解釈の3つ目は、戦場にあるアーティファクトの複雑さを上げるという解釈だ。これはメカニズム的に怪物化やLvアップに近く、アーティファクトが戦場で加工を施されたことをカウンターなどを用いて間接的に表現する。
Lobber Arm (2)
アーティファクト — からくり
組み立て2(あなたがコントロールするクリーチャー1体をタップして、このからくりの上に組み立てカウンターを1個置いてもよい。あなたは組み立てカウンターを2個取り除いて、あなたがコントロールするアーティファクト1つを対象とし、それを組み立ててもよい。組み立てはソーサリーとしてのみ行う。)
組み立てられたアーティファクトは「(T):クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。このアーティファクトはそれに2点のダメージを与える。」を持つ。
※6
私のようにブログでデザインについて考察しているDaveというユーザーの手になるこのアイデアは、(やや強力すぎるきらいがあるものの)先述のリミテッドにおける問題をうまく回避しつつ《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》とのシナジーを失わないようによく計算されたデザインになっている。
このテキストでは、からくりは組み立てられていない状態で戦場に登場し、クリーチャーによる2回の労働を経て完成する。組み立てること自体は装具工でなくとも可能だが、《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》が隣にいれば驚異的なスピードで周囲のアーティファクトを組み立てることができるだろう。
Daveが意識していたかどうかはわからないが、このカードはローウィン・ブロックの《棘噛みの杖/Thornbite Staff》をはじめとした部族装備品のサイクルに似ている。単体でも有用であると同時に特定の部族との組み合わせで劇的な効果を発揮するようなデザインにすることで、アーキタイプのキーカードが完全な専用カードになるのを防ぐことができる。
ところで、怪物化や高名など、パーマネントを(マーカー以上の意味を持たない)特定の状態にするキーワードは近年のマジックのデザインにしばしば登場するようになってきた。アーティファクトの複雑さを上げるという解釈のデザインはそれをからくりに応用したものだが、個人的にはやや歯切れが悪く感じられる。少なくとも怪物化は、怪物的という状態にすると同時に+1/+1カウンターを置くことで実際にクリーチャーを「怪物化」する。しかし、「からくり」は本当に特定の状態として表現可能だろうか?
これには異論もあるかもしれないが、からくりが組み立てられたことを表すのなら実際にゲームの中でも組み立ててみせればいいのであって、ルール用語でそれを表すのはナンセンスだと私は思う。仮にあるアーティファクトがルール上組み立てられた状態になっていたとしても、ユーザーが組み立てられたと感じないのだとしたら本末転倒だろう。
※6……https://flavoracle.tumblr.com/post/116362186937/do-you-guys-have-some-kind-of-internal-prize-at
デザインの楽しみ、楽しみのデザイン
初回のポストの末尾に記した通り、この文章の目的はからくりがどんなメカニズムなのかを予想することだった。カラデシュのプレビューが始まる前に、過去のメルヴィンたちのアイデアに加えて私の妄想をここに書き留めておこうと思う。
ゴブリンの装具工 (1)(赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
(1),(T):からくりを組み立てる。(あなたはあなたがコントロールするアーティファクトを1つ選び、その上にからくりカウンターを1個置く。それは他のタイプに加えてからくりになるとともに、「このアーティファクトはあなたがコントロールする他のからくりが持つ、マナ能力でないすべての起動型能力を持つ。」を持つ。)
2/1
意外に思われるかもしれないが、このデザインは先述のManiteのアイデアに触発されたものだ。当初案ではこれは《Apprentice Contraptionist》とほぼ同じライブラリーからからくりを出すゴブリンで、からくり側はスリヴァーと《水銀の精霊/Quicksilver Elemental》を足したような能力を持っていた。
[カード名] (5)
アーティファクト — からくり
(2),カードを2枚捨てる:カードを1枚引く。
[カード名]はあなたがコントロールする他のからくりが持つすべての起動型能力を持つ。
あなたはからくりの能力の起動コストを支払うのではなく、(2)を支払うとともにカードを2枚捨ててもよい。
スリヴァーはお互いの能力を共有するだけだが、このアイデアでは能力を共有したうえでコストを自在に組み合わせることができる。このカード単体ではカード・アドバンテージを失う効率の悪いルーターにすぎないが、後続のからくりの起動コスト次第では非常に強力なドローエンジンにもなりうるというわけだ。
コストを組み合わせるというアイデアはたいへん魅力的だったが、同時にそれには問題もあった。からくりをアーティファクトの部族としてデザインすると、部族外のアーティファクトとのつながりが断たれて発展性のないメカニズムになってしまうのだ。
私はミラディン・ブロックのころにマーク・ゴットリーブが書いた、「Welcome to the Machine」というコラム※7をよく覚えている。これはアーティファクトによる何通りもの無限コンボが搭載されたジョニー垂涎のデッキ集なのだが、いくつかのデッキでフィフス・ドーンの基地サイクルが部分的に採用されていることを子供心に不思議に思ったものだ。無限コンボが目的ならば、初めから(デザイナーがそう仕向けた)基地サイクルを4種類搭載すればよい。にもかかわらず、なぜプレイヤーは執拗に他のカードと組み合わせたがるのだろうか?
つまるところ、プレイヤーは自力でコンボを探すことに楽しみを見出すのであって、答えのわかっているパズルであるデザイナーズ・コンボは魅力に欠けるのだ。私は基地サイクルのデザインをたいへん美しいと思うが、むしろこれらのカードにとって重要なのは、デザイナーが美しくしつらえたカードが必ずしもプレイヤーに好まれるわけではないという皮肉な事実を明らかにしたことだろう。
すでにおわかりのように、基地サイクルの問題は同時にからくりの問題でもある。からくり同士の組み合わせを柔軟にすることと、素材化できるアーティファクトの範囲を広げることを天秤にかけた結果、私は後者を取ることにした。それにより起動コストを組み合わせる能力は失われてしまったが、未知のアーティファクトとの組み合わせの可能性がその楽しみを埋め合わせてくれると考えている。
※7……http://magic.wizards.com/en/articles/archive/feature/welcome-machine-2004-05-27(Welcome to the Machine)
フラクタル的デザイン
からくりをトークンとしてデザインする場合、問題となるのはそれが次第に複雑になっていく過程をどのように表現するかということだ。トークンに様々な能力を記述できれば簡単なのだが、キーワード処理の定義は簡潔に行わなければならず、トークンが持てる複雑さは限られている。
この問題の最も現実的な解決方法は、Bootsyによる《Funky Rigger》のようにトークンではなく装具工の側に能力を与えることだろう。バニラ・アーティファクトであるからくりが様々な装具工によって強化されるという関係性にすることで、1種類のトークンに複数の能力を持たせつつも簡潔なテキストを維持することができる。
一方で、全く異なる考え方も存在する。それは、複雑さをカードテキストの中に記述するのではなく、トークン同士の関係性の中で自然発生させるというものだ。突飛な発想に思われるかもしれないが、単純でありながら繰り返すごとに全く異なった結果が生じるような特殊なキーワード処理があれば《Funky Rigger》とは別な観点からこの問題を解決できることになる。
このような、1つの単純な規則(「からくりを組み立てる」)から多様な要素を引き出すという発想は、幾何学で言うフラクタル図形に近いものがあるかもしれない。私は専門家ではないのであくまでイメージの問題だが、ある単純なルールに基づいてコッホ雪片が正三角形から六芒星、無限の周長を持つ図形へと変化していく様子はこのアイデアの性質によく似ている。
こうした考えはもはや思考実験に近く、からくりの予想という当初の目的から外れてしまっているのも事実だが、そこに目をつぶれば新たなデザイン空間を開く有意義な試みになることは間違いない。
火花職人 (3)(赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
火花職人が戦場に出たとき、からくりを組み立てる。(無色の0/4のからくり・アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。それは「このクリーチャーは、あなたがコントロールする他のからくり1体につき+1/-1の修整を受ける。」を持つ。)
からくりが1つ戦場からあなたの墓地に置かれるたび、クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。火花職人はそれに1点のダメージを与える。
1/4
このアイデアではからくりはクリーチャーであり(《ドライアドの東屋/Dryad Arbor》のように土地タイプとクリーチャー・タイプを持つクリーチャーも存在しているため、可能性はゼロではない)、戦場のからくりの数に応じて0/4、1/3、2/2、3/1と姿を変える。5体目のからくりが戦場に出るとそれらはすべて死亡してしまうものの、装具工が持つ能力によって小さい《黄鉄の呪文爆弾/Pyrite Spellbomb》に変化する。
蒸気打ちの発明家 (2)(赤)
クリーチャー — ゴブリン・装具工
(2)(赤),蒸気打ちの発明家を生け贄に捧げる:からくりを組み立てる。(無色のからくり・アーティファクト・トークンを1つ戦場に出す。それは「あなたがコントロールするアンタップ状態のからくりをX個タップする:カードをX枚引き、その後カードを2枚捨てる。」を持つ。)
2/2
クリーチャーほど簡単ではないが、クリーチャーでないアーティファクトによっても数に応じて機能が変化するからくりをデザインすることができる。その場合に肝心なのは数字を変えただけで機能が変化するような効果を見つけることで、ルーター効果はその代表例だといえる。このアイデアの場合、からくり1つでは手札が減る一方だが、3つ以上になるとカード・アドバンテージを得られるようになる。
おそらく問題があるとすればこの能力がカラー・パイに合っていないことだろう。前回のポストで私はからくりがカラデシュに入るのならば黒赤か赤緑か黒赤緑のアーキタイプになると予想したが、《蒸気打ちの発明家》はどちらかといえば青赤のデザインに見える。
幸いなことにこのからくりのフォーマットはたいへん優れており、「引く」と「捨てる」以外にも対になる効果を探すことで、すぐにでもカラー・パイに適したデザインを手に入れることができるだろう。
からくりを組み立てる。(無色のからくり・アーティファクト・トークンを1つ戦場に出す。それは「あなたがコントロールするアンタップ状態のからくりをX個タップする:クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+2/+2の修整を受けるとともに-X/-Xの修整を受ける。」を持つ。)
答えは作られる
いつの間にかエターナルマスターズのプレビューウィークも終わってしまったが、おそらく来週からは続く異界月、およびコンスピラシーの情報が少しずつ解禁されていくことだろう。そして、さらにその後ろにはカラデシュが控えている。
実を言えば、今回のポストでは《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》に書かれていながら全くといっていいほどデザインに取り込めなかった要素がある。「他の装具工クリーチャーは、+1/+0の修整を受けるとともに速攻を持つ。」という1文がそれであり、私も他のメルヴィンも、このテキストが示唆すること、つまり装具工はシステムクリーチャーではなく戦闘要員なのではないかという可能性にはほとんど目をつぶってきた。
もとを正せば《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》は事実上のジョークカードなのであって、架空のメカニズムのロードにすぎない。それゆえ、こうして架空のメカニズムであるからくりを予想し、明らかになっている諸条件をすべて満たしたと思っても、想定外のところで破綻してしまうのはある意味で必然的なことなのかもしれない。
思うに、からくりのメカニズムを考えるメルヴィンたちの姿は、どこか暗黒物質の正体をつかもうとする科学者に近いものがある。誰もそれを見たことはないが、存在を示す周辺情報だけがあり、それをもとに実在を信じて推論し、そして同時に疑ってもいる。
両者に違いがあるとすれば、暗黒物質の答えは揺るぎなく、今も人類の発見を待っているのに対し、からくりの答えは(少なくとも未来予知の時点では)存在せず、後から人為的に作り出されるということだろう。答えがあるということ自体がフィクションである《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》のメカニズムの答えを、マローがどれほどの本物らしさで「捏造」することができるのか、マジックのユーザーの1人として素直に期待しようと思う。
もちろん、カラデシュにからくりが登場するとは限らないのだが。
からくりは何色か
新セットに関するマローの発言が曖昧であてにならないことはよく知られているが(彼はストームスケールに関する記事でほぼ再録されないと言ったはずのマッドネスを次のセットで再録した)、からくりに関する過去の質問の中には、あえてメカニズムの重要な部分に明言したものもある。それによれば、からくりは装具工やゴブリンといったフレイバーと強く結びついており、《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》が無意味になるようなデザインにはしないということらしい。
この発言をもとに考えると、現在までのカラデシュのアートにはゴブリンが登場していないことから、からくりの収録は絶望的にも思える。しかし、この次元の完全な地理は明らかになっていないため少なからず希望は残っているといえるだろう。マジック・オリジンに登場したカードやチャンドラのオリジン・ストーリーにはカラデシュの都市部に住む青や赤、そして白の人々は登場するものの、黒や緑に関してはほとんど全くわからないのだ。
ナラー一家の逃避行の過程を見る限り、この次元はミラディンのようにすべてが機械化されているわけではないようで、ギラプール市外には森や野生動物の姿も確認できる。そのため都市部にゴブリンが存在しないのだとしても、こうした未開発地域にゴブリンが潜んでいる可能性は捨てきれない。
カードデザインの面から見ても、都市の優雅な線条細工のアーティファクトと郊外の無骨で粗雑な作りのアーティファクトが対比されることは大いにありえることだ。その場合、からくりを作るのが(時計職人を思わせる)工匠ではなく(より質実剛健な印象の)装具工だというクリーチャー・タイプの不一致や、なぜからくりだけがキーワード処理で表記されるのかといういびつさも多少は説明可能になるだろう。
したがって、仮にカラデシュにからくりが登場するのなら、それは黒赤か赤緑、もしくは黒赤緑のメカニズムになると私は予想している(赤限定の小テーマになる可能性もあるが、新たなキーワード処理を必要とするメカニズムでは考えにくい)。ゴブリンは基本的に赤のクリーチャー・タイプだが、歴史的には黒単色や緑単色のゴブリンも印刷されているため大きな問題にはならないだろう。むしろ、からくりを多色化することでこの能力のカラー・パイを広げることができるというメリットを考えれば、積極的に赤以外の色にからくりを分け与えるべきかもしれない。
※1……http://markrosewater.tumblr.com/post/143035964333/does-the-vow-to-eventually-solve-contraptions
※2……http://markrosewater.tumblr.com/post/144501907188/iirc-kaladesh-got-nicknamed-the-awesome-set-by
文法的からくり
さて、からくりが登場してからの10年近い時間の中で、メルヴィンたちは様々な予想を行ってきた。法医学者がわずかな骨のかけらから持ち主の性別はおろか身長や体重まで推測するように、《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》という1枚のカードから1つのカードセットのドラフトアーキタイプまで想像を巡らすというのは、考えてみればただ事ではない。
《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》に書かれたヒントは、ゴブリン・装具工クリーチャーが何かを「組み立てる」ということだけだ。ちなみに「からくり」はアーティファクト・タイプであると総合ルールに明記されているため、組み立てられるのが何かしらのアーティファクトであることまでは明らかにされている。
他のキーワード処理と比べると、「からくりを組み立てる(assemble a Contraption)」というフレーズは特異な構造を持っている。「破壊する (destroy)」や「打ち消す (counter)」がわかりやすい例だが、他動詞のキーワード処理は目的語に「対象(target)」などの語や指示語を伴うことが多く、「a Contraption」のように不定冠詞を伴うことは珍しい。
加えて、不定冠詞を「two」に置き換えても意味が通じるものとなるとさらに少なく、現状それに該当するものは「捨てる(discard)」「追放する (exile)」「公開する(reveal)」「生け贄に捧げる (sacrifice)」だけなのではないかと思う。
これらのキーワードと「からくりを組み立てる」が文法的にもマジック的にも類似していると仮定すると、それは目的語を対象に取る必要がなく、なおかつ数字を伴って複数回実行できるものになる可能性が高いといえる。
もちろん、「支援(support)」のようにルール文章の中には一切書かれていないにもかかわらず対象を取る例もあることから(私にはあまりよいデザインだとは思えない)、対象を取る能力になる可能性も否定できないのだが、マローという人物の自尊心の高さから言って《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》のテキストを最大限美しく反映したメカニズムになるよう手を尽くすのではないかと思われる。限られた期間の中でデザインを終わらせなければならない通常の過程とは異なって、からくりはマロー自身が自らに課した挑戦であり、デザイン的労力を惜しむことはないだろう。
(後編に続く)
memecuckerの質問:いつかからくりを完成させるという誓いには、1)「装具工」というクリーチャー・タイプがメカニズム的に不可欠のもので、2)蒸気打ちの親分と整合性のあるものになるということが必要条件として含まれているのでしょうか? たとえば、もしセットの中に「からくりを組み立てる」を入れられるとしてもその次元にゴブリンが存在しないなら、あなたはどうしますか?
マロー:1)そうだ。装具工である必要がある。
2)ゴブリンもそうだ。
2016年4月18日
※1
bassimelwakilの質問:私の記憶が正しければ、あなたは以下の理由でカラデシュを「素晴らしいセット」だと言っています。1.このセットはイニストラードを面白くする、2.この世界はプレイヤーが本当に望んでいたものの1つだ(それはスチームパンク世界だったようですね)、3.このセットは長年のデザイン的問題を解決した、4.あなたがマジックに再登場もしくは初登場させようとして長年取り組んできたメカニズムがある。これらは私が期待してきたものなので、間違っていないことを願います(とはいえ私は2つ目の項目が意味するものはエジプトかバイキングの世界だと思っていたのですが、カラデシュもとてもクールですね)。
マロー:いい要約だね。
2016年5月17日
※2
新セットに関するマローの発言が曖昧であてにならないことはよく知られているが(彼はストームスケールに関する記事でほぼ再録されないと言ったはずのマッドネスを次のセットで再録した)、からくりに関する過去の質問の中には、あえてメカニズムの重要な部分に明言したものもある。それによれば、からくりは装具工やゴブリンといったフレイバーと強く結びついており、《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》が無意味になるようなデザインにはしないということらしい。
この発言をもとに考えると、現在までのカラデシュのアートにはゴブリンが登場していないことから、からくりの収録は絶望的にも思える。しかし、この次元の完全な地理は明らかになっていないため少なからず希望は残っているといえるだろう。マジック・オリジンに登場したカードやチャンドラのオリジン・ストーリーにはカラデシュの都市部に住む青や赤、そして白の人々は登場するものの、黒や緑に関してはほとんど全くわからないのだ。
ナラー一家の逃避行の過程を見る限り、この次元はミラディンのようにすべてが機械化されているわけではないようで、ギラプール市外には森や野生動物の姿も確認できる。そのため都市部にゴブリンが存在しないのだとしても、こうした未開発地域にゴブリンが潜んでいる可能性は捨てきれない。
カードデザインの面から見ても、都市の優雅な線条細工のアーティファクトと郊外の無骨で粗雑な作りのアーティファクトが対比されることは大いにありえることだ。その場合、からくりを作るのが(時計職人を思わせる)工匠ではなく(より質実剛健な印象の)装具工だというクリーチャー・タイプの不一致や、なぜからくりだけがキーワード処理で表記されるのかといういびつさも多少は説明可能になるだろう。
したがって、仮にカラデシュにからくりが登場するのなら、それは黒赤か赤緑、もしくは黒赤緑のメカニズムになると私は予想している(赤限定の小テーマになる可能性もあるが、新たなキーワード処理を必要とするメカニズムでは考えにくい)。ゴブリンは基本的に赤のクリーチャー・タイプだが、歴史的には黒単色や緑単色のゴブリンも印刷されているため大きな問題にはならないだろう。むしろ、からくりを多色化することでこの能力のカラー・パイを広げることができるというメリットを考えれば、積極的に赤以外の色にからくりを分け与えるべきかもしれない。
※1……http://markrosewater.tumblr.com/post/143035964333/does-the-vow-to-eventually-solve-contraptions
※2……http://markrosewater.tumblr.com/post/144501907188/iirc-kaladesh-got-nicknamed-the-awesome-set-by
文法的からくり
さて、からくりが登場してからの10年近い時間の中で、メルヴィンたちは様々な予想を行ってきた。法医学者がわずかな骨のかけらから持ち主の性別はおろか身長や体重まで推測するように、《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》という1枚のカードから1つのカードセットのドラフトアーキタイプまで想像を巡らすというのは、考えてみればただ事ではない。
《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》に書かれたヒントは、ゴブリン・装具工クリーチャーが何かを「組み立てる」ということだけだ。ちなみに「からくり」はアーティファクト・タイプであると総合ルールに明記されているため、組み立てられるのが何かしらのアーティファクトであることまでは明らかにされている。
他のキーワード処理と比べると、「からくりを組み立てる(assemble a Contraption)」というフレーズは特異な構造を持っている。「破壊する (destroy)」や「打ち消す (counter)」がわかりやすい例だが、他動詞のキーワード処理は目的語に「対象(target)」などの語や指示語を伴うことが多く、「a Contraption」のように不定冠詞を伴うことは珍しい。
加えて、不定冠詞を「two」に置き換えても意味が通じるものとなるとさらに少なく、現状それに該当するものは「捨てる(discard)」「追放する (exile)」「公開する(reveal)」「生け贄に捧げる (sacrifice)」だけなのではないかと思う。
これらのキーワードと「からくりを組み立てる」が文法的にもマジック的にも類似していると仮定すると、それは目的語を対象に取る必要がなく、なおかつ数字を伴って複数回実行できるものになる可能性が高いといえる。
もちろん、「支援(support)」のようにルール文章の中には一切書かれていないにもかかわらず対象を取る例もあることから(私にはあまりよいデザインだとは思えない)、対象を取る能力になる可能性も否定できないのだが、マローという人物の自尊心の高さから言って《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》のテキストを最大限美しく反映したメカニズムになるよう手を尽くすのではないかと思われる。限られた期間の中でデザインを終わらせなければならない通常の過程とは異なって、からくりはマロー自身が自らに課した挑戦であり、デザイン的労力を惜しむことはないだろう。
(後編に続く)
はじめに
イニストラードを覆う影の次のブロックがカラデシュだと発表されたことで、かつてR&Dが未来予知で貼った伏線、からくりが収録されるのではないかという予想が早くもユーザーの間に広がっている。マローが「私が引退する前に実現すると誓う」※2と述べたこのメカニズムが存外早く実装されるかもしれないという事態に、心を踊らせる人もいれば不安を覚える人もいるはずだ。とりわけ私のように自分であれこれカードを考えることが好きなユーザーにとっては、一生かかって考えるつもりだった懸賞問題の答えがあっけなく解かれてしまったような感じで、興奮するべきか興ざめするべきかわからない不思議な心境になっている。
とはいえ、もし本当にからくりが印刷されるのであれば、現時点から9月末のカラデシュ発売までのこのわずかな期間だけが、からくりについてのアイデアを妄想できる最後の機会ということになる。そこで今回は、メルヴィンたちをおよそ10年にわたって熱狂させ続けた謎のメカニズム、からくりについて書くことにしよう。
※1……http://markrosewater.tumblr.com/post/142926534483/when-you-solve-contraptions-could-you-tell-us
※2……http://markrosewater.tumblr.com/post/142933160653/as-a-relatively-new-player-to-the-magic-scene
そもそも本当にからくりは収録されるのか
この問いは今回のポストの内容を根本から否定しているものの、重要なことなので最初に触れねばなるまい。ご存知の通りカラデシュはマジック・オリジンで初めて公開された次元で、科学技術が発達したスチームパンク的世界だ。マジック・オリジンにおけるメカニズム的特徴は飛行機械・トークンであり、アーティファクトとシナジーを形成する非アーティファクトのクリーチャーが多いという点がどことなく《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》を彷彿とさせなくもない。
一見するとカラデシュはからくりを収録する最適の場所のように思えるが、実際にはいくつかの問題がある。たとえば、ユーザーが愛してやまない《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》はゴブリンであるにもかかわらず、カラデシュを描いたチャンドラのオリジン・ストーリー※3には一切のゴブリンが登場しない。そのため、カラデシュ自体にゴブリンが存在しない可能性がある。加えて、マジック・オリジンで登場したカラデシュのクリーチャーたちには《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》がテキストで参照している装具工というクリーチャー・タイプのカードがない。
もちろん、ゴブリンはストーリーやカードに登場していないだけで本当はカラデシュに存在するとも考えられるし、クリーチャー・タイプや世界観の不一致に関しては、マローがからくりを実装することを最優先にして《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》を切り捨てたという可能性もある(未来予知のタイムシフト・カードは必ずしもそのままの形で再録されるとは限らない)。
しかし、こうしたフレイバー的問題をすべて脇に置いたとしても、からくりとカラデシュにはメカニズム的な不調和が残る。マジック・オリジンで使われたメカニズムを踏襲するならば、少なくとも青と赤のカードには飛行機械・トークンを出すカードが存在するはずで、それがリミテッドのアーキタイプになっている可能性が高い。そのため仮にからくりを赤のカードとして収録した場合、カラデシュの赤のカードプールにはリミテッドのための2つの独立したメカニズムがあることになり、それを実現可能にするためのカードだけでスロットの大部分が埋まってしまうおそれがある。
さらに、ユーザー間でからくりがアーティファクト・トークンを出す能力に違いないと予想されていることも重要な点だ。もはや1つのセットにおびただしい種類のトークンが登場するのはありふれた光景になってきたが、それでもやはりよく似たアーティファクトのトークン・カードを何種類も使い分けなければならないのはプレイアビリティの面で問題があるといえる。百歩譲ってそれに目をつぶったとしても、トークンを出すメカニズムのうち「からくりを組み立てる(assemble a Contraption)」だけがキーワード処理で、他はそうではないという奇妙な非対称性は拭うことができない。
※3……http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0015168/#(チャンドラの「オリジン」:炎の道理/Chandra’s Origin: Fire Logic)
ありうべき未来
もっとも、こうしてからくりが収録されないと思われる理由をいくつも挙げてみたところで、カラデシュのプレビューで《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》が公開されてしまえばそれで終わりなのであって、収録されるのか否かという議論は本質的に無意味なものだ(《大いなる歪み、コジレック/Kozilek, the Great Distortion》がリークされたとき、それがフェイクであると断言したユーザーも多かった)。
私自身は、現時点においてからくりが収録される可能性はちょうど50%といったところで、正直どちらとも言えないと思っている。からくりの収録を否定せざるをえない状況証拠がある一方で、同じくらいからくりがこの次元にふさわしいのも事実であり、どちらも同程度に妥当に感じられる。
唯一確かなのは、実際にからくりのプレビューが行われた後では、からくりがどんなメカニズムでありうるのかという(火星人の姿を想像するのにも似た)想像の楽しみが失われてしまうということだ。からくりはカラデシュには登場しないのかもしれないが、マローの確約を信じる限り遅かれ早かれ印刷される運命にあることは変わりない。たとえ今回私がからくりについて書くことを控えたとしても、また来たるべき日には大嵐の前の準備のようにからくりについての記事を書くことを強いられるだろう。ばかげた話に思われるかもしれないが、火星人の姿を予想することが趣味の人にとっては、大事なことは予想を的中させることではなく、予想することそれ自体なのだ。
すでに想像に難くないように、私はカラデシュの新情報に急かされるようにしてこのポストを書いている。明日には世界のどこかのGPの参加賞が解禁され、歩行機械に乗ったゴブリンのイラストのプレイマットやデッキボックスが公開されるかもしれない!
(中編に続く)
corvus-abyssusの質問:あなたがからくりを完成させたとき、私たちに早めに知らせてくれますか? それともセットのプレビューまで待たなければなりませんか?
マロー:次のセットにからくりカードが入るというプレビューの日に、君は私がからくりを完成させたと知ることになるよ : )
2016年4月16日
※1
イニストラードを覆う影の次のブロックがカラデシュだと発表されたことで、かつてR&Dが未来予知で貼った伏線、からくりが収録されるのではないかという予想が早くもユーザーの間に広がっている。マローが「私が引退する前に実現すると誓う」※2と述べたこのメカニズムが存外早く実装されるかもしれないという事態に、心を踊らせる人もいれば不安を覚える人もいるはずだ。とりわけ私のように自分であれこれカードを考えることが好きなユーザーにとっては、一生かかって考えるつもりだった懸賞問題の答えがあっけなく解かれてしまったような感じで、興奮するべきか興ざめするべきかわからない不思議な心境になっている。
とはいえ、もし本当にからくりが印刷されるのであれば、現時点から9月末のカラデシュ発売までのこのわずかな期間だけが、からくりについてのアイデアを妄想できる最後の機会ということになる。そこで今回は、メルヴィンたちをおよそ10年にわたって熱狂させ続けた謎のメカニズム、からくりについて書くことにしよう。
※1……http://markrosewater.tumblr.com/post/142926534483/when-you-solve-contraptions-could-you-tell-us
※2……http://markrosewater.tumblr.com/post/142933160653/as-a-relatively-new-player-to-the-magic-scene
そもそも本当にからくりは収録されるのか
この問いは今回のポストの内容を根本から否定しているものの、重要なことなので最初に触れねばなるまい。ご存知の通りカラデシュはマジック・オリジンで初めて公開された次元で、科学技術が発達したスチームパンク的世界だ。マジック・オリジンにおけるメカニズム的特徴は飛行機械・トークンであり、アーティファクトとシナジーを形成する非アーティファクトのクリーチャーが多いという点がどことなく《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》を彷彿とさせなくもない。
一見するとカラデシュはからくりを収録する最適の場所のように思えるが、実際にはいくつかの問題がある。たとえば、ユーザーが愛してやまない《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》はゴブリンであるにもかかわらず、カラデシュを描いたチャンドラのオリジン・ストーリー※3には一切のゴブリンが登場しない。そのため、カラデシュ自体にゴブリンが存在しない可能性がある。加えて、マジック・オリジンで登場したカラデシュのクリーチャーたちには《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》がテキストで参照している装具工というクリーチャー・タイプのカードがない。
もちろん、ゴブリンはストーリーやカードに登場していないだけで本当はカラデシュに存在するとも考えられるし、クリーチャー・タイプや世界観の不一致に関しては、マローがからくりを実装することを最優先にして《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》を切り捨てたという可能性もある(未来予知のタイムシフト・カードは必ずしもそのままの形で再録されるとは限らない)。
しかし、こうしたフレイバー的問題をすべて脇に置いたとしても、からくりとカラデシュにはメカニズム的な不調和が残る。マジック・オリジンで使われたメカニズムを踏襲するならば、少なくとも青と赤のカードには飛行機械・トークンを出すカードが存在するはずで、それがリミテッドのアーキタイプになっている可能性が高い。そのため仮にからくりを赤のカードとして収録した場合、カラデシュの赤のカードプールにはリミテッドのための2つの独立したメカニズムがあることになり、それを実現可能にするためのカードだけでスロットの大部分が埋まってしまうおそれがある。
さらに、ユーザー間でからくりがアーティファクト・トークンを出す能力に違いないと予想されていることも重要な点だ。もはや1つのセットにおびただしい種類のトークンが登場するのはありふれた光景になってきたが、それでもやはりよく似たアーティファクトのトークン・カードを何種類も使い分けなければならないのはプレイアビリティの面で問題があるといえる。百歩譲ってそれに目をつぶったとしても、トークンを出すメカニズムのうち「からくりを組み立てる(assemble a Contraption)」だけがキーワード処理で、他はそうではないという奇妙な非対称性は拭うことができない。
※3……http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0015168/#(チャンドラの「オリジン」:炎の道理/Chandra’s Origin: Fire Logic)
ありうべき未来
もっとも、こうしてからくりが収録されないと思われる理由をいくつも挙げてみたところで、カラデシュのプレビューで《蒸気打ちの親分/Steamflogger Boss》が公開されてしまえばそれで終わりなのであって、収録されるのか否かという議論は本質的に無意味なものだ(《大いなる歪み、コジレック/Kozilek, the Great Distortion》がリークされたとき、それがフェイクであると断言したユーザーも多かった)。
私自身は、現時点においてからくりが収録される可能性はちょうど50%といったところで、正直どちらとも言えないと思っている。からくりの収録を否定せざるをえない状況証拠がある一方で、同じくらいからくりがこの次元にふさわしいのも事実であり、どちらも同程度に妥当に感じられる。
唯一確かなのは、実際にからくりのプレビューが行われた後では、からくりがどんなメカニズムでありうるのかという(火星人の姿を想像するのにも似た)想像の楽しみが失われてしまうということだ。からくりはカラデシュには登場しないのかもしれないが、マローの確約を信じる限り遅かれ早かれ印刷される運命にあることは変わりない。たとえ今回私がからくりについて書くことを控えたとしても、また来たるべき日には大嵐の前の準備のようにからくりについての記事を書くことを強いられるだろう。ばかげた話に思われるかもしれないが、火星人の姿を予想することが趣味の人にとっては、大事なことは予想を的中させることではなく、予想することそれ自体なのだ。
すでに想像に難くないように、私はカラデシュの新情報に急かされるようにしてこのポストを書いている。明日には世界のどこかのGPの参加賞が解禁され、歩行機械に乗ったゴブリンのイラストのプレイマットやデッキボックスが公開されるかもしれない!
(中編に続く)
さて、ロボローズウォーターの無秩序なテキストを見て私が思い出すのは、シュルレアリスムの詩人や画家が行ったという様々な実験です。複数の人間でひとつの文章を書く、夢を使って創作する、偶然性を利用するなどの方法はニューラルネットワークとはかけ離れていますが、そうしてできた奇妙な文章が人間にもたらすものはよく似ています。
端的に言えば、それは先入観や規範意識がないことに由来する自由な発想です。たとえばロボローズウォーターはいとも簡単にカラー・パイを無視しますが、そのようなことは常識的な人間には困難なことです。前回のポストの翻訳文にあったコウモリ・ウィザードというクリーチャー・タイプひとつとっても、これまでマジックに存在しうると考えた人はいないでしょう。
そしてこれは、全く反対に人間の先入観を可視化することにもつながります。コウモリ・ウィザードの発見は、同時に無意識下でコウモリ・ウィザードがいないと考えていた自分自身の発見でもあるのです。つまり、ロボローズウォーターは新たなデザインを生み出す機械であるだけでなく、人間がデザイン的問題だと思ってすらいなかった無数のメカニズムやフレイバーを掘り返す機械でもあるということです。
ですから前回のポストで述べたように、私はロボローズウォーターをよくできたデザイナーAIとして評価しているのではなく、このAIが「ほどよい頭の悪さ」を持っていることを評価しています。作者の方には申し訳ないですが、ロボローズウォーターが学習を進めて「人間のような」デザイナーになってしまったなら、おそらく私が面白いと思っているものは消えてしまうでしょう。
ロボローズウォーターがデザインしたカードにこのようなものがあります。
このカードは細かい点——スリヴァーの現在のテンプレートに沿っていませんし、一般的なスリス能力とも微妙に違います——を除けば完璧なデザインです。まるでこのAIは、スリヴァーがどういう能力を持つべきか、何がまだカード化されてないか、適切なマナレシオはどのくらいかなどについてきちんと理解していたかのようです。カラー・パイが赤でないことに関しても、黒に多い吸血能力の亜種だと考えれば、あるいはイニストラードの吸血鬼に関連していると思えば及第点を与えられるでしょう。
しかし、よくできたデザインであるということは、別な意味では誰かが作りそうなカードだということでもあります。ニューラルネットワークが私を含む有象無象のメルヴィンたちと同じ存在になってしまったなら、AI研究の成果としては大成功かもしれませんが、ロボローズウォーターは特異なデザイナーではなくなってしまいます。
もはや好みの問題にすぎないのかもしれませんが、私がカードデザインを行うAIに期待しているものは《Sulvital Sliver》とは少し違います。そこで、直近二ヶ月間の投稿を遡って私が感銘を受けたカードをいくつか挙げてみることにします。
テンプレート的な問題を差し置いても、このカードは現行のルールではうまく動きません(戦場でパワーとタフネスを持つことができるのはクリーチャーだけです)。ですが、《Vorteach》は「土地をクリーチャー化する」という何の変哲もない能力が、実は二つの能力からできていることを無言で示しています。
《動く土地/Animate Land》を例に出すまでもなく、この手のカードは種類別で言うところのカード・タイプ変更効果とパワー・タフネス変更効果を持っています。つまりパーマネントをクリーチャーにする効果と、そのパワーとタフネスを決定する効果のことですが、ルール上不正なパーマネントが生まれるのを防ぐため、パーマネントをクリーチャー化するカードには必ずこの二つが併記されています。
では《Vorteach》をデザインして不正なパーマネントを生み出そうとしたロボローズウォーターの行為は、いったい何を意味するのでしょうか? AIに意図と呼べるものがあるとは思えませんが、あえて人間流に言い表すならば「土地をクリーチャー化する」と「何もしない」の中間の行為を行ったのだといえます。おそらくこれをちょうどよく表す言葉は人間の言語には存在しないでしょう。なぜならこれはAIにしか成しえない発想だからです。
このカードもまた実質的に機能しない能力を持っています。しかしそれは墓地からクリーチャー呪文として唱えられた後に手札でクリーチャー・カードに戻ってしまうという点だけで、このBlackというキーワード能力自体は有効な能力です。
マジックの歴史上、呪文を「唱え始める」地点を変更するカードは何種類も存在します。フラッシュバックをはじめ、待機、続唱、さらには《氷河跨ぎのワーム/Panglacial Wurm》のような変わり種まで数えきれないほどのバリエーションが作られています。しかし、私の知る限り「唱え終わる」地点を変更するカードはなかったように思います。
ロボローズウォーターは《Aacotelb Mright》をデザインすることで私たちにその事実を教えてくれました。実際、呪文が解決された後に置かれる領域については総合ルールで個別にサポートされているため、マジックの黄金律のひとつ「カードはルールに勝つ」によって変更することができるはずです。フラッシュバックとバイバックが組み合わさったようなこのキーワード能力は強力すぎるため印刷には向きませんが、「唱え終わる」地点を変更するメカニズムの試金石としては十分でしょう。
これは一見《Sulvital Sliver》のようなウェルメイドなカードに見えることでしょう。様々な理由でルール上起動することができない上の能力はさておき(もはや間違い探しのようです)、下の能力の独創性は素晴らしいものです。よくある毎ターン一度ずつのパンプアップ能力に似ていますが、テキストの最後のアンタップ能力によって、自身を対象に取った場合に限り緑マナの数だけ起動できる火吹き能力に姿を変えます。
カードデザインは(総合ルールやカラー・パイを変更できない一般のプレイヤーの場合は特に)既存のマジックのカードにある秩序の範囲内でいかにして今までにないことをするか、というジレンマを常に抱えています。そういう意味では、《Noxlo Greater》は非常によくやったといえるでしょう。タップ能力、パンプ能力、アンタップ能力というマジック黎明期からあるごく基本的な材料を使って、全く見覚えのないカードを作り上げたのですから。
このカードを見た後には、その革新的なデザインに驚くというよりはむしろ、なぜこれほど単純なデザインを今まで思いつかなかったのだろうかと不思議に思ってしまいます。結局のところ、その発想を妨げていたのは先入観であり、私たちはAIであるロボローズウォーターのデザインを目にすることで初めて自らアンタップするタップ能力というデザインスペースに気づくことができたのです。
ロボローズウォーターが今後どのようなカードをデザインするようになるのか、私には見当もつきません。しかし私には現状のAIの杜撰さが、人間が見過ごしていたデザイン的資源を再発見する手助けとなるように思えます。
将来、人間のようにカードをデザインするAIが生まれるとして、それもまた私のようにロボローズウォーターの破天荒なデザインに憧れるのかもしれません。あるいは、それすら気にならないほどの広大なデザイン空間を発見しているのでしょうか。
端的に言えば、それは先入観や規範意識がないことに由来する自由な発想です。たとえばロボローズウォーターはいとも簡単にカラー・パイを無視しますが、そのようなことは常識的な人間には困難なことです。前回のポストの翻訳文にあったコウモリ・ウィザードというクリーチャー・タイプひとつとっても、これまでマジックに存在しうると考えた人はいないでしょう。
そしてこれは、全く反対に人間の先入観を可視化することにもつながります。コウモリ・ウィザードの発見は、同時に無意識下でコウモリ・ウィザードがいないと考えていた自分自身の発見でもあるのです。つまり、ロボローズウォーターは新たなデザインを生み出す機械であるだけでなく、人間がデザイン的問題だと思ってすらいなかった無数のメカニズムやフレイバーを掘り返す機械でもあるということです。
ですから前回のポストで述べたように、私はロボローズウォーターをよくできたデザイナーAIとして評価しているのではなく、このAIが「ほどよい頭の悪さ」を持っていることを評価しています。作者の方には申し訳ないですが、ロボローズウォーターが学習を進めて「人間のような」デザイナーになってしまったなら、おそらく私が面白いと思っているものは消えてしまうでしょう。
ロボローズウォーターがデザインしたカードにこのようなものがあります。
Sulvital Sliver (2)(黒)
クリーチャー — スリヴァー
すべてのスリヴァーは「このクリーチャーが対戦相手にダメージを与えるたび、それの上に+1/+1カウンターを1個置く。」を持つ。
2/2
このカードは細かい点——スリヴァーの現在のテンプレートに沿っていませんし、一般的なスリス能力とも微妙に違います——を除けば完璧なデザインです。まるでこのAIは、スリヴァーがどういう能力を持つべきか、何がまだカード化されてないか、適切なマナレシオはどのくらいかなどについてきちんと理解していたかのようです。カラー・パイが赤でないことに関しても、黒に多い吸血能力の亜種だと考えれば、あるいはイニストラードの吸血鬼に関連していると思えば及第点を与えられるでしょう。
しかし、よくできたデザインであるということは、別な意味では誰かが作りそうなカードだということでもあります。ニューラルネットワークが私を含む有象無象のメルヴィンたちと同じ存在になってしまったなら、AI研究の成果としては大成功かもしれませんが、ロボローズウォーターは特異なデザイナーではなくなってしまいます。
もはや好みの問題にすぎないのかもしれませんが、私がカードデザインを行うAIに期待しているものは《Sulvital Sliver》とは少し違います。そこで、直近二ヶ月間の投稿を遡って私が感銘を受けたカードをいくつか挙げてみることにします。
Vorteach (1)(白)
ソーサリー
青の6/5の山・カードを1枚、+1/+1カウンターが1個置かれた状態であなたの墓地から戦場に出す。
テンプレート的な問題を差し置いても、このカードは現行のルールではうまく動きません(戦場でパワーとタフネスを持つことができるのはクリーチャーだけです)。ですが、《Vorteach》は「土地をクリーチャー化する」という何の変哲もない能力が、実は二つの能力からできていることを無言で示しています。
《動く土地/Animate Land》を例に出すまでもなく、この手のカードは種類別で言うところのカード・タイプ変更効果とパワー・タフネス変更効果を持っています。つまりパーマネントをクリーチャーにする効果と、そのパワーとタフネスを決定する効果のことですが、ルール上不正なパーマネントが生まれるのを防ぐため、パーマネントをクリーチャー化するカードには必ずこの二つが併記されています。
では《Vorteach》をデザインして不正なパーマネントを生み出そうとしたロボローズウォーターの行為は、いったい何を意味するのでしょうか? AIに意図と呼べるものがあるとは思えませんが、あえて人間流に言い表すならば「土地をクリーチャー化する」と「何もしない」の中間の行為を行ったのだといえます。おそらくこれをちょうどよく表す言葉は人間の言語には存在しないでしょう。なぜならこれはAIにしか成しえない発想だからです。
Aacotelb Mright (3)(黒)
クリーチャー — アンタップ
Black(2)(黒)(あなたはあなたの墓地にあるこのカードをあなたの手札に唱えてもよい。)
5/5
このカードもまた実質的に機能しない能力を持っています。しかしそれは墓地からクリーチャー呪文として唱えられた後に手札でクリーチャー・カードに戻ってしまうという点だけで、このBlackというキーワード能力自体は有効な能力です。
マジックの歴史上、呪文を「唱え始める」地点を変更するカードは何種類も存在します。フラッシュバックをはじめ、待機、続唱、さらには《氷河跨ぎのワーム/Panglacial Wurm》のような変わり種まで数えきれないほどのバリエーションが作られています。しかし、私の知る限り「唱え終わる」地点を変更するカードはなかったように思います。
ロボローズウォーターは《Aacotelb Mright》をデザインすることで私たちにその事実を教えてくれました。実際、呪文が解決された後に置かれる領域については総合ルールで個別にサポートされているため、マジックの黄金律のひとつ「カードはルールに勝つ」によって変更することができるはずです。フラッシュバックとバイバックが組み合わさったようなこのキーワード能力は強力すぎるため印刷には向きませんが、「唱え終わる」地点を変更するメカニズムの試金石としては十分でしょう。
Noxlo Greater (青)(青)
クリーチャー — 人間・兵士
(1)(青):Noxlo Greaterはターン終了時まで+4/+4の修整を受ける。この能力は、それらのコントローラーのアンタップ・ステップの間にのみ起動できる。
(緑),(T):クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+2/+0の修整を受ける。そのクリーチャーをアンタップする。
2/2
これは一見《Sulvital Sliver》のようなウェルメイドなカードに見えることでしょう。様々な理由でルール上起動することができない上の能力はさておき(もはや間違い探しのようです)、下の能力の独創性は素晴らしいものです。よくある毎ターン一度ずつのパンプアップ能力に似ていますが、テキストの最後のアンタップ能力によって、自身を対象に取った場合に限り緑マナの数だけ起動できる火吹き能力に姿を変えます。
カードデザインは(総合ルールやカラー・パイを変更できない一般のプレイヤーの場合は特に)既存のマジックのカードにある秩序の範囲内でいかにして今までにないことをするか、というジレンマを常に抱えています。そういう意味では、《Noxlo Greater》は非常によくやったといえるでしょう。タップ能力、パンプ能力、アンタップ能力というマジック黎明期からあるごく基本的な材料を使って、全く見覚えのないカードを作り上げたのですから。
このカードを見た後には、その革新的なデザインに驚くというよりはむしろ、なぜこれほど単純なデザインを今まで思いつかなかったのだろうかと不思議に思ってしまいます。結局のところ、その発想を妨げていたのは先入観であり、私たちはAIであるロボローズウォーターのデザインを目にすることで初めて自らアンタップするタップ能力というデザインスペースに気づくことができたのです。
ロボローズウォーターが今後どのようなカードをデザインするようになるのか、私には見当もつきません。しかし私には現状のAIの杜撰さが、人間が見過ごしていたデザイン的資源を再発見する手助けとなるように思えます。
将来、人間のようにカードをデザインするAIが生まれるとして、それもまた私のようにロボローズウォーターの破天荒なデザインに憧れるのかもしれません。あるいは、それすら気にならないほどの広大なデザイン空間を発見しているのでしょうか。
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